Psychedelic bless you.

ぬるめのおゆ。

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 鷹取は父子家庭で育った。
 母は生来の虚弱体質により、出産に相当なリスクを伴う事を医師に告げられていたが、それを承知した上で、腹に宿した子を必ず産むと言って聞かなかった。長い不妊治療の末にようやく授かった命と引き換えに、自身は出産に際して命を落とすこととなる。
 母と入れ替わるように誕生した鷹取を、父は男手ひとつで大切に育てた。鷹取も片親の苦労を理解しており、思春期を迎えても父との関係は良好であった。

 鷹取が十代の後半になったある日のこと、父は再婚をしたいと申し出る。鷹取自身も色恋が分かる年齢になっており、父が一人で背負いこんでいた苦労が減るのならばと、それ自体に異論は示さなかった。
 ほどなくして父が後妻と再婚し、今まで二人で暮らしてきた狭いアパートに三人で暮らす生活が始まる。鷹取が学業の合間にこなしていた家事を担ってもらえるようになり、新しい家族の形はいいスタートを切ったと思われた。
 
 しかし次第に異性の他人ということで、鷹取と継母は互いに気を遣うようになり、住み慣れた自宅は居心地の悪いものへと変わっていく。
 鷹取は安息を求めて友人の家に宿泊したり、夜遅くに帰宅することで、継母と顔を合わせる時間を極力減らすようになった。
 家を空ける時間が長くなっている間に父と継母は新たに子を授かり、しばらくして年の離れた兄弟ができた。継母にとっては初婚の第一子となり、随分と溺愛しているようだった。一方で、継母はあまり家に帰らない鷹取が自身を嫌悪していると思い込み、鷹取との会話は必要最低限に絞っていく。険悪とまではいかないが、二人の関係は悪化していく一方だった。
 鷹取は以前にも増して自宅での居場所が無いように感じ、自立できる年齢になるとすぐに家を出た。
 父は時折気遣って連絡を寄越していたが、継母とその子供を愛する義務もあるため、鷹取自身から連絡を入れる頻度は減っていったのだった。

 長年父と家事を分担していたため料理が得意だった鷹取は、一人暮らしを始めて間もなくリゾートホテルにあるレストランの調理場に職を得る。
 稼ぎも悪くなく、賄いで食費を浮かすこともできたため貯蓄はできたが、人気の観光地にあり、団体客が多いホテルでの仕事は許容量を上回っていた。
 観光地とは言え僻地にあるため、客の多さとは裏腹に従業員は慢性的に足りていなかった。ほとんど休みなく働いていた鷹取は、職場と自宅の往復を繰り返すだけの日々の中、心身ともにストレスが限界を超えていた。娯楽に使う金はあれど、消費する時間はなかった。
――このまま死ぬまで働き続けんのかな。
 二十を過ぎたばかりの鷹取は、まだ遊びたい盛りであった。大学に進学した同学年の友人はまだ学生生活を謳歌しているというのに、自分は馬車馬のようにあくせく働く毎日だ。既に社会の歯車になった鷹取と学生である友人とは生活リズムが嚙み合わず、実家にいた頃のように夜分遅くまで共に遊び歩くことは叶わなくなった。
 職場に行けば、旅行ができるほど時間に余裕がある観光客が群れを成してひっきりなしにやってくる。鷹取は次第にそれを羨ましく思うようになった。
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