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第5章 港町の祭り
第39話
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「ゴブ~! よっと!」
ミュラがノルンの背中から軽やかに飛び降りた。
そして、呆然と立ち尽くしていた俺の傍へ駆け寄って来る。
「ねえねえ! パレードみた!? おうまさん、ぴかぴかひかってたよ! けがきんいろで、ひかって、すっごくすっごくきれいだった! ほんとうに、すごいんだよ! あ、あっちのたいこのおともすごいね! ずんずんってからだにひびいて、へんなかんじ! きゃははははっ!」
ミュラは興奮のあまり両手を叩き、小さく跳ねながら笑っている。
『……』
俺はそんなミュラから、俺達の傍まで歩いて来たノルンへと視線を移した。
「ゴブ君が見つかって良かったです」
ノルンはその視線に気付き、しゃがみ込んで膝を曲げて、俺の目線に合わせてくれた。
その顔は安堵している様だった。
「……ノルンさん……どういう 事?」
「私はギルドの依頼で、祭りの警備に来ていたんです。人が多く集まる場では揉め事や盗難が起きやすいですからね。で、その巡回中に......パレードを見て、はしゃいでいるミュラちゃんを見かけた訳です」
ノルンの横で、ミュラがまた声を弾ませる。
「ほらほら! ゴブ! あのひとたちのふく、すごくきれい! まるで、おひめさまみたい! うわぁぁ! きらきらして……ミュラも、あんなのきたいな~!」
小さな手をぱたぱたと振り回し、目を輝かせて飛び跳ねる。
「周囲を見渡しても、コヨミやあなたの姿が見えなかった為、声をかけました。すると、ミュラちゃんもあなた達がいない事に気が付いて、2人を探していたわけです」
「……そう……か……」
本当にノルンが声をかけてくれて良かった。
最悪の事態は防げた。
「あっ! ゴブ! あれ、みて!」
ミュラは次から次へと声をあげた。
指をさす先には、鮮やかな衣装をまとった踊り子たちが華麗に舞っていた。
「あのおどっているひとすごい! まるではねがはえてるみたいに、くるくるまわって、たかくジャンプしてる! わぁ!! ……ゴブ、あそこも! あれはなんいうどうぶ――」
「――っ! 離れるな! そう 言っただろ!!」
怒鳴り声が、自分でも驚くほど大きく響いた。
その瞬間、ミュラの言葉は途中で止まり、体がびくりと震える。
瞳が大きく見開かれ、小さく唇が震える。
「…………ゴ、ゴブ……?」
俺の怒鳴り声に驚いたのか、ミュラが震えた声を出した。
しかし、俺の口は止まらない。
「言った だろ! 離れるな って! 危険 だろ! このまま 迷う どうなるか わかってる のか!? また 人さらい 連れていかれる どうする!」
祭りのざわめきが途切れ、人々が立ち止まる。
俺達の周辺の空気だけが凍り付いていく。
「お、おい……何があったんだ?」
「すごい大声だったが……」
「喧嘩か?」
好奇と困惑の入り混じった声が、ざわざわと広がる。
「…………あっ! ……えと……だ、大丈夫です! 問題ありませんから! もう解決したので!」
ノルンが慌てて周囲にむかって声を張った。
両手を振って取り繕うその姿に、さらに視線が集まってしまう。
ノルンの表情は笑みを浮かべているが、額には薄く汗が滲み、必死に場を収めようとしているのが分かった。
「あの……ゴブ君、感情的になっては駄目です。一度落ち着いて……」
ノルンが小さく囁くように声を掛けて来た。
けれど、今の俺の耳には入らない。
「俺 コヨミさん ナナ ターン カル 必死 探してた! みんな みんな お前 探してたんだ! なのに そんな……っ心配 させるな! わかったか!? ……はあ……はあ……はあ……はあ……」
一気に言葉を吐き出し、俺の息が荒くなる。
「……う……うう……」
ミュラの肩が小さく震え、嗚咽がもれた。
そして……。
「うわあああああああああああああああああああああっ!!」
張り裂けそうなミュラの泣き声が響いた。
綺麗な黄色の瞳から、ボロボロと大粒の涙があふれ出て来る。
涙は途切れることなく頬を伝い、地面へと落ちていく。
「ああああああああああああああああああああっ!!」
「……」
俺は、ただただ泣いているミュラを見ているしかなかった。
『……ああ……あの時の母さんも……こんな……』
俺が子供頃、ミュラと同じ様に祭りで迷子になったことがある。
ミュラとは違い、俺の場合は射的がやりたくてするすると人の間をすり抜け、射的屋へと向かった。
だが、一緒に来ていた両親はそう簡単に人の間をすり抜ける事なんて出来ない。
制止の声も聞かなかったせいで、両親と離ればなれになってしまった。
だが、俺は射的の事で頭がいっぱいで、自分が迷子になっていた事も気付かなかった。
射的屋の前で、両親が来るのをワクワクしながら待っていた。
どのくらい待ったのかは覚えていない。
両親がやっと射的屋の前まで来て、俺が喜んで近づいたら……。
「止まりなさいって言ったでしょ! どうして先に行っちゃうの!? ママもパパも心配したのよ! ちゃんと言う事を聞きなさい!! 本当に心配したんだから!!」
と、怒鳴って叱られた。
ミュラ同様、怒られた事に俺も大泣きしてしまった。
ミュラが見つかったのは嬉しい……嬉しいのだが、素直に喜べない。
怒りと安心がごちゃ混ぜになって、頭ん中グチャグチャだ。
泣きたいのか笑いたいのか、自分でもわからない。
……あの時の母さんも、きっと今の俺と同じ気持ちだったかもしれない。
ミュラがノルンの背中から軽やかに飛び降りた。
そして、呆然と立ち尽くしていた俺の傍へ駆け寄って来る。
「ねえねえ! パレードみた!? おうまさん、ぴかぴかひかってたよ! けがきんいろで、ひかって、すっごくすっごくきれいだった! ほんとうに、すごいんだよ! あ、あっちのたいこのおともすごいね! ずんずんってからだにひびいて、へんなかんじ! きゃははははっ!」
ミュラは興奮のあまり両手を叩き、小さく跳ねながら笑っている。
『……』
俺はそんなミュラから、俺達の傍まで歩いて来たノルンへと視線を移した。
「ゴブ君が見つかって良かったです」
ノルンはその視線に気付き、しゃがみ込んで膝を曲げて、俺の目線に合わせてくれた。
その顔は安堵している様だった。
「……ノルンさん……どういう 事?」
「私はギルドの依頼で、祭りの警備に来ていたんです。人が多く集まる場では揉め事や盗難が起きやすいですからね。で、その巡回中に......パレードを見て、はしゃいでいるミュラちゃんを見かけた訳です」
ノルンの横で、ミュラがまた声を弾ませる。
「ほらほら! ゴブ! あのひとたちのふく、すごくきれい! まるで、おひめさまみたい! うわぁぁ! きらきらして……ミュラも、あんなのきたいな~!」
小さな手をぱたぱたと振り回し、目を輝かせて飛び跳ねる。
「周囲を見渡しても、コヨミやあなたの姿が見えなかった為、声をかけました。すると、ミュラちゃんもあなた達がいない事に気が付いて、2人を探していたわけです」
「……そう……か……」
本当にノルンが声をかけてくれて良かった。
最悪の事態は防げた。
「あっ! ゴブ! あれ、みて!」
ミュラは次から次へと声をあげた。
指をさす先には、鮮やかな衣装をまとった踊り子たちが華麗に舞っていた。
「あのおどっているひとすごい! まるではねがはえてるみたいに、くるくるまわって、たかくジャンプしてる! わぁ!! ……ゴブ、あそこも! あれはなんいうどうぶ――」
「――っ! 離れるな! そう 言っただろ!!」
怒鳴り声が、自分でも驚くほど大きく響いた。
その瞬間、ミュラの言葉は途中で止まり、体がびくりと震える。
瞳が大きく見開かれ、小さく唇が震える。
「…………ゴ、ゴブ……?」
俺の怒鳴り声に驚いたのか、ミュラが震えた声を出した。
しかし、俺の口は止まらない。
「言った だろ! 離れるな って! 危険 だろ! このまま 迷う どうなるか わかってる のか!? また 人さらい 連れていかれる どうする!」
祭りのざわめきが途切れ、人々が立ち止まる。
俺達の周辺の空気だけが凍り付いていく。
「お、おい……何があったんだ?」
「すごい大声だったが……」
「喧嘩か?」
好奇と困惑の入り混じった声が、ざわざわと広がる。
「…………あっ! ……えと……だ、大丈夫です! 問題ありませんから! もう解決したので!」
ノルンが慌てて周囲にむかって声を張った。
両手を振って取り繕うその姿に、さらに視線が集まってしまう。
ノルンの表情は笑みを浮かべているが、額には薄く汗が滲み、必死に場を収めようとしているのが分かった。
「あの……ゴブ君、感情的になっては駄目です。一度落ち着いて……」
ノルンが小さく囁くように声を掛けて来た。
けれど、今の俺の耳には入らない。
「俺 コヨミさん ナナ ターン カル 必死 探してた! みんな みんな お前 探してたんだ! なのに そんな……っ心配 させるな! わかったか!? ……はあ……はあ……はあ……はあ……」
一気に言葉を吐き出し、俺の息が荒くなる。
「……う……うう……」
ミュラの肩が小さく震え、嗚咽がもれた。
そして……。
「うわあああああああああああああああああああああっ!!」
張り裂けそうなミュラの泣き声が響いた。
綺麗な黄色の瞳から、ボロボロと大粒の涙があふれ出て来る。
涙は途切れることなく頬を伝い、地面へと落ちていく。
「ああああああああああああああああああああっ!!」
「……」
俺は、ただただ泣いているミュラを見ているしかなかった。
『……ああ……あの時の母さんも……こんな……』
俺が子供頃、ミュラと同じ様に祭りで迷子になったことがある。
ミュラとは違い、俺の場合は射的がやりたくてするすると人の間をすり抜け、射的屋へと向かった。
だが、一緒に来ていた両親はそう簡単に人の間をすり抜ける事なんて出来ない。
制止の声も聞かなかったせいで、両親と離ればなれになってしまった。
だが、俺は射的の事で頭がいっぱいで、自分が迷子になっていた事も気付かなかった。
射的屋の前で、両親が来るのをワクワクしながら待っていた。
どのくらい待ったのかは覚えていない。
両親がやっと射的屋の前まで来て、俺が喜んで近づいたら……。
「止まりなさいって言ったでしょ! どうして先に行っちゃうの!? ママもパパも心配したのよ! ちゃんと言う事を聞きなさい!! 本当に心配したんだから!!」
と、怒鳴って叱られた。
ミュラ同様、怒られた事に俺も大泣きしてしまった。
ミュラが見つかったのは嬉しい……嬉しいのだが、素直に喜べない。
怒りと安心がごちゃ混ぜになって、頭ん中グチャグチャだ。
泣きたいのか笑いたいのか、自分でもわからない。
……あの時の母さんも、きっと今の俺と同じ気持ちだったかもしれない。
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