何の取り柄もない営業系新入社員の俺が、舌先三寸でバケモノ達の相手をするはめになるなんて。(第二部) Dollhouse ―抱き人形の館―

二式大型七面鳥

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第四章:深淵より来たる水曜日

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 日本橋高島屋の地下一階、いわゆるデパチカで買ってきた某有名店のデリカショップで買ってきた、ゴロゴロとエビの入った海老炒飯に定番の餃子は、最近の北条柾木のお気に入りメニューである。
「菊子さん、あれで本当はものすごく料理上手なんですよ」
 時田と袴田がテーブルをセッティングする間に、ささっとベーコンとタマネギ入り卵スープを作った菊子の手際に目を丸くしている酒井と蒲田に、柾木はそう説明する。
「はあ……あの見てくれでお料理上手とは、オートマータにしておくのが惜しいです、はい」
「彼女、戸籍はあるんだろ?法的には問題ないんじゃないか?」
 いつ、何をどうしたのかは知らないが、オートマータである井ノ頭菊子いのかしらきくこは、父親と彼女が呼ぶ錬金術師で人形師の井ノ頭公庵いのかしらこうあん共々、れっきとした日本国国民としての戸籍を持っている。
「あ、そうか、そうですね、はい。……行けますかね?」
「行けますかって……どうなんだろう?」
 茶化したつもりが真顔で蒲田に返されて、酒井は返答に詰まる。
「菊子さんの料理は年期と精度が違いますから。百回連続で全く同じ味が作れる所からの、ゆらぎを含んだ絶妙のバラツキを出す微調整も出来るほどです」
「あら、年経てとしへているだけですもの、お恥ずかしいですわ」
 緒方いおりの、料理だか科学だかよくわからない評価解説に、菊子が頬に手を当ててはにかむ。
「……柾木様は、やはりお料理が上手な女性の方がお好きですか?」
「え?」
 向かい側の酒井、蒲田、いおりの会話を聞いていた、柾木の隣に座る玲子が、唐突に聞いて来た。
「そりゃまあ、料理は上手な方がいいですよね?」
 若干慌てた柾木は、対面の酒井と蒲田に同意を求める。当然のように、酒井も蒲田も頷く。
「……わたくし、もっと精進いたします……」
 それでも、この半年ほどで、玲子の料理の腕前は「箸より重いもの持ったことがない」レベルから「柾木が旨いと感じるベーコンエッグが焼ける」所まで向上したことを、柾木は舌で知っている。真剣な目で海老炒飯を見つめながらつぶやく玲子が、柾木には可愛らしく見えた。
「さあ、いただきましょう」
 スープの配膳を終えた菊子が席に着き、言った。

「……どうかしたんですか?」
 食後のジャスミンティーを戴きながら、蒲田が、ちょっと難しい顔で携帯をいじっている酒井に声をかけた。
「あ、いや、うん、さ……青葉さんからメールの返事が来てなくてな」
「いつ送ったんですか?」
「朝、出がけにな、青葉さん、夕べ帰ってなかったみたいなんで」
「へえぇ……酒井さん、隅に置けないですね、はい」
「……は?」
「あらあら。毎朝そうやって連絡取り合ってらっしゃるんですか?」
「まあ、五月様と酒井さんはそういうご関係でしたのですか?」
 明らかに興味を抑えきれない表情で、菊子と玲子が話題に入り込んで来る。事ここに至り、酒井は、五月の名前呼びを回避して安心していた自分が、実はそもそもその話題を出してしまった時点で地獄の釜の蓋を開けていたことに気付いた。
 酒井さん、うかつだぞ。食べきれないので手伝って下さいと玲子から取り分けられた分の海老炒飯も片付けた柾木は、飢えた野獣の群れに肉を投げ込んだかのような酒井のその行いを、あえて黙って様子を見ている。見ていることしか、出来ない。
「いや、連絡取り合ってるわけではなくて……」
 まさか部屋が隣だから、などとは酒井は口が裂けても言えない。その事は今のところ誰にも話していない。
「素敵ですわ。毎朝、モーニングコールをしあってらっしゃいますの?」
 夢見る乙女の目つきで――ベールに隠れてその目は見えないが――玲子が酒井を見ながら言う。
 酒井さん、頑張れ、超頑張れ。やぶ蛇にならないように沈黙を守りながら、柾木は影ながら酒井を応援する。
「いやいや、モーニングコールとかではなくてですね……」
「僕はですね、酒井さんに五月さんを紹介したの、少し後悔してるんですよ、はい」
 ジト目で酒井を見ながらそう言う蒲田を見て、酒井は気付いた。こいつ、さっき、こうなることを予想してカマかけやがったのか。
「蒲田君、君ね……」
「でもまあ、いいんです、はい。お似合いなのは間違いないので、はい」
 ジャスミンティーをあおって、蒲田は、
「……宙ぶらりんだと僕も落ち着かないんで、とっとと決着つけちゃって下さい、はい」
「決着って」
「そうですわ!」
 蒲田と酒井のやりとりをよそに、玲子が可愛らしく手を打って柾木に振り向く。
「私も、明日から毎朝、柾木様にモーニングコール致しましょう!よろしくて?柾木様」
「ぅえ?」
 こっちに飛び火しやがった。柾木は、沈黙を守ることで流れ弾も回避していたつもりだったが、相手にはそんな消極的戦術は全く通じていなかったようだ。
「いや、まあ……」
「逃げ場はございませんぞ?」
 ジャスミンティーのお替わりを注ぎながら、こっそりと柾木の耳元で時田が呟く。
「……はい」
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