85 / 130
我ら全て、舞台にあれ
終わらぬ舞台と喝采
しおりを挟む
――民衆は、もはや観劇者ではなかった。
舞台は潰され、アルヴ座が鎖に繋がれ連行されていく中で。
広場の真ん中、拍手はいつまでも鳴り止まない。
「インヴィーデ……」
最初は一人の呟きだった。
躊躇いがちに、けれどどこか誇り高く、誰かがその言葉を口にする。
《インヴィーデ》。
嫉妬を称え、反逆者に喝采を送る、かつてエンヴィニアで“禁じられた美”の賛歌。
誰かが、意を決したように高く手を掲げる。
「インヴィーデ!アルヴ!」
それが合図となり、広場中に歓声が広がっていく。
投げられる黒薔薇のブーケ。
その花束は――宙を舞い、鎖に繋がれたリースの背中へと静かに当たる。
大臣たちの叫び声が、式場の空気を切り裂く。
「あの劇団は粛清対象です!!国家侮辱罪、外患誘致、即刻処刑を!!」
叫べば叫ぶほど、滑稽にさえ見えた。
なぜなら、群衆の目は“連行されていくアルヴ座とクロノチーム”の背中を追い続けている。
誰も、神竜塔の新しい婚礼に関心など持たない。
祝福も嫉妬も、いまこの時、すべて“芝居”の側に吸い寄せられていた。
ユピテルが歩きながら、口笛を吹き。
「じゃーな雑魚ども♪」
軽やかな手つきで観客席だけに手を振る。
爆発音すら“舞台のBGM”のように響いて、その金色の目は観客だけを見つめていた。
レイスは片手を顔の横に持っていき、「あかんべー」。
舌は出さない。だが目の下を引っ張る、煽りのモーション。
拘束の鎖がきしむたび、その“ギリギリ”まで挑発的な所作を見せる。
彼らの皮肉と美学は、すべて舞台の延長線だった。
サタヌスは爽やかに、ピースサインからの中指という“芸”を披露し。
「“処刑台の主役”にしてくれてありがとな~!ア・リ・ガ・トッ♡」
大声で叫んだ。
広場の少年たちがその仕草を真似し、親たちが慌てて止めに入るが。
皆なぜか笑っている。
ウラヌスは両手を振って、まるでライブのMC。
「はーい♡またお会いしましょーねー♡」
「エンヴィニア最高ぉおお!洗脳サイコーッ!ウラちゃんは自由だぜ~!!」
騎士に殴られても、「痛~い♡愛のビンタ?♡」と返し。
その場を“お祭り”に変えてしまうエネルギーを振りまいた。
ヒステリックな大臣が叫べば叫ぶほど観客は拍手し、笑い。
誰もが心から“芝居の側”に引き寄せられていく。
リースは静かに微笑みながら。
「さぁ、次は——君たちの番だ。観客席の、その心で続きを演じなさい」
そう残し、鎖を引かれて歩み去る。
拍手と喝采が止まらない。
若者が笛を吹き、老人は涙を拭う。
道化のマネをする子どもたち、その笑い声。
「——これは、エンヴィニアの真実だったのかもな」
誰かが、そう呟いた。
群衆は、もはや観客ではなかった。
みんな、“物語”を生きていた。
偽りの結婚式は崩壊した。
舞台も現実も、新しい歴史の始まりを、いま誰もが感じていた。
フィーナは微笑みながらリースにささやく。
「聞いた?リース……十年ぶりね、“インヴィーデ”と言われるのは」
リースは目を細め、鎖の先でゆっくりとうなずく。
「ああ。いかなる美酒も、観客の“インヴィーデ”には勝らぬ」
ウラヌスは拘束されながらもニカッと笑う。
「ちょwww今から処刑されるのに勝ち逃げ感パないんですけどー!」
その熱狂の渦の外――大臣たちは、顔を青くして混乱し続ける。
「な、何故……なぜ……民どもはあんな……狂った道化に……!!」
「あれは……劇などではない、“反逆”ですぞ!? それなのに……なぜ喝采が……!?」
サロメは、唇を噛み締めて動けない。
(……これは……演出ではない。“呪い”だ……
アルヴ=シェリウス……お前の亡霊が、まだこの国を蝕んでいるというの……?)
舞台と現実が溶け合うその瞬間、民衆はすでに“観客”ではなくなっていた。
新しい物語の、最初の演者だった。
大聖堂のざわめきの中、カフェ・ティニのマスターと。
カイネス・ヴィアン博士も“クーデター加担者”として引き立てられる。
処刑を命じる大臣たちの声が、冷えた空気にヒステリックに響いた。
だが、その場の空気を一変させたのは、宰相の言葉だった。
「即刻首を刎ねよ!……と言いたいが!
お前ほどの叡智を失うのはエンヴィニアにとって痛手が大きすぎる」
「カイネス・ヴィアン!貴様の博士号を剥奪、及び全財産の没収を命じる!」
誰もが博士の顔色を窺った。
だがカイネス博士は、首を傾げることもなく、皿のローストビーフを静かに口に運んだ。
「成る程、明日から無職か。私は」
「これで心置きなく実験出来るな」
その表情には、痛みも屈辱もない。
むしろどこか、吹っ切れたような“愉快”さすら滲んでいた。
拍子抜けした衛兵が刀を下ろし、マスターは淡々と広場の隅に座る。
誰にも、誰の命令にも、縛られない。
もはや“自由人”と化した科学者は、その瞳で新しい世界の“混沌”をただ眺めていた。
群衆の熱狂と、王族の焦り。
誰かの処刑宣告さえ、舞台のように流れていく。
革命と日常が重なり合うエンヴィニアの朝。
新しい“自由”は、すでに始まっていた。
処刑台の階段は、誰も歩きたがらない“舞台袖”のように重く、冷たい。
だがティニのマスターは、静かな微笑みを浮かべたまま、その一段一段を踏みしめていく。
空は淡い灰色、まるで嫉妬界そのものの虚無。
見送る民の多くは沈黙していたが、マスターの歩みにはどこか演者の余韻が残る。
「悔いはありません」
声に揺らぎはない。
「……この素晴らしい舞台に関われたことに、心より感謝いたします」
「インヴィーデ、アルヴ……そしてクロノ」
その呪文のような言葉は、もはや演劇の一部。
処刑される者とは思えぬほど静謐で、美しい最期の演出だった。
その姿を遠巻きに眺める宰相の顔には、強い嫌悪と焦りが浮かぶ。
「……気味が悪い。早く処刑しろ!」
「観衆が妙な影響を受ける前にな!」
マスターは最後まで舞台を降りず、カイネスは最後まで“観察者”のまま。
舞台の裏で死ぬ者と、生きてなお“観察”し続ける者。
美しきエンヴィニア帝国の終焉を、彼らはそれぞれの“美学”で見届けることになる。
最期に誰かが呟いた。
「……本当に、芝居みたいな国だな」
処刑台の上で、マスターは一度だけ振り返り頭を下げる。
その眼差しは、まるで劇場の観客席すべてに向けた“カーテンコール”のようだった。
静かに、時代が終わる。
だが、“演劇”の魂だけは、この嫉妬界で消えることはなかった。
------
神竜塔--そこは螺旋城で最も尊く、最も高き塔。
新王が蜜月を過ごすための空間であり、大罪人を裁く処刑の地。
冷たい石壁と、鎖の音。
地上ではまだ喝采が残響しているのに、ここにはただ“静けさ”だけが支配していた。
リースは、ほんの短い沈黙の後、静かに目を伏せる。
「……やはり、か」
「けれど、悔いはない。舞台は……演じられた。それで十分だ」
その言葉には、不思議な安らぎすら漂っていた。
レイスは煙草の代わりに藁を噛みながら、わざとらしくため息をつく。
「無の泡ってなんなんだ?」
――その一言に、牢内の空気が一瞬だけ緩む。
すかさずタウロスが“解説役”に入る。
「カイネスって変な眼帯野郎がよ。禁呪兵器作ってた時にできた“副産物”だ」
「簡単に言やぁ……毒だよ。全部溶かす」
サタヌスは明るく笑ってみせる。
「あーあ……俺らゴジラか?」
両手で中指を作る準備をしつつ、地獄ジョークで和ませる。
ウラヌスは鎖を揺らしながら、テンションだけは地上最高。
「マジで災害級ってこと?じゃああたしたち、“芝居型天災”ってことになるね♡」
「“舞台は自然災害”って新ジャンル開拓じゃん!アルヴすげー!」
重苦しい牢の中、彼らの会話だけが命の炎を灯す。
もはや王家にとって最大級の脅威は。
台本を持たず、笑いながら滅びの縁を歩く“舞台人”なのかもしれない。
舞台が終わっても、魂が消えるわけじゃない。
誰かの心に火がついた限り、“演劇の泡”は消えない。
パイプの中をメロンソーダ色の“無の泡”が音もなく循環し始める。
地下牢の空気が、ぞくりと変わる。
リースは静かに目を伏せ、その声にもう一度だけ“亡霊の魂”が宿った。
「……やはり、我らの幕はここで閉じねばなるまい」
「だが、主役の退場はまだ早い——クロノチーム、行け」
その合図と同時に、ノックスが無言でポケットから小さな装置を取り出し、起動。
次の瞬間、牢獄の天井が大破壊演出さながらに爆散し、細長い光の道が現れる。
頭上に開いた“抜け道”から、冷たい風が吹き下ろした。
残されたアルヴ座は、逃げるクロノチームの背を見送りながら、最後の台詞を投げる。
フィーナは震える唇で微笑む。
「さぁ……始めましょう、“本物のラストシーン”を」
モールトが胸に手を当て、堂々と叫ぶ。
「最後の台詞は、私の中にある!誰よりも美しく幕を引いてみせよう!」
タウロスは壁に拳を叩きつけて「行けぇぇクロノチーム!!」
瓦礫の間から、希望の光だけが真っ直ぐに差し込んでいた。
クロノチームは緑色の泡に追われながら、天井へ駆け上がる。
「あぁ!? もうここ地獄じゃねーか!こういうの嫌いじゃねぇけど!」
「やっべえ!ハリウッド映画の脱出劇じゃん!!」
「んじゃ行くぞ、王子様奪還大作戦!爆発オチ不可避なヤツな!!」
その背中を、アルヴ座が全力で見送る。
「行って来い!」
「我ら全て、舞台にあれ!!!」
牢の奥にこだまする、その叫び。
泡の侵食が迫る地下牢、そのギリギリの狭間で、クロノチームだけが光へと飛び出していく。
地響き、爆煙、拍手――全てが開幕の鐘だった。
舞台は、神竜塔へ。
サロメのもとで“王族の夫”に縛られたカリストを、今度は“舞台の力”で奪い返す。
すべては、愛する者を取り戻すため。演者の命を賭けてでも。
この幕は、最後まで演じ切る!
舞台は潰され、アルヴ座が鎖に繋がれ連行されていく中で。
広場の真ん中、拍手はいつまでも鳴り止まない。
「インヴィーデ……」
最初は一人の呟きだった。
躊躇いがちに、けれどどこか誇り高く、誰かがその言葉を口にする。
《インヴィーデ》。
嫉妬を称え、反逆者に喝采を送る、かつてエンヴィニアで“禁じられた美”の賛歌。
誰かが、意を決したように高く手を掲げる。
「インヴィーデ!アルヴ!」
それが合図となり、広場中に歓声が広がっていく。
投げられる黒薔薇のブーケ。
その花束は――宙を舞い、鎖に繋がれたリースの背中へと静かに当たる。
大臣たちの叫び声が、式場の空気を切り裂く。
「あの劇団は粛清対象です!!国家侮辱罪、外患誘致、即刻処刑を!!」
叫べば叫ぶほど、滑稽にさえ見えた。
なぜなら、群衆の目は“連行されていくアルヴ座とクロノチーム”の背中を追い続けている。
誰も、神竜塔の新しい婚礼に関心など持たない。
祝福も嫉妬も、いまこの時、すべて“芝居”の側に吸い寄せられていた。
ユピテルが歩きながら、口笛を吹き。
「じゃーな雑魚ども♪」
軽やかな手つきで観客席だけに手を振る。
爆発音すら“舞台のBGM”のように響いて、その金色の目は観客だけを見つめていた。
レイスは片手を顔の横に持っていき、「あかんべー」。
舌は出さない。だが目の下を引っ張る、煽りのモーション。
拘束の鎖がきしむたび、その“ギリギリ”まで挑発的な所作を見せる。
彼らの皮肉と美学は、すべて舞台の延長線だった。
サタヌスは爽やかに、ピースサインからの中指という“芸”を披露し。
「“処刑台の主役”にしてくれてありがとな~!ア・リ・ガ・トッ♡」
大声で叫んだ。
広場の少年たちがその仕草を真似し、親たちが慌てて止めに入るが。
皆なぜか笑っている。
ウラヌスは両手を振って、まるでライブのMC。
「はーい♡またお会いしましょーねー♡」
「エンヴィニア最高ぉおお!洗脳サイコーッ!ウラちゃんは自由だぜ~!!」
騎士に殴られても、「痛~い♡愛のビンタ?♡」と返し。
その場を“お祭り”に変えてしまうエネルギーを振りまいた。
ヒステリックな大臣が叫べば叫ぶほど観客は拍手し、笑い。
誰もが心から“芝居の側”に引き寄せられていく。
リースは静かに微笑みながら。
「さぁ、次は——君たちの番だ。観客席の、その心で続きを演じなさい」
そう残し、鎖を引かれて歩み去る。
拍手と喝采が止まらない。
若者が笛を吹き、老人は涙を拭う。
道化のマネをする子どもたち、その笑い声。
「——これは、エンヴィニアの真実だったのかもな」
誰かが、そう呟いた。
群衆は、もはや観客ではなかった。
みんな、“物語”を生きていた。
偽りの結婚式は崩壊した。
舞台も現実も、新しい歴史の始まりを、いま誰もが感じていた。
フィーナは微笑みながらリースにささやく。
「聞いた?リース……十年ぶりね、“インヴィーデ”と言われるのは」
リースは目を細め、鎖の先でゆっくりとうなずく。
「ああ。いかなる美酒も、観客の“インヴィーデ”には勝らぬ」
ウラヌスは拘束されながらもニカッと笑う。
「ちょwww今から処刑されるのに勝ち逃げ感パないんですけどー!」
その熱狂の渦の外――大臣たちは、顔を青くして混乱し続ける。
「な、何故……なぜ……民どもはあんな……狂った道化に……!!」
「あれは……劇などではない、“反逆”ですぞ!? それなのに……なぜ喝采が……!?」
サロメは、唇を噛み締めて動けない。
(……これは……演出ではない。“呪い”だ……
アルヴ=シェリウス……お前の亡霊が、まだこの国を蝕んでいるというの……?)
舞台と現実が溶け合うその瞬間、民衆はすでに“観客”ではなくなっていた。
新しい物語の、最初の演者だった。
大聖堂のざわめきの中、カフェ・ティニのマスターと。
カイネス・ヴィアン博士も“クーデター加担者”として引き立てられる。
処刑を命じる大臣たちの声が、冷えた空気にヒステリックに響いた。
だが、その場の空気を一変させたのは、宰相の言葉だった。
「即刻首を刎ねよ!……と言いたいが!
お前ほどの叡智を失うのはエンヴィニアにとって痛手が大きすぎる」
「カイネス・ヴィアン!貴様の博士号を剥奪、及び全財産の没収を命じる!」
誰もが博士の顔色を窺った。
だがカイネス博士は、首を傾げることもなく、皿のローストビーフを静かに口に運んだ。
「成る程、明日から無職か。私は」
「これで心置きなく実験出来るな」
その表情には、痛みも屈辱もない。
むしろどこか、吹っ切れたような“愉快”さすら滲んでいた。
拍子抜けした衛兵が刀を下ろし、マスターは淡々と広場の隅に座る。
誰にも、誰の命令にも、縛られない。
もはや“自由人”と化した科学者は、その瞳で新しい世界の“混沌”をただ眺めていた。
群衆の熱狂と、王族の焦り。
誰かの処刑宣告さえ、舞台のように流れていく。
革命と日常が重なり合うエンヴィニアの朝。
新しい“自由”は、すでに始まっていた。
処刑台の階段は、誰も歩きたがらない“舞台袖”のように重く、冷たい。
だがティニのマスターは、静かな微笑みを浮かべたまま、その一段一段を踏みしめていく。
空は淡い灰色、まるで嫉妬界そのものの虚無。
見送る民の多くは沈黙していたが、マスターの歩みにはどこか演者の余韻が残る。
「悔いはありません」
声に揺らぎはない。
「……この素晴らしい舞台に関われたことに、心より感謝いたします」
「インヴィーデ、アルヴ……そしてクロノ」
その呪文のような言葉は、もはや演劇の一部。
処刑される者とは思えぬほど静謐で、美しい最期の演出だった。
その姿を遠巻きに眺める宰相の顔には、強い嫌悪と焦りが浮かぶ。
「……気味が悪い。早く処刑しろ!」
「観衆が妙な影響を受ける前にな!」
マスターは最後まで舞台を降りず、カイネスは最後まで“観察者”のまま。
舞台の裏で死ぬ者と、生きてなお“観察”し続ける者。
美しきエンヴィニア帝国の終焉を、彼らはそれぞれの“美学”で見届けることになる。
最期に誰かが呟いた。
「……本当に、芝居みたいな国だな」
処刑台の上で、マスターは一度だけ振り返り頭を下げる。
その眼差しは、まるで劇場の観客席すべてに向けた“カーテンコール”のようだった。
静かに、時代が終わる。
だが、“演劇”の魂だけは、この嫉妬界で消えることはなかった。
------
神竜塔--そこは螺旋城で最も尊く、最も高き塔。
新王が蜜月を過ごすための空間であり、大罪人を裁く処刑の地。
冷たい石壁と、鎖の音。
地上ではまだ喝采が残響しているのに、ここにはただ“静けさ”だけが支配していた。
リースは、ほんの短い沈黙の後、静かに目を伏せる。
「……やはり、か」
「けれど、悔いはない。舞台は……演じられた。それで十分だ」
その言葉には、不思議な安らぎすら漂っていた。
レイスは煙草の代わりに藁を噛みながら、わざとらしくため息をつく。
「無の泡ってなんなんだ?」
――その一言に、牢内の空気が一瞬だけ緩む。
すかさずタウロスが“解説役”に入る。
「カイネスって変な眼帯野郎がよ。禁呪兵器作ってた時にできた“副産物”だ」
「簡単に言やぁ……毒だよ。全部溶かす」
サタヌスは明るく笑ってみせる。
「あーあ……俺らゴジラか?」
両手で中指を作る準備をしつつ、地獄ジョークで和ませる。
ウラヌスは鎖を揺らしながら、テンションだけは地上最高。
「マジで災害級ってこと?じゃああたしたち、“芝居型天災”ってことになるね♡」
「“舞台は自然災害”って新ジャンル開拓じゃん!アルヴすげー!」
重苦しい牢の中、彼らの会話だけが命の炎を灯す。
もはや王家にとって最大級の脅威は。
台本を持たず、笑いながら滅びの縁を歩く“舞台人”なのかもしれない。
舞台が終わっても、魂が消えるわけじゃない。
誰かの心に火がついた限り、“演劇の泡”は消えない。
パイプの中をメロンソーダ色の“無の泡”が音もなく循環し始める。
地下牢の空気が、ぞくりと変わる。
リースは静かに目を伏せ、その声にもう一度だけ“亡霊の魂”が宿った。
「……やはり、我らの幕はここで閉じねばなるまい」
「だが、主役の退場はまだ早い——クロノチーム、行け」
その合図と同時に、ノックスが無言でポケットから小さな装置を取り出し、起動。
次の瞬間、牢獄の天井が大破壊演出さながらに爆散し、細長い光の道が現れる。
頭上に開いた“抜け道”から、冷たい風が吹き下ろした。
残されたアルヴ座は、逃げるクロノチームの背を見送りながら、最後の台詞を投げる。
フィーナは震える唇で微笑む。
「さぁ……始めましょう、“本物のラストシーン”を」
モールトが胸に手を当て、堂々と叫ぶ。
「最後の台詞は、私の中にある!誰よりも美しく幕を引いてみせよう!」
タウロスは壁に拳を叩きつけて「行けぇぇクロノチーム!!」
瓦礫の間から、希望の光だけが真っ直ぐに差し込んでいた。
クロノチームは緑色の泡に追われながら、天井へ駆け上がる。
「あぁ!? もうここ地獄じゃねーか!こういうの嫌いじゃねぇけど!」
「やっべえ!ハリウッド映画の脱出劇じゃん!!」
「んじゃ行くぞ、王子様奪還大作戦!爆発オチ不可避なヤツな!!」
その背中を、アルヴ座が全力で見送る。
「行って来い!」
「我ら全て、舞台にあれ!!!」
牢の奥にこだまする、その叫び。
泡の侵食が迫る地下牢、そのギリギリの狭間で、クロノチームだけが光へと飛び出していく。
地響き、爆煙、拍手――全てが開幕の鐘だった。
舞台は、神竜塔へ。
サロメのもとで“王族の夫”に縛られたカリストを、今度は“舞台の力”で奪い返す。
すべては、愛する者を取り戻すため。演者の命を賭けてでも。
この幕は、最後まで演じ切る!
1
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる