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5章-戦乱の影
武闘演舞
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「武闘演舞のルールを解説する!試合はこの舞台上で行い、舞台の外から一歩でも出た時点で敗北とみなす!
なお、武器は木製の物を使うように!相手を死に至らしめる攻撃は禁じ手とする!」
「うおおおお!!」
「武闘演舞だあッ!!」
「待ってましたー!!」
大龍祭の目玉である武闘演舞がついに始まった。
舞台ではすでに二人の戦士が戦いを繰り広げている。
一人は筋骨隆々の男、もう一人は細身の戦士だ。
そしてそれを観客たちが取り囲み声援を送っていた。
皿に取り分けてきた肉まんや串焼き絵を手に応援していたバルトロメオはふと気づく。
あれガイウスは?と、ハオだけはガイウスがどこへ行ったか知っているように。
「サプライズは大事ヨ」とだけ言って、肉まんをかじっていた。
「うおおお!いけええ!」
「負けるなああ!」
観客たちはどちらが勝つか賭けているようで、あちこちから歓声が聞こえてくる。
正直喧嘩を見るのは好きである、ダンサーと言う仕事柄。
酔っぱらい取っ組み合いを見るのは日常茶飯事だからだ。
「うおおお!!」
「はあっ!」
そんなことを考えていると、どうやら決着が着いたようだ。
勝ったのは細身の戦士、観客たちは歓声を上げている。
「おおっ」
「やったー!」
「フゥーッ!」
戦士は舞台を降り、観客たちに一礼する。
そしてそのまま舞台裏へ消えて行った。
武闘演舞はトーナメント方式となっており、勝ちあがった者たちが皇の前で戦う。
そして優勝者は願いを1つだけ叶えてもらえるのだ。
「うおお!俺の金がああ!!」
「いいじゃない、どうせまた稼げばサ」
「でもよ~……」
そんなやり取りをしながらバルトロメオは舞台に注目する。
次はどんな試合になるのだろう?そしてガイウスは何処へ消えたのだろう……?
まぁハオが言う「サプライズ」に期待だと、舞台に注目するのだった。
そして-武闘演舞がいよいよ決勝戦目前となった時。
ずっと椅子に座り頬杖をついていた天狐皇が、目を細める。
彼は寡黙で無表情だ、だから目にした者のほとんどは「何を考えているか分からない」と言う。
だが彼は今、確かに口角を上げていた。
「さてマルス、武闘演舞もたけなわ。お主も参加するがよい」
「知道了(わかりました)」
マルスは頷き、腕組みを解いて舞台へ歩いていく。
赤い羽衣を揺らし優雅に、しかし発するオーラはまさに「炎」。
そのオーラに気圧された観客たちは、自然と道を作る。
まるでモーゼの十戒だ、とバルトロメオは息を飲む。
彼は壇上に上がるとゆったりと、太極拳を思わせるような構えを見せた。
「マルスの武器は拳なの?」
「あやつが何を使うかは見た方が早い、まずは始まるぞ」
皇に言われ武闘家たちは構えを取り始める、そして一瞬の静寂の後。
ドゴォッ!!という轟音と共に武闘家が宙に舞うとそのまま動かなくなる。
会場中が静まり返る、だが審判が動くことはなく。
倒れた武闘家の方へ行こうとするとマルスが手で制す。
「ま、まさか今の一瞬で!?」
「一撃で仕留めたというのか!?」
武闘家は気づいたら宙を舞っていたのだ、観客たちも何が起こったのか分からない。
だが審判はマルスの殺気を感じとり首を横に振ると、会場中に響く声で勝者の名を呼んだ。
「マルスの勝利!!」
その名が呼ばれた瞬間再び歓声が巻き起こる!皇も満足気に拍手していた。
マルスは満足げに頷くと次は何をするか?と首を傾げる。
そんな彼に近付くものがいた、ネプトゥヌスだ。
「お下がりなさい、審判はわたくしが致します」
「よ、よいのです?」
「ええ。次の試合は人間には刺激が強すぎるでしょう」
審判を下がらせネプトゥヌスはじっと見つめてくる。
審判役ということは、彼女以外に戦いたいものがいるというのか……?
「なんだネプトゥヌス?水でも差しに来たか」
「いえ、より熱狂させようと異国の戦士を呼びましたのよ」
「ほう?」
「さあ、来なさい!」
ネプトゥヌスが手を振り上げると、漢服の男が壇上に上がってきたではないか。
しかし顔は仮面で隠されていて、面から表情は伺い知れない。
だが背負う剣やオーラから只者でないことが伺える。
「貴様、名は?」
「………」
「どうした、口がきけぬのか?」
「あら失礼。火傷で喉が焼かれたそうで。
声が出せないそうですの……しかし剣の腕は本物ですわよ?
さあ!このネプトゥヌスが最高の舞台を用意しましょう」
もちろん実際は違う。声を出せば仮面の男の正体がガイウスとわかるからだ。
だがそんなこと知らないマルスはにやりと笑うと手を下ろすよう合図する。
そして両雄が向かい合ったその時、会場の熱気は最高潮に達した……!
「ではこれより、マルスと異国の戦士による試合を執り行う!はじめ!」
その言葉と共に炎を纏った拳を振るうマルス、しかしその攻撃は全て避けられる。
それどころかカウンターを受けてしまい。
膝をつく羽目になった、どうやら相当な実力者のようだ。
「くっ……!何者だ貴様ッ!?」
「……」
ガイウスはネプトゥヌスの「声を出すな」という約束通り。
クイクイと手を動かした。この仮面を叩き割れたら教えてやるよという合図である。
「そうか、ならば!」
マルスは構えを取ると魔力を練り始める、1年前の死闘を思い出しながら何処か楽し気に。
この立場に収まってから稽古として戦士を相手したりはしたが、どれも燃えなかった。
あの男には遠く及ばない、七色の瞳に赤い髪、自分が負わせた消えない鼻の傷。
そして目の前の仮面は-一言も発さぬ仮面の動きはその男と限りなく似ていた。
いや同じだ!足の踏み込み方も腕の振り方も。
「意地でも口をきかぬか!ならばっ……」
マルスは「あの男だ」という確信を抱きながら、片足を折り曲げ。
バネを戻すように一気に伸ばし、蹴りを叩きつける!
人間をはるかに超える脚力に仮面がひび割れ、砕ける。
「やはり、貴様か……」
マルスは自分でも説明しがたい気持ちになっていた。
また邪魔しに来たという苛立ち、騙されていたという怒り、そして。
-男の仮面が砕ける、そこから現れたのは。
特徴的な顔の傷、虹色の瞳。燃えるような赤い髪。
「ガイウス・アルドレッド……ッ!!」
叩き割られた仮面が更にヒビ割れ。
仮面-もといガイウスは鬱陶しそうにそれを破り捨てる。
「相変わらず人の顔を覚えねぇな」
「来るとは思っていた、シェンタオで再会した時からな。しかし何故騙す様な真似などした?」
「俺の目は少し目立ちすぎる」
言葉短かに告げ、ガイウスは「演舞」でなくここからは殺し合いだというように。
竹刀を捨て、腰のダリルベルデを引き抜く。
そして、彼は1年前もマルスと対峙した際に行った構えを取った。
「来い、マルス」
1年前の死闘が今-再び幕を開ける。
--------
舞台での演舞-いや炎舞はさらに激しくなり、民は食い入るように見つめる。
「マルス様があんな顔をするのは初めてではないか!?」
「一体あの男は…」
「はいはいはい民ども!ルッツちゃん達が
教えてあげるから刮目しなさいよー!」
民たちがざわめく中、ルッツはマイクを手にして真実を告げていく。
マルスの正体は五魔将であること-皇を唆し。
アルキード王国に言い掛かりをつけ滅ぼさせようとしていること、
そのためにフーロン皇国の民を人質にしようとしていること。
これらを話す間も戦いは続いている、ネプトゥヌスはその間も。
2人の戦いに水を差さぬようあくまで中立に、真剣な面差しのまま審判を務めていたが……。
「ッ……いけません!」
泡の結界に綻びが生じたのに顔が一気に険しくなる。マルスは加減と言うものをまるで知らない。
このまま結界の綻びが大きくなれば炎が会場を包み込み大惨事だ。
2人の戦いに水を差すつもりはなかった。
というかガイウスは勇者としても、個人としても大嫌いであるが。
「およしなさい!マルス!!」
ガイウスの目の前にとっさに水の壁を張り、炎を防いだ。
「む」
「……ふぅ」
「ネプトゥヌス、何をした?裏切るのか!?同じ五魔将に在りながら!!」
マルスの矛先はネプトゥヌスへ。
しかし彼女は怯むどころか逆に睨み返し、そして言い放つ。
「勘違いしないでくださる?わたくしはただ民を守るだけですわ」
「なにぃ?」
「わたくしはわたくしの生活があるのです、それにあの向こうの人間。お得意様ですのよ?」
親指で指し示す先には皇宮の役人や貴族、 そして宰相といった富裕層が集まっている。
マルスが皇の側近としてアルキード侵攻計画を練る。
すぐ隣でネプトゥヌスは一介のクリーニング屋として暮らしていた。
それが二人に埋め難き溝を作り、それぞれの生き方を生んでいたのだ。
「そんな打算で動くだと!? 貴様は五魔将失格だ!恥を知れェ!!」
「なんとでもおっしゃい」
-ネプトゥヌスはマルスのことが大嫌いだ、しかし。
彼女は五魔将の中で誰よりも民のことを考えていた。
アルキード王国が滅んだらフーロンはどうなる?
そして何より、自分の生活はどうなるのか?と常に考えていた。
だがあくまで自分は審判-ガイウスの味方になったわけではないのだ。
庇う様にガイウスの前に立つネプトゥヌスは、横目だけで彼を見やると。
「ガイウス、わたくし結界の保持くらいしか致しませんからね」
「知ってるよ。ありがとな、ネプ」
「ッ……!!」
その一言で、彼女は。
-この大嫌いだった男を見直してしまった。
そして同時に、彼のことをもっと知りたいとも思ってしまった。
マルスは怒りに震えるが、しかしすぐに冷静さを取り戻した。
彼はアルキード王国の滅亡を何よりも願っているのだから。
「この裏切り者が……!まぁよいわ、ネプトゥヌス!ガイウスを討ったら次は貴様の番だ」
「ハッ!俺を打ち負かす前提か。大した自信だな」
「貴様は強い、だが私には及ばん。
マルス・フローガは魔王の右腕として-そして勇者に復讐する男として。今ここで!貴様を討つ!!」
マルスは構えると魔力を練り始める。
-この演舞は1年前と似ているようで全く違うものになっていた。
「うおお!」
「すごいぞマルス様!」
「いけー!」
舞台ではマルスとガイウスが剣を交える、 ガイウスはダリルベルデを。
マルスは漢剣を、異国同士の剣技がぶつかり合う。
「はあっ!」
「うおお!!」
2人の戦いに民たちは熱狂する、そしてそれはネプトゥヌスも同じだった。
彼女はどこか楽しそうに2人の演舞を見守っている。
「マルス、楽しいのか?」
「お前もな」
マルスはガイウスの顔を見て軽く驚いた。
この男はこんな風に笑えるのか、と。
1年前のガイウスの笑顔は何処か仮面のようだった、良くも悪くも勇者らしい作り物の笑顔。
だが今の彼は狩りを楽しむ獣のような、獰猛でいて純粋な笑顔をしている。
「いい顔になったな」
「ハッ!お前に褒められても嬉しくねぇな!」
「それは残念」
2人の戦いは更に激しさを増していく。
しかし楽しい時間は永遠には続かない、マルスは眉を寄せ核に触れる。
「チッ……」
「マルス!」
「残念だ。これ以上は遊んでいられん……本気で行かせて貰う!!」
マルスが漢剣を放り構えを変える。
本気を出した合図だ、彼は鬼-如何なる武器より、己が肉体が勝る鬼神。
そしてマルスの足元からは赤い火花が散る。
「マルス!結界が壊れたらどうしますの!死人が出ますわよ」
「構わん」
「構わんですって……」
「私は暦に名さえ刻めればよい!魔王復活など大義名分よ!!」
追い詰められいよいよ、マルスの冷静な顔に隠された「本性」が剥き出しになった。
歴史に名さえ刻めれば名声でも悪声でも何でもよい。
フーロンを潰した「勇者殺しの」という汚名さえ甘んじて受ける。
それほどまでに彼は焦慮にかられていたのだ。
(マルスは……俺だ)
ガイウスは深呼吸し正眼の構えを取る。
容姿が似ているというわけではない、だがガイウスは過去の自分をマルスに重ねていた。
(魔族は死ねとしか言えなかった頃の俺に、こいつは似ている)
「皇様。演舞も大詰めにございます!我が最大の奥義にて締めとさせて頂きましょう」
「うむ!許す!」
マルスはその場で舞を踊るように回りだし、彼を中心に火炎が渦を巻き始めた。
そして彼は両手を広げて天を仰ぐと、高らかに叫んだ。
「我が奥義にて焼き尽くしてくれるわァアアアッ!!!!」
「ネプ、あれ食らったらどうなる?」
「死にますわね間違いなく。四の五の言ってる場合ではありません、わたくしの後ろに隠れなさい」
「大丈夫なのかよ!?」
「フン、蒼水将軍を甘く見ないでくださいまし!!」
そう言うとネプトゥヌスは自分の体を水の膜で覆い、さらに防御壁を展開した。
その様子を見ていたマルスは勝利を確信する。
もはや炎の竜巻と化したそれは二人を飲み込んでいった。
泡の結界越しにも感じる熱波、赤く輝く舞台、水と炎が衝突したときの黒煙と共に。
「……まずい!炎が…水蒸気爆発が起きるよっ!」
「キズや……ガイウスーっ!!!!」
思わずルッツがいつものあだ名で呼ぶのを忘れ、身を乗り出した直後。
その頭はバルトロメオによって強制的に伏せられ。
舞台に凄まじい爆発音と、衝撃波が響き渡った。
なお、武器は木製の物を使うように!相手を死に至らしめる攻撃は禁じ手とする!」
「うおおおお!!」
「武闘演舞だあッ!!」
「待ってましたー!!」
大龍祭の目玉である武闘演舞がついに始まった。
舞台ではすでに二人の戦士が戦いを繰り広げている。
一人は筋骨隆々の男、もう一人は細身の戦士だ。
そしてそれを観客たちが取り囲み声援を送っていた。
皿に取り分けてきた肉まんや串焼き絵を手に応援していたバルトロメオはふと気づく。
あれガイウスは?と、ハオだけはガイウスがどこへ行ったか知っているように。
「サプライズは大事ヨ」とだけ言って、肉まんをかじっていた。
「うおおお!いけええ!」
「負けるなああ!」
観客たちはどちらが勝つか賭けているようで、あちこちから歓声が聞こえてくる。
正直喧嘩を見るのは好きである、ダンサーと言う仕事柄。
酔っぱらい取っ組み合いを見るのは日常茶飯事だからだ。
「うおおお!!」
「はあっ!」
そんなことを考えていると、どうやら決着が着いたようだ。
勝ったのは細身の戦士、観客たちは歓声を上げている。
「おおっ」
「やったー!」
「フゥーッ!」
戦士は舞台を降り、観客たちに一礼する。
そしてそのまま舞台裏へ消えて行った。
武闘演舞はトーナメント方式となっており、勝ちあがった者たちが皇の前で戦う。
そして優勝者は願いを1つだけ叶えてもらえるのだ。
「うおお!俺の金がああ!!」
「いいじゃない、どうせまた稼げばサ」
「でもよ~……」
そんなやり取りをしながらバルトロメオは舞台に注目する。
次はどんな試合になるのだろう?そしてガイウスは何処へ消えたのだろう……?
まぁハオが言う「サプライズ」に期待だと、舞台に注目するのだった。
そして-武闘演舞がいよいよ決勝戦目前となった時。
ずっと椅子に座り頬杖をついていた天狐皇が、目を細める。
彼は寡黙で無表情だ、だから目にした者のほとんどは「何を考えているか分からない」と言う。
だが彼は今、確かに口角を上げていた。
「さてマルス、武闘演舞もたけなわ。お主も参加するがよい」
「知道了(わかりました)」
マルスは頷き、腕組みを解いて舞台へ歩いていく。
赤い羽衣を揺らし優雅に、しかし発するオーラはまさに「炎」。
そのオーラに気圧された観客たちは、自然と道を作る。
まるでモーゼの十戒だ、とバルトロメオは息を飲む。
彼は壇上に上がるとゆったりと、太極拳を思わせるような構えを見せた。
「マルスの武器は拳なの?」
「あやつが何を使うかは見た方が早い、まずは始まるぞ」
皇に言われ武闘家たちは構えを取り始める、そして一瞬の静寂の後。
ドゴォッ!!という轟音と共に武闘家が宙に舞うとそのまま動かなくなる。
会場中が静まり返る、だが審判が動くことはなく。
倒れた武闘家の方へ行こうとするとマルスが手で制す。
「ま、まさか今の一瞬で!?」
「一撃で仕留めたというのか!?」
武闘家は気づいたら宙を舞っていたのだ、観客たちも何が起こったのか分からない。
だが審判はマルスの殺気を感じとり首を横に振ると、会場中に響く声で勝者の名を呼んだ。
「マルスの勝利!!」
その名が呼ばれた瞬間再び歓声が巻き起こる!皇も満足気に拍手していた。
マルスは満足げに頷くと次は何をするか?と首を傾げる。
そんな彼に近付くものがいた、ネプトゥヌスだ。
「お下がりなさい、審判はわたくしが致します」
「よ、よいのです?」
「ええ。次の試合は人間には刺激が強すぎるでしょう」
審判を下がらせネプトゥヌスはじっと見つめてくる。
審判役ということは、彼女以外に戦いたいものがいるというのか……?
「なんだネプトゥヌス?水でも差しに来たか」
「いえ、より熱狂させようと異国の戦士を呼びましたのよ」
「ほう?」
「さあ、来なさい!」
ネプトゥヌスが手を振り上げると、漢服の男が壇上に上がってきたではないか。
しかし顔は仮面で隠されていて、面から表情は伺い知れない。
だが背負う剣やオーラから只者でないことが伺える。
「貴様、名は?」
「………」
「どうした、口がきけぬのか?」
「あら失礼。火傷で喉が焼かれたそうで。
声が出せないそうですの……しかし剣の腕は本物ですわよ?
さあ!このネプトゥヌスが最高の舞台を用意しましょう」
もちろん実際は違う。声を出せば仮面の男の正体がガイウスとわかるからだ。
だがそんなこと知らないマルスはにやりと笑うと手を下ろすよう合図する。
そして両雄が向かい合ったその時、会場の熱気は最高潮に達した……!
「ではこれより、マルスと異国の戦士による試合を執り行う!はじめ!」
その言葉と共に炎を纏った拳を振るうマルス、しかしその攻撃は全て避けられる。
それどころかカウンターを受けてしまい。
膝をつく羽目になった、どうやら相当な実力者のようだ。
「くっ……!何者だ貴様ッ!?」
「……」
ガイウスはネプトゥヌスの「声を出すな」という約束通り。
クイクイと手を動かした。この仮面を叩き割れたら教えてやるよという合図である。
「そうか、ならば!」
マルスは構えを取ると魔力を練り始める、1年前の死闘を思い出しながら何処か楽し気に。
この立場に収まってから稽古として戦士を相手したりはしたが、どれも燃えなかった。
あの男には遠く及ばない、七色の瞳に赤い髪、自分が負わせた消えない鼻の傷。
そして目の前の仮面は-一言も発さぬ仮面の動きはその男と限りなく似ていた。
いや同じだ!足の踏み込み方も腕の振り方も。
「意地でも口をきかぬか!ならばっ……」
マルスは「あの男だ」という確信を抱きながら、片足を折り曲げ。
バネを戻すように一気に伸ばし、蹴りを叩きつける!
人間をはるかに超える脚力に仮面がひび割れ、砕ける。
「やはり、貴様か……」
マルスは自分でも説明しがたい気持ちになっていた。
また邪魔しに来たという苛立ち、騙されていたという怒り、そして。
-男の仮面が砕ける、そこから現れたのは。
特徴的な顔の傷、虹色の瞳。燃えるような赤い髪。
「ガイウス・アルドレッド……ッ!!」
叩き割られた仮面が更にヒビ割れ。
仮面-もといガイウスは鬱陶しそうにそれを破り捨てる。
「相変わらず人の顔を覚えねぇな」
「来るとは思っていた、シェンタオで再会した時からな。しかし何故騙す様な真似などした?」
「俺の目は少し目立ちすぎる」
言葉短かに告げ、ガイウスは「演舞」でなくここからは殺し合いだというように。
竹刀を捨て、腰のダリルベルデを引き抜く。
そして、彼は1年前もマルスと対峙した際に行った構えを取った。
「来い、マルス」
1年前の死闘が今-再び幕を開ける。
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舞台での演舞-いや炎舞はさらに激しくなり、民は食い入るように見つめる。
「マルス様があんな顔をするのは初めてではないか!?」
「一体あの男は…」
「はいはいはい民ども!ルッツちゃん達が
教えてあげるから刮目しなさいよー!」
民たちがざわめく中、ルッツはマイクを手にして真実を告げていく。
マルスの正体は五魔将であること-皇を唆し。
アルキード王国に言い掛かりをつけ滅ぼさせようとしていること、
そのためにフーロン皇国の民を人質にしようとしていること。
これらを話す間も戦いは続いている、ネプトゥヌスはその間も。
2人の戦いに水を差さぬようあくまで中立に、真剣な面差しのまま審判を務めていたが……。
「ッ……いけません!」
泡の結界に綻びが生じたのに顔が一気に険しくなる。マルスは加減と言うものをまるで知らない。
このまま結界の綻びが大きくなれば炎が会場を包み込み大惨事だ。
2人の戦いに水を差すつもりはなかった。
というかガイウスは勇者としても、個人としても大嫌いであるが。
「およしなさい!マルス!!」
ガイウスの目の前にとっさに水の壁を張り、炎を防いだ。
「む」
「……ふぅ」
「ネプトゥヌス、何をした?裏切るのか!?同じ五魔将に在りながら!!」
マルスの矛先はネプトゥヌスへ。
しかし彼女は怯むどころか逆に睨み返し、そして言い放つ。
「勘違いしないでくださる?わたくしはただ民を守るだけですわ」
「なにぃ?」
「わたくしはわたくしの生活があるのです、それにあの向こうの人間。お得意様ですのよ?」
親指で指し示す先には皇宮の役人や貴族、 そして宰相といった富裕層が集まっている。
マルスが皇の側近としてアルキード侵攻計画を練る。
すぐ隣でネプトゥヌスは一介のクリーニング屋として暮らしていた。
それが二人に埋め難き溝を作り、それぞれの生き方を生んでいたのだ。
「そんな打算で動くだと!? 貴様は五魔将失格だ!恥を知れェ!!」
「なんとでもおっしゃい」
-ネプトゥヌスはマルスのことが大嫌いだ、しかし。
彼女は五魔将の中で誰よりも民のことを考えていた。
アルキード王国が滅んだらフーロンはどうなる?
そして何より、自分の生活はどうなるのか?と常に考えていた。
だがあくまで自分は審判-ガイウスの味方になったわけではないのだ。
庇う様にガイウスの前に立つネプトゥヌスは、横目だけで彼を見やると。
「ガイウス、わたくし結界の保持くらいしか致しませんからね」
「知ってるよ。ありがとな、ネプ」
「ッ……!!」
その一言で、彼女は。
-この大嫌いだった男を見直してしまった。
そして同時に、彼のことをもっと知りたいとも思ってしまった。
マルスは怒りに震えるが、しかしすぐに冷静さを取り戻した。
彼はアルキード王国の滅亡を何よりも願っているのだから。
「この裏切り者が……!まぁよいわ、ネプトゥヌス!ガイウスを討ったら次は貴様の番だ」
「ハッ!俺を打ち負かす前提か。大した自信だな」
「貴様は強い、だが私には及ばん。
マルス・フローガは魔王の右腕として-そして勇者に復讐する男として。今ここで!貴様を討つ!!」
マルスは構えると魔力を練り始める。
-この演舞は1年前と似ているようで全く違うものになっていた。
「うおお!」
「すごいぞマルス様!」
「いけー!」
舞台ではマルスとガイウスが剣を交える、 ガイウスはダリルベルデを。
マルスは漢剣を、異国同士の剣技がぶつかり合う。
「はあっ!」
「うおお!!」
2人の戦いに民たちは熱狂する、そしてそれはネプトゥヌスも同じだった。
彼女はどこか楽しそうに2人の演舞を見守っている。
「マルス、楽しいのか?」
「お前もな」
マルスはガイウスの顔を見て軽く驚いた。
この男はこんな風に笑えるのか、と。
1年前のガイウスの笑顔は何処か仮面のようだった、良くも悪くも勇者らしい作り物の笑顔。
だが今の彼は狩りを楽しむ獣のような、獰猛でいて純粋な笑顔をしている。
「いい顔になったな」
「ハッ!お前に褒められても嬉しくねぇな!」
「それは残念」
2人の戦いは更に激しさを増していく。
しかし楽しい時間は永遠には続かない、マルスは眉を寄せ核に触れる。
「チッ……」
「マルス!」
「残念だ。これ以上は遊んでいられん……本気で行かせて貰う!!」
マルスが漢剣を放り構えを変える。
本気を出した合図だ、彼は鬼-如何なる武器より、己が肉体が勝る鬼神。
そしてマルスの足元からは赤い火花が散る。
「マルス!結界が壊れたらどうしますの!死人が出ますわよ」
「構わん」
「構わんですって……」
「私は暦に名さえ刻めればよい!魔王復活など大義名分よ!!」
追い詰められいよいよ、マルスの冷静な顔に隠された「本性」が剥き出しになった。
歴史に名さえ刻めれば名声でも悪声でも何でもよい。
フーロンを潰した「勇者殺しの」という汚名さえ甘んじて受ける。
それほどまでに彼は焦慮にかられていたのだ。
(マルスは……俺だ)
ガイウスは深呼吸し正眼の構えを取る。
容姿が似ているというわけではない、だがガイウスは過去の自分をマルスに重ねていた。
(魔族は死ねとしか言えなかった頃の俺に、こいつは似ている)
「皇様。演舞も大詰めにございます!我が最大の奥義にて締めとさせて頂きましょう」
「うむ!許す!」
マルスはその場で舞を踊るように回りだし、彼を中心に火炎が渦を巻き始めた。
そして彼は両手を広げて天を仰ぐと、高らかに叫んだ。
「我が奥義にて焼き尽くしてくれるわァアアアッ!!!!」
「ネプ、あれ食らったらどうなる?」
「死にますわね間違いなく。四の五の言ってる場合ではありません、わたくしの後ろに隠れなさい」
「大丈夫なのかよ!?」
「フン、蒼水将軍を甘く見ないでくださいまし!!」
そう言うとネプトゥヌスは自分の体を水の膜で覆い、さらに防御壁を展開した。
その様子を見ていたマルスは勝利を確信する。
もはや炎の竜巻と化したそれは二人を飲み込んでいった。
泡の結界越しにも感じる熱波、赤く輝く舞台、水と炎が衝突したときの黒煙と共に。
「……まずい!炎が…水蒸気爆発が起きるよっ!」
「キズや……ガイウスーっ!!!!」
思わずルッツがいつものあだ名で呼ぶのを忘れ、身を乗り出した直後。
その頭はバルトロメオによって強制的に伏せられ。
舞台に凄まじい爆発音と、衝撃波が響き渡った。
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