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chapter1_03
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ある日、ホテルの食事で提供した日本料理を気に入ったらしい外国人観光客の一人が、鷹取に料理名を尋ねてきた。鷹取が答えると外国人は大層気を良くし、自分がどこから来たのか、自国はどういった場所なのかをつらつらと語り始めた。語学に疎い鷹取は国名以外何も理解できなかったが、帰宅後、ふと思い立ってスマートフォンでその国名を検索し、適当に出てきたサイトに上げられた観光地の写真を眺めた。
旅行会社が運営するそのサイトには、日程や行先に応じて様々な価格帯のプランが提示されていた。見たこともない歴史的建造物、国内では考えられない規模の自然保護区、そして各国の個性的な料理――。その写真の上には一際目立つキャッチコピーが添えられている。
『一生に一度は見ておきたい! 選りすぐり世界遺産周遊ツアー』
『がんばった自分にご褒美を! ゆったりリゾート満喫プラン』
鷹取にとってはどれも殺し文句と言えるほど魅力的な文字列だった。
明日の仕事に備えて寝る時間だというのに、鷹取の手は無限にスクロールとタップを繰り返した。目新しい情報を次々に差し出し、旅行サイトは睡眠時間を奪ったが、鷹取は随分と高揚していた。退屈な日常に、久方ぶりの刺激を感じていたのだ。
――意外と安いんだな。
中でも格安航空券の利用を謳った安価なプランに、鷹取の目は釘付けになった。
今度は格安航空券について調べてみると、安価な旅費で世界を巡るバックパッカーの動画が目に留まる。その投稿者の動画を何本か視聴した鷹取は、自身も仕事を辞して貯蓄を大いに浪費し、年単位で世界中を旅する計画を思いつく。まさに天啓とも言えるひらめきだった。
何か大それた目的があったわけでもない、所謂『自分探しの旅』といったところだろうか。全財産を旅の費用に充て、帰国した後はしばらくネットカフェなどに滞在しながら日銭を稼いでゆっくり生活を立て直す――という計画だった。
満を持して国を出た鷹取だったが、皮肉なことに旅は時間をかければかけるほど非日常感が薄れていく。
最初こそ名所に赴いては一頻り感動に浸っていたものの、長時間移動しては人でごった返す観光地に足を運ぶという行為を繰り返し、些か疲れを感じるようになっていた。元来それほどアクティブな性格ではない事も少々の枷となっているようだった。
――もう少し旅を続けていれば、人生を一変させるような何かがあるかもしれない。
そう思い続け、半ば意地になって旅を続けた。
半年を過ぎた頃には観光地巡りも食傷気味になり、ホステルで同郷の者とだらだら過ごすことも増えていたのだが。
その特段何も得られなかった自分探しの旅の最終日——そして帰国後始まる新たな生活の初日となる日、鷹取が望んだ人生を一変させるような出来事は、思わぬ形で現れることとなる。
鷹取を自国まで運んできた飛行機が、大きな事故を起こしたのだ。
着陸に際して車輪が出ず、機体は速度を維持したまま腹を地面に打ちつけた。黒煙を上げて炎上する飛行機の映像は、立ち所に速報としてあらゆるメディアに取り上げられた。現場の救助隊、空港関係者、ニュースを見た全国の人間誰しもが、生存者の存在を諦めていた。
懸命な消火活動の後、救助隊がたどり着いた時には、大方の予想に違わず乗客と乗員は皆死亡していた――最後部の座席に座っていた鷹取一人を除いて。
それでも意識を失い、命の灯火が消えようとしていた鷹取は、すぐさま救急医療センターへと運び込まれた。
長丁場の手術により運良く命は救われたものの、機体の爆発により特に損傷が激しかった左脚を失う事となる。
旅行会社が運営するそのサイトには、日程や行先に応じて様々な価格帯のプランが提示されていた。見たこともない歴史的建造物、国内では考えられない規模の自然保護区、そして各国の個性的な料理――。その写真の上には一際目立つキャッチコピーが添えられている。
『一生に一度は見ておきたい! 選りすぐり世界遺産周遊ツアー』
『がんばった自分にご褒美を! ゆったりリゾート満喫プラン』
鷹取にとってはどれも殺し文句と言えるほど魅力的な文字列だった。
明日の仕事に備えて寝る時間だというのに、鷹取の手は無限にスクロールとタップを繰り返した。目新しい情報を次々に差し出し、旅行サイトは睡眠時間を奪ったが、鷹取は随分と高揚していた。退屈な日常に、久方ぶりの刺激を感じていたのだ。
――意外と安いんだな。
中でも格安航空券の利用を謳った安価なプランに、鷹取の目は釘付けになった。
今度は格安航空券について調べてみると、安価な旅費で世界を巡るバックパッカーの動画が目に留まる。その投稿者の動画を何本か視聴した鷹取は、自身も仕事を辞して貯蓄を大いに浪費し、年単位で世界中を旅する計画を思いつく。まさに天啓とも言えるひらめきだった。
何か大それた目的があったわけでもない、所謂『自分探しの旅』といったところだろうか。全財産を旅の費用に充て、帰国した後はしばらくネットカフェなどに滞在しながら日銭を稼いでゆっくり生活を立て直す――という計画だった。
満を持して国を出た鷹取だったが、皮肉なことに旅は時間をかければかけるほど非日常感が薄れていく。
最初こそ名所に赴いては一頻り感動に浸っていたものの、長時間移動しては人でごった返す観光地に足を運ぶという行為を繰り返し、些か疲れを感じるようになっていた。元来それほどアクティブな性格ではない事も少々の枷となっているようだった。
――もう少し旅を続けていれば、人生を一変させるような何かがあるかもしれない。
そう思い続け、半ば意地になって旅を続けた。
半年を過ぎた頃には観光地巡りも食傷気味になり、ホステルで同郷の者とだらだら過ごすことも増えていたのだが。
その特段何も得られなかった自分探しの旅の最終日——そして帰国後始まる新たな生活の初日となる日、鷹取が望んだ人生を一変させるような出来事は、思わぬ形で現れることとなる。
鷹取を自国まで運んできた飛行機が、大きな事故を起こしたのだ。
着陸に際して車輪が出ず、機体は速度を維持したまま腹を地面に打ちつけた。黒煙を上げて炎上する飛行機の映像は、立ち所に速報としてあらゆるメディアに取り上げられた。現場の救助隊、空港関係者、ニュースを見た全国の人間誰しもが、生存者の存在を諦めていた。
懸命な消火活動の後、救助隊がたどり着いた時には、大方の予想に違わず乗客と乗員は皆死亡していた――最後部の座席に座っていた鷹取一人を除いて。
それでも意識を失い、命の灯火が消えようとしていた鷹取は、すぐさま救急医療センターへと運び込まれた。
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