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1万と2000年
おかえり悪友たち
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古びた石畳の路地を抜けた先に、懐かしい扉があった。
扉を押し開けると、薬草と本の匂いが入り混じった空気がふわりと漂ってくる。
迎えてくれたのは、派手な外套を羽織ったアモンと、きっちりと礼をしたセエレだった。
「兄弟子、一ヶ月ぶりです~。また人間界に行ってたんですか?」
セエレは柔らかく笑みを浮かべ、まるで日常の続きのように声をかける。
アモンも肩をすくめながら、ちらりと背後の人影に視線をやった。
「後ろの四人……友達? 貴方が客を連れてくるなんて、珍しいじゃない」
レイスは一瞬、言葉を探した。
「友達、っていうか……うーん」
その時、ウラヌスが小さく片目をつむり、アイコンタクトで合図を送る。
“めんどくさいから悪友で通しとけ” と。そう言っていた。
レイスはため息をついて、頷いた。
「俺の悪友です。今から、集まって騒ぎたいんですけど」
「えー!? つまりパーティーってこと!」
アモンが大げさに声をあげ、ぱんっと手を叩く。
「セエレ、あんたオードブル買ってきなさい!」
「僕またパシられてる件!!」
セエレが抗議するように声を上げたが、すでに財布を掴み、靴をつっかけていた。
「……はいはい、行ってきますよ……」
そう言いながら、軽やかに駆け出していくセエレの背を見て、
ウラヌスはにやりと笑い、サタヌスは「パーティーって言ったら唐揚げもな!」と叫んでいる。
レイスはそんな賑やかさに肩を落としつつも、どこか安堵したように呟いた。
「……ほんとに悪友だな」
散らかったソファと本棚、埃をかぶった置き時計。
その雑然とした応接間の真ん中に、豪快にピザの箱が積まれている。
メロンソーダのボトルは氷の結晶で冷やされ、横にはなぜか高級ワインのボトルが鎮座していた。
アモン邸らしい“学術と生活の混沌”の上に、唐突にパーティーが成立している。
プルトは隅で腕を組み、尖らせた口の端をぷるぷる震わせていた。
「……何で私置いていったの、バカ」
拗ねたような、泣きそうなような声。
「拗ねんなよ~ほらピザァァァァ!!!」
サタヌスはゲラゲラ笑いながら、容赦なくマルゲリータを一切れ押し込んでやる。
プルトはぐぇっと声を詰まらせ、結局もぐもぐ食べながら涙目で睨むしかない。
その光景だけで、場がひとつ明るくなる。
「うふふ……よかったですわ、皆さま無事で」
ネプトゥヌスは優雅にストローでメロンソーダを啜り。
横のドタバタなど全く気にしない。
背筋を伸ばしたまま、ざわめきを微笑みで受け流しているようだった。
「お前……“あれだけの文化財”見ておいて……!」
マルスが怒号を飛ばす。鬼の形相。
「撮影したのはこれだけか!?」
「うん♪顔映り優先しちゃった~」
ウラヌスは伸びるチーズをちぎりながら、チラッと笑顔で返すだけ。
末っ子の貫禄。長兄の怒声よりピザが重要らしい。
ユピテルは別卓に腰を預け、上機嫌に頬杖をついていた。
「なァ~べっぴんさン、今日もイイ斬れ味だったなァ?」
舞雷の鞘をトントン叩くたび、ビリッと帯電が走り、テーブルの縁が黒く焦げる。
周囲は呆れつつも、誰も止めようとしない。
カリストは軍帽を外し、膝に置いて指で縁を撫でていた。
ふっと微笑み、目を伏せる。
――あの戦いが夢だったなら、どんなにいいか。
そう思ったが、口には出さない。ただ小さく息を吐いて、ワインのグラスを傾けた。
ソファも、床もテーブルも、人と食べ物でごった返す。
誰かが笑い、誰かが拗ね、誰かが剣を撫で、誰かが心の奥を沈黙で隠す。
それでも――全員が“ここにいる”。
パシャリ、とシャッター音。
ウラヌスがスマホを掲げ、満面の笑みで言う。
「#魔界パリピ集合 ってタグで投稿しよーね♡」
……この“何気ない一枚”こそ、戦いを生き抜いた者たちの記録だった。
ピザの匂いが漂う応接間。
笑い声と炭酸の弾ける音の中で、サタヌスは何気なく土産話を始めた。
口にチーズをくわえたまま、ゲラゲラ笑いながら手を振る。
「えっとな、ユピテルが2回時空移動ミスって……」
「原始時代と幕末に行った。恐竜デカかった」
ピザの皿が一枚、また一枚と空になっていく中・
サタヌスは、待ってましたとばかりに身を乗り出した。
「なぁ聞けよ!一番やべぇのは原始時代だったんだって!」
目が輝いている。まるで子供が宝物を見つけたように。
「恐竜だぞ!?マンモスだぞ!?火山ずっと噴いてんだぞ!!!」
「テンション上がるなって方が無理だろオイ!!!」
言葉のたびに拳をぶんぶん振り回し、ピザの具が飛んでいく。
メルクリウス、即座に額に手を当てて呻いた。
「……いや待て、エンヴィニアに行ったんじゃなかったのか!?」
声が裏返るほどの困惑である。
サタヌスは悪びれもせずゲラゲラ笑った。
「だってTレックスだぞ!?ガオーだぞ!?」
両手を広げて噛みつく真似をする。
その横でガイウスは沈黙していたが、やがて小さく頷く。
「……否定出来ない」
ぼそりと、しかし妙に説得力のある声で。
「お前までか勇者ぁぁぁ!!!」
メルクリウスが頭を抱えて崩れ落ちた。
周囲の空気は、一瞬にしてカオスと化す。
ピザの箱は散乱し、メロンソーダの泡が弾け。
そのど真ん中でサタヌスだけが、満面の笑みで叫んだ。
「いやマジ、恐竜はテンション上がるって!!」
サタヌスの「恐竜ガオー!」の余韻がまだ残る中。
ウラヌスがピザをかじりながら唐突に割り込んできた。
「ていうかさー、幕末行ったときもだけど」
彼女はニヤリと笑い、わざと声を張る。
「全体的にカー君がおもしれー男過ぎたよねぇ!!」
カリストがびくっと肩を震わせる。
嫌な予感しかしない。
「だってさ、キレ過ぎて鬼大尉モード出ちゃうわ、攫われてピーチ姫化するわ。
極めつけは着替え見られてキャーーー!って!!」
「い、言わないでくださいっ!!お願いですから……言わないでぇ……!!」
カリストは耳まで真っ赤にして両手をばたつかせる。
羞恥で声が裏返り、まるで乙女の悲鳴だ。
ガイウスは一瞬きょとんとしたが、やがて真顔でウラヌスに向き直った。
「……カリストが?」
「ウラ、もうちょっと詳しく話せ。そこは理解できる」
「お前も乗るなあああああ!!!」
カリストがテーブルを叩き、半泣きで叫ぶ。
しかしその表情は怒りよりも羞恥の色が強く。
「凍らせますよ!」と脅す声も、完全にぴえん顔で迫力ゼロだった。
テーブルの上にはピザとメロンソーダ。
部屋中に笑い声が響く。
カリストの尊厳は、幕末と共に散っていった。
エンヴィニア・ラプソディ暴露戦。
場の空気を一気に持っていったのは、女王様然とした声だった。
「ちょっと――エンヴィニアの話に戻しなさい」
ヴィヌスが腕を組み、眉を吊り上げる。
「それより何よ、貴女たちが送りつけてきたアルヴの遺作。
“未完”のままじゃないの」
ウラヌスはピザの耳をもぐもぐしながら、にやりと笑った。
「これから完成させるんだよ~。あれ“ノンフィクション”だからさ」
メルクリウスが眼鏡を押し上げ、静かに頷く。
「ノンフィクション……つまり。
エンヴィニア・ラプソディの完成は“無敵の大帝国の滅亡”を開示する、ということか」
「そゆこと!」
ウラヌスはタブレットを掲げ、ヴィヌスに向けてスクロールした。
「でさ。見て見てヴィヌス~! “あの集合写真”なんだけど~♪」
画面には、圧倒的な美貌のサロメ姫が、謁見の間の玉座で微笑む姿。
その左右にクロノチームが立ち並ぶ、堂々たる記念写真だった。
ヴィヌスの顔が一瞬で凍りつき――次の瞬間、爆発した。
「なによこれぇぇぇえええええええ!!!!!」
「私が今まで舞台で演じてきた“悪役令嬢”は……なんだったのよぉぉぉ!?!?!?」
頬を赤くし、目を見開いて叫ぶヴィヌス。
だが、その震える指だけは……しっかりと画面の「いいね」を押していた。
そんな中、ふわりと静かな影が差し込む。
プルトがウラヌスの肩越しにスッと覗き込んでいた。
「……ヴィヌスが敗北宣言するぐらいの悪役令嬢?」
「気になるわね。見せて」
ウラヌスは「へいへ~い」と軽いノリで画面を傾ける。
覗き込むプルトの横顔は、妙に落ち着いていて――どこか“姉”のようでもあった。
「……あぁ、これは本物だ」
プルトは小さく頷き、さらりと断言する。
「覚悟して悪役令嬢やってるタイプ」
「……父上(エレボス)と同族ね。それはバズる」
その分析が的確すぎて、ヴィヌスの目がさらに吊り上がる。
「誰が同族ですってぇぇぇえええええ!?!?!?」
完全に“キレ芸モード”突入、声が裏返っている。
ウラヌスはケラケラ笑い、プルトはジト目でピザを一口。
「……まぁ、Dスタ映えは間違いないけどね」
“姫”のカリスマを前に、ヴィヌスは再び敗北を味わったのであった。
「……悔しいけど……納得、しちゃったじゃないの……」
吐き捨てるように呟いた顔は、引きつった笑みでいっぱいだった。
ウラヌスは満足げにウィンク。
「ね~?カリスマやばいでしょ?Dスタで1万いいねいってたよ♪」
――その場にいた全員が思った。
ヴィヌスは負けた、と。
だが、それを素直に“美”として認められるのが、彼女の女王たる所以でもあった。
セエレは憮然とした顔でオードブルの皿を抱え。
とりあえずチーズソースに唐揚げを無造作に突っ込んでいた。
文句は口から出るが、手は止まらない。
セエレは唐揚げをディップしながら、明らかに不機嫌な顔をしてぼそっと呟いた。
「……兄弟子ばっか友達増えて、ずるいですよ……。
僕がパシられてる間に、キミは大魔王とマブダチになってたとか……」
レイスはグラスのコーラを傾けたまま、無表情で返す。
「オロバスは、まぁ……王子ってより“中身が中坊”だぞ」
「慣れればかわいいもんだ」
「ぜっっっっったい無理ッ!!」
セエレは唐揚げを叩きつけそうな勢いで叫び、声のボリュームが跳ね上がる。
「だってあの人、“王子”じゃなくて“マジで大魔王”なんですよ!?!?」
「まぁ……魔王だけどな」
レイスは唐揚げを一個取った。
「しかも声!!声が!!」
セエレの目がギラつく。
「なんで魔王の癖にあんなヒーロー声してるんです!?“勇者側”の声じゃないですか!!!」
「こっちはカメラ回してる時、内心ずっと“主人公にボコられる前座魔王”気分ですよ!!!」
その場の何人かが、吹き出しそうになって肩を震わせていた。
セエレの不満は止まらない。
「そんで、見た目は15歳くらいなのに!
中身と戦闘力が完全にラスボス級って何なんですか!!!
絶対勝てないんですよ!?喧嘩しても瞬殺ですよ!?
あれで泣き虫とか、嘘でしょ!?怖すぎるんですけど!!?」
「まぁ、火山に落とされかけて泣いてた時もあったな」
レイスが思い出したように言った。
「それ!!!」
セエレが吠える。
「その“ギャップも含めてカリスマ”みたいなとこがムカつくんですってば!!!
……くそ……なんで人気あるんだ、あの人……」
吐き捨てるように言いながらも、セエレはチーズソースに唐揚げを二度付けしていた。
その背中に、どこか“敗北感”すら漂っていた。
レイスは無表情のまま、コーラのグラスを軽く傾ける。
「……ダチなんて勝手に出来るもんだ」
「お前もたまには人間界に来たらどうだ? 荒野はおもしれーぞ」
セエレは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐにしかめっ面に戻る。
「うぇー……砂凄そうじゃないですか……」
レイスは肩をすくめ、薄く笑った。
「ま、そうやって尻込みしてるうちは、一生パシられ側だな」
「うぐっ……!」
セエレは思わず唐揚げを落としそうになる。
そこに師匠アモンが顔をのぞかせ、軽い調子で返す。
「はいはーい。レイス、そのカメラ。そろそろ返却時じゃない?」
レイスの手の中には見るも無残な、だがどこか誇らしげなLOMOの姿。
そう、こいつは私物ではない。借りものなのだ。
「……了解」
レイスは小さく頷き、カメラバッグを肩に引っかける。
その姿に、セエレは「やっぱ兄弟子はズルい」と。
口の中でぶつぶつ言いながら、唐揚げを二個目ディップした。
扉を押し開けると、薬草と本の匂いが入り混じった空気がふわりと漂ってくる。
迎えてくれたのは、派手な外套を羽織ったアモンと、きっちりと礼をしたセエレだった。
「兄弟子、一ヶ月ぶりです~。また人間界に行ってたんですか?」
セエレは柔らかく笑みを浮かべ、まるで日常の続きのように声をかける。
アモンも肩をすくめながら、ちらりと背後の人影に視線をやった。
「後ろの四人……友達? 貴方が客を連れてくるなんて、珍しいじゃない」
レイスは一瞬、言葉を探した。
「友達、っていうか……うーん」
その時、ウラヌスが小さく片目をつむり、アイコンタクトで合図を送る。
“めんどくさいから悪友で通しとけ” と。そう言っていた。
レイスはため息をついて、頷いた。
「俺の悪友です。今から、集まって騒ぎたいんですけど」
「えー!? つまりパーティーってこと!」
アモンが大げさに声をあげ、ぱんっと手を叩く。
「セエレ、あんたオードブル買ってきなさい!」
「僕またパシられてる件!!」
セエレが抗議するように声を上げたが、すでに財布を掴み、靴をつっかけていた。
「……はいはい、行ってきますよ……」
そう言いながら、軽やかに駆け出していくセエレの背を見て、
ウラヌスはにやりと笑い、サタヌスは「パーティーって言ったら唐揚げもな!」と叫んでいる。
レイスはそんな賑やかさに肩を落としつつも、どこか安堵したように呟いた。
「……ほんとに悪友だな」
散らかったソファと本棚、埃をかぶった置き時計。
その雑然とした応接間の真ん中に、豪快にピザの箱が積まれている。
メロンソーダのボトルは氷の結晶で冷やされ、横にはなぜか高級ワインのボトルが鎮座していた。
アモン邸らしい“学術と生活の混沌”の上に、唐突にパーティーが成立している。
プルトは隅で腕を組み、尖らせた口の端をぷるぷる震わせていた。
「……何で私置いていったの、バカ」
拗ねたような、泣きそうなような声。
「拗ねんなよ~ほらピザァァァァ!!!」
サタヌスはゲラゲラ笑いながら、容赦なくマルゲリータを一切れ押し込んでやる。
プルトはぐぇっと声を詰まらせ、結局もぐもぐ食べながら涙目で睨むしかない。
その光景だけで、場がひとつ明るくなる。
「うふふ……よかったですわ、皆さま無事で」
ネプトゥヌスは優雅にストローでメロンソーダを啜り。
横のドタバタなど全く気にしない。
背筋を伸ばしたまま、ざわめきを微笑みで受け流しているようだった。
「お前……“あれだけの文化財”見ておいて……!」
マルスが怒号を飛ばす。鬼の形相。
「撮影したのはこれだけか!?」
「うん♪顔映り優先しちゃった~」
ウラヌスは伸びるチーズをちぎりながら、チラッと笑顔で返すだけ。
末っ子の貫禄。長兄の怒声よりピザが重要らしい。
ユピテルは別卓に腰を預け、上機嫌に頬杖をついていた。
「なァ~べっぴんさン、今日もイイ斬れ味だったなァ?」
舞雷の鞘をトントン叩くたび、ビリッと帯電が走り、テーブルの縁が黒く焦げる。
周囲は呆れつつも、誰も止めようとしない。
カリストは軍帽を外し、膝に置いて指で縁を撫でていた。
ふっと微笑み、目を伏せる。
――あの戦いが夢だったなら、どんなにいいか。
そう思ったが、口には出さない。ただ小さく息を吐いて、ワインのグラスを傾けた。
ソファも、床もテーブルも、人と食べ物でごった返す。
誰かが笑い、誰かが拗ね、誰かが剣を撫で、誰かが心の奥を沈黙で隠す。
それでも――全員が“ここにいる”。
パシャリ、とシャッター音。
ウラヌスがスマホを掲げ、満面の笑みで言う。
「#魔界パリピ集合 ってタグで投稿しよーね♡」
……この“何気ない一枚”こそ、戦いを生き抜いた者たちの記録だった。
ピザの匂いが漂う応接間。
笑い声と炭酸の弾ける音の中で、サタヌスは何気なく土産話を始めた。
口にチーズをくわえたまま、ゲラゲラ笑いながら手を振る。
「えっとな、ユピテルが2回時空移動ミスって……」
「原始時代と幕末に行った。恐竜デカかった」
ピザの皿が一枚、また一枚と空になっていく中・
サタヌスは、待ってましたとばかりに身を乗り出した。
「なぁ聞けよ!一番やべぇのは原始時代だったんだって!」
目が輝いている。まるで子供が宝物を見つけたように。
「恐竜だぞ!?マンモスだぞ!?火山ずっと噴いてんだぞ!!!」
「テンション上がるなって方が無理だろオイ!!!」
言葉のたびに拳をぶんぶん振り回し、ピザの具が飛んでいく。
メルクリウス、即座に額に手を当てて呻いた。
「……いや待て、エンヴィニアに行ったんじゃなかったのか!?」
声が裏返るほどの困惑である。
サタヌスは悪びれもせずゲラゲラ笑った。
「だってTレックスだぞ!?ガオーだぞ!?」
両手を広げて噛みつく真似をする。
その横でガイウスは沈黙していたが、やがて小さく頷く。
「……否定出来ない」
ぼそりと、しかし妙に説得力のある声で。
「お前までか勇者ぁぁぁ!!!」
メルクリウスが頭を抱えて崩れ落ちた。
周囲の空気は、一瞬にしてカオスと化す。
ピザの箱は散乱し、メロンソーダの泡が弾け。
そのど真ん中でサタヌスだけが、満面の笑みで叫んだ。
「いやマジ、恐竜はテンション上がるって!!」
サタヌスの「恐竜ガオー!」の余韻がまだ残る中。
ウラヌスがピザをかじりながら唐突に割り込んできた。
「ていうかさー、幕末行ったときもだけど」
彼女はニヤリと笑い、わざと声を張る。
「全体的にカー君がおもしれー男過ぎたよねぇ!!」
カリストがびくっと肩を震わせる。
嫌な予感しかしない。
「だってさ、キレ過ぎて鬼大尉モード出ちゃうわ、攫われてピーチ姫化するわ。
極めつけは着替え見られてキャーーー!って!!」
「い、言わないでくださいっ!!お願いですから……言わないでぇ……!!」
カリストは耳まで真っ赤にして両手をばたつかせる。
羞恥で声が裏返り、まるで乙女の悲鳴だ。
ガイウスは一瞬きょとんとしたが、やがて真顔でウラヌスに向き直った。
「……カリストが?」
「ウラ、もうちょっと詳しく話せ。そこは理解できる」
「お前も乗るなあああああ!!!」
カリストがテーブルを叩き、半泣きで叫ぶ。
しかしその表情は怒りよりも羞恥の色が強く。
「凍らせますよ!」と脅す声も、完全にぴえん顔で迫力ゼロだった。
テーブルの上にはピザとメロンソーダ。
部屋中に笑い声が響く。
カリストの尊厳は、幕末と共に散っていった。
エンヴィニア・ラプソディ暴露戦。
場の空気を一気に持っていったのは、女王様然とした声だった。
「ちょっと――エンヴィニアの話に戻しなさい」
ヴィヌスが腕を組み、眉を吊り上げる。
「それより何よ、貴女たちが送りつけてきたアルヴの遺作。
“未完”のままじゃないの」
ウラヌスはピザの耳をもぐもぐしながら、にやりと笑った。
「これから完成させるんだよ~。あれ“ノンフィクション”だからさ」
メルクリウスが眼鏡を押し上げ、静かに頷く。
「ノンフィクション……つまり。
エンヴィニア・ラプソディの完成は“無敵の大帝国の滅亡”を開示する、ということか」
「そゆこと!」
ウラヌスはタブレットを掲げ、ヴィヌスに向けてスクロールした。
「でさ。見て見てヴィヌス~! “あの集合写真”なんだけど~♪」
画面には、圧倒的な美貌のサロメ姫が、謁見の間の玉座で微笑む姿。
その左右にクロノチームが立ち並ぶ、堂々たる記念写真だった。
ヴィヌスの顔が一瞬で凍りつき――次の瞬間、爆発した。
「なによこれぇぇぇえええええええ!!!!!」
「私が今まで舞台で演じてきた“悪役令嬢”は……なんだったのよぉぉぉ!?!?!?」
頬を赤くし、目を見開いて叫ぶヴィヌス。
だが、その震える指だけは……しっかりと画面の「いいね」を押していた。
そんな中、ふわりと静かな影が差し込む。
プルトがウラヌスの肩越しにスッと覗き込んでいた。
「……ヴィヌスが敗北宣言するぐらいの悪役令嬢?」
「気になるわね。見せて」
ウラヌスは「へいへ~い」と軽いノリで画面を傾ける。
覗き込むプルトの横顔は、妙に落ち着いていて――どこか“姉”のようでもあった。
「……あぁ、これは本物だ」
プルトは小さく頷き、さらりと断言する。
「覚悟して悪役令嬢やってるタイプ」
「……父上(エレボス)と同族ね。それはバズる」
その分析が的確すぎて、ヴィヌスの目がさらに吊り上がる。
「誰が同族ですってぇぇぇえええええ!?!?!?」
完全に“キレ芸モード”突入、声が裏返っている。
ウラヌスはケラケラ笑い、プルトはジト目でピザを一口。
「……まぁ、Dスタ映えは間違いないけどね」
“姫”のカリスマを前に、ヴィヌスは再び敗北を味わったのであった。
「……悔しいけど……納得、しちゃったじゃないの……」
吐き捨てるように呟いた顔は、引きつった笑みでいっぱいだった。
ウラヌスは満足げにウィンク。
「ね~?カリスマやばいでしょ?Dスタで1万いいねいってたよ♪」
――その場にいた全員が思った。
ヴィヌスは負けた、と。
だが、それを素直に“美”として認められるのが、彼女の女王たる所以でもあった。
セエレは憮然とした顔でオードブルの皿を抱え。
とりあえずチーズソースに唐揚げを無造作に突っ込んでいた。
文句は口から出るが、手は止まらない。
セエレは唐揚げをディップしながら、明らかに不機嫌な顔をしてぼそっと呟いた。
「……兄弟子ばっか友達増えて、ずるいですよ……。
僕がパシられてる間に、キミは大魔王とマブダチになってたとか……」
レイスはグラスのコーラを傾けたまま、無表情で返す。
「オロバスは、まぁ……王子ってより“中身が中坊”だぞ」
「慣れればかわいいもんだ」
「ぜっっっっったい無理ッ!!」
セエレは唐揚げを叩きつけそうな勢いで叫び、声のボリュームが跳ね上がる。
「だってあの人、“王子”じゃなくて“マジで大魔王”なんですよ!?!?」
「まぁ……魔王だけどな」
レイスは唐揚げを一個取った。
「しかも声!!声が!!」
セエレの目がギラつく。
「なんで魔王の癖にあんなヒーロー声してるんです!?“勇者側”の声じゃないですか!!!」
「こっちはカメラ回してる時、内心ずっと“主人公にボコられる前座魔王”気分ですよ!!!」
その場の何人かが、吹き出しそうになって肩を震わせていた。
セエレの不満は止まらない。
「そんで、見た目は15歳くらいなのに!
中身と戦闘力が完全にラスボス級って何なんですか!!!
絶対勝てないんですよ!?喧嘩しても瞬殺ですよ!?
あれで泣き虫とか、嘘でしょ!?怖すぎるんですけど!!?」
「まぁ、火山に落とされかけて泣いてた時もあったな」
レイスが思い出したように言った。
「それ!!!」
セエレが吠える。
「その“ギャップも含めてカリスマ”みたいなとこがムカつくんですってば!!!
……くそ……なんで人気あるんだ、あの人……」
吐き捨てるように言いながらも、セエレはチーズソースに唐揚げを二度付けしていた。
その背中に、どこか“敗北感”すら漂っていた。
レイスは無表情のまま、コーラのグラスを軽く傾ける。
「……ダチなんて勝手に出来るもんだ」
「お前もたまには人間界に来たらどうだ? 荒野はおもしれーぞ」
セエレは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐにしかめっ面に戻る。
「うぇー……砂凄そうじゃないですか……」
レイスは肩をすくめ、薄く笑った。
「ま、そうやって尻込みしてるうちは、一生パシられ側だな」
「うぐっ……!」
セエレは思わず唐揚げを落としそうになる。
そこに師匠アモンが顔をのぞかせ、軽い調子で返す。
「はいはーい。レイス、そのカメラ。そろそろ返却時じゃない?」
レイスの手の中には見るも無残な、だがどこか誇らしげなLOMOの姿。
そう、こいつは私物ではない。借りものなのだ。
「……了解」
レイスは小さく頷き、カメラバッグを肩に引っかける。
その姿に、セエレは「やっぱ兄弟子はズルい」と。
口の中でぶつぶつ言いながら、唐揚げを二個目ディップした。
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アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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