Psychedelic bless you.

ぬるめのおゆ。

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chapter2_01

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 ある日、鷹取は午前中の定期診療の為、珍しく朝から外出の準備をしていた。
 とは言え清々しい朝とは程遠く、寝坊を回避するため一睡もせず、眼窩には化粧でもしたのかと思うほど濃い隈を作っていた。当然のごとく朝食は摂っていない。
 睡魔に勝てず、気力も湧かず、過去に何度も診療予約をキャンセルしてきたが、今回は処方薬が切れそうになっていたため何とか玄関のドアを開けた。精神を患ってからというもの、家の外に一歩出るのにも相当な気力が必要になっていた。久しぶりに見る太陽が鷹取の体からエネルギーを吸い取って輝いているように感じられ、ひどく憎らしい。

「やぁ、鷹取くん。調子はどうかな?」
 診察室に淀んだ空気を運んで来た鷹取に対し、爽やかな笑顔を向けるのは主治医の烏丸だ。
 笑顔が眩しいとはまさにこの事である。鷹取は直視できずに伏目がちに答えた。
「脚は大丈夫です……たまに痛いけど……」
「ふむ、気分の方はどうだい?」
「あまり良くならなくて……ごめんなさい」
 鷹取はいつまで経っても塞ぎ込んでいる自身の心の弱さを不甲斐なく感じ、語尾に謝罪が付くことが多くなった。
「はは、謝る必要なんてないんだよ? 誰も悪くないんだから。薬の方はまだ残ってるかい?」
「いえ……今週中になくなりそうです」
「じゃあ今回も鎮痛剤と向精神薬を出しておくから、必要な時に飲むようにね」
「はい……ありがとうございます」
「うん、じゃあまた再来月にね。お大事に」
 烏丸はモニターに視線を移し、キーボードを叩いてカルテを入力する。
「あ、そうだ」
「?」
「これは僕の個人的な見解だけど……今の君に必要なのは現実的で具体的な解決策を出せる人間じゃないかと思うんだ。教会に行くのもいいけど、神様よりは人間の繋がりの方が役に立つこともあるよ。何かあったら話を聞くから。連絡先は前に渡したよね? 遠慮せずに言ってよ」
「……はい……」
 鷹取は最低限の言葉を吐いて診察室を後にした。
 烏丸の心遣いは有難かったが、今の鷹取には何をどう励まされても心に響くものはなかった。

 病院を出た鷹取は、食事にありつくため炊き出しへと向かう。
 簡素なスープとパン、チーズを貰い、時間をかけて大切に味わいながら空の胃に入れる。パンは半分にちぎり、残りは夜に食べるため持ち帰ることにした。
 何とか外出できた日は決まってBEAKの区内にある教会に向かい、神に祈りを捧げる。
 小さく質素な作りの教会は荘厳とは言い難いが、聖なる空間、聖なる時間に身を置くことで、自身を苛む全ての事象から守られているような気分になれた。
 鷹取は最前列の長椅子に座ると、陰鬱な気分を祓うように溜息をひとつ吐き出した。祭壇の宗教画に鎮座する神に見据えられ、鷹取の心は俄かに凪ぐ。
 少しクリアになった鷹取の脳は、ふと先の烏丸の一言を思い出させた。
――神様よりは人間の繋がりの方が役に立つ
 鷹取はかぶりを振る。誰も過去を消してはくれない。人間にそんな力はないのだ。
 そしてもう一度、絵画の中の神に向き直る。
 するとどうだろう。先ほどと全く同じものを見ているにも関わらず、今度はどこか突き放されているような、ひどく冷ややかな表情をしている――ように見えた。
 鷹取はいたたまれなくなり、祭壇から視線を外す。
 雑念を抱いている所為だと自らに言い聞かせ、鷹取は少し足早に教会の門を出たのだった。
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