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困らせ上手な奥様
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少しは陽に当たった方が良いという医者の助言を受けて、オリヴィアは日傘も差さず、青空の下で陽光の温かさをその全身で受け取っていた。
近頃は公爵邸のどこに行くにも、侍女長がオリヴィアの側に控えている。
それは今も変わらず。
「お外は気持ちが良いものですね」
「えぇ。本日は特に素晴らしいお天気でございますから。共にお外へ連れ出していただけまして、本当に助かりましたわ。職権を濫用しまして、存分にこの素晴らしい庭園を奥様と共に堪能することにいたしましょう」
華咲く笑顔の下で、芝生によく映える淡い黄色のワンピースの裾がそよ風に揺れていた。
この服も侍女長が上手く導き、オリヴィアに着せたものである。
もちろん着替えも、侍女の訓練の一環になるからと協力を願い、今では必ずオリヴィアの着替えのたびに侍女たちが手伝っていた。
食べられる量も増えてきたことで、まだ痩せてはいるものの、少しずつふっくらとした体付きは、とても令嬢らしくなっている。
日々侍女らによって磨かれた肌もまた、陽に透けるようにして輝くほどに美しく変わった。
同じく毎日侍女らによって手入れされてきた髪は、陽光をほどよく反射する艶を取り戻している。
人は誰しもその容姿から他人を判別してしまうものなのだろうか。
オリヴィアが貴族令嬢らしい優美さを、水でも吸い込むように日増しにその身に蓄えていくと、オリヴィアと関わりがなかったことで重い処罰の対象を外れた使用人たちががらりと態度を変えてきた。
それは彼らが、今までオリヴィアを公爵夫人として敬って来なかった事実を示すだけだというのに。
それでも執事長や侍女長が彼らを叱責しても重い罰を与えるよう進言しなかった理由は、オリヴィアの信奉者が邸内に増えていくことが喜ばしかったからに違いない。
オリヴィアが長い時を経て失ったものを取り戻すには、周囲には多くの肯定的な人間がいた方がいい。
というのは、執事長や侍女長の共通した考えであったが、レオンは彼らの意見に曖昧な態度を示した。
それは正しい。だが……と。
なんと狭量な夫だと思うだろうか。
しかしレオンが瞬時に覚えた気掛かりは、すぐに現実となって示されたため、今やどの使用人たちもレオンには同情的で、彼を悪く捉える者はいなくなっている。
オリヴィアは花壇の前で待っていた庭師を見付けては、微笑み掛けた。
庭師が挨拶をして、庭の説明を始めると、オリヴィアは素直な驚きを示すのである。
「あなた様がこの素晴らしいお庭をすべて管理なさっておいでなのですか?なんて凄いことなのでしょう。私など、何の役にも立ちませんのに」
それからそっとオリヴィアの手が、目の前の男へと伸びていった。
侍女長はオリヴィアの後ろから目をカッと見開いて、庭師の男に訴えかける。
だが庭師とて、奥様を拒絶することが出来ない立場だ。
思い悩み過ぎた彼はつい身を固め、オリヴィアの成すがままにされることを選択してしまう。
オリヴィアは庭師の荒れた分厚い手を躊躇いなく取ると、悲し気に眉を下げてはこう言った。
「まぁ、こんなにお手が荒れて……。このお庭の花々が見事に咲いているのも、あなた様がその大事なお身体を捧げてまでお世話をされてきたからなのですね。私などいるだけで何も出来ておりませんのに、本当に素晴らしいことです。こんなにも素晴らしい成果を、いつも何もしていない私なんかに見せて頂きまして申し訳なく思いますが……」
謝罪多めでオリヴィアが庭師の仕事振りを絶賛する間、侍女長は急いで周囲を確認していた。
他の使用人たちからの合図もなく、探した相手がとりあえず見えなかったことには、ほっと胸を撫で下ろす。
庭師の手を取るなど、公爵夫人として褒められた行動ではないだろう。
疑いようも何もないが、良からぬ想像に繋がることだってあった。
侍女としては、今すぐに止めたいところだ。
だがオリヴィアは言動を否定されると、たちまち自分を卑下する思考の渦に沈んでしまう。
これを避けたい侍女長は、オリヴィアのこうした行動を簡単には止めることが出来なかった。
だから使用人らの方に、上手く躱すようにと話を通していたはずなのだが。
この通り、誰もが簡単にオリヴィアに掴まってしまうのだった。
侍女長はそろそろ疑っている。
この者らは、わざと掴まっていないか?と。
近頃は公爵邸のどこに行くにも、侍女長がオリヴィアの側に控えている。
それは今も変わらず。
「お外は気持ちが良いものですね」
「えぇ。本日は特に素晴らしいお天気でございますから。共にお外へ連れ出していただけまして、本当に助かりましたわ。職権を濫用しまして、存分にこの素晴らしい庭園を奥様と共に堪能することにいたしましょう」
華咲く笑顔の下で、芝生によく映える淡い黄色のワンピースの裾がそよ風に揺れていた。
この服も侍女長が上手く導き、オリヴィアに着せたものである。
もちろん着替えも、侍女の訓練の一環になるからと協力を願い、今では必ずオリヴィアの着替えのたびに侍女たちが手伝っていた。
食べられる量も増えてきたことで、まだ痩せてはいるものの、少しずつふっくらとした体付きは、とても令嬢らしくなっている。
日々侍女らによって磨かれた肌もまた、陽に透けるようにして輝くほどに美しく変わった。
同じく毎日侍女らによって手入れされてきた髪は、陽光をほどよく反射する艶を取り戻している。
人は誰しもその容姿から他人を判別してしまうものなのだろうか。
オリヴィアが貴族令嬢らしい優美さを、水でも吸い込むように日増しにその身に蓄えていくと、オリヴィアと関わりがなかったことで重い処罰の対象を外れた使用人たちががらりと態度を変えてきた。
それは彼らが、今までオリヴィアを公爵夫人として敬って来なかった事実を示すだけだというのに。
それでも執事長や侍女長が彼らを叱責しても重い罰を与えるよう進言しなかった理由は、オリヴィアの信奉者が邸内に増えていくことが喜ばしかったからに違いない。
オリヴィアが長い時を経て失ったものを取り戻すには、周囲には多くの肯定的な人間がいた方がいい。
というのは、執事長や侍女長の共通した考えであったが、レオンは彼らの意見に曖昧な態度を示した。
それは正しい。だが……と。
なんと狭量な夫だと思うだろうか。
しかしレオンが瞬時に覚えた気掛かりは、すぐに現実となって示されたため、今やどの使用人たちもレオンには同情的で、彼を悪く捉える者はいなくなっている。
オリヴィアは花壇の前で待っていた庭師を見付けては、微笑み掛けた。
庭師が挨拶をして、庭の説明を始めると、オリヴィアは素直な驚きを示すのである。
「あなた様がこの素晴らしいお庭をすべて管理なさっておいでなのですか?なんて凄いことなのでしょう。私など、何の役にも立ちませんのに」
それからそっとオリヴィアの手が、目の前の男へと伸びていった。
侍女長はオリヴィアの後ろから目をカッと見開いて、庭師の男に訴えかける。
だが庭師とて、奥様を拒絶することが出来ない立場だ。
思い悩み過ぎた彼はつい身を固め、オリヴィアの成すがままにされることを選択してしまう。
オリヴィアは庭師の荒れた分厚い手を躊躇いなく取ると、悲し気に眉を下げてはこう言った。
「まぁ、こんなにお手が荒れて……。このお庭の花々が見事に咲いているのも、あなた様がその大事なお身体を捧げてまでお世話をされてきたからなのですね。私などいるだけで何も出来ておりませんのに、本当に素晴らしいことです。こんなにも素晴らしい成果を、いつも何もしていない私なんかに見せて頂きまして申し訳なく思いますが……」
謝罪多めでオリヴィアが庭師の仕事振りを絶賛する間、侍女長は急いで周囲を確認していた。
他の使用人たちからの合図もなく、探した相手がとりあえず見えなかったことには、ほっと胸を撫で下ろす。
庭師の手を取るなど、公爵夫人として褒められた行動ではないだろう。
疑いようも何もないが、良からぬ想像に繋がることだってあった。
侍女としては、今すぐに止めたいところだ。
だがオリヴィアは言動を否定されると、たちまち自分を卑下する思考の渦に沈んでしまう。
これを避けたい侍女長は、オリヴィアのこうした行動を簡単には止めることが出来なかった。
だから使用人らの方に、上手く躱すようにと話を通していたはずなのだが。
この通り、誰もが簡単にオリヴィアに掴まってしまうのだった。
侍女長はそろそろ疑っている。
この者らは、わざと掴まっていないか?と。
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