Psychedelic bless you.

ぬるめのおゆ。

文字の大きさ
6 / 19

chapter2_01

しおりを挟む
 こうして二人の爛れた関係が始まったきっかけは、鷹取が退院し、経過観察で定期的な通院に切り替わった頃に遡る。

 鷹取は事故のトラウマで精神が脆弱になっており、退院後しばらく経っても社会復帰が叶わずにいた。PTSDによる頻回なフラッシュバックで鬱を併発し、家から出る気力すら湧かない日々が続いていた。
 通院費用は航空会社が支払っているが、生活費は最初に一括で支払われた賠償金に頼り切っている。死亡した乗客の遺族には相当な金額が提示されたようだが、幸か不幸か命だけは免れた鷹取に関しては、病院にかかるすべての費用と数百万円程度の支払いということになった。
 尤も、生身の足と同等の機動性を誇る高性能な機械式の義足を手に入れられたのは、医療費の全額負担に肖った結果であるのだが。
 
 事故の直後、ニュースを見た父が病院に駆けつけ、実家に戻って来て療養するのはどうかと提案してきた。
 鷹取は帰る家もなかったためそれに従ったが、しばらく会わない内に父と継母との間には二人目の子供ができていた。
 加えて、鷹取の部屋は幼児向けの玩具に埋もれ、もはや他人の家のようだった。机に飾ってあった実母の写真は、子供が成長してきて混乱するという理由で、押し入れにしまい込まれていた。
「上の子を私立の学校にいれたいのよ」
「そんな金うちにはないよ」
「ない事もないでしょう?」
 継母はその言動から、子供二人を養うために鷹取の賠償金をあてにしているのが見て取れた。
父がそれを決して許さなかったのはせめてもの救いだった。
 
 結局数週間で実家を出た鷹取は、BEAKの区内でも群を抜いて安い物件に居を構えたが、急速なインフレも重なり、賠償金の残高は溶けるように減る。
 想定より社会復帰が困難であった為、次第に鷹取の生活は劣化の様相を呈し始めた。
 生活と言えるほど真っ当な水準を保つのが難しくなり、水道は出るものの、電気はほとんど使わず、ガスは節約のために契約を止めた。
 夜は何かをするでもなく、暗い部屋で一人うずくまってやり過ごした。皮肉にも睡眠障害で夜が深くなっても眠れず、鷹取は日々暗く永い時間を持て余した。
 それでも雑居ビルが隙間なく並ぶこのエリアでは、周囲の建物がサイケデリックな色彩を放つネオンに彩られ、それらが月明かりを凌いで部屋を照らしているおかげでさほど不自由でもなかったのだが。
 豊かな色彩のネオンが陽光と入れ替わりに消灯する頃、睡魔が来るというよりは体力が限界に達し、気絶するように眠りにつくという体たらくであった。
 最初は三食摂っていた食事も回数を減らし、ボランティアによる貧民層への炊き出しで食費を浮かせた。
 十分な光のない生活と不摂生は、より一層精神を蝕んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

朔望大学医学部付属病院/ White Dictator

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
White Dictator______通称:『白衣の独裁者』 <ホワイト・ディクテイター> ⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯ 圧倒的な「実力」と「技術」で捩じ伏せ・現場を支配する凄腕たち。 ___ ごく僅かな一瞬の隙も逃さない神手の集まり。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

BL短編まとめ(現) ①

よしゆき
BL
BL短編まとめ。 冒頭にあらすじがあります。

BL短編

水無月
BL
兄弟や幼馴染物に偏りがちです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

BL短編集

田舎
BL
タイトル通り。Xくんで呟いたショートストーリーを加筆&修正して短編にしたやつの置き場。 ※こちらは激しい描写や♡描写のない作品となります。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

処理中です...