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花咲姫
しおりを挟む街の花壇や煉瓦の道のわきにレンゲの花を咲かせて、すれ違う街の人たちにも「おすそ分け」と様々な種類の花を渡して歩く。
その後の混乱を避けるため、花を渡し始めてすぐに竜に乗って街をでた。
竜の背に乗って上空を旋回すると、街の方から歓声があがった。
バルバドスを護る竜とその王太子だ。私も手を振りながら、空から花をふり撒いた。花をキャッチした人たちから一際大きな歓声があがって、手を振り返してはまた花を振りまきながら飛んでいく。
そして、近くの休耕地をレンゲで一杯にしてから、次の街へ飛び立った。
ただ花を咲かせるとみせかけて、農耕地にレンゲを咲かせる。
レンゲのようなマメ科の植物は、根っこに根粒菌を共生させ、土壌に窒素を補給することができるのだ。いわゆるレンゲ緑肥ってやつね。
土の保水性や排水性とかもよくなって、土壌環境もよくなるらしいからただ咲かせて歩くにはレンゲが最適よね!
この世界には咲いてなさそうだし。ただ単純に可愛いので、私が好きだというのもあるけれど、前世の近所にあったレンゲ畑を思い出したから。
レンゲ畑でレンゲを摘んでいたら、次の日にはレンゲごと耕されていてショックだった。
こうやって耕すと肥料になるんだって教えて貰って……レンゲを咲かせると肥料になるって、その時に初めて知った。
ついでに土壌改善もできるかもと期待している。
次の町は小さな小さな集落だった。
先程と同じ様に、顔色の悪い領主達が歓迎に出迎えて挨拶を受けては町を見て歩く。
ここは牛や山羊といった家畜の方が人口よりも多い町だという。可愛い山羊や動物たちに癒やされたかったが、竜が怖いせいか人口よりも多いはずの動物の姿は、一切見えなかった。
しょんぼりだ。影も見えないなんて。
いいんだもん。あんまりにもがっかりしていたからか、ゴールドが撫でさせてくれたから。
なぜかアレックス様も一緒にしょんぼりしていた。
でも、ここでは近くの牧草地にたくさんのシロツメ草やレンゲを咲かせて歩く。
途中で休憩した山道でも山羊などが好む牧草をたくさん咲かせてきた。
レンゲやシロツメ草の花は、畜産用の飼料になるものだ。これで畜産業に、少しでも良い影響があるといい。
いつかは飼料用のとうもろこしなんかも生産できるようにしていきたい。が、まずは領民たちの食料問題からだろう。
バルバドス国内の食料問題が解決したら、他国からの理不尽な討伐依頼も高額で引き受けられる様になって、きっとこの国は豊かになる。
今は食料危機が深刻過ぎて、他国に足元を見られているのが許せない。だって、この国の人が命をかけて魔物や魔獣と戦っているのだから。
そうして、観光をしたりお買い物をして国内を視察しているという体で、予定していたいくつかの街や集落、牧草地を二週間近く巡り……王城に帰城した。
バルバドス王城に帰城すると、皆が私達を迎えてくれるために待っていてくれた。
旅装を解いて王族専用の例のガラスの温室に向かう。
「フローラおかえりなさい! ああ、寂しかったわ」
いの一番にオリビア様が抱きついてきて、熱い抱擁を交わす。オリビア様は変わらない。私も嬉しくてただいま戻りましたと、抱きしめ返した。
「二人とも座りなさい。オリビア、フローラは戻ったばかりなんだ、座らせてあげなさい」
王様に嗜められ「はぁい」と一緒に座る。二人掛けの椅子に何故か、アレックス様とオリビア様。そして、オリビア様の膝に乗せられた私の三人で座る。え? なんで?
「姉上、自重してください」
「はぁ? アレックスは二週間もフローラと一緒だったんだからいいでしょ?」
「いいわけありません。私の妻です」
「私の義妹でもあるわ!」
「二人ともいい加減にせんか……ああ、可愛いのはわかるが……いや、まぁいい。とにかく、よくやったな。国内の噂も概ね計画通りのようだ」
どうやらこの頃には、私とアレックス様が仲睦まじい様子で国内を案内しながら巡っていること。
キュプラ王族のギフト持ちの姫が、結婚の報告とともに花を咲かせてプレゼントしてくれることが国内で話題になっているようだった。よかった。
「フローラ姉さんが妖精の様だって声もすごいよ。ねえ、兄さん」
「ああ。俺の隊の情報では、竜に乗った女神が降臨したって言われていたぞ」
「私が聞いたのは、竜と魔王を従える天使だって!」
いやいや、やめて。
目的はそっちじゃない……兄弟全員で言わないで恥ずかしすぎるでしょ。お義父様たちも笑顔で頷くの止めてうださい。
だれか助けてと俯いていると、後ろから一際大きな声で発言するのが……
「そんなのは当たり前です! フローラ様は妖精で女神で天使ですから!!」
あ、そうだ。トラビス様が一番やばいんだった。
ついつい遠い目をしてしまう。
「まぁ、そんな当然の事はともかく」
当然ではないよ?
「フローラ様が、可憐な花を国中に咲かせて歩いているとかなり話題になっていますね。こちらの思惑通りに、ただ花を嬉しそうに咲かせて歩いていると言われています」
トラビス様の報告を受けて王様は大きく頷く。
「勘付かれた様子はないか?」
「はい。花の少ないバルバドスでは喜ばれているようだ……と周辺国でも話題になるようですが、そこからの農作の収獲にはどこにも勘付かれていない様です」
「ふむ。して、収獲の方はどうなった」
「収獲に関してもかなり順調です。麦は小麦も大麦もかなりの収穫量があり、各地にフローラ様の輿入れの食料支援品に混ぜて配布予定です。今回の麦だけで、すでに今年は飢えに苦しむ民はいなくなるでしょう」
「それほどか」
「はい。ブロンディールの広大な農地の全てに花を咲かせてくださいましたから」
「そうか……姫、本当に感謝しかない……ありがとう。ありがとう」
王様はそうか、と何度も頷いては感謝の言葉を繰り返してくれた。
とうもろこしも順調に生育し、もう収獲が終わって婚約式に合わせて王都に運びこまれているとのことだった。
それからは、バルバドス国内をみて周った感想を話した。買ってきたお土産を渡したり家族団欒の時間を過ごしたのだった。
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