Psychedelic bless you.

ぬるめのおゆ。

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chapter1_04

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「でも……神は俺を生かしてくれた。脚が無くなったのは神から与えられた試練なのかもしれない……」
 鷹取は事故以来、宗教に心酔するようになった。
 時折病院にやってくる教会のボランティア活動を通して信者と交流を持ち、何やら感化されたようだ。
 或いは旅で得られなかった自身の存在意義をそこに見出したのか。
 憔悴した心に宗教が入り込むのは容易い。
「君を救ったのは僕だ。神は医者じゃない」
「でも……」
「あの時処置が遅れていれば、君は確実に死んでいた。君の言う神が居るとすれば、まだ信仰心がなかった頃の君を救ったというのは都合が良すぎるんじゃないかい?」
 静かに諭す烏丸の言葉に、鷹取は反論する。
「それは俺に信仰心が芽生えるかどうかを試すためになされたんです……きっかけを与えてくださった」
「僕は手術室に運ばれた君を殺すことだってできた。生も死も、人間の判断で与えることができるんだ。姿形のない者に運命を左右されていると考えるのはよした方がいい。不毛だよ」
「……先生は無神論者なんですね」
 憐れむような声色で鷹取はぽつりと呟く。
 神を信じられないのは、神に選ばれていないから――というのは、よく聞く勧誘の決まり文句だ。
「はは、そうだね。神がもっとデキる奴なら、僕の仕事も楽になるんだけど。君には薬を増やしてあげたほうがいいかもね」
 少々皮肉をきかせた言葉を吐いて、烏丸は再び甘い煙で肺を満たす。
「……先生はハードドラッグこっちはやらないんですか?」
「僕は植物ソフト派でね。あんまり強いと仕事に支障が出るし、ダウナー系をたまに吸うくらいでちょうどいいんだ」
 烏丸の本業は外科医だ。事故直後、病院に搬送された鷹取のオペを担当した。
 機械工学と医学、その両方を修めた烏丸は、特殊な技術で運動神経と電気回路を接続する機械式義肢を専門に扱う数少ない外科医であり、その精細で正確な技術をもって周囲から天才と謳われている。
「それより今日のヤツ、どうだった? 僕はまだ回ってるし、もうちょっと楽しまないかい?」
「でも金が……」
「じゃあこうしよう。もし君がこれからもこうして会ってくれるなら、クスリ代は僕の奢りでいいよ。それに正直なところ、身体の相性も結構良かっただろう?」
「う……はい」
 鷹取は恥じらいを髪で隠すように下を向く。伏目がちな瞳がやけに艶っぽい。
「でも……同性愛は戒律に背くことになります……」
「これは取引の延長だよ。ただ買い物をするだけだと思えばいい。その対価が貨幣じゃないだけだ」
 鷹取は一瞬烏丸を見遣り、眉尻を下げながらシーツに視線を落とす。
「信心があろうがなかろうが、この世界は犯罪だらけだし、それに比べれば大したことじゃない。人に迷惑をかけないからね。それに、罪の意識があるなら懺悔室ってやつに入ればいい。過ちなんて誰にだってあるんだから。罪を犯すのは世の中で君だけじゃない」
 烏丸はベッドサイドの引き出しから鮮やかな色付きのカプセルを取り出し、いまだ釈然としない表情で下を向く鷹取の顎を軽く掬う。
「ほら、口を開けて」
 烏丸の双眸が鷹取を捕らえる。複雑で妖艶な光を放つ瞳は、濡れた鴉の羽のように美しく、それでいて危険な魔力を孕んでいるようにも見える。まっすぐに見据えられた鷹取は操られるように易々とそれに従い、僅かに唇を開いた。
 従順な様子を見て少し、口角を上げた烏丸は、さながら食事を与える親鳥と雛のように、合成麻薬を乗せた自身の舌を鷹取の口腔内に捩じ込んだ。
 鷹取は困ったような表情をしながらも、半ば無理矢理与えられた餌を飲み込み、喉に通す。
「ちゃんと飲み込めたかい?」
 鷹取は頷き、証拠に舌を見せる。
「いい子だね」
 烏丸は鷹取の顔を覗き込み、頭を撫でた。獲物を狙うような瞳は既に鳴りを潜め、穏やかな表情を見せている。微笑みかけられた鷹取の頬が次第に赤みを帯びていく。
 
 烏丸は鷹取の肩を抱き、愛でるように髪や頬を愛撫して薬効が表れるのを待った。鷹取は下唇を少し噛んではにかみ、熱を持った視線から逃れるように下を向く。
 するとそこには先の躊躇いとは裏腹に、激しく期待を滾らせた自身の倅がしっかりと存在を主張しているではないか。鷹取は湧き上がる羞恥心から慌てた様子でそれを手で覆い隠した。
「ふふ、可愛いね……触ってもいいかな?」
 優しく尋ねる烏丸に手を除けられる。
「で、でも……あっ……」
「さっきもシたんだし、抵抗しても無駄だよ。諦めて……ね?」
 耳元で囁かれ、熱い吐息が脳を溶かす。そのまま耳朶を食まれ舌で撫でられれば、背筋が快感に戦慄き、鷹取の理性は一瞬にして陥落する。躊躇、期待、羞恥――全ての感情が綯い交ぜになり、抗う意思を奪われていく。
 唯一意識にとどまる、ひたすらに快楽を求める欲求は、密かに好意を抱く烏丸に身を委ねたい気持ちの表れか――それとも薬物による思考の侵食か。
しばらくして意識が混濁し始めた鷹取は、頭を揺らしながら横たわり、烏丸はそれに覆い被さった。
ブツブツと何かを唱える鷹取の唇に、烏丸は自らのそれを当ててやめさせる。
興奮に熱を帯びる二人の体温が、金属製の脚に伝導する。二人は本能の赴くまま、憑かれたように夜通し体温を奪い合ったのだった。
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