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chapter1_01
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『――次のニュースです。十番地区のマンションで男性二人の遺体が見つかりました。司法解剖の結果、一方は拳銃を使った自殺、もう一方は薬物による中毒死と見られ、警察は二人の関係性について調べると共に、薬物の入手経路についても、詳しく捜査を進めています――』
「うへぇ……またBEAKかよ」
「あそこはブッ飛んだヤツが多いよな」
雑踏を行き交う人々はスクランブル交差点を臨む巨大なスクリーンを仰ぎ、端的に所感を呟いては自身の目的地に向けて再び歩を進める。
十番地区――通称BEAKは、住民の経済格差が一際大きく、日夜悪い知らせには事欠かない。世辞にも治安が良いとは言い難いエリアの事件は、有象無象にとってこれといった意外性も無く、現実に起こっていると言われてもどこか遠い、日常から切り離されたフィクションのように感じられた。
それはその地区に住む者たちにとっても例外ではない。
ベッドで体を起こし、甘い煙を吹かす男――烏丸もまた、ぼんやりとした眼でテレビが垂れ流すニュースに耳を傾けていた。
隣で寝ている男――鷹取は、悪夢に苛まれているのか、時折呻き声をあげながら悶えるように寝返りを打っている。
烏丸が額に滲む汗を拭ってやろうとしたその時、鷹取は激しく呼吸を乱して飛び起きた。跳ね除けた布団から無機質な金属製の脚を覗かせている。
「やっと起きたね」
「うん……」
時計を見ると意識を失ってから数時間は経っているようだった。淡々とニュースを伝えるテレビの音が随分とうるさい。
「すみません……テレビの音、もう少し小さくしてもらえませんか?」
「ん? 今でもかなり小さいけれど……まだ効いているのかもね」
そう言って烏丸はテレビの電源を落とす。
薬物で過敏になった聴覚には、窓の外の雨音や時計の秒針すらひどく耳障りだった。
「ずいぶんうなされていたけど、大丈夫?」
「事故の夢を見て……」
「だろうね」
鷹取が自身の左太腿に連なる義肢を摩ると、無機質な冷感が指の体温と溶け合った。
機械式のそれは、末端が鳥の脚を模した三本の鉤爪のような形をしている。鷹取はかつて脹脛があった辺りの、湾曲した金属の棒を指で掻いた。
「幻肢痛かい?」
「はい……」
いくら掻いても止まらない痒みに、鷹取は憎らしそうな表情を浮かべる。静寂の中に、金属を引っ搔く音が殊更不快に響いた。
義足を掻きむしる手を包むように、烏丸の手が重なる。
「辛いね……でも、命があってよかった」
そのまま抱き寄せられた鷹取は、促されるまま烏丸の胸に額を当てた。
癖のある柔らかい髪を撫でる烏丸の手は温かく、心地が良い。腕の中で静かに目を閉じれば、無いはずの脚に感じた掻痒感は次第に収束していった。
こんなにも近くで人の体温を感じたのはいつぶりだろうか。
鷹取はぼんやりと父の存在を思い出していた。
「うへぇ……またBEAKかよ」
「あそこはブッ飛んだヤツが多いよな」
雑踏を行き交う人々はスクランブル交差点を臨む巨大なスクリーンを仰ぎ、端的に所感を呟いては自身の目的地に向けて再び歩を進める。
十番地区――通称BEAKは、住民の経済格差が一際大きく、日夜悪い知らせには事欠かない。世辞にも治安が良いとは言い難いエリアの事件は、有象無象にとってこれといった意外性も無く、現実に起こっていると言われてもどこか遠い、日常から切り離されたフィクションのように感じられた。
それはその地区に住む者たちにとっても例外ではない。
ベッドで体を起こし、甘い煙を吹かす男――烏丸もまた、ぼんやりとした眼でテレビが垂れ流すニュースに耳を傾けていた。
隣で寝ている男――鷹取は、悪夢に苛まれているのか、時折呻き声をあげながら悶えるように寝返りを打っている。
烏丸が額に滲む汗を拭ってやろうとしたその時、鷹取は激しく呼吸を乱して飛び起きた。跳ね除けた布団から無機質な金属製の脚を覗かせている。
「やっと起きたね」
「うん……」
時計を見ると意識を失ってから数時間は経っているようだった。淡々とニュースを伝えるテレビの音が随分とうるさい。
「すみません……テレビの音、もう少し小さくしてもらえませんか?」
「ん? 今でもかなり小さいけれど……まだ効いているのかもね」
そう言って烏丸はテレビの電源を落とす。
薬物で過敏になった聴覚には、窓の外の雨音や時計の秒針すらひどく耳障りだった。
「ずいぶんうなされていたけど、大丈夫?」
「事故の夢を見て……」
「だろうね」
鷹取が自身の左太腿に連なる義肢を摩ると、無機質な冷感が指の体温と溶け合った。
機械式のそれは、末端が鳥の脚を模した三本の鉤爪のような形をしている。鷹取はかつて脹脛があった辺りの、湾曲した金属の棒を指で掻いた。
「幻肢痛かい?」
「はい……」
いくら掻いても止まらない痒みに、鷹取は憎らしそうな表情を浮かべる。静寂の中に、金属を引っ搔く音が殊更不快に響いた。
義足を掻きむしる手を包むように、烏丸の手が重なる。
「辛いね……でも、命があってよかった」
そのまま抱き寄せられた鷹取は、促されるまま烏丸の胸に額を当てた。
癖のある柔らかい髪を撫でる烏丸の手は温かく、心地が良い。腕の中で静かに目を閉じれば、無いはずの脚に感じた掻痒感は次第に収束していった。
こんなにも近くで人の体温を感じたのはいつぶりだろうか。
鷹取はぼんやりと父の存在を思い出していた。
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