ゴブめし!~ゴブリン料理の隠し味は異世界転生者~

コル

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第2章 月牙の食堂

第13話

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「ふぅ~満足っス」

「まんぞくまんぞく~」

 2人で全部のマヨネーズを使い切り、幸せそうな顔をして席に戻って来た。
 マヨネーズ1つでここまで喜んでもらえると、頑張って混ぜたかいがあったってものだ。

「……さてと……ゴブくんに、ちょっと聞きたい事があるっスけど、いいっスか?」

「なんだ?」

 もうここまで来たら何でも聞いてくれ。
 答えられる事なら何でも答えるぞ。

「これから、2人で暮らしていくつもりっスか?」

「え? あっ……」

 それは考えていなかった。
 ミュラをこの港町に置いて、去るつもりだったんだからな。

「それは……ああ その つもり……」

 が、こう答えるしかない。
 嘘だとバレていてもだ。

「となると、生活するにはお金が必要っス。その辺りはどう考えてるっスか?」

「……あっ……それは……」

 女性の言いたい事はわかっている。
 ゴブリンの体で仕事を探すなんて無理だ。

「……なるほど、よくわかったっス」

「……」

 女性はどういうつもりで、今の質問をしたんだろう。

「じゃあ、次はミュラちゃんに聞きたいっス」

「なあに?」

「ゴブくんと離れたいって思うっスか?」

「え? それはやだっ! ミュラ、ゴブといっしょにいるもん!」

 ギュッと俺の手を握るミュラ。
 そんな事されると、ますます置いて行こうとした事に罪悪感を感じてしまう。

「そっか、離れたくないっスか。……よし、じゃあ2人共、ウチの食堂で働くっていうのはどうっスか?」

「「えっ?」」

 女性の提案に、俺とミュラが同時に声をあげた。

「それも住み込みっス。もちろん、ご飯も出るっスよ」

 なんだそれは、あまりにも条件が良すぎる。
 これは……裏があると考えるべきか……。

「嬉しい。だが どうして そんな事を?」

 俺の問いに、女性がニヤリと口角を上げた。

「フッフフ……もちろん、条件付きっスよ!」

 やはりか、一体どんな条件を出してくるつもりだ。
 場合によっては、即座に逃げれるように……いや、この人相手じゃ無理か。
 だが、なんとかするしかない。
 俺はどんな言葉が出てきてもいいように身構えた。

「ゴブくんは、ウチに料理を教えるっス!」

「…………はあ? ……料理 ……教える?」

 予想外の条件が出て来て、俺はマヌケな声を出してしまった。

「そうっス! そして、ミュラちゃんはウチのお手伝いをしてほしいっスよ!」

「おてつだい?」

「そうっス! それが条件っス!」

 おいおい、住み込みで働くのにそれでいいのかよ。

「俺 料理 作る じゃないのか?」

 普通はこれだよな。
 食堂だから料理人を雇う。

「それが一番いいっスけど、ウチの厨房は丸見えっスからね。さっきみたいに、顔を隠しながら調理をするのは怪しまれるだけっス」

 確かにそうだ。
 顔を隠した子供が厨房でって……怪しすぎる。

「それに……やっぱりこの食堂は、ウチの力で頑張りたいっス」

 女性が立ちあがり、近くの傷ついた木の柱にそっと手を当てた。

「この店、元々おばあちゃんがやっていた食堂なんっス。繁盛はしていなかったけど、常連さん達が毎日来ては談笑をする……ウチは子供の時からそれを見て育ったんスよ」

 女性は柱から手を離し、厨房の方へと歩き始めた。

「そして、大人になったウチは冒険者として働いていたっス。仕事終わり、休日、嬉しい時、悲しい時……いつもこの食堂に来ては、おばあちゃんの料理を食べて常連さん達と談笑してたっス」

 この人、冒険者だったのか。
 あの殺気に即首絞めの判断……納得。

「けど、2年前くらいに体調を崩してしまって……この食堂を閉めちゃったっスよ」

 世界が違っても、老いがある以上は何処も同じだな。
 俺も子供の頃に行っていた店が、歳だからと閉まった時は悲しかったのが懐かしい。

「毎回ここに来る度、明かりがついていない、談笑が聞こえない……まるで自分の居場所がなくなったような気がして、悲しくて、寂しい気持ちになったっス。そこでウチは思いついたっス! ウチがこの食堂を継いで、居場所を取り戻そうと! そして、その日のうちに冒険者を辞めて、親とおばあちゃんを説得して、この食堂を譲り受けたっス」

 まさに、思い立ったら即行動って奴だな。
 その日に冒険者を辞めるとかすごい人だ。

「でも、ウチには料理の才能が全く無かった様で、色々な物を作ってはみたものの全くうまくいかず……やっと形になったのが、この特製スープだったっス」

 この食堂が特性スープのみって理由がそれかい。
 というか、あの特性スープで形になったって……その色々な物っていうのが逆に気になるレベルなんだが……。

「常連さん達も来てくれなくなって……仕方なく、ウチは副業するしかなかったっス」

「副業?」

 女性は厨房傍の扉を開けて手招きをした。
 どうやら、その中を俺達に見てほしいらしい。

「「?」」

 俺とミュラは不思議に思いつつも席を立ち、扉へと向かった。
 そして、恐る恐る中を覗いてみると……。

「えっ? なにこれ?」

 中は薄暗く、棚が置かれた大き目の部屋があった。
 その棚には、乾燥した植物や何かの粉が入った瓶が数多く置かれていた。

「これ、全部薬の材料っス」

「薬?」

 ああ、漢方薬って事か。
 もしかして、特性スープの材料ってここにある奴を使っているのでは……。

「ウチは薬師でもあるっス。だから、薬を調合して生計を立てていたっスけど……気付けば食料保存庫がこんな事になっちゃったスよ……ううう……」

 ここって食料保存庫だったのか。
 言われなきゃ絶対にわからんな。

「でも、違うっス! ウチは薬屋じゃなく食堂! 料理で人を集めたいっス! だから、お願いっス! ウチに料理を教えてほしいっスよ!」

 なるほど、女性にとっても得する話だな。
 嘘の話をする理由も必要もない……断る意味もない。

「俺 かまわない。ミュラ どう思う?」

「ゴブがいいのなら、ミュラもいいよ~」

 ミュラの奴、何も考えていない感じだな。
 まあミュラがいいのなら答えは決まった。

「うん、交渉成立っスね」

 女性はしゃがみこみ、俺達と目線を合わせた。

「ウチの名前はコヨミっス。よろしくっス! ゴブくん、ミュラちゃん!」

 女性……コヨミは笑顔で両手を俺達に差し出した。

「よろしく」

「よろしくね! コヨミおねえちゃん!」

 俺は左手を、ミュラは右手を掴んで握手を交わした。
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