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chapter2_08
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「さあ、腹も満たされたし、そろそろ本題に入ろうか」
テーブルの上で手を組んで、何か試すような表情で自身を見つめる烏丸を見て、鷹取はようやくこの場違いな空気に身を置いている本来の理由を思い出した。
鷹取は腹を括り、いくら高額を提示されても烏丸の言い値で買うことに決めていた。ここまで至れり尽くせりと面倒を見てもらっておいて、金が無いから買わないというのはあまりにも礼を欠いているだろう。
むしろそれが狙いだろうか。いずれにせよ、鷹取に選択肢は無い。
「とりあえず一回試してみるんだったね。僕も一服したいから、寝室に行こう」
烏丸に連れられて寝室にやってきた鷹取は、ベッドに座るよう促される。壁掛けテレビの前に設えられたベッドは、ホテルのものと遜色なく美しく整えられていた。
鷹取は自身が座ることでシーツに皺を刻むのが忍びなく、尻が辛うじて乗る程度に浅く座る。どうやらダブルサイズを一人で使っているらしい。
烏丸はサイドチェストの鍵を開けると、手慣れた様子で乾燥した葉を取り出し、紙で巻き始めた。火をつけたそれを咥えながら、鷹取の隣に深く腰掛ける。優しく沈み込むマットレスに合わせて、鷹取は自身の体が少し揺れるのを感じた。
「こっちは吸うかい?」
烏丸はジョイントを差し出し、煙を吐き出しながら問う。独特の甘い香りが鼻腔を掠める。その香りだけでも一瞬で酩酊してしまいそうだった。なるほど、質は確からしい。
「あ……いえ、大丈夫です……」
「そうかい? じゃあ、これ」
烏丸は貧民街の路地裏で見せた色鮮やかなカプセルを鷹取に手渡す。鷹取はそれを受け取ると、すぐさま口に含んだ。
早く試したい――と言うよりも、自身と不釣り合いなこの現実からの逃避をカプセルに託して飲み込む。
「気に入ってくれるといいけど」
鷹取の妙な緊張感を他所に、烏丸は終始リラックスした様子で微笑みながら鷹取を見つめていた。
服用後ほどなくして、鷹取は長らく望んでいた効果を得る。幻覚が見せる神と思しき存在との邂逅である。初めて薬物に手を染めたあの日以来だった。
光の宿らない虚ろな瞳で宙を見つめ、頻りに十字を切る。静寂に包まれた部屋の中に、いつのまにか降り始めた雨の音と、鷹取が唱える祈りの言葉が響いた。
煙を吸入して酩酊した烏丸は、その様子をどこか興奮した様子で眺めていた。
「薬物が見せる偽りの神に祈るなんて、なんだか冒涜的でいいね……すごくいい……」
烏丸の言葉は鷹取に届いていないようだった。
祈りの言葉が途切れた刹那、鷹取の体が大きく傾き、烏丸はそれを支えるように鷹取の肩を抱いた。
「もっと神に背く君を見てみたいな……背徳的で罪深い君を」
鷹取のバスローブの下に見える胸元のタトゥーが、烏丸の情欲を一層加速させる。
鷹取の顎を掬いあげた烏丸は、微かな笑みを浮かべて鷹取の唇に吸い付いた。抵抗する余力がないのか、それとも受け入れているのか――だらしなく開いた鷹取の口元は、あっさりと舌の侵入を許した。
雨音が強くなり、テレビの砂嵐のようなノイズになって部屋を満たす。そのノイズの中で、舌を絡ませる淫靡な音だけがやけに鮮明に二人の鼓膜に届いていた。
窓に打ちつける雨粒が遠くに光るネオンの色彩を滲ませた夜、二人の奇異な関係は始まった。
テーブルの上で手を組んで、何か試すような表情で自身を見つめる烏丸を見て、鷹取はようやくこの場違いな空気に身を置いている本来の理由を思い出した。
鷹取は腹を括り、いくら高額を提示されても烏丸の言い値で買うことに決めていた。ここまで至れり尽くせりと面倒を見てもらっておいて、金が無いから買わないというのはあまりにも礼を欠いているだろう。
むしろそれが狙いだろうか。いずれにせよ、鷹取に選択肢は無い。
「とりあえず一回試してみるんだったね。僕も一服したいから、寝室に行こう」
烏丸に連れられて寝室にやってきた鷹取は、ベッドに座るよう促される。壁掛けテレビの前に設えられたベッドは、ホテルのものと遜色なく美しく整えられていた。
鷹取は自身が座ることでシーツに皺を刻むのが忍びなく、尻が辛うじて乗る程度に浅く座る。どうやらダブルサイズを一人で使っているらしい。
烏丸はサイドチェストの鍵を開けると、手慣れた様子で乾燥した葉を取り出し、紙で巻き始めた。火をつけたそれを咥えながら、鷹取の隣に深く腰掛ける。優しく沈み込むマットレスに合わせて、鷹取は自身の体が少し揺れるのを感じた。
「こっちは吸うかい?」
烏丸はジョイントを差し出し、煙を吐き出しながら問う。独特の甘い香りが鼻腔を掠める。その香りだけでも一瞬で酩酊してしまいそうだった。なるほど、質は確からしい。
「あ……いえ、大丈夫です……」
「そうかい? じゃあ、これ」
烏丸は貧民街の路地裏で見せた色鮮やかなカプセルを鷹取に手渡す。鷹取はそれを受け取ると、すぐさま口に含んだ。
早く試したい――と言うよりも、自身と不釣り合いなこの現実からの逃避をカプセルに託して飲み込む。
「気に入ってくれるといいけど」
鷹取の妙な緊張感を他所に、烏丸は終始リラックスした様子で微笑みながら鷹取を見つめていた。
服用後ほどなくして、鷹取は長らく望んでいた効果を得る。幻覚が見せる神と思しき存在との邂逅である。初めて薬物に手を染めたあの日以来だった。
光の宿らない虚ろな瞳で宙を見つめ、頻りに十字を切る。静寂に包まれた部屋の中に、いつのまにか降り始めた雨の音と、鷹取が唱える祈りの言葉が響いた。
煙を吸入して酩酊した烏丸は、その様子をどこか興奮した様子で眺めていた。
「薬物が見せる偽りの神に祈るなんて、なんだか冒涜的でいいね……すごくいい……」
烏丸の言葉は鷹取に届いていないようだった。
祈りの言葉が途切れた刹那、鷹取の体が大きく傾き、烏丸はそれを支えるように鷹取の肩を抱いた。
「もっと神に背く君を見てみたいな……背徳的で罪深い君を」
鷹取のバスローブの下に見える胸元のタトゥーが、烏丸の情欲を一層加速させる。
鷹取の顎を掬いあげた烏丸は、微かな笑みを浮かべて鷹取の唇に吸い付いた。抵抗する余力がないのか、それとも受け入れているのか――だらしなく開いた鷹取の口元は、あっさりと舌の侵入を許した。
雨音が強くなり、テレビの砂嵐のようなノイズになって部屋を満たす。そのノイズの中で、舌を絡ませる淫靡な音だけがやけに鮮明に二人の鼓膜に届いていた。
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