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最終話
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「こっちの片づけは終わりました」
「こっちはもう少しで終わる」
三年近く住んでいたマンションから退去し、綾瀬は新しいところに引っ越した。まだ見慣れない部屋に、ダンボールがいくつか積み上げられている。
手伝いに来た須加には、キッチンの片づけを任せた。全く自炊しない綾瀬より、恋人の食事管理に意気込んでいる彼のほうが適任だ。
「ちょっと休憩しましょう」
服をクローゼットに入れてから、居間へ戻る。食卓に淹れ立ての紅茶といちごショートケーキが置いてある。
新しい家の雰囲気に合わせて一緒に選んだウッディな食卓を、いざ家に置いてみるとどこか不思議に見える。
食卓も、須加〈恋人〉の存在も、自分とは一生縁がないと思っていた。
須加の真向かいに腰をかけ、あたたかい紅茶をひと口。
この不思議な気分は、いつになったら慣れるのだろう。
須加がここにいるのが当たり前だと思えるようになりたい。けれど、この瞬間は奇跡に等しいと思う今の気持ちも大切にしたい。
「早く先輩と一緒に住みたいな」
情事の最中に、須加はしつこいほど名前で呼んできたのに、終わるとまた「先輩」に戻った。
理由を訊くと、頬を染めながら「今しか呼べないから」とわけがわからないことを言う。
綾瀬は別にどっちでもよかったが、キスする前に急に「理人」と呼ばれると、肌を重ねたときの感触が蘇って落ち着かなくなる。
先輩呼びをもう少し続けてもらうか。慣れるためさっさと名前呼びに切り替えてもらったほうがいいのか。迷うところだ。
須加との関係を、叔母と須加の家族に打ち明けた。心配されたけど、反対はされなかった。新居を探す際に、ゆくゆくは一緒に住みたいとも伝えておいた。
「あと二年だな。卒業までの我慢だ」
「二年か……楽しみです」
マグカップにくちびるをつけてひと口。須加は眼を輝かせて近い未来を想像する。
「引っ越しってなんかいいですね」
「そう?」
須加はケーキを口へ運ぶ。
「この先いいことがたくさん待ってるって感じがしません?」
首を傾げ、綾瀬は思い返してみた。
はじめての引っ越しは、理香子が亡くなり、叔母に引き取られたときだった。
二度目は叔母の家を出ると決めたとき。
どっちも決していい思い出とは言えないし、未来に対する期待なんてない。現実を恐れ、すべてを諦め、ただひとりになりたかった。
でも今は、たしかにそうかもと思えた。
この家で須加とこうして食卓を囲み、他愛もない話をする――この瞬間が未来へと続いていく。
大人になっても一緒にいる風景を思い描いてみると、心があたたかくなった。
「先輩もケーキを食べてみて」
ひと口サイズに切ったケーキをフォークにのせ、口へ運ぶ。
ふわふわとしたクリーム、やわらかいスポンジケーキ。
味がわからない。
でも、須加は幸せそうに食べているから、きっと美味しい。
美味しいとはどんな味なのか。
思い出そうとすると、須加とのキスが脳裏に浮かんだ。ちょっぴり恥ずかしさが入り混じった、幸せな気持ちになった。
おわり
----------------------
ここまでお読みいただきありがとうございます
人生はじめてのオリジナルBL……どうしてかケーキバースに挑戦してみました
少しでも楽しんでいただけると幸いです!
一言コメントでも、♡だけでも、なにかいただけたら飛び跳ねるほどうれしいです
まだ使い慣れてないが、Xはこちら@tachibaya3030です
基本まったり更新。またお会いすることができたらうれしいです~
「こっちはもう少しで終わる」
三年近く住んでいたマンションから退去し、綾瀬は新しいところに引っ越した。まだ見慣れない部屋に、ダンボールがいくつか積み上げられている。
手伝いに来た須加には、キッチンの片づけを任せた。全く自炊しない綾瀬より、恋人の食事管理に意気込んでいる彼のほうが適任だ。
「ちょっと休憩しましょう」
服をクローゼットに入れてから、居間へ戻る。食卓に淹れ立ての紅茶といちごショートケーキが置いてある。
新しい家の雰囲気に合わせて一緒に選んだウッディな食卓を、いざ家に置いてみるとどこか不思議に見える。
食卓も、須加〈恋人〉の存在も、自分とは一生縁がないと思っていた。
須加の真向かいに腰をかけ、あたたかい紅茶をひと口。
この不思議な気分は、いつになったら慣れるのだろう。
須加がここにいるのが当たり前だと思えるようになりたい。けれど、この瞬間は奇跡に等しいと思う今の気持ちも大切にしたい。
「早く先輩と一緒に住みたいな」
情事の最中に、須加はしつこいほど名前で呼んできたのに、終わるとまた「先輩」に戻った。
理由を訊くと、頬を染めながら「今しか呼べないから」とわけがわからないことを言う。
綾瀬は別にどっちでもよかったが、キスする前に急に「理人」と呼ばれると、肌を重ねたときの感触が蘇って落ち着かなくなる。
先輩呼びをもう少し続けてもらうか。慣れるためさっさと名前呼びに切り替えてもらったほうがいいのか。迷うところだ。
須加との関係を、叔母と須加の家族に打ち明けた。心配されたけど、反対はされなかった。新居を探す際に、ゆくゆくは一緒に住みたいとも伝えておいた。
「あと二年だな。卒業までの我慢だ」
「二年か……楽しみです」
マグカップにくちびるをつけてひと口。須加は眼を輝かせて近い未来を想像する。
「引っ越しってなんかいいですね」
「そう?」
須加はケーキを口へ運ぶ。
「この先いいことがたくさん待ってるって感じがしません?」
首を傾げ、綾瀬は思い返してみた。
はじめての引っ越しは、理香子が亡くなり、叔母に引き取られたときだった。
二度目は叔母の家を出ると決めたとき。
どっちも決していい思い出とは言えないし、未来に対する期待なんてない。現実を恐れ、すべてを諦め、ただひとりになりたかった。
でも今は、たしかにそうかもと思えた。
この家で須加とこうして食卓を囲み、他愛もない話をする――この瞬間が未来へと続いていく。
大人になっても一緒にいる風景を思い描いてみると、心があたたかくなった。
「先輩もケーキを食べてみて」
ひと口サイズに切ったケーキをフォークにのせ、口へ運ぶ。
ふわふわとしたクリーム、やわらかいスポンジケーキ。
味がわからない。
でも、須加は幸せそうに食べているから、きっと美味しい。
美味しいとはどんな味なのか。
思い出そうとすると、須加とのキスが脳裏に浮かんだ。ちょっぴり恥ずかしさが入り混じった、幸せな気持ちになった。
おわり
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ここまでお読みいただきありがとうございます
人生はじめてのオリジナルBL……どうしてかケーキバースに挑戦してみました
少しでも楽しんでいただけると幸いです!
一言コメントでも、♡だけでも、なにかいただけたら飛び跳ねるほどうれしいです
まだ使い慣れてないが、Xはこちら@tachibaya3030です
基本まったり更新。またお会いすることができたらうれしいです~
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