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嫉妬の帝都
世界が終わる前に
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ウラヌスがスマホを構えながら、じりじりとカイネスにカメラを向けていた。
「ねぇ博士、まじで絵になるってば。
その白衣、眼帯で緑の飯とか、映画のヴィランじゃん。ね、撮らせてよ♡」
それはもうファンのテンションであり、推しに接近するオタクの勢いだった。
カイネスはふと、その黒い板に視線を落とした。
「……その板は、なんだね?」
その声音に、一瞬だけ空気が張り詰めた。
レイスは内心で「しまった」と叫びながら、必死に取り繕う。
「あー、これは……その……未来の“電話”みたいなもんだよ」
「世界中と……いや、“時代を超えて”も、繋がれる、かも……」
言いながら、完全にアウトなことを言ってしまったと気づいた。時間モノの禁忌、ぶち抜きである。
(やっべ……終わったわコレ……)
しかしカイネスは沈黙の後、ゆっくりと微笑んだ。
手元のサンドイッチをひょいと持ち上げ、光のない目を細める。
「未来、か……どうやら“明日”というものは、私が想像するよりも妬ましいらしいな……」
その言葉に、レイスは肩の力が抜けたように息を吐いた。
「……あんた、やっぱ“同族”だな」
カメラのシャッター音が、空気を切り裂いた。ウラヌスが満足そうに叫ぶ。
「よっし♡ #映えヴィラン #眼帯男子正義 #でも食ってるの草」
サタヌスはプリンを片手に、完全にツッコミを諦めた表情で呟く。
「なんかもう……ツッコミが追いつかねぇ……」
ユピテルが頭を抱えながら、ぼそりとまとめた。
「妬みで兵器創るやつと、SNSで遊ぶやつと、攫われた婚礼候補…………なンなンだ、このチーム」
その一言が、妙に場の全てを象徴していた。
スマホは、時空を超えて分解される。
誰にも頼まれていない。だが、それは既に決まっていた運命のように自然だった。
「なぁカイネス博士!」サタヌスが満面のドヤ顔で手を突き出す。
「分解していいスマホ、ちょうどあるぜ。パチ屋の裏で拾ったゴミ!」
手渡されたのは、画面がバッキバキに割れ、解約済みで電源すら入らない無惨な代物。
だがそのボロさにこそ、妙なリアリティがあった。
カイネスは静かに受け取った。
「……受け取ろう」
両手で丁寧にバキスマホを持ち上げる。
その仕草には、まるで神殿の遺物でも扱うかのような敬意すら宿っていた。
「最早これは“電話”ではない。スクラップということだね」
「……実に、興味深い」
ユピテルがこめかみに刀の鞘をコツンと当てながら、真顔で呟いた。
「俺ら……とンでもねぇ歴史改変してね?
未来の技術”を“古代兵器博士”にプレゼントって……アウトじゃね???」
それに対して、ウラヌスはスマホを構えたまままるで悪びれる様子もなく軽快に答える。
「え? マルたん言ってたよ? “歴史改変はBack to the Futureから続く伝統”だって♡」
レイスが遠い目をして煙草をくわえるような口調でつぶやく。
「博士、あれ多分"文明核"レベルの好奇心くすぐってるよ……。
また新しい兵器作らなきゃいいけどな……(作る)」
「……くわばらくわばら……」
ユピテルが肩をすくめた瞬間、すでに手遅れだった。
カイネスはもうスマホを開いていた。外装を器用に剥ぎ取り、基盤を露わに。
細部を眺めながら眼帯越しに光を宿す。
「へぇ……この“チップ”というのが……」
その声に混じる静かな熱は、確かに始まってしまった“時代の歯車”の音だった。
エンヴィニア。運命の歯車が、静かに回り始める。
カイネス博士が、眼帯越しの瞳を細めた。そこに宿る光は理性と、ほんのわずかな狂気。
その口が、ようやく“核心”を語り出す。
「遠き世界からの旅人たちよ」
「君たちの視点と感情、そして秩序に囚われぬ言動を、私は観察してきた」
「……ゆえに、私のラボへ来てくれ」
「君たちだけは、“あれ”を見て─妬みも、畏れも、狂信も抜きに。
“ただの知”として捉えられる者たちだと、私は判断した」
その言葉が終わるよりも早く、サタヌスが叫ぶ。テンションはMAX。
椅子を蹴って立ち上がる勢いで手を挙げる。
「あれって……あの……ヤバイやつじゃん!!」
「えっ、ガチで実在すんのかよアレ……!!!」
マナ・デストロイヤーの名を公共の場で言うのは不味いと抑えたが。
それでも興奮は最高潮に達していた。
場が少しどよめく中、ユピテルが真顔に戻ってぽつりと呟いた。
「……カイネス博士。今、確信したぜ」
「今俺たちが立ってるのは─エンヴィニア滅亡1ヶ月前」
「もう、世界は止まらねぇ……歴史が“動く”ぞ」
その口ぶりはいつも通り軽いが、言葉に込められた重さは誰よりも鋭い。
レイスは煙のない空気を吸いながら、いつになく静かな声で呟いた。
「“始まり”を記録しようぜ……なぁ、未来の俺」
その横で、ウラヌスがスマホを構えた。
「準備完了っと♡」
にやりと笑いながら、ハッシュタグを添えて撮影ボタンをタップする。
「“#世界が終わる前にラボ行ってきた”ってタグつけよ♡」
それはふざけた投稿に見えて、歴史の中で最初に鳴った“鐘の音”でもあった。
世界が終わる前夜─彼らは、物語の深層へと足を踏み入れる。
「ねぇ博士、まじで絵になるってば。
その白衣、眼帯で緑の飯とか、映画のヴィランじゃん。ね、撮らせてよ♡」
それはもうファンのテンションであり、推しに接近するオタクの勢いだった。
カイネスはふと、その黒い板に視線を落とした。
「……その板は、なんだね?」
その声音に、一瞬だけ空気が張り詰めた。
レイスは内心で「しまった」と叫びながら、必死に取り繕う。
「あー、これは……その……未来の“電話”みたいなもんだよ」
「世界中と……いや、“時代を超えて”も、繋がれる、かも……」
言いながら、完全にアウトなことを言ってしまったと気づいた。時間モノの禁忌、ぶち抜きである。
(やっべ……終わったわコレ……)
しかしカイネスは沈黙の後、ゆっくりと微笑んだ。
手元のサンドイッチをひょいと持ち上げ、光のない目を細める。
「未来、か……どうやら“明日”というものは、私が想像するよりも妬ましいらしいな……」
その言葉に、レイスは肩の力が抜けたように息を吐いた。
「……あんた、やっぱ“同族”だな」
カメラのシャッター音が、空気を切り裂いた。ウラヌスが満足そうに叫ぶ。
「よっし♡ #映えヴィラン #眼帯男子正義 #でも食ってるの草」
サタヌスはプリンを片手に、完全にツッコミを諦めた表情で呟く。
「なんかもう……ツッコミが追いつかねぇ……」
ユピテルが頭を抱えながら、ぼそりとまとめた。
「妬みで兵器創るやつと、SNSで遊ぶやつと、攫われた婚礼候補…………なンなンだ、このチーム」
その一言が、妙に場の全てを象徴していた。
スマホは、時空を超えて分解される。
誰にも頼まれていない。だが、それは既に決まっていた運命のように自然だった。
「なぁカイネス博士!」サタヌスが満面のドヤ顔で手を突き出す。
「分解していいスマホ、ちょうどあるぜ。パチ屋の裏で拾ったゴミ!」
手渡されたのは、画面がバッキバキに割れ、解約済みで電源すら入らない無惨な代物。
だがそのボロさにこそ、妙なリアリティがあった。
カイネスは静かに受け取った。
「……受け取ろう」
両手で丁寧にバキスマホを持ち上げる。
その仕草には、まるで神殿の遺物でも扱うかのような敬意すら宿っていた。
「最早これは“電話”ではない。スクラップということだね」
「……実に、興味深い」
ユピテルがこめかみに刀の鞘をコツンと当てながら、真顔で呟いた。
「俺ら……とンでもねぇ歴史改変してね?
未来の技術”を“古代兵器博士”にプレゼントって……アウトじゃね???」
それに対して、ウラヌスはスマホを構えたまままるで悪びれる様子もなく軽快に答える。
「え? マルたん言ってたよ? “歴史改変はBack to the Futureから続く伝統”だって♡」
レイスが遠い目をして煙草をくわえるような口調でつぶやく。
「博士、あれ多分"文明核"レベルの好奇心くすぐってるよ……。
また新しい兵器作らなきゃいいけどな……(作る)」
「……くわばらくわばら……」
ユピテルが肩をすくめた瞬間、すでに手遅れだった。
カイネスはもうスマホを開いていた。外装を器用に剥ぎ取り、基盤を露わに。
細部を眺めながら眼帯越しに光を宿す。
「へぇ……この“チップ”というのが……」
その声に混じる静かな熱は、確かに始まってしまった“時代の歯車”の音だった。
エンヴィニア。運命の歯車が、静かに回り始める。
カイネス博士が、眼帯越しの瞳を細めた。そこに宿る光は理性と、ほんのわずかな狂気。
その口が、ようやく“核心”を語り出す。
「遠き世界からの旅人たちよ」
「君たちの視点と感情、そして秩序に囚われぬ言動を、私は観察してきた」
「……ゆえに、私のラボへ来てくれ」
「君たちだけは、“あれ”を見て─妬みも、畏れも、狂信も抜きに。
“ただの知”として捉えられる者たちだと、私は判断した」
その言葉が終わるよりも早く、サタヌスが叫ぶ。テンションはMAX。
椅子を蹴って立ち上がる勢いで手を挙げる。
「あれって……あの……ヤバイやつじゃん!!」
「えっ、ガチで実在すんのかよアレ……!!!」
マナ・デストロイヤーの名を公共の場で言うのは不味いと抑えたが。
それでも興奮は最高潮に達していた。
場が少しどよめく中、ユピテルが真顔に戻ってぽつりと呟いた。
「……カイネス博士。今、確信したぜ」
「今俺たちが立ってるのは─エンヴィニア滅亡1ヶ月前」
「もう、世界は止まらねぇ……歴史が“動く”ぞ」
その口ぶりはいつも通り軽いが、言葉に込められた重さは誰よりも鋭い。
レイスは煙のない空気を吸いながら、いつになく静かな声で呟いた。
「“始まり”を記録しようぜ……なぁ、未来の俺」
その横で、ウラヌスがスマホを構えた。
「準備完了っと♡」
にやりと笑いながら、ハッシュタグを添えて撮影ボタンをタップする。
「“#世界が終わる前にラボ行ってきた”ってタグつけよ♡」
それはふざけた投稿に見えて、歴史の中で最初に鳴った“鐘の音”でもあった。
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