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第三章
【第50話】一人の二人
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「ん、ここは?」
目覚めると知らない場所にいた
どこまでも広がる水面
俺はその上に立っていた
空は雲ひとつ無く蒼く澄み渡っている
「お早いお目覚めで」
声のする方を向くと黒いモヤが歩いてきた
モヤの後からは夜が迫っており、まるで夜を引き連れているようだった
「ここは精神世界
普段は開かれる事の無い禁断の部屋
ようこそ、神に愛された人よ」
「何を言って…」
「俺はずっとこの時を待っていた
影に生まれ自分の好きに出来ないと思っていた
しかし今は違う!
俺の魂が確約された今、立ちはだかる壁は何も無い」
夜が段々と広がっていく
それと反比例するように黒いモヤだった者の形がハッキリとしてきた
地平線まで、今見える空が全て夜に染まった時に俺が見たものは
俺だった
と、同時に俺の足元の水が揺らいだと思うと俺は水の中に落ちた
水の中はとても暗く、冷たく、どこまでも深かった
段々と沈んでいく俺の耳に夜を従えていた俺の声が響いてきた
「おやすみ、今までの俺。これからは
俺が光だ」
水の底の方へ引きずり込まれて行く間、
俺にはこの世界での思い出が次々と蘇っては擦り切れ、掠れ、消えていった
(あぁ、俺はここまでなのか…)
そう思いつつも俺は遠のいて行く水面の光に無意識に手を伸ばしていた
その手は届くはずもなく虚しく水をかいただけだった
段々と瞼が重くなり、目を閉じる
瞬間、身体が暖かい光に包まれ、一気に水上まで飛び出した
「ま、にあったぁ~…」
顔を上げるとそこにはキセラギが立っていた
「よぉ、久しぶりだな」
「貴方さっきまで自分が消える寸前だったというのに随分と余裕ね?」
「お陰様で、助かったんでね」
「そう、なら早速だけど
アイツから自分の身体を取り戻して欲しいの」
「ん?」
「アイツは生まれるはずの無かった存在何だけど、こちらで手違いと言うか、デバッグミスというか…
本来貴方が死んだ時は影が身体を動かして復活までの時間稼ぎをする予定だったのだけれど、その影に感情が宿ってしまって。
暴食の王の魂を食べた事で影が個として成り立ってしまったのよ」
「つまりはあれか?神様達のミスを俺が片付けろって事か?」
「元は貴方の身体なのだから貴方がやって同然じゃなくて?」
「はぁ…
なら、さっさと地上に送ってくれよ」
キセラギは勝ち誇った笑みを浮かべると俺に手をかざした
「今回はこちらにも非があるから、特別に私の力を少し貸してあげるわ。
それと、地上には身体の代わりを用意したから好きに使っていいわよ」
俺の身体が段々と光の粒子となって消えて行く
「最後に、これはあなた次第だから聞き流してくれて構わないわ。
いい?あれは…………」
薄れゆく意識の中でキセラギの声が鈴の音の様に心地よく聴こえてきた
目覚めると知らない場所にいた
どこまでも広がる水面
俺はその上に立っていた
空は雲ひとつ無く蒼く澄み渡っている
「お早いお目覚めで」
声のする方を向くと黒いモヤが歩いてきた
モヤの後からは夜が迫っており、まるで夜を引き連れているようだった
「ここは精神世界
普段は開かれる事の無い禁断の部屋
ようこそ、神に愛された人よ」
「何を言って…」
「俺はずっとこの時を待っていた
影に生まれ自分の好きに出来ないと思っていた
しかし今は違う!
俺の魂が確約された今、立ちはだかる壁は何も無い」
夜が段々と広がっていく
それと反比例するように黒いモヤだった者の形がハッキリとしてきた
地平線まで、今見える空が全て夜に染まった時に俺が見たものは
俺だった
と、同時に俺の足元の水が揺らいだと思うと俺は水の中に落ちた
水の中はとても暗く、冷たく、どこまでも深かった
段々と沈んでいく俺の耳に夜を従えていた俺の声が響いてきた
「おやすみ、今までの俺。これからは
俺が光だ」
水の底の方へ引きずり込まれて行く間、
俺にはこの世界での思い出が次々と蘇っては擦り切れ、掠れ、消えていった
(あぁ、俺はここまでなのか…)
そう思いつつも俺は遠のいて行く水面の光に無意識に手を伸ばしていた
その手は届くはずもなく虚しく水をかいただけだった
段々と瞼が重くなり、目を閉じる
瞬間、身体が暖かい光に包まれ、一気に水上まで飛び出した
「ま、にあったぁ~…」
顔を上げるとそこにはキセラギが立っていた
「よぉ、久しぶりだな」
「貴方さっきまで自分が消える寸前だったというのに随分と余裕ね?」
「お陰様で、助かったんでね」
「そう、なら早速だけど
アイツから自分の身体を取り戻して欲しいの」
「ん?」
「アイツは生まれるはずの無かった存在何だけど、こちらで手違いと言うか、デバッグミスというか…
本来貴方が死んだ時は影が身体を動かして復活までの時間稼ぎをする予定だったのだけれど、その影に感情が宿ってしまって。
暴食の王の魂を食べた事で影が個として成り立ってしまったのよ」
「つまりはあれか?神様達のミスを俺が片付けろって事か?」
「元は貴方の身体なのだから貴方がやって同然じゃなくて?」
「はぁ…
なら、さっさと地上に送ってくれよ」
キセラギは勝ち誇った笑みを浮かべると俺に手をかざした
「今回はこちらにも非があるから、特別に私の力を少し貸してあげるわ。
それと、地上には身体の代わりを用意したから好きに使っていいわよ」
俺の身体が段々と光の粒子となって消えて行く
「最後に、これはあなた次第だから聞き流してくれて構わないわ。
いい?あれは…………」
薄れゆく意識の中でキセラギの声が鈴の音の様に心地よく聴こえてきた
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