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5章-戦乱の影
大龍祭
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フーロン首都-パーダオ
レオノーレが温度差で風邪を引きそうだと言う通り。
王女を喪い国全体が悲しみに包まれるアルキード王国に対し。
フーロン皇国中が湧いていた。なぜなら今日は大龍祭。
国を挙げて祝う日なのだ。街ゆく人々の顔は明るく、誰もが笑顔だった。
そして祝賀ムードを歩く奇天烈な組み合わせ。
顔に大きなキズのある漢服の男、チャイナドレスのエルフ。
舞の衣装を来た青年二人、そんでもって後ろからは。
仙女のカッコをした少女が番傘を差しニッコニコで歩いてくる。
「ガイウスくんまで漢服着る必要あるのぉ?ハオちゃん」
「大龍祭はドレスコードが厳しいのヨ、だからみんなも着替えさせたノ♪」
「師匠~。出店で遊んでいいですか?」
「いいヨ、まだ開門まで時間あるからね」
シャオヘイはお気に入りの黒のチャイナ服から狐の尻尾をフリフリしている。
年の一度の大祭ということで、いつもな厳かな皇宮への道は。
赤い提灯と異郷の祭りに染まっていた。
魔王軍が国土に攻め入っているの最中でも、一時休戦を行ってまで開催したというそれは。
今まで見てきたどの祭りよりも盛大だった。
「これはすごいな」
「俺と師匠、この日だけパーダオに来るんですよ。いつものパーダオは厳か過ぎますから」
シャオヘイはクルクルと回り、黒髪から髪とお揃いの色の狐耳を揺らす。
いつもは仙人の弟子として堅物気味な少年も、やはり子供。
はしゃぐ時ははしゃぐのだ。
「あ、射的だよガイウス君」
「俺銃は使わねぇよ?趣味じゃない」
「大丈夫。おもちゃだから、それに勇者様は万能なんだろ?」
「……仕方ねぇな、じゃあの赤いのね」
ガイウスはおもちゃのライフルを受け取り、狙いを定めて引き金を引く。
弾は命中した……が倒れず、少し揺れた程度だった。
「あっはっは!お客さん残念!それじゃあ景品は獲れないよ?」
「ちっ」
当たりはしたが倒れなかった、バルトロメオが言う「勇者は万能」と言うのは事実だが。
ガンナーのスキルは趣味じゃないと習得をしなかった。結果がこのありさまだ。
早々にめんどくさがったガイウスを見て、ルッツが貸せとライフルを引っ手繰る。
「銃って飛び道具でしょ?弓と同じよ、ほらこうすんの!」
ルッツは流れるような動作で構え、引き金を引いた。
弾は景品に吸い込まれるように当たり。
ガイウスが目標として指差した龍のぬいぐるみを見事撃ち落としたのだ。
「さすがエルフ!飛び道具使わせたら右に出る者無し!」
「アンタにだけは言われたくないわね」
ルッツは景品のぬいぐるみをシャオヘイに渡し、向こうの飴細工を見に行く。
相変わらず気まぐれなやつだと、軽く肩をすくめる。
「今年は特に盛況してるんだよ、麒麟様が出たんだ」
「麒麟が出るのってめでたいの?」
「ああ。麒麟様は神の化身でね、現れるときは救国の英雄が訪れるときと決まってるんだ。
だからみんな大喜びさ」
バルトロメオはシャオヘイにそう説明しながら、射的の景品を物色している。
そして「あ、これ可愛い」と亀のぬいぐるみをねだるルッツを見て、また笑った。
「じゃあその救国の英雄ってのは?誰なんだ?」
「さあ?でもとにかくとてもめでたい事だよ」
「へぇ」
「そうか。じゃあこのお祭りがずっと続くように頑張らないとな」
シャオヘイはそう言い残し、射的の景品をバルトロメオに渡しルッツと合流する。
そして三人はまた出店を見て回るのだった。
一方そのころ、ネプトゥヌスも五魔将でなく「名物クリーニング屋」として準備を整えていた。
「では大家さん、わたくしは皇宮へ向かいます。よしなに」
「ええメイレンユエちゃん、大龍祭ってことで山ほど洗濯物出るかもしれないけど、よろしくね」
「はい、では」
もうすっかり偽名である「メイレンユエ」と呼ばれることに慣れてしまった。
五魔将でなくただのクリーニング屋として、ネプトゥヌスは皇宮へ向かう。
「さて、では始めますか」
メイレンユエは店先に出した「本日休業」の看板をひっくり返し。
「大龍祭限定!特別クリーニングサービス!」と書いた看板を出した。
そして店先へ置かれた椅子に腰掛ける。
「さあ、どんな汚れでも落としてみせますわ!」
ネプトゥヌスは、この皇宮で「メイレンユエ」として。
「クリーニング屋」として大龍祭の日を、迎えるのだった……。
-------
「これより皇宮の門を開く!下々の民は天狐皇様の御姿を目に焼き付けるように!」
それから数刻後-門兵の声が響き、轟音と共に四聖獣の描かれた大きな門が開かれた。
朱雀、玄武、青龍、白虎の四聖獣が描かれたその門は皇宮へと続く道だ。
門兵に誘導され市民らは列を作って皇宮へと入っていく。
ガイウスたちも「時が近い」というように息を呑んだ。
そう、彼等はただ祭りを楽しみに来たのではない。
皇の右腕と言う地位に納まり、間違いなく良からぬことを目論んでいるマルスを誘い出し。
その悪行を止めるために来たのだ。
「さあシャオヘイ、バルトロメオ、ルッツ。準備はいいな?」
「うん!」
「ええ!」
3人は頷き合い。そしてガイウスを先頭にして門をくぐる。
するとそこには-。
「すごい人だかりね……」
「……おいルッツ手つないどけ、お前チビだから見失うと困る」
「アンタが無駄にでかいだけでしょ!」
門をくぐった先には人、人、人の大混雑だった。
ハオとルッツは背が低いため見失う可能性が高く。
それを心配したガイウスに手を繋ぐことを提案され、二人は渋々それに従うのだった……。
そしてそんな彼等を窓から眺める影があった、マルスだ。
やはり来たかと椅子で足を組んでいたのから立ち上がり、癖である角の先を指でいじる。
「やはり来たかガイウス。決着と行こうか……私の炎が大陸を包むか、お前との因縁にケリをつけるか」
マルスはそう呟き、窓から外を見る。
そして人ごみの中に「彼」の姿を見つけ、その口角を吊り上げた。
「はぁ……まさか、こんなことになるなんてなぁ……」
「仕方ないだろう、この大龍祭がマルスをおびき出す最大のチャンスなんだし」
「だからってなんでこんなカッコなんだよー!
しかもよりによってあんなアホと!」
「ま、まあまあ落ち着いて……」
そうこうしているうちに一行は城門へと到着した、門番に事情を話すと。
あっさりと通してくれたので拍子抜けする。
だが、中に入った途端全員の表情が引き締まる。
無理もない、ここにはこの国で最も高貴な人物がいるのだから。
案内人に連れられ大広間へ入ると、そこは人でごった返しており。
とてもじゃないがゆっくり話が出来そうにない雰囲気である。
「ほら、あの人が皇様!此の国で1番えら~い人」
「へぇ。髭面のおっさんと思ったが意外と若いんだな……」
「当然です、仙術で年をとるのを遅らせているのです」
「なるほどねぇ」
一行が小声で話している間も宴は続いていた。
ガイウスは皇に捧げる余興という出し物が始まったのでそれを見てみる。
だがどれもこれも興味を引くものでなかったので。
すぐ視線を外し料理を食べに行ってしまった。
一方、マルスは食い入るように舞台を見つめていた。
(これが人間どもの最高戦力というわけか……)
マルスからすれば人間など取るに足らない存在だ。
しかし今の彼には違う考えがあった。
この力が炎となって忌々しいアルキード王国を焼き尽くすのだ。
「くくくっ……!」
思わず笑い声が漏れてしまう、周囲の人間は怪訝そうに見つめるが気にしない。
なにせアルキード王国には五魔将で最も残忍なウラヌスを送り込んでいるのだ、
彼女が内部から国を崩壊させていく様子が手に取るように分かる。
今頃あの国は地獄絵図となっているに違いない。
想像しただけでも笑みがこぼれてくるのだった。
「はぁ、フーロンの飯はうめぇなぁ…」
ガイウスはむしゃむしゃと皿に盛られた料理を平らげていく。
その様子をバルトロメオたちは呆れながら見ていた。
「よく食べるわネェ、そんなに食べて太らないノ?」
「いや別に?俺の故郷じゃこれくらい普通だぜ?むしろお前ら食べなさすぎだろ」
「だってあたしエルフだもの、少食なのよ」
「仙術で食欲を抑えるのを覚えたおかげかネ?ほら、シャオヘイも見習いなさイッ」
「は、はい師匠っ……あむっ……もぐもぐ……」
食欲を抑えろと助言したのにまた食べだした。
これで本当に仙人になれるのやらとハオは息をつく。
ガイウスはというと向こうに魚料理が沢山置いてあるのに気づいた。
肉にちょっと飽きていたのだ、魚もいいかなと箸を伸ばした時。
「あら漢服が素敵な殿方ですわね……って」
「ネプトゥヌス!お前も参加してたのかよ!!」
「参加しますよ!!ああ、ガイウスを素敵な殿方と呼ぶなんて
何という失態でしょうか!このまま死にたい気分ですッ!!!」
「うっせぇよ!ったく相変わらずだなお前は……」
昔なら一触即発になっていた筈だが、甲高く喚き散らして満足したのか。
今は宴だからか鼻を鳴らし紹興酒を飲み出す。
以前の彼女ではあり得ない行動に思わず片眉を持ち上げた。
「どうした?お前五魔将だろ」
「ええ。今もそうですわよ」
「魔王から皇サマに鞍替えしたの?」
ルッツの方を見下ろしムスッとしながらグラスの紹興酒を流し込む。
相変わらず生意気だと思うが、確かに彼らからすれば不思議な行動だろう。
五魔将は魔王の腹心、そして彼らは魔王復活のため奔走している筈なのに。
「転生体……もといルチア様にはお会いしましたか?」
「ああ」
「あの子は復活を望んでいない。無理に覚醒させたところで王の復活は成し得ないのです」
魔族の世界は徹底した実力主義かつ弱肉強食の価値観である。
個人でなく力に忠誠を向けるのは至極当然のことだ。
だが、ルチアはそんな価値観とは対極に位置する存在だ。
「それに言葉を交わしてみて思いましたが、あの天狐皇という男。
器が出来ていますからね。仮に復活してもあのものに仕えるでしょう」
「そんなにすげぇのか?あの狐顔」
「無礼な男!まぁ確かに切れ長の目をされてますがねぇ!」
ネプトゥヌスは元々魔王への忠誠心がそんなにない節があった。
だがまさか鞍替えするほどとは、何があるかわからないものだ。
「それに我々、いまソロで活動してるでしょう?冷静になって思えてきたことがありますのよ」
「なんだ?」
「わたくしが貴方を気に入らないのは、魔王を殺したからでなく。
五魔将全員で揃える時間を奪ったことでないかと」
ネプトゥヌスの本心はこうだ、正直魔王が復活しようが、しまいがどうでもいいのだ。
だがユピテル、マルス、ウラヌス、プルト。
五魔将全員で揃って笑いあう時間は魔王よりはるかに失いたくなかったのである。
だがユピテルは魔王復活に奔走するあまり死んだ、ウラヌスも死んだと風のたよりで聞いた。
「それにわたくしね、あの戦争マニアにはついていけないのです。
皇様を焚き付けてアルキード王国を侵略させようとしているのですよ?」
「アルキードを滅ぼすぅ!?むぐぐっ」
「おいヒスエルフ大声出すな!本当か?」
「まずいよ……!アルキード王国は帝国の庇護下にある。そんなことをすれば……」
「帝国のメンツ丸つぶれネ、世界大戦の引き金にもなるヨ」
マルスの行おうとしていることは予想を超えるものだった。
思わず大声を出したルッツの口を慌ててガイウスは手でふさぎながら問う。
大陸最大の二大国家の武力衝突となれば、世界大戦に発展するのは明らかだ。
そして改めて決起する。この大龍祭が世界大戦を止める最後のチャンスだと。
「魔王を討った人間への復讐と言っていますが。まぁ口実ですわね。
あの男は歴史に名を刻みたいだけでしょう」
マルスとは元々反りが合わないところがあった、だが最近はもう限界だ。
さらに「麒麟」が現れた、これが決定的であった。
麒麟は神の化身。彼が現れるときは救国の英雄が現れる時と言われているのだ。
まるで-今のフーロンは滅びに向かっていると「神」が言っているかのように。
「ガイウス。先に言いますがわたくし、貴方のこと大嫌いですからね」
「わかってるよ」
「しかし、アルキードを滅ぼすことは望んでおりません。
わたくしが復讐したいのは貴方であって国ではないのです」
魔王を討ったガイウスへの復讐心が在るのは事実だが。
アルキード王国をフーロン皇国に滅ぼさせるとなると、8つ当たりとしか言いようがない。
そんなことをするくらいなら自分も滅びる、それがネプトゥヌスの覚悟だ。
自分たちの知らぬところで、五魔将の間にも埋まらない溝が生まれていたとは……。
「協力してくださらない?マルスは炎の悪魔。
冷水ぶっかける要因が居るでしょう」
「お!?共闘!?いいね~あたしそういうの好きー!!」
「おバカさん!マルスを倒すまで、ですのよ!」
二人はお互いに顔を見合わせると不敵に笑いあった。
こうして追放者パーティーに、なんと蒼水将軍ネプトゥヌスが加入したのだ!
思わぬ助力だと驚きつつも全員でマルスに挑もう、と。
ユピテルのときのように誘い出す手段に出よう……。
と思ったが止めるものがいた、ハオだ。
「等一下(ちょっと待て)!寛寧様は老獪ヨ、それだけで罠にかかることはないワ」
「じゃあどうすんだよ、何かいい案でもあるのか?」
「う~んそうネ……」
「あ!師匠、始まりました。始まりましたよ!」
「なにが」
興奮するシャオヘイにつられ全員が舞台を見る、そこには武闘家と思わしき人々が。
舞台にあがっているじゃないか!あれが皇への出し物だというのか。
それを見ながらハオは「これだ!」という顔をする。
「武闘演舞です、大龍祭の名物ですよ!」
「武闘演舞って?」
「皇サマの前で試合をするのヨ。
一番良かった戦士はどんな願いも叶えてくれるそうネ」
「へー!!すごいね!」
「ええ。それでガイウス……ちょっと耳貸しなさイ。ハオの作戦は」
ハオはガイウスの耳元で何やら話す、何を話しているかは分からなかったが。
彼の口元は了承したという代わりに弧をえがく。
「いいぜ、乗った」
「そうこなくちゃネ!」
レオノーレが温度差で風邪を引きそうだと言う通り。
王女を喪い国全体が悲しみに包まれるアルキード王国に対し。
フーロン皇国中が湧いていた。なぜなら今日は大龍祭。
国を挙げて祝う日なのだ。街ゆく人々の顔は明るく、誰もが笑顔だった。
そして祝賀ムードを歩く奇天烈な組み合わせ。
顔に大きなキズのある漢服の男、チャイナドレスのエルフ。
舞の衣装を来た青年二人、そんでもって後ろからは。
仙女のカッコをした少女が番傘を差しニッコニコで歩いてくる。
「ガイウスくんまで漢服着る必要あるのぉ?ハオちゃん」
「大龍祭はドレスコードが厳しいのヨ、だからみんなも着替えさせたノ♪」
「師匠~。出店で遊んでいいですか?」
「いいヨ、まだ開門まで時間あるからね」
シャオヘイはお気に入りの黒のチャイナ服から狐の尻尾をフリフリしている。
年の一度の大祭ということで、いつもな厳かな皇宮への道は。
赤い提灯と異郷の祭りに染まっていた。
魔王軍が国土に攻め入っているの最中でも、一時休戦を行ってまで開催したというそれは。
今まで見てきたどの祭りよりも盛大だった。
「これはすごいな」
「俺と師匠、この日だけパーダオに来るんですよ。いつものパーダオは厳か過ぎますから」
シャオヘイはクルクルと回り、黒髪から髪とお揃いの色の狐耳を揺らす。
いつもは仙人の弟子として堅物気味な少年も、やはり子供。
はしゃぐ時ははしゃぐのだ。
「あ、射的だよガイウス君」
「俺銃は使わねぇよ?趣味じゃない」
「大丈夫。おもちゃだから、それに勇者様は万能なんだろ?」
「……仕方ねぇな、じゃあの赤いのね」
ガイウスはおもちゃのライフルを受け取り、狙いを定めて引き金を引く。
弾は命中した……が倒れず、少し揺れた程度だった。
「あっはっは!お客さん残念!それじゃあ景品は獲れないよ?」
「ちっ」
当たりはしたが倒れなかった、バルトロメオが言う「勇者は万能」と言うのは事実だが。
ガンナーのスキルは趣味じゃないと習得をしなかった。結果がこのありさまだ。
早々にめんどくさがったガイウスを見て、ルッツが貸せとライフルを引っ手繰る。
「銃って飛び道具でしょ?弓と同じよ、ほらこうすんの!」
ルッツは流れるような動作で構え、引き金を引いた。
弾は景品に吸い込まれるように当たり。
ガイウスが目標として指差した龍のぬいぐるみを見事撃ち落としたのだ。
「さすがエルフ!飛び道具使わせたら右に出る者無し!」
「アンタにだけは言われたくないわね」
ルッツは景品のぬいぐるみをシャオヘイに渡し、向こうの飴細工を見に行く。
相変わらず気まぐれなやつだと、軽く肩をすくめる。
「今年は特に盛況してるんだよ、麒麟様が出たんだ」
「麒麟が出るのってめでたいの?」
「ああ。麒麟様は神の化身でね、現れるときは救国の英雄が訪れるときと決まってるんだ。
だからみんな大喜びさ」
バルトロメオはシャオヘイにそう説明しながら、射的の景品を物色している。
そして「あ、これ可愛い」と亀のぬいぐるみをねだるルッツを見て、また笑った。
「じゃあその救国の英雄ってのは?誰なんだ?」
「さあ?でもとにかくとてもめでたい事だよ」
「へぇ」
「そうか。じゃあこのお祭りがずっと続くように頑張らないとな」
シャオヘイはそう言い残し、射的の景品をバルトロメオに渡しルッツと合流する。
そして三人はまた出店を見て回るのだった。
一方そのころ、ネプトゥヌスも五魔将でなく「名物クリーニング屋」として準備を整えていた。
「では大家さん、わたくしは皇宮へ向かいます。よしなに」
「ええメイレンユエちゃん、大龍祭ってことで山ほど洗濯物出るかもしれないけど、よろしくね」
「はい、では」
もうすっかり偽名である「メイレンユエ」と呼ばれることに慣れてしまった。
五魔将でなくただのクリーニング屋として、ネプトゥヌスは皇宮へ向かう。
「さて、では始めますか」
メイレンユエは店先に出した「本日休業」の看板をひっくり返し。
「大龍祭限定!特別クリーニングサービス!」と書いた看板を出した。
そして店先へ置かれた椅子に腰掛ける。
「さあ、どんな汚れでも落としてみせますわ!」
ネプトゥヌスは、この皇宮で「メイレンユエ」として。
「クリーニング屋」として大龍祭の日を、迎えるのだった……。
-------
「これより皇宮の門を開く!下々の民は天狐皇様の御姿を目に焼き付けるように!」
それから数刻後-門兵の声が響き、轟音と共に四聖獣の描かれた大きな門が開かれた。
朱雀、玄武、青龍、白虎の四聖獣が描かれたその門は皇宮へと続く道だ。
門兵に誘導され市民らは列を作って皇宮へと入っていく。
ガイウスたちも「時が近い」というように息を呑んだ。
そう、彼等はただ祭りを楽しみに来たのではない。
皇の右腕と言う地位に納まり、間違いなく良からぬことを目論んでいるマルスを誘い出し。
その悪行を止めるために来たのだ。
「さあシャオヘイ、バルトロメオ、ルッツ。準備はいいな?」
「うん!」
「ええ!」
3人は頷き合い。そしてガイウスを先頭にして門をくぐる。
するとそこには-。
「すごい人だかりね……」
「……おいルッツ手つないどけ、お前チビだから見失うと困る」
「アンタが無駄にでかいだけでしょ!」
門をくぐった先には人、人、人の大混雑だった。
ハオとルッツは背が低いため見失う可能性が高く。
それを心配したガイウスに手を繋ぐことを提案され、二人は渋々それに従うのだった……。
そしてそんな彼等を窓から眺める影があった、マルスだ。
やはり来たかと椅子で足を組んでいたのから立ち上がり、癖である角の先を指でいじる。
「やはり来たかガイウス。決着と行こうか……私の炎が大陸を包むか、お前との因縁にケリをつけるか」
マルスはそう呟き、窓から外を見る。
そして人ごみの中に「彼」の姿を見つけ、その口角を吊り上げた。
「はぁ……まさか、こんなことになるなんてなぁ……」
「仕方ないだろう、この大龍祭がマルスをおびき出す最大のチャンスなんだし」
「だからってなんでこんなカッコなんだよー!
しかもよりによってあんなアホと!」
「ま、まあまあ落ち着いて……」
そうこうしているうちに一行は城門へと到着した、門番に事情を話すと。
あっさりと通してくれたので拍子抜けする。
だが、中に入った途端全員の表情が引き締まる。
無理もない、ここにはこの国で最も高貴な人物がいるのだから。
案内人に連れられ大広間へ入ると、そこは人でごった返しており。
とてもじゃないがゆっくり話が出来そうにない雰囲気である。
「ほら、あの人が皇様!此の国で1番えら~い人」
「へぇ。髭面のおっさんと思ったが意外と若いんだな……」
「当然です、仙術で年をとるのを遅らせているのです」
「なるほどねぇ」
一行が小声で話している間も宴は続いていた。
ガイウスは皇に捧げる余興という出し物が始まったのでそれを見てみる。
だがどれもこれも興味を引くものでなかったので。
すぐ視線を外し料理を食べに行ってしまった。
一方、マルスは食い入るように舞台を見つめていた。
(これが人間どもの最高戦力というわけか……)
マルスからすれば人間など取るに足らない存在だ。
しかし今の彼には違う考えがあった。
この力が炎となって忌々しいアルキード王国を焼き尽くすのだ。
「くくくっ……!」
思わず笑い声が漏れてしまう、周囲の人間は怪訝そうに見つめるが気にしない。
なにせアルキード王国には五魔将で最も残忍なウラヌスを送り込んでいるのだ、
彼女が内部から国を崩壊させていく様子が手に取るように分かる。
今頃あの国は地獄絵図となっているに違いない。
想像しただけでも笑みがこぼれてくるのだった。
「はぁ、フーロンの飯はうめぇなぁ…」
ガイウスはむしゃむしゃと皿に盛られた料理を平らげていく。
その様子をバルトロメオたちは呆れながら見ていた。
「よく食べるわネェ、そんなに食べて太らないノ?」
「いや別に?俺の故郷じゃこれくらい普通だぜ?むしろお前ら食べなさすぎだろ」
「だってあたしエルフだもの、少食なのよ」
「仙術で食欲を抑えるのを覚えたおかげかネ?ほら、シャオヘイも見習いなさイッ」
「は、はい師匠っ……あむっ……もぐもぐ……」
食欲を抑えろと助言したのにまた食べだした。
これで本当に仙人になれるのやらとハオは息をつく。
ガイウスはというと向こうに魚料理が沢山置いてあるのに気づいた。
肉にちょっと飽きていたのだ、魚もいいかなと箸を伸ばした時。
「あら漢服が素敵な殿方ですわね……って」
「ネプトゥヌス!お前も参加してたのかよ!!」
「参加しますよ!!ああ、ガイウスを素敵な殿方と呼ぶなんて
何という失態でしょうか!このまま死にたい気分ですッ!!!」
「うっせぇよ!ったく相変わらずだなお前は……」
昔なら一触即発になっていた筈だが、甲高く喚き散らして満足したのか。
今は宴だからか鼻を鳴らし紹興酒を飲み出す。
以前の彼女ではあり得ない行動に思わず片眉を持ち上げた。
「どうした?お前五魔将だろ」
「ええ。今もそうですわよ」
「魔王から皇サマに鞍替えしたの?」
ルッツの方を見下ろしムスッとしながらグラスの紹興酒を流し込む。
相変わらず生意気だと思うが、確かに彼らからすれば不思議な行動だろう。
五魔将は魔王の腹心、そして彼らは魔王復活のため奔走している筈なのに。
「転生体……もといルチア様にはお会いしましたか?」
「ああ」
「あの子は復活を望んでいない。無理に覚醒させたところで王の復活は成し得ないのです」
魔族の世界は徹底した実力主義かつ弱肉強食の価値観である。
個人でなく力に忠誠を向けるのは至極当然のことだ。
だが、ルチアはそんな価値観とは対極に位置する存在だ。
「それに言葉を交わしてみて思いましたが、あの天狐皇という男。
器が出来ていますからね。仮に復活してもあのものに仕えるでしょう」
「そんなにすげぇのか?あの狐顔」
「無礼な男!まぁ確かに切れ長の目をされてますがねぇ!」
ネプトゥヌスは元々魔王への忠誠心がそんなにない節があった。
だがまさか鞍替えするほどとは、何があるかわからないものだ。
「それに我々、いまソロで活動してるでしょう?冷静になって思えてきたことがありますのよ」
「なんだ?」
「わたくしが貴方を気に入らないのは、魔王を殺したからでなく。
五魔将全員で揃える時間を奪ったことでないかと」
ネプトゥヌスの本心はこうだ、正直魔王が復活しようが、しまいがどうでもいいのだ。
だがユピテル、マルス、ウラヌス、プルト。
五魔将全員で揃って笑いあう時間は魔王よりはるかに失いたくなかったのである。
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「それにわたくしね、あの戦争マニアにはついていけないのです。
皇様を焚き付けてアルキード王国を侵略させようとしているのですよ?」
「アルキードを滅ぼすぅ!?むぐぐっ」
「おいヒスエルフ大声出すな!本当か?」
「まずいよ……!アルキード王国は帝国の庇護下にある。そんなことをすれば……」
「帝国のメンツ丸つぶれネ、世界大戦の引き金にもなるヨ」
マルスの行おうとしていることは予想を超えるものだった。
思わず大声を出したルッツの口を慌ててガイウスは手でふさぎながら問う。
大陸最大の二大国家の武力衝突となれば、世界大戦に発展するのは明らかだ。
そして改めて決起する。この大龍祭が世界大戦を止める最後のチャンスだと。
「魔王を討った人間への復讐と言っていますが。まぁ口実ですわね。
あの男は歴史に名を刻みたいだけでしょう」
マルスとは元々反りが合わないところがあった、だが最近はもう限界だ。
さらに「麒麟」が現れた、これが決定的であった。
麒麟は神の化身。彼が現れるときは救国の英雄が現れる時と言われているのだ。
まるで-今のフーロンは滅びに向かっていると「神」が言っているかのように。
「ガイウス。先に言いますがわたくし、貴方のこと大嫌いですからね」
「わかってるよ」
「しかし、アルキードを滅ぼすことは望んでおりません。
わたくしが復讐したいのは貴方であって国ではないのです」
魔王を討ったガイウスへの復讐心が在るのは事実だが。
アルキード王国をフーロン皇国に滅ぼさせるとなると、8つ当たりとしか言いようがない。
そんなことをするくらいなら自分も滅びる、それがネプトゥヌスの覚悟だ。
自分たちの知らぬところで、五魔将の間にも埋まらない溝が生まれていたとは……。
「協力してくださらない?マルスは炎の悪魔。
冷水ぶっかける要因が居るでしょう」
「お!?共闘!?いいね~あたしそういうの好きー!!」
「おバカさん!マルスを倒すまで、ですのよ!」
二人はお互いに顔を見合わせると不敵に笑いあった。
こうして追放者パーティーに、なんと蒼水将軍ネプトゥヌスが加入したのだ!
思わぬ助力だと驚きつつも全員でマルスに挑もう、と。
ユピテルのときのように誘い出す手段に出よう……。
と思ったが止めるものがいた、ハオだ。
「等一下(ちょっと待て)!寛寧様は老獪ヨ、それだけで罠にかかることはないワ」
「じゃあどうすんだよ、何かいい案でもあるのか?」
「う~んそうネ……」
「あ!師匠、始まりました。始まりましたよ!」
「なにが」
興奮するシャオヘイにつられ全員が舞台を見る、そこには武闘家と思わしき人々が。
舞台にあがっているじゃないか!あれが皇への出し物だというのか。
それを見ながらハオは「これだ!」という顔をする。
「武闘演舞です、大龍祭の名物ですよ!」
「武闘演舞って?」
「皇サマの前で試合をするのヨ。
一番良かった戦士はどんな願いも叶えてくれるそうネ」
「へー!!すごいね!」
「ええ。それでガイウス……ちょっと耳貸しなさイ。ハオの作戦は」
ハオはガイウスの耳元で何やら話す、何を話しているかは分からなかったが。
彼の口元は了承したという代わりに弧をえがく。
「いいぜ、乗った」
「そうこなくちゃネ!」
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※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
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だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
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