ゴブめし!~ゴブリン料理の隠し味は異世界転生者~

コル

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第7章 3人のピクニック

第50話

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 鼻息を荒くしたミュラは席へと座り、紙を置く。

「ミュラね! いれるのはからあげと、たこさんウインナーと、おにぎりがいい!」

 ミュラが紙にミミズの様なウネウネとした線を書き始めた。
 あれか、会議って言ってたし……もしかして文字か。

「ミュ、ミュラちゃん……字ならウチが書いてあげるっスよ……」

 コヨミが苦笑いしつつ、紙に手を置く。
 やっぱり、文字だったのか。

「やだ! ミュラがかくの!」

 しかし、ミュラは断固として紙を譲らない。
 これは駄目だと、コヨミが引き下がった。

「……わ、わかったっス」

 もはや、あの紙に書かれた文字はミュラしか読めないな。
 いや……たぶんミュラ自身も、後で読めないとか言い出しそうだ。
 うん、あの紙の内容は俺達で覚える事にしよう。

「にしても おにぎり か」

 俺は腕を組み、考え込む。
 まだこっちの米がどんなのかわからない以上、候補に入れるのはちょっと問題だよな。
 確認はしておくか。

「コヨミさん、確認。こっちの米 どう 調理 する?」

「え? えと、茹でて食べるっス。そうすると柔らかくなって、もちもちの食感になるっス」

「茹でると 柔らかく もちもち……」

 そう聞くと、やはり俺の知っている米っぽいな。
 が、やはり現物を見ないとだな。

「もし 俺 知ってる 米 違う 場合、おにぎり ちょっと……」

「やだ! ミュラ、おにぎりたべたい!」

 ミュラは口をとがらせ、両手をテーブルに乗せて身を乗り出した。

「おにぎりといっしょに、からあげたべたい!」

 ミュラの目が……怖いぞ。

「まあまあ」

 コヨミが笑いながら俺とミュラ間に入って来た。

「もしそのコメが違った場合、その時はサンドイッチにすればいいっスよ」

「……サンドイッチ?」

 ミュラが小さく首をかしげる。

「ゴブくんが、お弁当の定番の一つにあげてたっス。ねっ? それで我慢っスよ」

「む~……」

 ミュラは納得いかない様子で椅子に座る。

「でも……おにぎりがいい……」

「我儘 言わない。出来ない物は 出来ない」

 俺がそう言うと、ミュラは少し考えて渋々と頷いた。

「……わかった。がまんする」

「えらいっスよ」

 とりあえず、メインはおにぎりかサンドイッチで決まりだな。
 となれば、後はおかずだな。

「俺的に 卵焼き 入れたい」

 そう……卵焼きは絶対に入れたい。
 卵焼きあってのお弁当。
 俺はそう思っているからな。

「あ、そうっス! その卵焼き気になってたっス。聞く限り、目玉焼きみたいに卵を焼いたものっスよね? どうして、そんな物が定番なんっスか?」

「たしかに」

 ミュラとコヨミが揃って首をかしげた。
 まぁそうなるよな。

「卵焼きは、卵に味 つけて 焼いて 巻く」

「味をつけるっスか?」

「そう しょっぱめ 甘め 大体 その2種類 だ」

 ちなみに俺は甘めが好きだ。

「ミュラ、あまいのがいい!」

 ミュラが即答した。
 これ、甘いと聞いてお菓子の様なものと思ってそうだな。

「じゃあ~ウチはマヨ――」

「そんなもの ない!」

「……じゃあ、しょっぱいのがいいっス」

 俺の言葉に、コヨミが頭を下げてしょぼんとする。
 仕方ない、別のでマヨネーズを使ってやろう。

「おにぎり 中 具 入れる。マヨネーズ 使った具 ある」

 マヨネーズと聞いた瞬間、コヨミの頭があがる。

「そうなんっスか!? じゃあ、コメをなんとしてでも手に入れないっとっスね!」

 コヨミの背後に、燃え滾る炎が見える。

「ねぇ~ねぇ~、ゴブ」

「ん?」

「たまごやきのあじって、どっちかしかえらべないの?」

「いや、半分ずつ 作れば いい」

「やった! じゃあ、た~ま~ご~や~き~っと」

 紙に新たなるミミズが増えた。


 俺達は、あれこれ話し合い会議は無事に終わった。

「おにぎり、無ければサンドイッチ。おかずは唐揚げと、たこさんウインナー、卵焼き、ポテトサラダ、ミニハンバーグ……デザートに果物、これで決まりっスね」

 コヨミがまとめると、ミュラが両手を上げて喜んだ。

「うん! おべんとう、たのしみ!」

「よし、じゃあ 材料 買いに 行く」

「「お~!」」

 俺達は、買い物へと出かけた。



「まずはマヨネーズの為の、コメからっスね!」

 何でマヨネーズの為になっているんだか……おにぎりの為だろうに。
 先頭を歩くコヨミについて行くと、いつもとは違う八百屋の前で立ち止まった。

「ここ、色々変な野菜を売ってるっスよ」

「おい、コヨミ! 変なとはなんだ! 珍しいと言え! 珍しいと!」

 コヨミの言葉に、葉巻を吸ったガラの悪い中年の男が出て来た。
 おいおい……本当に大丈夫なんだろうな。

「おっちゃん、コメは売ってるっスか?」

「お前なあ……オレ様の話をちゃんと聞けよ……まったく。で、コメか? なら、そこの棚だ」

 ガラの悪い中年の男が、奥の棚を指さした。
 その棚を見ると、そこには白くて丸くて、頭くらいの大きさがある、ココナッツのような実が並んでいた。

「……え? あの 白い実 か?」

 俺の問いに、コヨミが頷いた。

「そうっスよ。やっぱり、違うっスか?」

 違うも何も……。

「っ一粒 でかすぎ!」

 あんなの、どうやって炊けばいいんだ。
 というか、もうおにぎりになってるっての。

「でかすぎっスか?」

「俺の 世界の 米は、指先で つまむほど 粒! あんな でかく ない!」

「……ああ、そういう事っスか。ゴブくん、あの実を食べるわけじゃないっス」

「……へっ?」

「あの実の中の、種を食べるんスよ」

「中……? 種……?」

「そうっス。半分に割って、中の種を取り出すっス。大きさこの位っスかね」

 コヨミは指で小さな丸を作って見せる。
 その大きさは、まさに米粒だった。

「……えーと……つまり、ピーマンの 種を 食べる みたいな?」

「そんな感じっス」

「そう……なのか……」

 米も稲の種だ。
 あの実の種を食べるのはおかしくはない。
 となれば、後はその種がうまく炊けるかどうかだな。

「じゃあ、おにぎりたべられるんだね!」

 ミュラが目を輝かせながらコメに近づき、実を手にした。

「そうっスね。おっちゃん、1個……」

「あ、うまく 出来るか 実験 したい。2個 いけるか?」

「あ~そうっスね。2個買うっス」

「おう、2個だな」

 コヨミはお金を払い、コメの実を受け取った。

「さて、コメも買えたし、次は肉と野菜……」

「あと、くだもの~!」

 ミュラが自分で書いたメモを、コヨミの前でひらひらとさせる。
 それを見て、コヨミが楽しそうに笑った。

「そうっスね。美味しいものを選ぶっスよ」

「うん!」

 赤く染まる空の下、俺達は日が落ちる直前まで買い物を続けた。
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