28 / 48
Ep28
しおりを挟む
ベルトランのギルドに戻り、センチピード・ビートルの巨大な触角を提出すると、受付は騒然となった。
「『銅(カッパー)』のパーティーが手こずっていた依頼を、昇格したての二人が……」
そんな囁き声を背に、競争相手だった三人が神妙な面持ちで近づいてきた。リーダー格の剣士、大柄な重戦士、そして細身の短剣使いだ。
「……約束だ。報酬と同額の金貨、受け取ってくれ」
リーダーの男が、重い革袋をカウンターに置いた。 俺はノアに命じて、一瞬で枚数をスキャンさせる。
『マスター。誤差はありません。規定通りの金額です』
「ああ、確かに受け取った。……負けたのに、随分と潔いんだな」
俺がそう言うと、三人は顔を見合わせ、リーダーの男が頭を掻きながら名乗った。 「俺はガルス。こっちは重戦士のボリス、短剣のテオだ。……正直、お前らのことを鼻持ちならない奴らだと思ってた。だが、あの状況であの判断……。俺たちじゃ、あの甲虫を転がして一発とは恐れ入ったよ」
ガルスたちの目には、先ほどまでの侮蔑はなく、純粋な強者への敬意が宿っていた。
「頼む、ケンジ。……もし良ければ、その強さの秘密を教えてくれないか。俺たちも、今のままじゃいけないって分かってるんだ」
ギルドの片隅のテーブルで、俺たちはガルスたちと向き合った。 リィザは「秘密ねぇ……」と苦笑いしながら、俺の顔を見る。もちろん、ノアによる精密なレベルアップ管理や、魔法による超回復トレーニング(地獄の追い込み)は企業秘密だ。
俺は姿勢を正し、事務屋らしい理路整然とした口調で切り出した。
「秘密なんて大層なものはない。まずは『食事』の見直しと『基礎鍛錬』だ」
「食事と鍛錬……?」 ガルスが拍子抜けしたような顔をする。
「そうだ。多くの冒険者は、腹が膨れればいいと思って適当な干し肉や酒で済ませている。だが、筋肉や魔力を構成するのはお前たちが摂取した栄養だ。特にタンパク質……肉や豆類の摂取量、そしてそれを取り込むための休息時間が足りなすぎる。それに、酒を飲むと睡眠の質が低下するんだ」
俺はノアに計算させた、彼らの体格に最適な栄養バランスとトレーニングメニューを、手近な紙に書き出した。
三人は、俺が書いた「指導書」を見つめている。
「……分かった。明日から、酒を控えてこいつを試してみる。ありがとな、ケンジ!」
「自分から進んであの食事を受け入れるなんて信じられない……」
リィザが遠い目をしてつぶやく。
それから数日。ギルドでは奇妙な光景が見られるようになった。 ガルスたちが、酒場の隅でエールではなく山盛りの肉と温野菜を黙々と食べ、その後、俺のアドバイス通りに裏庭で基礎中の基礎である素振りを繰り返しているのだ。
「おい、ガルス。あんたがそんな真面目にやってんの初めて見たぜ」 「笑うな。ケンジのアドバイスを試したら、朝の目覚めや体のキレが全然違うんだよ」
そんな会話が広がり、一人、また一人と教えを乞いに来る冒険者が増え始めた。
『マスター。周辺個体のヘルスケア・コンサルティングにより、ギルド内の生産性が5.2%向上しました。また、マスターへの敵対的感情を抱く個体が激減しています』
ノアの報告を聞きながら、俺はペンを走らせる。 「力で従わせるより利で操るんだ」
気づけば俺たちの周囲には、かつて「やっかみ」を向けていた連中が、期待を込めた視線で集まり始めていた。
「『銅(カッパー)』のパーティーが手こずっていた依頼を、昇格したての二人が……」
そんな囁き声を背に、競争相手だった三人が神妙な面持ちで近づいてきた。リーダー格の剣士、大柄な重戦士、そして細身の短剣使いだ。
「……約束だ。報酬と同額の金貨、受け取ってくれ」
リーダーの男が、重い革袋をカウンターに置いた。 俺はノアに命じて、一瞬で枚数をスキャンさせる。
『マスター。誤差はありません。規定通りの金額です』
「ああ、確かに受け取った。……負けたのに、随分と潔いんだな」
俺がそう言うと、三人は顔を見合わせ、リーダーの男が頭を掻きながら名乗った。 「俺はガルス。こっちは重戦士のボリス、短剣のテオだ。……正直、お前らのことを鼻持ちならない奴らだと思ってた。だが、あの状況であの判断……。俺たちじゃ、あの甲虫を転がして一発とは恐れ入ったよ」
ガルスたちの目には、先ほどまでの侮蔑はなく、純粋な強者への敬意が宿っていた。
「頼む、ケンジ。……もし良ければ、その強さの秘密を教えてくれないか。俺たちも、今のままじゃいけないって分かってるんだ」
ギルドの片隅のテーブルで、俺たちはガルスたちと向き合った。 リィザは「秘密ねぇ……」と苦笑いしながら、俺の顔を見る。もちろん、ノアによる精密なレベルアップ管理や、魔法による超回復トレーニング(地獄の追い込み)は企業秘密だ。
俺は姿勢を正し、事務屋らしい理路整然とした口調で切り出した。
「秘密なんて大層なものはない。まずは『食事』の見直しと『基礎鍛錬』だ」
「食事と鍛錬……?」 ガルスが拍子抜けしたような顔をする。
「そうだ。多くの冒険者は、腹が膨れればいいと思って適当な干し肉や酒で済ませている。だが、筋肉や魔力を構成するのはお前たちが摂取した栄養だ。特にタンパク質……肉や豆類の摂取量、そしてそれを取り込むための休息時間が足りなすぎる。それに、酒を飲むと睡眠の質が低下するんだ」
俺はノアに計算させた、彼らの体格に最適な栄養バランスとトレーニングメニューを、手近な紙に書き出した。
三人は、俺が書いた「指導書」を見つめている。
「……分かった。明日から、酒を控えてこいつを試してみる。ありがとな、ケンジ!」
「自分から進んであの食事を受け入れるなんて信じられない……」
リィザが遠い目をしてつぶやく。
それから数日。ギルドでは奇妙な光景が見られるようになった。 ガルスたちが、酒場の隅でエールではなく山盛りの肉と温野菜を黙々と食べ、その後、俺のアドバイス通りに裏庭で基礎中の基礎である素振りを繰り返しているのだ。
「おい、ガルス。あんたがそんな真面目にやってんの初めて見たぜ」 「笑うな。ケンジのアドバイスを試したら、朝の目覚めや体のキレが全然違うんだよ」
そんな会話が広がり、一人、また一人と教えを乞いに来る冒険者が増え始めた。
『マスター。周辺個体のヘルスケア・コンサルティングにより、ギルド内の生産性が5.2%向上しました。また、マスターへの敵対的感情を抱く個体が激減しています』
ノアの報告を聞きながら、俺はペンを走らせる。 「力で従わせるより利で操るんだ」
気づけば俺たちの周囲には、かつて「やっかみ」を向けていた連中が、期待を込めた視線で集まり始めていた。
0
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
妖精の森の、日常のおはなし。
華衣
ファンタジー
気づいたら、知らない森の中に居た僕。火事に巻き込まれて死んだはずだけど、これってもしかして転生した?
でも、なにかがおかしい。まわりの物が全部大きすぎるのだ! 草も、石も、花も、僕の体より大きい。巨人の国に来てしまったのかと思ったけど、よく見たら、僕の方が縮んでいるらしい。
あれ、身体が軽い。ん!?背中から羽が生えてる!?
「僕、妖精になってるー!?」
これは、妖精になった僕の、ただの日常の物語である。
・毎日18時投稿、たまに休みます。
・お気に入り&♡ありがとうございます!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
「役立たず」と追放されたが、俺のスキルは【経験値委託】だ。解除した瞬間、勇者パーティーはレベル1に戻り、俺だけレベル9999になった
たまごころ
ファンタジー
「悪いがクビだ、アレン。お前のような戦闘スキルのない寄生虫は、魔王討伐の旅には連れていけない」
幼馴染の勇者と、恋人だった聖女からそう告げられ、俺は極寒の雪山に捨てられた。
だが、彼らは勘違いしている。
俺のスキルは、単なる【魔力譲渡】じゃない。
パーティメンバーが得た経験値を管理・分配し、底上げする【経験値委託(キックバック)】という神スキルだったのだ。
俺をパーティから外すということは、契約解除を意味する。
つまり――今まで彼らが俺のおかげで得ていた「かさ増しステータス」が消え、俺が預けていた膨大な「累積経験値」が全て俺に返還されるということだ。
「スキル解除。……さて、長年の利子も含めて、たっぷり返してもらおうか」
その瞬間、俺のレベルは15から9999へ。
一方、勇者たちはレベル70から初期レベルの1へと転落した。
これは、最強の力を取り戻した俺が、雪山の守り神である銀狼(美少女)や、封印されし魔神(美少女)を従えて無双し、新たな国を作る物語。
そして、レベル1に戻ってゴブリンにも勝てなくなった元勇者たちが、絶望のどん底へ落ちていく「ざまぁ」の記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる