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クーデターの足音
完璧なものほど
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「……おい、ロト王子の様子がどうにもおかしいぞ」
静寂を裂くのは、警備詰所で交わされるひそひそ声。
眉間に深いしわを寄せる騎士団長、不安げに目配せする若手侍従。
奥では宰相が書類越しに目を細める。
「ここ数日、あの方は“完璧な婚約者”だったのだ。なぜ今さら……?」
すぐに決まる。
「……一度、離宮に隔離なさるのが宜しいかと。
婚礼直前、不安定な要素は排除するのが“家門の常識”です」
王宮の医官も呼ばれるが、誰も「原因」を断言できない。
隔絶された空間。
窓の外は深夜の庭園。静かながら、どこか“異界”の香りを孕む。
カリストは何もない机の上に座り、ゆっくりと手元に目を落としたまま。
思い起こすのは、螺旋城の中枢で過ごした日々。
「ロト王子」は、まさに理想の王配として振舞ってきた。
笑顔も、所作も、会話も、全てが“王家に求められる美”の完璧な模倣だった。
だが今、その仮面にひびが入り、本人も理由が分からないまま。
「自分が自分である」という感覚が足元から崩れていく。
サロメ姫が訪れる。
白磁のような指先で、カリストの頬をそっと撫でる。
「ほんの数日前まで……婚約者かくあるべし、というほど理想形でしたのに」
「何がありましたの?旦那様」
その声は冷たくも、かすかな情が混ざる。
だが“理想”を裏切られた苛立ちも確かに滲んでいた。
カリストは言葉に詰まる。
「タンスからユピテルが出てきて、自分のアイデンティティがバグった」などと説明できるはずがない。
むしろそれを言えば、「とうとう正気を失ったか」と一層距離を取るだろう。
そのため、全てを飲み込み、ただ「微笑」の仮面を貼りつける。
「……申し訳ありません、サロメ様」
「少し、疲れが出ただけです……」
彼の声は、確かに“ロト王子”のものだった。
だが、その奥底では――。
(このまま私は、“役”を演じきるべきなのか?
それとも、もう一度“自分”に還れるのか……)
自問は、誰にも届かない。
隔離された離宮で、王子の心はさらに深く孤立する。
家族も、婚約者も、誰も“本当の異変”には気づかない。
誰にも「異常の理由」を話せず、ただ「演じる」ことで繕うしかない。
だが、仮面が壊れかけているのを誰よりもカリスト自身が分かっていた。
――私は、誰だ?
その問いは、日に日に重みを増していく。
---
螺旋城外壁――雨すら似合わぬ高所。
人間どころか鳥さえも避けて飛ぶ場所に、“黒髪の若社長”が佇んでいた。
彼――アンラ・マンユは、この国の終わりを高みから眺める、まさしく“舞台の脚本家”そのもの。
深く冷たい空気の中、スーツのポケットに手を突っ込んだままアンラは微笑む。
「いよいよ……この国が“滅ぶ”まで。あと二週間か」
目元はどこまでも愉快そうに歪んでいる。
芝居の本番を前にした興奮、そしてその結末が誰の絶望に染まるか?
「愚かしき生者の足掻き」を最上のエンタメとしか思っていない視線。
「フフ、楽しみだね……イレギュラーは舞台を最高に面白くしてくれる」
手のひらには“ロト王子”のパペット。
その糸を指先で遊ぶように軽く揺らす。
しばらく戯れた後、アンラはパペットの背中のファスナーを器用に裏返す。
現れるのは“白い副官”――カリストの姿。
「この国の美も、秩序も、愛も、ぜんぶ茶番に過ぎない」
「君という傀儡が、いつ本物になるか……私はそれすら楽しみにしているよ」
人形が、風にふわふわと踊る。
アンラは片手でそれを揺らしながら、遠くの街明かりを見下ろす。
「この先はコンティニュー不可だ、気をつけたまえよ、下等生物諸君」
エール半分、蔑み半分。
“世界の創造主”の余裕、だがその裏に潜むのは。
「どこまでも人間という存在に魅せられてやまない、最悪の観客」の欲望だった。
黒いスーツの男が、リバーシブルパペットを揺らす。
悪意の塊のような笑みを浮かべて。
「踊れ。誰もが主役の舞台で。
最後に泣くのが誰でも、私はそれを愛してやる」
螺旋城の外壁にて。
“神”はただ観ている。
この国が――どのように滅ぶのかを。
------
まだ薄暗いエンヴィニア市街。
クロノチームの面々が図書館帰りの足取りで通路を抜けると。
夜明けの冷気の中、ひときわ存在感のあるスーツ姿――アンラ・マンユが佇んでいた。
手のひらには、例の“パペットロト”。
夜風にふわふわと踊らせて、神も悪魔も、現代ギャルも。
すべてを等しく“観客”として見下ろす目線で。
ウラヌスが一歩前に出て、目を輝かせて突っ込む。
「ちょちょちょ!前は勇者ちゃん(ガイウス)人形じゃなかった!?どこで買ったの!欲しいんだけど」
クロノチームで一番“人形好き”なだけはある本気の食いつき。
アンラはまったく動じず、にこやかに答える。
「ん?私は創造の化身だよ?人形のひとつ作り上げるくらい、造作もないよ」
さらっと手作り宣言。パペットを器用に指で回しながら。
サタヌスは叫ぶ。
「クォリティたけええっ!!売れるぞアンラ!メーカーに売り込めよ!!」
アンラは目を細めて、めっちゃまんざらでもない顔で返す。
「えぇ~?どうしようかなぁ……今の時代なら量産も簡単そうだし?」
パペットの手をぴこぴこ振って悪ノリしつつ、内心「ビジネス化」を想像する社長の顔。
ユピテルは肩をすくめて皮肉る。
「邪神を褒めるな末っ子ども……調子に乗るから」
だが口調とは裏腹に、興味津々でパペットの縫い目を観察している。
アンラはウラヌスの“ガチ勢”な目線に気づき、君もどうだいと誘う。
「ほら、お前たちの分も“夢のような主役パペット”を作ってあげようか?」
「君たち一人一人が舞台の主役さ」
声には毒と愛が絶妙に混ざっている。
レイスがニヒルに煙草をくゆらせて、「社長、悪ノリしすぎっスよ」と笑う。
アンラは肩を竦めて返す。
「だってこの国も、君たちも、全部“私の舞台”でしかないからね」
「主役の仮面が欲しければ、いくらでも作ってあげるよ」
「本気で売ったら流行るぞコレ、マジで」
「推し活グッズに革命きた!」
「“神グッズ”だねぇ、私は割と本気で考えてもいいな……」
完全に悪ノリ大喜利状態。
ユピテルは最後に毒気を抜きつつまとめる。
「おい、末っ子ども、絶対邪神に自分のぬいぐるみ発注すんなよ。
人生で一番後悔するグッズ化になるぞ」
社長はパペットを掲げて、問題ないと笑いかける。
「それでもいい。最後に泣いても笑っても、全部エンターテインメント」
神も悪魔も、観客も演者も、全員まとめて“舞台の上”に立たされる。
その金色の瞳は、“滅び”も“再生”もまとめて嗤い、楽しんでいた。
アンラはふっと微笑んで、クロノチームの面々を一人ずつ見渡す。
「ところで君達、エンヴィニアに転移して何日目かきちんと数えているよね?」
サタヌスが半笑いで答えかけるも、ユピテルがさっと会話を奪う。
「もちろん、消し飛ぶまで2週間切ったンだろ? お前が楽しみにしてるのも知ってるさ。」
アンラはパペットを指でくるくる回し、正解だと頷く。
「私は本当に楽しみなんだよ。君たちがどんな手で“クーデター”を起こすか?
どこまであの王族を揺さぶれるか……」
言葉を一度区切ると、目の前で“ロト王子”パペットのファスナーを指先で裏返し。
くるっと、カリストver.へ変形。
「そして“このこ”を取り返せるか」
社長スマイル、その裏にひそむ不気味な期待と観察者の色。
ウラヌスはテンションMAX。
「マジでクォリティやべええええ!!言い値で買うからちょうだい!!」
両手を合わせてグッズ勢ムーブ全開。
「これ?ふふ、主役級の人形は希少価値が高いんだ。安売りはしないよ?」
「邪神の営業トークだコレ……」
「やべぇ、販促イベントまで計算されてる」
ユピテルはわざとらしく溜息をつく。
「お前の手のひらで踊らされてる気がしてならねェんだが……」
「踊ってくれなきゃ舞台が始まらないだろう?」
クロノチームも“観客”も“神”の掌の上。
それでも「奪われた主役」を取り戻す闘いは、すでに始まっている。
アンラは、夜明けの螺旋城を背に、クロノチームをゆっくりと見回して。
最後に“くるっ”とパペットのカリストに手を振らせた。
「それにね、私に限った話ではないよ」
「“面白い”話はすべからくウケる。
クーデター実行日まで思う存分、生みの苦しみってやつを味わうといい」
レイスは思わず肩をすくめる。私に限った話ではないとかどういうことか?と。
「妙に規模がデカいな……すべからくって、なんのことだ?」
だがアンラは、もう言葉で答えない。
“カリスト”パペットの指先をひらひらと動かして。
一陣の夜風に紛れるように、影のように消えていく。
その背中には、“個”という枠に収まらない何か――。
“この世界全体”が微笑んでいるような、異質な気配がほんの一瞬だけ残った。
---
ユピテルは渋い顔でぼやく。
「おいサータ。帰ったあと、土産屋にあのパペット置かれてたらお前のせいだぞ」
「俺は悪くねぇ!!流行らせるのは“無意識の力”だって!」
「推しを手元に置きたいのは、もはや無意識レベルの欲望だろ♪」
エンヴィニア市街に消えた“神の観客”――あれは単なる黒幕ではない。
名も、形もなく“面白い”という本能と欲望だけで動く、世界そのものの“集合的無意識”。
どの物語も、どの主役も、いつだって「見たい」と願われた瞬間。
誰かの無意識が背中を押している。
クロノチームはまだそれに気づかない。
けれど、“主役を取り戻す戦い”の裏には。
もう一人の“観客”=「世界の欲望」そのものが潜んでいるのだ。
物語は、観る者と語る者の無意識の手で。
ますます「誰のものでもない舞台」へと加速していく。
静寂を裂くのは、警備詰所で交わされるひそひそ声。
眉間に深いしわを寄せる騎士団長、不安げに目配せする若手侍従。
奥では宰相が書類越しに目を細める。
「ここ数日、あの方は“完璧な婚約者”だったのだ。なぜ今さら……?」
すぐに決まる。
「……一度、離宮に隔離なさるのが宜しいかと。
婚礼直前、不安定な要素は排除するのが“家門の常識”です」
王宮の医官も呼ばれるが、誰も「原因」を断言できない。
隔絶された空間。
窓の外は深夜の庭園。静かながら、どこか“異界”の香りを孕む。
カリストは何もない机の上に座り、ゆっくりと手元に目を落としたまま。
思い起こすのは、螺旋城の中枢で過ごした日々。
「ロト王子」は、まさに理想の王配として振舞ってきた。
笑顔も、所作も、会話も、全てが“王家に求められる美”の完璧な模倣だった。
だが今、その仮面にひびが入り、本人も理由が分からないまま。
「自分が自分である」という感覚が足元から崩れていく。
サロメ姫が訪れる。
白磁のような指先で、カリストの頬をそっと撫でる。
「ほんの数日前まで……婚約者かくあるべし、というほど理想形でしたのに」
「何がありましたの?旦那様」
その声は冷たくも、かすかな情が混ざる。
だが“理想”を裏切られた苛立ちも確かに滲んでいた。
カリストは言葉に詰まる。
「タンスからユピテルが出てきて、自分のアイデンティティがバグった」などと説明できるはずがない。
むしろそれを言えば、「とうとう正気を失ったか」と一層距離を取るだろう。
そのため、全てを飲み込み、ただ「微笑」の仮面を貼りつける。
「……申し訳ありません、サロメ様」
「少し、疲れが出ただけです……」
彼の声は、確かに“ロト王子”のものだった。
だが、その奥底では――。
(このまま私は、“役”を演じきるべきなのか?
それとも、もう一度“自分”に還れるのか……)
自問は、誰にも届かない。
隔離された離宮で、王子の心はさらに深く孤立する。
家族も、婚約者も、誰も“本当の異変”には気づかない。
誰にも「異常の理由」を話せず、ただ「演じる」ことで繕うしかない。
だが、仮面が壊れかけているのを誰よりもカリスト自身が分かっていた。
――私は、誰だ?
その問いは、日に日に重みを増していく。
---
螺旋城外壁――雨すら似合わぬ高所。
人間どころか鳥さえも避けて飛ぶ場所に、“黒髪の若社長”が佇んでいた。
彼――アンラ・マンユは、この国の終わりを高みから眺める、まさしく“舞台の脚本家”そのもの。
深く冷たい空気の中、スーツのポケットに手を突っ込んだままアンラは微笑む。
「いよいよ……この国が“滅ぶ”まで。あと二週間か」
目元はどこまでも愉快そうに歪んでいる。
芝居の本番を前にした興奮、そしてその結末が誰の絶望に染まるか?
「愚かしき生者の足掻き」を最上のエンタメとしか思っていない視線。
「フフ、楽しみだね……イレギュラーは舞台を最高に面白くしてくれる」
手のひらには“ロト王子”のパペット。
その糸を指先で遊ぶように軽く揺らす。
しばらく戯れた後、アンラはパペットの背中のファスナーを器用に裏返す。
現れるのは“白い副官”――カリストの姿。
「この国の美も、秩序も、愛も、ぜんぶ茶番に過ぎない」
「君という傀儡が、いつ本物になるか……私はそれすら楽しみにしているよ」
人形が、風にふわふわと踊る。
アンラは片手でそれを揺らしながら、遠くの街明かりを見下ろす。
「この先はコンティニュー不可だ、気をつけたまえよ、下等生物諸君」
エール半分、蔑み半分。
“世界の創造主”の余裕、だがその裏に潜むのは。
「どこまでも人間という存在に魅せられてやまない、最悪の観客」の欲望だった。
黒いスーツの男が、リバーシブルパペットを揺らす。
悪意の塊のような笑みを浮かべて。
「踊れ。誰もが主役の舞台で。
最後に泣くのが誰でも、私はそれを愛してやる」
螺旋城の外壁にて。
“神”はただ観ている。
この国が――どのように滅ぶのかを。
------
まだ薄暗いエンヴィニア市街。
クロノチームの面々が図書館帰りの足取りで通路を抜けると。
夜明けの冷気の中、ひときわ存在感のあるスーツ姿――アンラ・マンユが佇んでいた。
手のひらには、例の“パペットロト”。
夜風にふわふわと踊らせて、神も悪魔も、現代ギャルも。
すべてを等しく“観客”として見下ろす目線で。
ウラヌスが一歩前に出て、目を輝かせて突っ込む。
「ちょちょちょ!前は勇者ちゃん(ガイウス)人形じゃなかった!?どこで買ったの!欲しいんだけど」
クロノチームで一番“人形好き”なだけはある本気の食いつき。
アンラはまったく動じず、にこやかに答える。
「ん?私は創造の化身だよ?人形のひとつ作り上げるくらい、造作もないよ」
さらっと手作り宣言。パペットを器用に指で回しながら。
サタヌスは叫ぶ。
「クォリティたけええっ!!売れるぞアンラ!メーカーに売り込めよ!!」
アンラは目を細めて、めっちゃまんざらでもない顔で返す。
「えぇ~?どうしようかなぁ……今の時代なら量産も簡単そうだし?」
パペットの手をぴこぴこ振って悪ノリしつつ、内心「ビジネス化」を想像する社長の顔。
ユピテルは肩をすくめて皮肉る。
「邪神を褒めるな末っ子ども……調子に乗るから」
だが口調とは裏腹に、興味津々でパペットの縫い目を観察している。
アンラはウラヌスの“ガチ勢”な目線に気づき、君もどうだいと誘う。
「ほら、お前たちの分も“夢のような主役パペット”を作ってあげようか?」
「君たち一人一人が舞台の主役さ」
声には毒と愛が絶妙に混ざっている。
レイスがニヒルに煙草をくゆらせて、「社長、悪ノリしすぎっスよ」と笑う。
アンラは肩を竦めて返す。
「だってこの国も、君たちも、全部“私の舞台”でしかないからね」
「主役の仮面が欲しければ、いくらでも作ってあげるよ」
「本気で売ったら流行るぞコレ、マジで」
「推し活グッズに革命きた!」
「“神グッズ”だねぇ、私は割と本気で考えてもいいな……」
完全に悪ノリ大喜利状態。
ユピテルは最後に毒気を抜きつつまとめる。
「おい、末っ子ども、絶対邪神に自分のぬいぐるみ発注すんなよ。
人生で一番後悔するグッズ化になるぞ」
社長はパペットを掲げて、問題ないと笑いかける。
「それでもいい。最後に泣いても笑っても、全部エンターテインメント」
神も悪魔も、観客も演者も、全員まとめて“舞台の上”に立たされる。
その金色の瞳は、“滅び”も“再生”もまとめて嗤い、楽しんでいた。
アンラはふっと微笑んで、クロノチームの面々を一人ずつ見渡す。
「ところで君達、エンヴィニアに転移して何日目かきちんと数えているよね?」
サタヌスが半笑いで答えかけるも、ユピテルがさっと会話を奪う。
「もちろん、消し飛ぶまで2週間切ったンだろ? お前が楽しみにしてるのも知ってるさ。」
アンラはパペットを指でくるくる回し、正解だと頷く。
「私は本当に楽しみなんだよ。君たちがどんな手で“クーデター”を起こすか?
どこまであの王族を揺さぶれるか……」
言葉を一度区切ると、目の前で“ロト王子”パペットのファスナーを指先で裏返し。
くるっと、カリストver.へ変形。
「そして“このこ”を取り返せるか」
社長スマイル、その裏にひそむ不気味な期待と観察者の色。
ウラヌスはテンションMAX。
「マジでクォリティやべええええ!!言い値で買うからちょうだい!!」
両手を合わせてグッズ勢ムーブ全開。
「これ?ふふ、主役級の人形は希少価値が高いんだ。安売りはしないよ?」
「邪神の営業トークだコレ……」
「やべぇ、販促イベントまで計算されてる」
ユピテルはわざとらしく溜息をつく。
「お前の手のひらで踊らされてる気がしてならねェんだが……」
「踊ってくれなきゃ舞台が始まらないだろう?」
クロノチームも“観客”も“神”の掌の上。
それでも「奪われた主役」を取り戻す闘いは、すでに始まっている。
アンラは、夜明けの螺旋城を背に、クロノチームをゆっくりと見回して。
最後に“くるっ”とパペットのカリストに手を振らせた。
「それにね、私に限った話ではないよ」
「“面白い”話はすべからくウケる。
クーデター実行日まで思う存分、生みの苦しみってやつを味わうといい」
レイスは思わず肩をすくめる。私に限った話ではないとかどういうことか?と。
「妙に規模がデカいな……すべからくって、なんのことだ?」
だがアンラは、もう言葉で答えない。
“カリスト”パペットの指先をひらひらと動かして。
一陣の夜風に紛れるように、影のように消えていく。
その背中には、“個”という枠に収まらない何か――。
“この世界全体”が微笑んでいるような、異質な気配がほんの一瞬だけ残った。
---
ユピテルは渋い顔でぼやく。
「おいサータ。帰ったあと、土産屋にあのパペット置かれてたらお前のせいだぞ」
「俺は悪くねぇ!!流行らせるのは“無意識の力”だって!」
「推しを手元に置きたいのは、もはや無意識レベルの欲望だろ♪」
エンヴィニア市街に消えた“神の観客”――あれは単なる黒幕ではない。
名も、形もなく“面白い”という本能と欲望だけで動く、世界そのものの“集合的無意識”。
どの物語も、どの主役も、いつだって「見たい」と願われた瞬間。
誰かの無意識が背中を押している。
クロノチームはまだそれに気づかない。
けれど、“主役を取り戻す戦い”の裏には。
もう一人の“観客”=「世界の欲望」そのものが潜んでいるのだ。
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