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4章-アルキード王国
王家の墓
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「ロディ!ロディ起きろ。お前に手紙だぞ」
その翌日のアルドレッド家では、ロディの父が布団にくるまって眠る息子を起こしにかかっていた。
「う~ん……あと5分……」
「馬鹿者!早く起きなさい!」
ロディの父は布団をひっぺがすと、息子の鼻をつまんで起床させる。
そしてようやく目を覚ましたロディは目をこする。
「父さん、おはよー」
「おはようじゃないわ!お前宛の手紙が来てたぞ」
「……手紙?」
寝ぼけ眼で父から手紙を受け取る。
開封して読んでいる内に意識が一気に覚醒した。
ラピアの冒険者ギルドの定員に空きが出来たというものであった。
そうだ。受付嬢と約束したのである、空きが出来たら入るので登録お願いしますと。
「すげぇ!ほんとに来た……口約束と思ってたのに」
「ギルドの人間は律儀じゃなきゃやってられんさ。
お相手もお前が登録しに来ると信じて待ってたんだろう」
「そうか……そうだよな!」
今からガイウスのように超人的な力を持つ勇者になることはできない。
だが「勇者代理」として確かな実力を身に付けておきたかった。
この国を覆う暗雲を払う為にも。
「父さん、俺ギルドの試験受けるよ」
「そうか、なら準備しないとな。まずはその寝癖を直せ!」
「はーい」
ロディは父に急かされながら身支度をするのだった。
「ではこちらの水晶に手をかざしてください」
冒険者ギルドの受付嬢はそう言うと、ロディへ登録用の魔道具を手渡す。
ガイウスは経験していないことだ、彼はいきなり勇者として駆り出されたので。
冒険者として登録していなかったのである、つまりあの怪物染みた強さは生来のモノだ。
「お!反応した」
「はい、これで登録は完了です」
「はぁ良かった……改めて、ありがとうございます。定員空いたらお願いしますって約束守ってくれて」
「いえ。勇者の弟が所属しているというのは、うちのネームバリューにも繋がりますし」
「え?でも僕、まだ冒険者としては新米ですよ?」
「ええ。ですが勇者代理としてなら十分です」
受付嬢の言葉の意味を測りかねるロディに彼女は続ける。
「アルキード王国は魔族との戦いで疲弊しています。
そんな時に新たな英雄が登場すれば国民も希望を見出すでしょう」
「……なるほど、そういうことですか」
「それに貴方はあのガイウスの弟君ですし。才能は確かなものと思われます、
ただ今は眠っているだけ、そう見ています」
「はは……」
受付嬢の鋭い指摘に苦笑いするロディ。
だが確かにその通りだと自分でも思うのだ、彼はまだ眠っているだけなのだから。
(でも今は……)
今出来ることをしよう、そう思った。
「では試験を受けて頂きます」
「はい!」
------
「就職おめでとうございます。ロディ」
「就職……就職ていうのか?まぁ確かに」
試験は思ったよりすぐ終わり、ロディはレオノーレと共に昼下がりのラピアを散策していた。
聖夜祭目前という事で、各所にクリスマスツリーが飾られ。
道行く人々は皆、どこか浮き足立っているように感じる。
「しかし……試験はあれで良かったのですか?私はてっきり戦闘試験かと思っていたのですが」
「うん、僕はまだ戦いに慣れてないから。だから筆記試験と面接だけでした」
「そうですか……」
レオノーレの疑問も尤もだ。
だがロディには考えがあったのだ、がむしゃらに戦うだけじゃダメだ。
その場に応じ最適な行動をとれるかが大事なのだ、と。
「では今日は就職祝いに、酒場へ行きますか」
「え!?レオノーレさん、酒飲めるの!」
「聖教信徒は洗礼が成人の証ですので、15歳から飲めますよ」
どおりで大人びているわけだ。と驚き半分納得もする。
アルキード王国の成人は18歳から、つまり酒が飲めるのは3年後である。
(酒か……3年後、僕はレオノーレさんと酒を飲み交わせるだろうか?)
「ロディ、行きますよ」
「あ!はい今行きます!」
2人は連れ立って酒場へ向かう。
そして冒険者ギルドの方を振り返る、思えば自分はずっとガイウスの背を追っていて。
彼のおさがりを貰ったり、彼の真似をしてばかりいた。
だがこれは違う、ロディ自身の決断だ。
ここにきて初めて彼は「勇者の弟」から独り立ちした。
「ロディ?」
「……なんでもないよ、行こう!」
「ええ」
そして2人は酒場へ入っていった。
------
「なぁなぁ、知ってるか?アルキード霊園に女の子のお化けが出るらしいぜぇ~」
「や~め~ろ~!俺そういうのマジ苦手なんだぞ!!」
アルキード騎士団、団長がいない完全な自由時間というのもあってか。
酒場ではバカ騒ぎが繰り広げられていた。
最近霊園に女の子の幽霊が出るそうだ、顔は全然見えず。
でも時々発する泣き声などから女の子なことはわかっているらしい。
「おいおいマジかよぉ、怖いなそれ……」
「いやそれがそうでもないらしいぜ?
なんかその子と話が出来るらしくてさ、そんでもって……」
『私はずっとここにいます』と、そう言っているらしい。
よほど強い未練が在るのだろうか……成仏させてあげたいものだが。
彼女が何者かわからない以上はどうにも出来まい。
「…ミルクください」
「私はリキュールで」
「ははは!ミルク頼みやがってあのガキぃ」
「わ、悪かったなー!まだ酒飲めないんだよー!!バーカッ」
騎士たちに精一杯の悪態をつきロディはテーブルに座る。
レオノーレはミルクを飲んで何が悪いというように、リキュールを傾けていた。
「まったく……しかし女の子の幽霊ですか。確かに気になりますね」
「でしょう!?なんかあるよ絶対!」
「まぁまぁ落ち着いてください。
仮にその少女が本当にいるとしてどうなさるつもりですか?」
「そりゃもちろん話を聞いてあげるんだよ!」
その言葉にレオノーレは首を横に振る。
幽霊が悪霊だった場合は当然戦わねばならないわけだが。
霊体への有効打をロディは持っていない、霊体は実体を持たぬ存在。
通常の武器では決して傷つけられないのだ。
そのため戦うときは必ず聖職者か術に長けたものを連れて行くしかない……。
「……いいですか?少女によってはすぐ退却いたしますよ」
「はい……あ、店主さんありがとうございました……美味しかったです」
わざわざ言わなくていいのにという顔されたが。
言われて悪い気はしないのか、そうかいと笑ってくれ。
レオノーレとロディは代金を支払い。
手を振りながら夜の酒場を後にするのであった。
「夜の霊園に用?出るのは幽霊くらいですよ、変わった方々ですねぇ」
「そ、そう言わず……あ、墓守さんなら知りませんか?女の子の幽霊が出る話」
「幽霊ですか。迷える死者なんてよく目にしますよ?ほらあそこにもいますね」
墓守が指さす先には確かに墓の前に座り込む人影があった、でも幽霊だ。
何故すぐわかったのかって?灯りひとつない霊園の中でもくっきり見えるからだ。
本当にいるんだ、という怯えとでも確かめなくてはという気持ちがないまぜになりながら。
慣れた様子でランタンに油をさす墓守へ話しかける。
「あの。幽霊って具体的に何人いるんでしょう?」
「建国当初からこの霊園はありますからね、ざっと100はいるかと」
「ひゃくぅ!?」
「それだけ歴史ある場所ということです。止めはしませんが墓荒らしはご遠慮願いますよ?」
そう言いながら墓守は仕事へ戻ってしまった。
さすがに墓石を傷つけてまで調べようとは思わないので素直に諦めることにする。
だがやはり気になるものは気になるのだ……最近現れた女の子の幽霊。
常に悲しみ続けているという騎士たちの発言、リアナ王女の異変。
なんだかロディにはそれぞれが、うっすらと線で結ばれていくような気がしてならない。
もしかしたら自分は何か重大な勘違いをしているのではないか……?
そう不安になるが、もうここまで来たら引き返すこともできない。
覚悟を決めると2人は頷き合い、墓場へと足を踏み入れるのだった……。
「ロディ、大神官様はこう言われておりました」
「レオノーレさん、さっきの人足なかったよね!?」
「幽霊と出会ったとき怯えてはいけない、悪意ある者をつけあがらせてしまうと」
「いやそうだけどー!でも怖いものは怖いんだもん!!」
その会話からわかるように、ロディはビビりまくっている。
墓地に足を踏み入れた瞬間、彼はもう既に涙目だった。
そんな彼をなだめながらレオノーレは周囲を見回す。
墓守が言う通りだ、幽霊なんて珍しいものじゃない。
あっちの墓石にも、あっちの枯れ木の下にも……。
彼等の多くは自分たちが見えていないと思っているのか、虚空を漂っている。
「いませんね、噂の女の子は」
「幽霊なんて山ほど見たじゃない……もう帰ろうよ~」
「ロディ。貴方は勇者代理なのでしょう、幽霊くらいでビビり散らしていてはダメですよ。
それに墓地にいるのは悪さしない幽霊ばかりです」
「だから……怖いんだよぉ……」
そう言いながらも一応、レオノーレの後をついて回るロディ。
だが確かに彼女の言う通り、この霊園で悪さを働くような幽霊はいない。
ただ彷徨っているだけの幽霊ばかりだ、それが余計に不気味であるのだが。
「じゃあ、最後にあそこへ入ってから。今夜は終わりにしましょう」
「あれは……?」
レオノーレが仕方ないなと指差した先には一際立派な霊廟があった。
歴代アルキード王族の御遺体を納める、この霊園で最も重要度の高い建造物だ。
「本来は王族以外入ることは許されないのですが……」
レオノーレは周囲を見回し、人がいない事を確認する。
そして2人はその御廟へと足を踏み入れた。
「これがアルキード王国の歴史、そして王家の祖先が眠る墓所……」
「……噂の少女が、お姫様の異変と関係あるなら」
「可能性はあります、行きましょう」
中はひんやりと冷えており、どこか神聖な雰囲気を醸し出している。
大理石が敷かれた床に奥までずらりと並ぶ棺桶。
おそらくこのすべてに歴代アルキード王の御遺体が納められているのだろう。
「なんだか……入っちゃいけないとこに来ちゃった感じあるね」
「そうですね……」
2人は言葉少なに、ゆっくりと奥へ進んでいく。
そして最奥部-アルキード王国建国の父である。
「アルキード一世」の御遺体が安置されている場所へ到達した。
「アルキード一世は聖者でもあったそうですよ、この御廟はそれを示すために作られています」
「へぇーそうなんだ……」
2人はしばしの間、その棺を見つめると外へ出ようとする。
もう夜も更けてきたし、そろそろ帰ろうと思ったのだ。
だがその時である-!2人の背後で何かが動く音がしたのは!
「……!?」
慌てて振り返るロディだったが、そこには何もいない。
いや……いる。
「……誰かいる?」
まさか、と息を呑む。さっきもレオノーレに言われたじゃないか、幽霊を見ても絶対驚くなと。
震える足をなんとか抑えつつ、ロディは墓碑を見つめる。
するとそこには白いフード付きのマントを羽織った少女が座って足を揺らしていた。
顔は……見えない。しかし、背丈から察するに子供だろう。
「こ、こんばん、は……?」
「……わたしが見えている、のですか?」
「!?は、はい見えています!」
少女のほうもまさか自分を知覚するのみでなく、話しかけてくる相手がいたのは。
予想外だったようで、墓碑を下りた拍子にフードから口元と目元がうっすら見える。
一瞬隙間から金色の髪が垣間見えた、どうやら女の子のようだ。
「あの、あのぉ……僕は、えーと……」
「ロディ。幽霊は怯えるとつけあがります、毅然としなさい」
「ひゃい……っ!」
思わず噛んでしまったがなんとか返事をすることが出来た。
すると少女は少し安心したように微笑んだ気がした。
だが同時に悲しそうな表情に変わる、何か辛いことがあったのだろう。
……そう思ったらなんだか放っておけなかった。
「あなたは?」
「この場に縛り付けられた……しがなき地縛霊ですよ」
地縛霊と自虐的に笑う少女は、これまで霊園で目にした幽霊と決定的に異なるオーラを纏っていた。
白フード付きマント越しにもわかるほどの気品があるというか。
悪意や怨念といったものを感じない。
「……レオノーレさん、この子は」
「大丈夫ですロディ。この子は無害です」
この子は大丈夫とお墨付きをもらうが、それでも怖いものは怖い。
だがレオノーレはそんな少年の恐怖など気にも留めず、少女の前へと進み出ると。
「私はレオノーレ・ベルフラウ。貴女を除霊に来たわけではありません」
「え……」
「ですので、まずはそのフードを」
「あ、あの!レオノーレさん!」
彼女の言葉を遮るようにロディは叫ぶ。
そして少女の様子を見た時……彼は確信したのだ。
「この子……たぶん」
「……フードは外せませんがお話なら出来ます。私は肉体を失ってしまった、いえ正しくは」
奪われてしまいました。そうため息を付く少女に、レオノーレは単刀直入に聞いた。
「貴女の肉体を何者かが?」
「……はい」
少女が俯くのと同時に白いフードから金色の髪が一房見えた。
それはまるで絹糸のように美しかった。
その翌日のアルドレッド家では、ロディの父が布団にくるまって眠る息子を起こしにかかっていた。
「う~ん……あと5分……」
「馬鹿者!早く起きなさい!」
ロディの父は布団をひっぺがすと、息子の鼻をつまんで起床させる。
そしてようやく目を覚ましたロディは目をこする。
「父さん、おはよー」
「おはようじゃないわ!お前宛の手紙が来てたぞ」
「……手紙?」
寝ぼけ眼で父から手紙を受け取る。
開封して読んでいる内に意識が一気に覚醒した。
ラピアの冒険者ギルドの定員に空きが出来たというものであった。
そうだ。受付嬢と約束したのである、空きが出来たら入るので登録お願いしますと。
「すげぇ!ほんとに来た……口約束と思ってたのに」
「ギルドの人間は律儀じゃなきゃやってられんさ。
お相手もお前が登録しに来ると信じて待ってたんだろう」
「そうか……そうだよな!」
今からガイウスのように超人的な力を持つ勇者になることはできない。
だが「勇者代理」として確かな実力を身に付けておきたかった。
この国を覆う暗雲を払う為にも。
「父さん、俺ギルドの試験受けるよ」
「そうか、なら準備しないとな。まずはその寝癖を直せ!」
「はーい」
ロディは父に急かされながら身支度をするのだった。
「ではこちらの水晶に手をかざしてください」
冒険者ギルドの受付嬢はそう言うと、ロディへ登録用の魔道具を手渡す。
ガイウスは経験していないことだ、彼はいきなり勇者として駆り出されたので。
冒険者として登録していなかったのである、つまりあの怪物染みた強さは生来のモノだ。
「お!反応した」
「はい、これで登録は完了です」
「はぁ良かった……改めて、ありがとうございます。定員空いたらお願いしますって約束守ってくれて」
「いえ。勇者の弟が所属しているというのは、うちのネームバリューにも繋がりますし」
「え?でも僕、まだ冒険者としては新米ですよ?」
「ええ。ですが勇者代理としてなら十分です」
受付嬢の言葉の意味を測りかねるロディに彼女は続ける。
「アルキード王国は魔族との戦いで疲弊しています。
そんな時に新たな英雄が登場すれば国民も希望を見出すでしょう」
「……なるほど、そういうことですか」
「それに貴方はあのガイウスの弟君ですし。才能は確かなものと思われます、
ただ今は眠っているだけ、そう見ています」
「はは……」
受付嬢の鋭い指摘に苦笑いするロディ。
だが確かにその通りだと自分でも思うのだ、彼はまだ眠っているだけなのだから。
(でも今は……)
今出来ることをしよう、そう思った。
「では試験を受けて頂きます」
「はい!」
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「就職おめでとうございます。ロディ」
「就職……就職ていうのか?まぁ確かに」
試験は思ったよりすぐ終わり、ロディはレオノーレと共に昼下がりのラピアを散策していた。
聖夜祭目前という事で、各所にクリスマスツリーが飾られ。
道行く人々は皆、どこか浮き足立っているように感じる。
「しかし……試験はあれで良かったのですか?私はてっきり戦闘試験かと思っていたのですが」
「うん、僕はまだ戦いに慣れてないから。だから筆記試験と面接だけでした」
「そうですか……」
レオノーレの疑問も尤もだ。
だがロディには考えがあったのだ、がむしゃらに戦うだけじゃダメだ。
その場に応じ最適な行動をとれるかが大事なのだ、と。
「では今日は就職祝いに、酒場へ行きますか」
「え!?レオノーレさん、酒飲めるの!」
「聖教信徒は洗礼が成人の証ですので、15歳から飲めますよ」
どおりで大人びているわけだ。と驚き半分納得もする。
アルキード王国の成人は18歳から、つまり酒が飲めるのは3年後である。
(酒か……3年後、僕はレオノーレさんと酒を飲み交わせるだろうか?)
「ロディ、行きますよ」
「あ!はい今行きます!」
2人は連れ立って酒場へ向かう。
そして冒険者ギルドの方を振り返る、思えば自分はずっとガイウスの背を追っていて。
彼のおさがりを貰ったり、彼の真似をしてばかりいた。
だがこれは違う、ロディ自身の決断だ。
ここにきて初めて彼は「勇者の弟」から独り立ちした。
「ロディ?」
「……なんでもないよ、行こう!」
「ええ」
そして2人は酒場へ入っていった。
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「なぁなぁ、知ってるか?アルキード霊園に女の子のお化けが出るらしいぜぇ~」
「や~め~ろ~!俺そういうのマジ苦手なんだぞ!!」
アルキード騎士団、団長がいない完全な自由時間というのもあってか。
酒場ではバカ騒ぎが繰り広げられていた。
最近霊園に女の子の幽霊が出るそうだ、顔は全然見えず。
でも時々発する泣き声などから女の子なことはわかっているらしい。
「おいおいマジかよぉ、怖いなそれ……」
「いやそれがそうでもないらしいぜ?
なんかその子と話が出来るらしくてさ、そんでもって……」
『私はずっとここにいます』と、そう言っているらしい。
よほど強い未練が在るのだろうか……成仏させてあげたいものだが。
彼女が何者かわからない以上はどうにも出来まい。
「…ミルクください」
「私はリキュールで」
「ははは!ミルク頼みやがってあのガキぃ」
「わ、悪かったなー!まだ酒飲めないんだよー!!バーカッ」
騎士たちに精一杯の悪態をつきロディはテーブルに座る。
レオノーレはミルクを飲んで何が悪いというように、リキュールを傾けていた。
「まったく……しかし女の子の幽霊ですか。確かに気になりますね」
「でしょう!?なんかあるよ絶対!」
「まぁまぁ落ち着いてください。
仮にその少女が本当にいるとしてどうなさるつもりですか?」
「そりゃもちろん話を聞いてあげるんだよ!」
その言葉にレオノーレは首を横に振る。
幽霊が悪霊だった場合は当然戦わねばならないわけだが。
霊体への有効打をロディは持っていない、霊体は実体を持たぬ存在。
通常の武器では決して傷つけられないのだ。
そのため戦うときは必ず聖職者か術に長けたものを連れて行くしかない……。
「……いいですか?少女によってはすぐ退却いたしますよ」
「はい……あ、店主さんありがとうございました……美味しかったです」
わざわざ言わなくていいのにという顔されたが。
言われて悪い気はしないのか、そうかいと笑ってくれ。
レオノーレとロディは代金を支払い。
手を振りながら夜の酒場を後にするのであった。
「夜の霊園に用?出るのは幽霊くらいですよ、変わった方々ですねぇ」
「そ、そう言わず……あ、墓守さんなら知りませんか?女の子の幽霊が出る話」
「幽霊ですか。迷える死者なんてよく目にしますよ?ほらあそこにもいますね」
墓守が指さす先には確かに墓の前に座り込む人影があった、でも幽霊だ。
何故すぐわかったのかって?灯りひとつない霊園の中でもくっきり見えるからだ。
本当にいるんだ、という怯えとでも確かめなくてはという気持ちがないまぜになりながら。
慣れた様子でランタンに油をさす墓守へ話しかける。
「あの。幽霊って具体的に何人いるんでしょう?」
「建国当初からこの霊園はありますからね、ざっと100はいるかと」
「ひゃくぅ!?」
「それだけ歴史ある場所ということです。止めはしませんが墓荒らしはご遠慮願いますよ?」
そう言いながら墓守は仕事へ戻ってしまった。
さすがに墓石を傷つけてまで調べようとは思わないので素直に諦めることにする。
だがやはり気になるものは気になるのだ……最近現れた女の子の幽霊。
常に悲しみ続けているという騎士たちの発言、リアナ王女の異変。
なんだかロディにはそれぞれが、うっすらと線で結ばれていくような気がしてならない。
もしかしたら自分は何か重大な勘違いをしているのではないか……?
そう不安になるが、もうここまで来たら引き返すこともできない。
覚悟を決めると2人は頷き合い、墓場へと足を踏み入れるのだった……。
「ロディ、大神官様はこう言われておりました」
「レオノーレさん、さっきの人足なかったよね!?」
「幽霊と出会ったとき怯えてはいけない、悪意ある者をつけあがらせてしまうと」
「いやそうだけどー!でも怖いものは怖いんだもん!!」
その会話からわかるように、ロディはビビりまくっている。
墓地に足を踏み入れた瞬間、彼はもう既に涙目だった。
そんな彼をなだめながらレオノーレは周囲を見回す。
墓守が言う通りだ、幽霊なんて珍しいものじゃない。
あっちの墓石にも、あっちの枯れ木の下にも……。
彼等の多くは自分たちが見えていないと思っているのか、虚空を漂っている。
「いませんね、噂の女の子は」
「幽霊なんて山ほど見たじゃない……もう帰ろうよ~」
「ロディ。貴方は勇者代理なのでしょう、幽霊くらいでビビり散らしていてはダメですよ。
それに墓地にいるのは悪さしない幽霊ばかりです」
「だから……怖いんだよぉ……」
そう言いながらも一応、レオノーレの後をついて回るロディ。
だが確かに彼女の言う通り、この霊園で悪さを働くような幽霊はいない。
ただ彷徨っているだけの幽霊ばかりだ、それが余計に不気味であるのだが。
「じゃあ、最後にあそこへ入ってから。今夜は終わりにしましょう」
「あれは……?」
レオノーレが仕方ないなと指差した先には一際立派な霊廟があった。
歴代アルキード王族の御遺体を納める、この霊園で最も重要度の高い建造物だ。
「本来は王族以外入ることは許されないのですが……」
レオノーレは周囲を見回し、人がいない事を確認する。
そして2人はその御廟へと足を踏み入れた。
「これがアルキード王国の歴史、そして王家の祖先が眠る墓所……」
「……噂の少女が、お姫様の異変と関係あるなら」
「可能性はあります、行きましょう」
中はひんやりと冷えており、どこか神聖な雰囲気を醸し出している。
大理石が敷かれた床に奥までずらりと並ぶ棺桶。
おそらくこのすべてに歴代アルキード王の御遺体が納められているのだろう。
「なんだか……入っちゃいけないとこに来ちゃった感じあるね」
「そうですね……」
2人は言葉少なに、ゆっくりと奥へ進んでいく。
そして最奥部-アルキード王国建国の父である。
「アルキード一世」の御遺体が安置されている場所へ到達した。
「アルキード一世は聖者でもあったそうですよ、この御廟はそれを示すために作られています」
「へぇーそうなんだ……」
2人はしばしの間、その棺を見つめると外へ出ようとする。
もう夜も更けてきたし、そろそろ帰ろうと思ったのだ。
だがその時である-!2人の背後で何かが動く音がしたのは!
「……!?」
慌てて振り返るロディだったが、そこには何もいない。
いや……いる。
「……誰かいる?」
まさか、と息を呑む。さっきもレオノーレに言われたじゃないか、幽霊を見ても絶対驚くなと。
震える足をなんとか抑えつつ、ロディは墓碑を見つめる。
するとそこには白いフード付きのマントを羽織った少女が座って足を揺らしていた。
顔は……見えない。しかし、背丈から察するに子供だろう。
「こ、こんばん、は……?」
「……わたしが見えている、のですか?」
「!?は、はい見えています!」
少女のほうもまさか自分を知覚するのみでなく、話しかけてくる相手がいたのは。
予想外だったようで、墓碑を下りた拍子にフードから口元と目元がうっすら見える。
一瞬隙間から金色の髪が垣間見えた、どうやら女の子のようだ。
「あの、あのぉ……僕は、えーと……」
「ロディ。幽霊は怯えるとつけあがります、毅然としなさい」
「ひゃい……っ!」
思わず噛んでしまったがなんとか返事をすることが出来た。
すると少女は少し安心したように微笑んだ気がした。
だが同時に悲しそうな表情に変わる、何か辛いことがあったのだろう。
……そう思ったらなんだか放っておけなかった。
「あなたは?」
「この場に縛り付けられた……しがなき地縛霊ですよ」
地縛霊と自虐的に笑う少女は、これまで霊園で目にした幽霊と決定的に異なるオーラを纏っていた。
白フード付きマント越しにもわかるほどの気品があるというか。
悪意や怨念といったものを感じない。
「……レオノーレさん、この子は」
「大丈夫ですロディ。この子は無害です」
この子は大丈夫とお墨付きをもらうが、それでも怖いものは怖い。
だがレオノーレはそんな少年の恐怖など気にも留めず、少女の前へと進み出ると。
「私はレオノーレ・ベルフラウ。貴女を除霊に来たわけではありません」
「え……」
「ですので、まずはそのフードを」
「あ、あの!レオノーレさん!」
彼女の言葉を遮るようにロディは叫ぶ。
そして少女の様子を見た時……彼は確信したのだ。
「この子……たぶん」
「……フードは外せませんがお話なら出来ます。私は肉体を失ってしまった、いえ正しくは」
奪われてしまいました。そうため息を付く少女に、レオノーレは単刀直入に聞いた。
「貴女の肉体を何者かが?」
「……はい」
少女が俯くのと同時に白いフードから金色の髪が一房見えた。
それはまるで絹糸のように美しかった。
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いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
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貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
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