花咲姫のしあわせ〜国から棄てられる?こっちが棄ててやるんだから!〜

木村 巴

文字の大きさ
58 / 59

夜会にて

しおりを挟む




 あの人達の話の内容は衝撃的だった。
それを一緒に聞いていた隣のトラビス様は、鬼の様な形相になっていた。
 それなのに無理やり笑顔で堪えて「さあ女神様、お部屋に行きましょう」と流したのだ。


 ……あんな表情にも関わらず止めない事から……もしかしたらバルバドス国ではそう認識されているのではないかと気づいた。

 いや……もしかしたら、この世界中なのかも……。

 そう……そう考えると、辻褄が合う出来事がいくつもあった。



 例えば、あんなに領主達の顔色が悪かったこと。
 誰も、話しかけて来たりしないこと。

 それに、キュプラにお迎えに来てくれた時の王族の反応もそうだ。

 王族だからかな? とか思っていたけど……そっか。




 だから、私がいきなり結婚を申し込んだのにも関わらず了承してくれたのも……おそらく同じ理由なんだろう。

 もちろんあの時はそうでも、今は手紙のやりとりからもこの数カ月のことも、ソレだけではないはずだから、大丈夫。
 うん。今は……それだけじゃない、はず。だから大丈夫。…………大丈夫。

 ううん。大丈夫とも違うか。

 例えソレが理由であっても、私の事を好きになって貰えればいいだけだ!

 きっかけと、その後の関係は別だもん。




 私だけが、彼の容姿を素敵だと思っていたなんて……あんなにイケメンだから、本当に気がつかなかった。

 逆に考えると、私には大きなチャンスだった。アレックス様の気持ちを考えると、そんな風に言ってはいけないって思うけど、でもそう思わないと誰も報われない。



 そう。間違いは正される。そういう事ね。


 そうなのね……私が正せる。



 他国の使者がいなくて、バルバドス国内の有力貴族が集まる、この婚約披露の夜会は……これを知らしめる良い機会だわ。





 着替える最中に、思わず握りこぶしを握っているとポーラが首をかしげていた。
 ポーラ見ていて! 私はきっとやり遂げてみせるわ!

 バルバドス神も正せると言ってくれているんだもん。きっと出来る!





 今後の事をウンウン考えているうちに、あっという間に時間が過ぎていた。


 いつの間にか私の支度も出来上がっていて、完璧な装いだ。キュプラ式の形の薄い絹に、レースや宝石がたくさん縫い付けられた美しいドレス。

 黒い薄絹は私の白い肌に、思いのほか映えて大人っぽくみせてくれる。首元や耳を飾るのは大小様々な大きさのルビー。
 完璧にアレックス様の色だ。


 なんか……意外と大人っぽく見えていいかも。これなら来年の成人後の結婚式には、なんとかなるかも。

 そうやって鏡の前で確認していると、アレックス様がお迎えに来てくれた。


「フローラ……とてもよく似合っている」
「あ、ありがとうございます」

 真っ赤なお顔で褒められると、私まで恥ずかしい。だって、完璧にアレックス様のお色だもん。


「披露の夜会は多くの貴族が参加するから、気をつけてくれ。なるべく俺の側を離れないで……後……色々と煩わしい事もあるかもしれないが……なるべく対処するから」
「アレックス様! 私も王族ですよ? 色んな人達がいる夜会なんて、慣れっこです!」
「そうか」
「はい! 花しか咲かせない姫なので、なんて言われても平気です!」
「いや……フローラじゃなくて……」
「大丈夫ですからね!」


 アレックス様の言いたい事はわかってる。でも、あえて知らんぷりしていく。私は絶対に、この認識を正してみせるわ!



 夜会には、バルバドス国内のほとんどの貴族が参加しているとの事だった。いつも参加しない貴族も、次期国王の婚約式ともなると来ているらしい。


 全ての参加者が入場し、最後に王族が入る。



 声高らかにバルバドス王族と私の名が呼ばれ順番に入場していく。私達は会場の二階部分である、大階段の上に出た。

 さすがに軍事国家だと思える程に、全員が綺麗な礼をとっている。



「面をあげよ」


 王の言葉で一様に顔をあげて立つ。やはりキュプラの夜会とはかなり雰囲気が違う。夜会でも軍隊の様だ。


「今日は王太子アレクサンダーとフローラの婚約式が恙無く執り行われた。バルバドス神より、いまだかつてない程の祝福をここにいる者達も聞いたと思う。大いなる祝福をもたらさん二人の門出を、今宵は皆も祝福し楽しんでくれ」


 大きな拍手と歓声の後、アレックス様にエスコートされ大階段を降りていく。


 なるべく美しく見える様に、誰からも次期王妃にふさわしく見える様に精一杯の自分で歩く。

 アレックス様がキュッとエスコートする手を握りしめてくるので、そっと握りかえす。
 見上げると嬉しそうに微笑んでくれる。この日を迎えられたことが嬉しくて元々笑顔になってしまうけど、それ以上にアレックス様かっこいいので頬が赤くなってしまっているだろう。

 私のしあわせなこの気持ちが、みんなに伝わればいい。本当は立派な王妃様になれそうとか思われたいけど、今はアレックス様と婚約出来て嬉しいのだと伝わればいい。


 ホールの真ん中に進むと、お互いに向かい合い一礼する。そして、音楽とともにファーストダンスを踊る。


 練習の成果が出て、息はビッタリだ。このキュプラ式の軽いドレスがダンスに合わせてヒラリヒラリと舞う。

 誰も彼も私達に注目しているのに、今、私達はまるで二人きりの様に感じる。アレックス様と踊るダンスは特別楽しい。まるで羽がはえたかのよう。

 くるくると踊り続け、ああ、もうダンスが終わってしまうという所でアレックス様がニッと笑って、ふわっと私を高くリフトした。

 驚いたけれど、最高に楽しい!

 音楽とともに着地すると、それに遅れてふんわりとドレスも着地した。

 二人で寄り添って礼をとれば、大きな拍手で迎えられた。


 そこからダンスが始まり、私達は降りてきた王族に合流した。




「フローラ! 可愛いかったよ! 本当に天使の様だった!」
「とっても素敵でしたよ」


 満面の笑みで駆け寄るオリビア様と王妃様は、私と色違いのキュプラ式のドレスだ。


 周囲がドレスについて聞きたそうにしているので、王妃様がまとめて相手にしてくれている。

 耳元でオリビア様が「今後、このドレスが流行りそうだな。コルセットもないから着るのが楽で私は好きだ」と笑う。


「さあ、アレックスが片付いたし、王位継承も問題ないからな! 私も恋人と踊ってこよう!」

 そう言って笑いながら会場に消えた。アレックス様も兄弟も「あいつ、相手がいたのか?」と、ポカンとしている。



「はぁ、相手がいないのは俺達だけだな」
「本当ですね。じゃあ、どっちが先に相手が見つかるか競争しますか? 兄様」
「何? いい度胸だな」


 二人ともじゃれ合いながら、ダンスの輪に向う。


 王様と王妃様と一緒に、私達はきちんとした挨拶を本日は数組だけ受ける事になっていた。
 数が多すぎるので辺境や遠くの有力貴族が、本日の夜会中に挨拶を受ける予定となっていた。
 他の人達はまた別の日に予定が組まれている。

 今日一日では、きちんとした挨拶が出来ないとの事で、今後一年かけて会って行くらしい。

 風習が違って面白い。

 キュプラだと、軽く全員と挨拶だけをサラリとするのだが……バルバドスはきちんと挨拶していくので、申し込みの中から予定が組まれていた。


 本日予定していた人達と挨拶が終わると、王と王妃がダンスに加わるラストダンスまで自由となる。


 夜会はラストダンスが終わると、会は自体は続くが一応は閉会となるのだ。


 まだ少し時間があったので、アレックス様とスローなダンスを楽しんだ。
 挨拶を受けて緊張した身体がほぐれた気がする。

「フローラ疲れただろう? 少し休憩しよう」
 そう言ってバルコニーへ入り、長椅子に腰掛ける。アレックス様は飲み物やつまめるものを取りに行った。


 ふう、とひと息ついていると……やはり遠くで、アレックス様を見て噂をしている者達が目につく。





 やはり「怪物だ」「魔物だ」「恐ろしい」そう言った単語が多い。
 
 悔しい。……くやしいのだ。アレックス様の事を誤解して、遠巻きにして、恐れて、彼を孤立させる。そんな理不尽。
 きっとお祖父様もだわ。ここで、断ち切りたい。


 笑顔で飲み物を渡してくれるアレックス様に、心の中で私に任せて!と訴える。
 うん。全然通じてないけど、微笑み返してくれたからいいわ。



 会場の調べが変わるのが聞こえる。


「フローラ、ラストダンスだ。行こう」
「はい」


 うん。ここからが本番よ。



 王様と王妃様のダンスが優雅に終わり、閉幕を告げる。最後に今日の主役である私の一言をと王様から言われた。


「本日は我らの為にありがとう。これからは夫婦となって、バルバドスの為に力を尽くす事を誓おう」

 まずはアレックス様が感謝の言葉を伝えてくれる。緊張でドキドキする。さあ、フローラと優しく手をとってくれる。


「皆様、本日は素敵なお祝いをありがとうございました。私はキュプラ王族として、キュプラの女神の祝福を受けて育ちました。今日、新たにバルバドスの神に大いなる祝福を受け、気持ちを新たにバルバドスの為にありたいと思います」

 ここで一つ息を吐いて、小さな花をそこかしこに咲かせる。会場で、わぁと小さな感嘆の声があがる。


「キュプラ神の祝福はとても強いと思っておりましたが、バルバドス神の祝福もとても強いので驚きましたわ」

 すると二階席からお祖父様が声をあげる。

「そう思うか?」
「はい。だって、そうじゃありません? キュプラ神よりもわかりやすいです!」

 お祖父様にも、みんなにも聞こえる様に、はしゃいだような大きな声で言う。

「フローラ、何を?」
「え? アレックス様?
 だって、アレックス様もお祖父様も……ね!!」


 会場は、物音一つしない。私はあえて空気を読まずに話し続ける。




「キュプラ女神は自分の子孫の一部にギフトをくださいます。そして、国土を護ってくれていますでしょ? ただ、バルバドス神は各世代に自身の加護を一人に全振りさせてくださるのでよね! そして、その一人がわかりやすい様にバルバドス神と近いお色をしている!!」


 さあ、これが証拠とばかりに笑顔で宣言する。


「だからこそ、その人が国王になると決められているのでしょう?」

「……」


「私もお優しいアレックス様を愛しておりますが……寵愛を競うのがバルバドス神様だなんて……勝てませんわ! いえ、いつか勝ってみせますね!」






 会場は混乱のまま閉会となった。




 



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

惚れた男は根暗で陰気な同僚でした【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
イベント企画会社に勤める水木 茉穂は今日も彼氏欲しさに合コンに勤しむ、結婚願望が強い女だった。 ある日の週末、合コンのメンツが茉穂に合わず、抜け出そうと考えていたのを、茉穂狙いの男から言い寄られ、困っていた所に助けに入ったのは、まさかの男。 同僚で根暗の印象の男、【暗雨】こと村雨 彬良。その彬良が会社での印象とは全く真逆の風貌で茉穂の前に現れ、茉穂を助けたのである………。 ※♡話はHシーンです ※【Mにされた女はドS上司に翻弄される】のキャラを出してます。 ※ これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。 ※終了したら【プラトニックの恋が突然実ったら】を公開します。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

処理中です...