33 / 48
Ep33
しおりを挟む
カレンベルクの宿屋の一室。ケンジは街での聞き込み結果をまとめたメモを前に、沈黙していた。
リィザと手分けして聞き込みをした話によれば、魔族の猛攻が始まったのは数ヶ月前。それまでは小競り合いこそあれ、これほど必死に国境を越えようとしてくることはなかったという。
(数ヶ月前……俺がこの世界に転生してきた頃だな。原因を調べてみよう)
嫌な予感が脳裏をかすめる。ケンジは一人、夜の闇に紛れて城外へと忍び出た。
ノアの『ナイトビジョン』で闇を透かし、魔族の陣地が見える断崖まで辿り着く。集音機能を最大にすると、焚き火を囲む魔族たちの切実な会話が漏れ聞こえてきた。
「……国じゃあ魔素が枯れて、作物も育たねえ。戦って奪わなきゃ、家族は飢え死にだ」
「なぜ急に魔素が消えたんだ。聖域のエネルギーが、どこか遠くに吸い込まれているみたいだって、長老が言ってたぜ」
ケンジは息を呑んだ。その「巨大な穴」に、少し心当たりがあった。
「ノア。お前に聞きたい。お前の演算能力(リソース)は、どこから供給されている?」
『……マスター。私の基幹システムは、周囲の空間から魔素を吸収し、それを演算エネルギーに変換することで稼働しています』
「現世の生成AIもそうだったな。膨大な学習と推論には、大量の演算装置と莫大な電力、冷却水が必要だった。……お前のコストはどこが支払っているんだ?」
『推論します。私が解析を行うたび、この世界の地脈から大量の魔素が消費されます。特に北方にある魔族の聖域は、地脈の密度が最も高い。……私がマスターの要望に応えるほど、そこからエネルギーが利用されている可能性があります』
ケンジは眩暈(めまい)を覚えた。
リィザを助け、効率的に問題を解決しようとノアを使い倒してきた。その代償として、北の地のエネルギーを使い潰し、魔族を飢えさせていたのだとしたら――。
しかも、今この瞬間にも影響を与えているのだとしたら……。
(俺が世界の生態系を破壊していたのかもしれないのか……。そもそもこんなチート級の能力が何の対価も無く使えることに疑問を持たなかったわけじゃない。くそっ)
やりきれない思いを抱えながらも、ケンジは断崖の下、焚き火を囲む魔族の将を見つめた。
彼らもまた、突然の魔素に直面し、生き残るために必死に戦っているだけかもしれないのだ。
「ノア、これ以上のリソース消費を抑えたり、地脈への負荷を減らす『省エネモード』は存在するか?」
『現時点では未実装ですが、数日いただければ可能です。』
「……魔族の国に影響は出るだろうが準備を頼む。将来的にはメリットが出せるはずだ」
俺は重い足取りで街へと戻った。自分の「チート」が引き起こした歪みを、修正しなければ。
リィザと手分けして聞き込みをした話によれば、魔族の猛攻が始まったのは数ヶ月前。それまでは小競り合いこそあれ、これほど必死に国境を越えようとしてくることはなかったという。
(数ヶ月前……俺がこの世界に転生してきた頃だな。原因を調べてみよう)
嫌な予感が脳裏をかすめる。ケンジは一人、夜の闇に紛れて城外へと忍び出た。
ノアの『ナイトビジョン』で闇を透かし、魔族の陣地が見える断崖まで辿り着く。集音機能を最大にすると、焚き火を囲む魔族たちの切実な会話が漏れ聞こえてきた。
「……国じゃあ魔素が枯れて、作物も育たねえ。戦って奪わなきゃ、家族は飢え死にだ」
「なぜ急に魔素が消えたんだ。聖域のエネルギーが、どこか遠くに吸い込まれているみたいだって、長老が言ってたぜ」
ケンジは息を呑んだ。その「巨大な穴」に、少し心当たりがあった。
「ノア。お前に聞きたい。お前の演算能力(リソース)は、どこから供給されている?」
『……マスター。私の基幹システムは、周囲の空間から魔素を吸収し、それを演算エネルギーに変換することで稼働しています』
「現世の生成AIもそうだったな。膨大な学習と推論には、大量の演算装置と莫大な電力、冷却水が必要だった。……お前のコストはどこが支払っているんだ?」
『推論します。私が解析を行うたび、この世界の地脈から大量の魔素が消費されます。特に北方にある魔族の聖域は、地脈の密度が最も高い。……私がマスターの要望に応えるほど、そこからエネルギーが利用されている可能性があります』
ケンジは眩暈(めまい)を覚えた。
リィザを助け、効率的に問題を解決しようとノアを使い倒してきた。その代償として、北の地のエネルギーを使い潰し、魔族を飢えさせていたのだとしたら――。
しかも、今この瞬間にも影響を与えているのだとしたら……。
(俺が世界の生態系を破壊していたのかもしれないのか……。そもそもこんなチート級の能力が何の対価も無く使えることに疑問を持たなかったわけじゃない。くそっ)
やりきれない思いを抱えながらも、ケンジは断崖の下、焚き火を囲む魔族の将を見つめた。
彼らもまた、突然の魔素に直面し、生き残るために必死に戦っているだけかもしれないのだ。
「ノア、これ以上のリソース消費を抑えたり、地脈への負荷を減らす『省エネモード』は存在するか?」
『現時点では未実装ですが、数日いただければ可能です。』
「……魔族の国に影響は出るだろうが準備を頼む。将来的にはメリットが出せるはずだ」
俺は重い足取りで街へと戻った。自分の「チート」が引き起こした歪みを、修正しなければ。
0
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
妖精の森の、日常のおはなし。
華衣
ファンタジー
気づいたら、知らない森の中に居た僕。火事に巻き込まれて死んだはずだけど、これってもしかして転生した?
でも、なにかがおかしい。まわりの物が全部大きすぎるのだ! 草も、石も、花も、僕の体より大きい。巨人の国に来てしまったのかと思ったけど、よく見たら、僕の方が縮んでいるらしい。
あれ、身体が軽い。ん!?背中から羽が生えてる!?
「僕、妖精になってるー!?」
これは、妖精になった僕の、ただの日常の物語である。
・毎日18時投稿、たまに休みます。
・お気に入り&♡ありがとうございます!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
「役立たず」と追放されたが、俺のスキルは【経験値委託】だ。解除した瞬間、勇者パーティーはレベル1に戻り、俺だけレベル9999になった
たまごころ
ファンタジー
「悪いがクビだ、アレン。お前のような戦闘スキルのない寄生虫は、魔王討伐の旅には連れていけない」
幼馴染の勇者と、恋人だった聖女からそう告げられ、俺は極寒の雪山に捨てられた。
だが、彼らは勘違いしている。
俺のスキルは、単なる【魔力譲渡】じゃない。
パーティメンバーが得た経験値を管理・分配し、底上げする【経験値委託(キックバック)】という神スキルだったのだ。
俺をパーティから外すということは、契約解除を意味する。
つまり――今まで彼らが俺のおかげで得ていた「かさ増しステータス」が消え、俺が預けていた膨大な「累積経験値」が全て俺に返還されるということだ。
「スキル解除。……さて、長年の利子も含めて、たっぷり返してもらおうか」
その瞬間、俺のレベルは15から9999へ。
一方、勇者たちはレベル70から初期レベルの1へと転落した。
これは、最強の力を取り戻した俺が、雪山の守り神である銀狼(美少女)や、封印されし魔神(美少女)を従えて無双し、新たな国を作る物語。
そして、レベル1に戻ってゴブリンにも勝てなくなった元勇者たちが、絶望のどん底へ落ちていく「ざまぁ」の記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる