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8章 生活の強化

1、信じられない光景

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 おっと、審査に気を取られている場合じゃない。
 汁物なんだから温かいうちに食べきらないと。

「ズズ……ん?」

 何だ? 口の中につみれじゃない物が入って来たぞ。
 つみれ以外に具材なんて……ああ、出汁が出るかもとアドサか。
 取り出すのをすっかり忘れてた。
 まぁいいや、食用ではあるしこのまま食べてしまそう。

「コリコリコリ」

 茎わかめみたいにコリコリした歯ごたえだな。
 それに、まだ旨味も残っていておいしい。
 これなら普通に具材としてもいいな。
 天日干しをして乾燥させるのも……。

「コリ……んっ」

 歯と歯の間にアドサが挟まってしまったようだ。
 あるんだよな、繊維質の物を食べるとこういう事が。
 糸ようじもつまようじもないし、頑張って自分の指で取るしかないか。

「もがっ」

 僕は口を開け、指をアドサが挟まった辺りまで入れ込んだ。
 感触的にこの辺りなんだけど……んーうまくとれない。
 くそ、鏡が欲しい。

「ズズ……ん? どう、したの?」

 アリサが僕の行動に気が付いて食事の手を止めた。

「あー……は、歯にアドサが挟まっちゃったみたいで、それがなかなか取れなくて……」

 繊維を掴めそうにないから、爪を隙間に入れようにも入らない。
 うーん、このまま置いておいて自然に取れるのを待つしかないか。
 それまですごく気になるけど。

「うちが、とってあげようか?」

 それってアリサの顔が僕の目の前にきて、アリサの指が僕の口の中に入って……。

「――だっ大丈夫だよ!! そのうちにとれるから! きっ気にしないで!」

 想像しただけで意識が飛びそうになった。
 こんなの実際にやったら、倒れてしまうのが目に見えているぞ。

「別に遠慮、しなくてもいいのに……じゃあさ、歯ブラシ、作るのはどう? 昨日は、失敗しちゃったけど、今ならお湯あるし、うまく作れると思うわ」

「あー……歯ブラシか」

 なるほど、それなら取れるかも。
 歯ブラシはこれから必要になって来るものだし、頼んでみるか。

「じゃ、じゃあ食べ終わった後にお願いしてもいいかな?」

「うん、まかせて。あ、でもお湯が欲しいから、それだけは準備しないと」

 アリサは土器の器の中をざっと洗い流してから水を入れ、かまどの上へと置いた。
 いやはや、土器のの器大活躍だな。
 本当に作って正解だったよ。



「ふぅ~。食べた、食べた~」

 つみれのすまし汁を食べ終えたアリサは満足した様子でお腹を擦っている。
 お腹が膨れるほどの量じゃないけど、物を食べたって気分には僕もなったな。

「やっぱり、味が付いている物は、違うね」

「そ、そうだね」

 本当にそうだ、塩味だけとはいえ味があるってだけで素晴らしい。
 絶対に切らさない様に気を付けないと。

「……んー……」

 食べている途中にアドサが取れるかなーと思ったけど甘かった。
 全然取れなくて、気になって仕方ない。

「じゃあ作るから、ちょっと待っててね」

 アリサは適当な大きさの枝を2本手に取り、先端の皮をむき始めた。
 そして、皮をむいた方下にして沸騰したお湯の中につけた。
 
「これで、しばらく待って…………そろそろ、良いかな」

 煮た枝を土器から取り出して、石の上に置いて、枝の先端部分を別の石でガンガンと叩き始めた。
 昨日とは枝の先端の潰れ方が全然違うな。
 今日のはより細かく、柔らかい感じで枝が裂かれた状態になってる。

「…………よしっと。やっぱり、今日の方が綺麗に、出来たわ。はい、リョーの分」

 アリサから手渡されたのは、昨日と同じで先端部分が毛先の歪なメイクブラシ状になっている枝。
 けど、手触りがやっぱり違う。
 これなら口の中に入れても問題はなさそうだ。

「あ、ありがとう。それじゃあさっそく」

 塩を歯ブラシの先端に付けて、いざ口の中へ。

「――モゴモゴ」

 ……口の中で歯ブラシを動かしても、全然シャコシャコといった音が鳴らない。
 そして、磨けている感じもあまりしない。
 ただただ木を歯に押し付けているだけの気分。
 まぁ同じ状態の物なのかどうかわからないけど、昔の人達はこうして木の歯ブラシで磨いていたんだから、磨けているんだろう……多分。

 磨けたと思ったら、水を口に含んで……捨てる。
 ……うん、何だかんだでアドサは取れた様だし、炭の時よりも口の中がすっきりした感じがする。
 気分的な問題もあるかもしれないけど、これで歯磨きの問題は解決かな。
 そうだ、枝の形で間違わないと思うけど一応念の為、歯ブラシに僕の名前を彫っておこう。
 鱗の先端を彫刻刀の様にすれば……。

「……良太っと……」

 ちょっとカクカクしているけど、そこはご愛嬌ということで。

「おっもしかして、リョーの世界の、文字?」

「そ、そう、僕の名前を彫ったんだ。これでリョウタって読むんだよ」

「へぇ~……これで、リョータか~。よし、うちも、彫ろう」

 アリサも僕と同じ様に、文字を枝に彫り始めた。

「……ア~リ~サ~……っと」

 ふむ、これがこの世界の文字か。
 ……当たり前だが日本語じゃない。
 異世界系の物語によく出て来る絵の様な、古代文字の様なわけのわからない形をしている。
 けど、そんな文字なのにアリサとはっきり読める。
 これがあの頭痛で手に入れた女神様の力なんだろうな。
 意味不明なのに読める……ものすごい不思議な感覚だ。



 僕達は一休みした後、今日の夕飯としてまだ捕っていない場所からミースルを捕る事にした。
 今夜はミースルのすまし汁だ。
 昼も夜の汁物になっちゃうけど、また違う味が出て楽しめるだろうから問題無し。

「……そういえば、昨日捕ったミースルはどうなっているんだろう?」

 2日経てば元の量に戻るとは言っていたけど、そうなると1日目がどんな状態なのか気になって来たな。
 よし、量的にも十分獲ったから見に行ってみるとしよう。
 僕は昨日ミースルを捕った場所へと移動して、ミースルが張り付いていた石を動かし裏を覗いて見た。

「……よいしょっと…………えっマジかよ」

 一瞬、自分の目を疑った。
 ある程度は数が増えているとは予想していたけど、予想していたよりもかなり数が多い。
 いや、多いというよりこれは完全に数が戻っているな。
 ただ幼体と思えるくらいにかなり小さく小粒だ。
 なるほど、増えてから大きく育つ感じなのか。
 分裂貝、恐るべしだな。

「リョーおおおおお!!」

「へ?」

 叫び声が聞こえ顔をあげると、アリサが必死の形相で走って来るのが見えた。
 なんだなんだ? まるで何かから逃げて――。

「――ちょっ!?」

 アリサの背後には動物が見えた。
 その動物は顔と胴体は猪の様な形をしていて、4本の脚は鹿の様に長い。
 口からは鹿の角のように枝分かれしている牙が、そして背中には何の為にあるのかわからない小さなアゲハ蝶の羽が生えていた。

「い、いいい猪鹿蝶!?」

 そんな文字通りの動物がアリサの後を追いかけ、僕の方に向かって走って来た。
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