ゴブめし!~ゴブリン料理の隠し味は異世界転生者~

コル

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第6章 ミュラの病気

第43話

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 陽気な日差しが窓から差し込む穏やかな正午。
 俺とミュラは閉まった食堂の中で、コヨミの帰りを待っていた。

「こうして~ここをこう~」

 コヨミは副業である薬師の仕事で外に出かけている。
 この時間、特にする事がない俺は食料保存庫で薬草の味見、ミュラは席で絵をかいていた。

「ここを~ぬ~り、ぬ~り……できたっ!」

 ミュラが椅子から飛び降り、俺の居る部屋へと入って来た。

「ゴブ! みてみて!」

 ミュラが紙を広げて俺に見せる。
 そこには緑色、青色、栗色で描かれた人が3人。
 そして、その後ろにはカラフルな点線が放射線状に並んでいた。
 俺は絵をしばらく見つめ、答えにたどり着いた。

「……この前 花火 か?」

「そう! ミュラとゴブとコヨミおねぇちゃんとはなび! おもいでに、のこしておくんだ!」

 満足そうにミュラが絵を見つめた。
 俺の世界の思い出の残し方は主にカメラだ。
 動画や写真で思い出が残せる。
 だが、こういう思い出の残し方もいいな。

「……ところでさ、ゴブ」

「何 だ?」

「ひまがあると、いつもこのへやにいくけど、そんなにおもしろいの?」

「面白い と言うか なんと いうか……」

 何とも説明しづらい。
 俺にとっては、現世界の味が出せる可能性があるから面白いが……ミュラからすればそう見えないよな。

 返事に困っていると、食堂の扉の開く音が聞こえて来た。

「ただいま~っス」

 コヨミが帰ってきたようだ。

「あ、おかえり~。コヨミおねぇちゃん! これみて~」

 ミュラが絵を手にして食料保存庫から出て行く。
 俺も薬草を棚に戻し、外に出た。

「お~うまく描けたっスね。精霊達が魔法を使っている絵っスか」

「え?」

「え?」

 2人は絵を見て首をかしげていた。

「おか えり……ん? スンスン......」

 コヨミの手には、小さな布包みが抱えていた。
 その包みから、ふわりと甘い香りが漂っている。

「何 それ?」

 俺が訊くと、コヨミは嬉しそうに包みを広げた。

「ふっふふ……今日行ってきた村、小麦が名産でそこで作られているパンを買って来たっス! なんとふわふわなんっスよ!」

 中には金色の丸いパンがいくつも並んでいた。

「わ~! おししそう~!」

「ほう……これは いい物 見つけたな」

 こっちの世界でも、ふわふわのパンがあったのか。
 唐揚げみたいに地域で異なるかもな。

「たべていい!?」

「良いっスけど……どうせなら、ゴブくんがもっとおいしくしてくれるかもっス」

「え?」

「そっか! ゴブ! おいしいのつくって!」

 おいしいのを作ってって……そんな雑な注文をしないでくれよ。
 そもそも、このパンの味自体わからないのに。

「ちょっと 味見 する」

 パンの端部分を千切り、口へと入れる。

『もぐもぐ……ふむ』

 食パンにかなり近いな。
 これなら、サンドイッチ……は、いつも通り過ぎるか。
 どうせなら、もうちょっと手をくわえたものにしたいな。
 となると…………よし、アレを作るか。


 用意する物はパンの他に卵、牛乳、砂糖、バターっと。

「作る ぞ」

「「お~」」

 まずパンを輪切りにする。
 器に卵1個を割り入れてほぐして、牛乳100cc、砂糖大さじ1の量を入れてさらに混ぜる。
 出来た卵液にパンを浸して、10分ほどつけておく。

「……」

「ん?」

 ミュラはジッと卵液に浸かっているパンを見つめていた。

「どう した?」

「それ、べちゃべちゃにならない? ミュラ、べちゃべちゃのパンは……」

「大丈夫 安心 する」

 むしろ、出来上がりはその逆になるな。

「ほんとに~?」

 ミュラが疑いの目で俺を見て来る。
 そんな目を無視して、続き続きっと。

 パンが十分漬けたら、フライパンの準備。
 フライパンに火をかけ、バターを落とす。
 溶けたバターの上に、卵液を吸ったパンをそっと置いて行く。
 すると、甘い匂いが食堂に広がった。

「……わあ、いい香りっス」

「うん……すっごくあまいにおいだ~」

 表面がこんがりと焼け、きつね色に変わっていく。
 焼き色がついたら裏返し、蓋をして弱火で3分程焼く。
 両面に焼き色がついたら火から下ろす。

 焼けたパンを皿に盛り、本来なら粉砂糖を軽く振りたいところだけど、ここは普通の砂糖をパラパラとかけて、仕上げに蜂蜜をパンの上にとろりとかければ……。

「フレンチ トースト 完成だ」

「「おお~!」」

 それぞれが皿を手に取り、席へと座る。
 ミュラがトーストにナイフを入れ、フォークに刺して口へと運んだ。

「……はむ……もぐもぐ......ん~! あま~い! べちゃべちゃしてない!」

 ミュラが両手を自分の頬にあてる。

「もぐもぐ......うん、外は少しカリッとしてるのに、中がとろけるように甘いっス。蜂蜜の香りも広がって、たまらないっスね」

 好評のようだな。
 よし、俺も食べよう。

『はむ……モグモグ……うん、この味も懐かしい』

 外はこんがりと香ばしく、内はふんわりと柔らかい。
 ほんのりとした甘さが口の中に広がる風味......我ながら、うまくできたぞ。

「モグモグ……ん?」

 いつもなら、すぐ完食するはずのミュラ。
 しかし、皿の上にはまだ半分くらいフレンチトーストが残っていた。

「どう した? お腹 いっぱいか?」

 俺が声をかけると、ミュラは首を振る。

「ううん……でも……なんか......からだ......へん......」

「変?」

 コヨミが不思議そうにミュラを覗き込んだ瞬間、表情が変わった。

「ミュラちゃん、顔が赤いっスよ!」

「ほへ?」

 コヨミはさっと手を伸ばし、ミュラの額に触れた。

「……やっぱり、熱があるっス。今日はもう寝た方がいいっス」

「え、だいじょうぶだよ。ミュラ、げんき――」

 と言いかけた瞬間、ミュラの頭がぐらりと前に倒れそうになる。

「おっと!」

 コヨミが慌ててミュラを支える。

「これのどこが元気っスか。ちゃんと寝なきゃ駄目っスよ」

「でも……ごはん……が……」

「また 作る。今は 寝る」

「……うん……わかった……」

 コヨミがすぐに2階の部屋と行き、俺はミュラを背負って運んだ。

「ありがと……ごめんね……」

「気に するな」

 部屋に入り、ミュラをベッドに寝かせ布団をかける。
 ミュラは目を閉じて静かに息を吐いた。
 コヨミがもう一度ミュラの額に当て、優しく声をかけた。

「多分、風邪と思うっスけど……ちょっと様子を見て、その後お薬を作るっスね」

「……うん……わかった......」

 ミュラの返事はか細く、今にも消えそうだった。

「ウチはミュラちゃんを見てるっスから、ゴブくんは冷たい水を桶に入れて来てもらってもいいっスか?」

「ああ」

 俺は立ち上がり、部屋から出て扉をそっと閉めた。

『…………雪ん子も、風邪をひくんだな』

 そう思いつつ、静かな食堂へと降りて行った。
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