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4章 轗軻不遇の輪舞曲
カタリナの思惑
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──────アリサ
ファラク様と奥様に拾われてから、私の生活は激変した──
あの時、ファラク様の服を握らなかったら?
あの時、『助けて』と言えなかったら?
あの時、『生きたい』と思わなかったら?
その全てを運命と片付ければ早いのかもしれない。
でも、私は自分で勝ち取ったチャンスだと思いたい。
だってそれじゃ、ファラク様と奥様に申し訳が立たないもの。
ーーーーーーーーーーーー
「おはようございます奥様」
「ふむ、アリサおはよう」
私がファラク家として迎え入れて貰ってから一週間が過ぎた。
ここに来て2日目には自室をあてがわれているけど、寝る時はファラク様の寝室で3人一緒。
私の至福の時間である。
もぞもぞと私が覚醒した時には、寝室には奥様しかいなかった。
状況から察するに奥様は、私が起きるまでベッドの中にいたらしく、私が挨拶をするまで包み込むように頭を撫でてもらっていた感触だけがあった。
「あの、ファラク様は?」
「地下室だよ。さぁ朝ごはんにしよう。ファラクを呼んできてくれ」
私は「わかりました」と答え、いそいそと寝間着からメイド服に着替える。
「アリサ、別に着なくて良いのだぞ?」
「娘でありメイドである事は私が望んでる事です。それに、このお洋服が好きなんです」
「ふむ、なら良いが」
「大丈夫です奥様。ヘマはしません!」
私はムフンと鼻息を荒く奥様の質問に答えた。
そう、私はこの勝ち取ったチャンスを絶対に手放すつもりはないのだ。
ステブさんの言いつけも守り、私はなるべくファラク様達の迷惑にならない様に生きなければならないと思っている。
着換え終わった私は、地下室へ降りる。
長い廊下の突き当たりにあるドアを開けると、少し遠くの作業台でファラク様はユグドラシルの木片を手にウムムと思索に耽っているのが見えた。
「ファラク様、おはようございます。奥様が朝食にしようと申されています」
「おお、おはようアリサ。分かった今いくよ」
私はファラク様と一緒に地下室を出た。
その際、ファラク様からもメイド服について言及されたけど、同じ答えで言い返した。
施設とはまるで違う豪華な朝食を終えると、私は奥様から教わった洗濯や掃除をこなす。
少しでも時間を開けると奥様がやってしまうので、これはある意味勝負である。
奥様より早く、的確にそれ等を終わらせれば、昼食までは自由時間だ。
私は自室に戻ると、奥様から「やってみろ、飛ぶぞ!」とプレゼントして貰った『テレビゲーム』をやるのがこの時間の楽しみだ。
テレビゲームという存在自体はある事は知っていたけど、勿論やったことなんて人生で一度も無かった。
ゲーム内容は『格闘ゲーム』というジャンルらしい……
ただ私は人生初のゲームという娯楽にどハマリしてしまい、今では寝る前もどうやって勝とうかと頭を悩ませている。
テレビの電源とゲームの起動ボタンを押すと、そこには『スーパーナックルファイターズ7』という画面がでかでかと表情された。
「よーし、今日は最高ランクまで行くぞー」
私はじっくりと腰を据え、レバーを持つ手に気合を入れる。
このゲームは宇宙間ネット対戦と言うのが出来るらしく、なんと他の星の人達と遊べるのだ。
勝てば勝つほどにランクが上がっていき、私は現在最高ランクの『ナックル神』にあと一歩というところまで来ていた。
どうやら普通はそんなランクに始めたばかりの初心者が行けるはずもなく、奥様は「やはりセンスがある」と大層喜んでいた。
私は遊んでいるだけで褒められるのが嬉しくて、ドンドンこの格闘ゲームにのめり込んでいったのである。
私は対戦モードで自キャラの『ララン』という蹴り技主体のキャラクターを選ぶ。
しばらくすると、対戦相手とキャラクターが表示された。
その対戦相手の名前を見て私は顔がニヤつくのを止める事ができなかった。
「やっぱり来ましたね~」
そこに表示された名前は『フラミンゴ』……私の最大のライバルである。
自分で言うのもなんだけど、私は結構攻撃を避けるのが上手いと思っている。
最初自覚はなかったけど、あれは、そう、お風呂場で奥様と石鹸飛ばしの遊びをしている時である。
「おおっと手が滑った」
奥様の発言の直後に、背後から何か小さい物が飛んでくる予感した私は、それが当たらない最小限の動きで避けた。
いつも施設でやっていたし、これぐらいの反応はみんな出来ると思っていたけど、どうやら奥様からすれば違ったみたいだ。
「凄いぞアリサ! よし、今後この遊びをするぞ。5日間避けたらご褒美をやろう」
「本当ですか!? 頑張ります!」
それから5日間、私は奥様の不意に来る石鹸を全て避けたのだ。
「全く当たらんな……凄い動体視力と感覚察知だな」
「そう、ですか? 私はよく分からないです」
「ふむ、天性か、素晴らしいな。流石私の娘だ、いつか当ててやるぞ。ハハハ」
「キャハハ、なら私は全部避けます!」
それから5日過ぎた今も、毎回恒例としてお風呂の時はこの遊びをしている。
っと、思い出に浸っているうちに、ゲーム内で対戦の準備が整っていた。
言い忘れたけど、このフラミンゴさんは奥様公認の私を持ってしても、避けきれない程の攻撃を仕掛け続け攻めてくるインファイターである。
私はゲームと言えど手を出すのが苦手だった。現実でそんな事をしたらご飯が食べさせて貰えなかったしね。
そのせいで私は全くフラミンゴさんに勝てない。
だが、段々と攻撃する勇気も必要であるとフラミンゴさんとの戦いを通じて学んでいった。
まるで母親が手とり足取り教えるかのように、戦いにおいての読み合いや、楽しさをこのフラミンゴさんは教えてくれた。
まだ勝った事は無いけど、今では試合と呼べる程にギリギリの戦いが出来るようになっていた。
「ただ今日は勝ちますよー。集大成です」
そうしてゲームの試合が始まる。
奇しくもフラミンゴさんの使用キャラクターは私と同じ、蹴り技主体の『ララン』である。
私はいつも一発だけなんとしても攻撃を当てて、後は時間いっぱいまで逃げ切るスタイルだけど、当然フラミンゴさんはそんな温い事は許してくれない。
縦に横に、中距離から近距離まで、全ての技を駆使して私に立ち向かってくる。
私はそれを全て避けきる。当たったら最後、フラミンゴさんは体力ゲージを全て持っていってしまうのである。
私も手を出したいが、甘えた攻撃をすると厳しいお仕置きが待っているだけなので、お互いに呼吸を合わせるかのように戦うフリをし続けてチャンスを伺う。
試合中盤、とうとうフラミンゴさんは必殺の片足立ちスタイルに移行する。
後で知った話だけど、フラミンゴさんのこのスタイルを見て勝った人は居ないらしい。
この片足立ちスタイルは全ての技の速度と威力が上昇するけど、ゲームの仕様上ガードが出来ないと言う諸刃の構えである。
そして私は、ついに来たこの構えを待っていた。
それは、一瞬の攻防──
構えからの下段を読み切った私は、ジャンプして攻撃を躱す。
そのままジャンプ攻撃に移行すると……見せかけて!
着地と同時に軽い下段技を繰り出す!
ジャンプ攻撃に備えていたフラミンゴさんは、ガードが出来ないので横に移動して躱す動きをとる。
ただ、ジャンプしただけで何もしない私に、一瞬戸惑ってしまう。
その一瞬の隙をついた攻撃に、フラミンゴさんは思わずそれを食らってしまったのである!
このなんとも卑怯な一撃を守り抜いた私は、とうとう、初めてフラミンゴさんに勝利した。
「やったー! 作戦成功、大勝利!」
私は両手を上げ勝利の喜びに打ち震える。
勝った……とうとう勝った!
この喜びを誰かに伝えたくてしょうがない私は、奥様に報告しようと部屋を出る。
同時に奥様も部屋から出てきた。何故だろ? なにか悔しそうな顔をしている。
「ふむ、まぁ作戦が整ったと思えば……ただ、うーん」
「奥様! 聞いてください──」
私は奥様に駆け寄ると、事の顛末を話す。
不思議と奥様は悔しそうな顔のまま、とても褒めてくださった。
昼食後、奥様が「午後もゲームをしたらどうだ?」と言われたが、これ以上遊び呆けたらいけないと思った私は丁重に断った。
「ああ、それならアリサ、少し地下で手伝ってくれるか?」
「はい、ファラク様!」
はたまた何故か? 奥様はほんの少し寂しい顔をした。
それよりも、午後はファラク様のお手伝いをする事に決まった事に私はニヤける顔を必死に抑えた。
私は両手をギュッと握り、尊敬するファラク様のお手伝いを全力でする決意を固める。
ファラク様と奥様に拾われてから、私の生活は激変した──
あの時、ファラク様の服を握らなかったら?
あの時、『助けて』と言えなかったら?
あの時、『生きたい』と思わなかったら?
その全てを運命と片付ければ早いのかもしれない。
でも、私は自分で勝ち取ったチャンスだと思いたい。
だってそれじゃ、ファラク様と奥様に申し訳が立たないもの。
ーーーーーーーーーーーー
「おはようございます奥様」
「ふむ、アリサおはよう」
私がファラク家として迎え入れて貰ってから一週間が過ぎた。
ここに来て2日目には自室をあてがわれているけど、寝る時はファラク様の寝室で3人一緒。
私の至福の時間である。
もぞもぞと私が覚醒した時には、寝室には奥様しかいなかった。
状況から察するに奥様は、私が起きるまでベッドの中にいたらしく、私が挨拶をするまで包み込むように頭を撫でてもらっていた感触だけがあった。
「あの、ファラク様は?」
「地下室だよ。さぁ朝ごはんにしよう。ファラクを呼んできてくれ」
私は「わかりました」と答え、いそいそと寝間着からメイド服に着替える。
「アリサ、別に着なくて良いのだぞ?」
「娘でありメイドである事は私が望んでる事です。それに、このお洋服が好きなんです」
「ふむ、なら良いが」
「大丈夫です奥様。ヘマはしません!」
私はムフンと鼻息を荒く奥様の質問に答えた。
そう、私はこの勝ち取ったチャンスを絶対に手放すつもりはないのだ。
ステブさんの言いつけも守り、私はなるべくファラク様達の迷惑にならない様に生きなければならないと思っている。
着換え終わった私は、地下室へ降りる。
長い廊下の突き当たりにあるドアを開けると、少し遠くの作業台でファラク様はユグドラシルの木片を手にウムムと思索に耽っているのが見えた。
「ファラク様、おはようございます。奥様が朝食にしようと申されています」
「おお、おはようアリサ。分かった今いくよ」
私はファラク様と一緒に地下室を出た。
その際、ファラク様からもメイド服について言及されたけど、同じ答えで言い返した。
施設とはまるで違う豪華な朝食を終えると、私は奥様から教わった洗濯や掃除をこなす。
少しでも時間を開けると奥様がやってしまうので、これはある意味勝負である。
奥様より早く、的確にそれ等を終わらせれば、昼食までは自由時間だ。
私は自室に戻ると、奥様から「やってみろ、飛ぶぞ!」とプレゼントして貰った『テレビゲーム』をやるのがこの時間の楽しみだ。
テレビゲームという存在自体はある事は知っていたけど、勿論やったことなんて人生で一度も無かった。
ゲーム内容は『格闘ゲーム』というジャンルらしい……
ただ私は人生初のゲームという娯楽にどハマリしてしまい、今では寝る前もどうやって勝とうかと頭を悩ませている。
テレビの電源とゲームの起動ボタンを押すと、そこには『スーパーナックルファイターズ7』という画面がでかでかと表情された。
「よーし、今日は最高ランクまで行くぞー」
私はじっくりと腰を据え、レバーを持つ手に気合を入れる。
このゲームは宇宙間ネット対戦と言うのが出来るらしく、なんと他の星の人達と遊べるのだ。
勝てば勝つほどにランクが上がっていき、私は現在最高ランクの『ナックル神』にあと一歩というところまで来ていた。
どうやら普通はそんなランクに始めたばかりの初心者が行けるはずもなく、奥様は「やはりセンスがある」と大層喜んでいた。
私は遊んでいるだけで褒められるのが嬉しくて、ドンドンこの格闘ゲームにのめり込んでいったのである。
私は対戦モードで自キャラの『ララン』という蹴り技主体のキャラクターを選ぶ。
しばらくすると、対戦相手とキャラクターが表示された。
その対戦相手の名前を見て私は顔がニヤつくのを止める事ができなかった。
「やっぱり来ましたね~」
そこに表示された名前は『フラミンゴ』……私の最大のライバルである。
自分で言うのもなんだけど、私は結構攻撃を避けるのが上手いと思っている。
最初自覚はなかったけど、あれは、そう、お風呂場で奥様と石鹸飛ばしの遊びをしている時である。
「おおっと手が滑った」
奥様の発言の直後に、背後から何か小さい物が飛んでくる予感した私は、それが当たらない最小限の動きで避けた。
いつも施設でやっていたし、これぐらいの反応はみんな出来ると思っていたけど、どうやら奥様からすれば違ったみたいだ。
「凄いぞアリサ! よし、今後この遊びをするぞ。5日間避けたらご褒美をやろう」
「本当ですか!? 頑張ります!」
それから5日間、私は奥様の不意に来る石鹸を全て避けたのだ。
「全く当たらんな……凄い動体視力と感覚察知だな」
「そう、ですか? 私はよく分からないです」
「ふむ、天性か、素晴らしいな。流石私の娘だ、いつか当ててやるぞ。ハハハ」
「キャハハ、なら私は全部避けます!」
それから5日過ぎた今も、毎回恒例としてお風呂の時はこの遊びをしている。
っと、思い出に浸っているうちに、ゲーム内で対戦の準備が整っていた。
言い忘れたけど、このフラミンゴさんは奥様公認の私を持ってしても、避けきれない程の攻撃を仕掛け続け攻めてくるインファイターである。
私はゲームと言えど手を出すのが苦手だった。現実でそんな事をしたらご飯が食べさせて貰えなかったしね。
そのせいで私は全くフラミンゴさんに勝てない。
だが、段々と攻撃する勇気も必要であるとフラミンゴさんとの戦いを通じて学んでいった。
まるで母親が手とり足取り教えるかのように、戦いにおいての読み合いや、楽しさをこのフラミンゴさんは教えてくれた。
まだ勝った事は無いけど、今では試合と呼べる程にギリギリの戦いが出来るようになっていた。
「ただ今日は勝ちますよー。集大成です」
そうしてゲームの試合が始まる。
奇しくもフラミンゴさんの使用キャラクターは私と同じ、蹴り技主体の『ララン』である。
私はいつも一発だけなんとしても攻撃を当てて、後は時間いっぱいまで逃げ切るスタイルだけど、当然フラミンゴさんはそんな温い事は許してくれない。
縦に横に、中距離から近距離まで、全ての技を駆使して私に立ち向かってくる。
私はそれを全て避けきる。当たったら最後、フラミンゴさんは体力ゲージを全て持っていってしまうのである。
私も手を出したいが、甘えた攻撃をすると厳しいお仕置きが待っているだけなので、お互いに呼吸を合わせるかのように戦うフリをし続けてチャンスを伺う。
試合中盤、とうとうフラミンゴさんは必殺の片足立ちスタイルに移行する。
後で知った話だけど、フラミンゴさんのこのスタイルを見て勝った人は居ないらしい。
この片足立ちスタイルは全ての技の速度と威力が上昇するけど、ゲームの仕様上ガードが出来ないと言う諸刃の構えである。
そして私は、ついに来たこの構えを待っていた。
それは、一瞬の攻防──
構えからの下段を読み切った私は、ジャンプして攻撃を躱す。
そのままジャンプ攻撃に移行すると……見せかけて!
着地と同時に軽い下段技を繰り出す!
ジャンプ攻撃に備えていたフラミンゴさんは、ガードが出来ないので横に移動して躱す動きをとる。
ただ、ジャンプしただけで何もしない私に、一瞬戸惑ってしまう。
その一瞬の隙をついた攻撃に、フラミンゴさんは思わずそれを食らってしまったのである!
このなんとも卑怯な一撃を守り抜いた私は、とうとう、初めてフラミンゴさんに勝利した。
「やったー! 作戦成功、大勝利!」
私は両手を上げ勝利の喜びに打ち震える。
勝った……とうとう勝った!
この喜びを誰かに伝えたくてしょうがない私は、奥様に報告しようと部屋を出る。
同時に奥様も部屋から出てきた。何故だろ? なにか悔しそうな顔をしている。
「ふむ、まぁ作戦が整ったと思えば……ただ、うーん」
「奥様! 聞いてください──」
私は奥様に駆け寄ると、事の顛末を話す。
不思議と奥様は悔しそうな顔のまま、とても褒めてくださった。
昼食後、奥様が「午後もゲームをしたらどうだ?」と言われたが、これ以上遊び呆けたらいけないと思った私は丁重に断った。
「ああ、それならアリサ、少し地下で手伝ってくれるか?」
「はい、ファラク様!」
はたまた何故か? 奥様はほんの少し寂しい顔をした。
それよりも、午後はファラク様のお手伝いをする事に決まった事に私はニヤける顔を必死に抑えた。
私は両手をギュッと握り、尊敬するファラク様のお手伝いを全力でする決意を固める。
応援ありがとうございます!
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