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リュールカ第二部 二話試作
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「お帰りなさいませ……岩崎大佐の消息、まだお分かりにならなかったのですか?」
狩野浩伸帝国陸軍大佐が執務室に戻った時、通訳兼秘書役の如月茉莉花はそう声をかけ、コーヒーを入れる用意を始める。
「ああ……なしのつぶて、だ」
コートを脱ぎながら、狩野は答える。コートの下からは、開衿の制服を着た恰幅の良い体が現れる。その狩野のコートを、茶道具一式を載せた盆を執務机に仮置きした茉莉花が受け取り、コート掛けにかける。
「それは、心配でございましょう……それで、大使閣下からは、何か?」
「景気のいい話は何も無いよ。海軍は負け戦続き、我が陸軍もその海軍の尻拭いでジリ貧。盟友ドイツも……」
狩野は、低めのドイツ語が流れるラジオの方に向いて、言う。
「……スターリングラードを攻めあぐねている。チョビ髭が戦術レベルで口出しして、現場の足を引っ張ってるようだ。このまま冬になれば、去年の二の舞だな」
「大佐、滅多なことは……」
「構わんさ。黒服どもも、同盟国の公使には手は出せんよ」
そう言って、立ったまま、狩野は茉莉花が目の前で落としたコーヒーを啜る。
1942年、初冬。開戦当時の破竹の快進撃はどこへやら、枢軸郡側は徐々にその旗色を悪くしていた。欧州東部戦線では初期の電撃戦でモスクワを落とせなかったツケが、太平洋戦線では虎の子の空母を失ったツケが、そしてどちらも、延びきった補給線というアキレス腱が、相手国の恐るべき物量をもってじりじりと首を絞め始めていた。
「まあ、そんな状況だからこそ、岩崎が持ち帰る情報に価値があるわけだが……」
狩野は、マグカップを手に、窓の外を見る。公使館から見る秋深まるベルリンの町並みは、まだまだ戦争の、負け戦の緊張感は薄い。
岩崎賢一陸軍大佐は、狩野の同僚である。同僚であり、士官学校の同期であり、腐れ縁でもあり、そして、戦友にして親友でもあった。
マルクス主義に造詣が深く、ロシア語も堪能であったため、駐ソビエト公使館の駐在武官としての抜擢はある意味当然のことと思われ、同様に駐ドイツ公使館駐在の狩野とは、風雲急を告げる昨今であっても、年に一、二度は顔を合わせる仲ででもあった。
とはいえ、ソビエトは、日本から見れば連合国の一員ではあっても敵国ではないが、ドイツにとっては真正面の敵国である。第三国を通じて互いの政治的連絡ルートは確保するのが戦争の暗黙の了解とは言え、その敵国に駐在する第三国の武官が大手を振って国内を闊歩するのは、例え上層部が黙認していても、武装警察や秘密警察の現場としては面白かろうはずは無く、嫌がらせを受けた回数は十指に余る。
今回も、私的な面会の約束を反故にされたのは、そういった嫌がらせの類いの影響だと、狩野は考えていたが、それにしても音信不通で既に三日、これはちょっと度が過ぎている。
「公務の都合もあろうから、明日まで待って、それでも何も無ければ、正式な抗議と捜査依頼を考えるか。その際には、また苦労をかけるが、如月君、すまないがひとつよろしく頼むよ」
「はい大佐、承知しております……そうですね、明日は、心当たりを回ってみようと思います」
振り向いて茉莉花にそう声をかけた狩野に、茉莉花は微笑んで答える。
「そうしてもらえるか。女郎屋にしけ込むような奴でもないから、探すとなると心当たりは限られるのだが……なんにしろ、同盟国との仲違いはなるべく避けたいところだからな」
「その通り、ですわね……」
「俺の分かる範囲で、奴さんの行きそうな所のリストは後で渡す。よろしく頼む」
「承知いたしました」
当たり前のようにそう言った狩野と、相槌を打った茉莉花の視線は、狩野の執務机の上の電話機に向いていた。
「それでは大佐、本日はこれで失礼します」
「ああ、また明日、よろしく頼む」
いつも通りの挨拶をして、如月茉莉花は狩野大佐の執務室を出る。
如月茉莉花は、狩野大佐が個人的に雇った私設の通訳であり、秘書であった。その業務の内容上、現地採用の民間人であっても軍属と同様の地位権利及び義務を与えられており、しかし、その給料は狩野大佐のポケットマネーから捻出されている。だが、それだけの支出があってなお、狩野大佐は、彼女を雇って正解であったと考えていた。内地では新聞社に勤めていたこともあり、語学その他の研鑽の為に欧州に渡ったという彼女は、それ程には有能であった。言うだけのことはあって語学は、欧州の主要言語は全く問題無く読み書き会話をこなし、加えて新聞社に居たせいか国際情勢にも詳しく、なによりも美人で物腰も優しい。モダンガールに流行のボブカット――狩野などはつい「おかっぱ」と言ってしまうが――に揃えた黒髪に、やや吊り気味のアーモンド型の大きな瞳は、日本人離れした堂々とした体格もあいまって日本国公使館のみならず、近隣の外国公使館員からも言い寄られることが度々らしいが、狩野の知る限り特定の異性と深い付き合いをしている様子はない。狩野自身、独身である事もあって一度粉をかけてみたが、けんもほろろにさらりと躱された記憶がある。
その、背筋の伸びた格好良い後ろ姿を見ながら、
「……さて、どう動く?」
口の中だけでそう呟き、狩野は、ちらりと机の上の電話に目をやった。
「さむ……」
公使館の門を出た茉莉花は、寒風に吹かれ、思わず背を丸める。欧州大陸としては北部に位置するベルリン、初冬の寒風は身に染みる。厚手の手袋を持ってくれば良かった。そんな他愛もない後悔が頭をかすめた茉莉花は、コートの襟元のボタンを閉め、早足で家路を急ぐ。
数年前まで日本人学校――学校と言ってもアパートの一室に毛の生えた程度――のあったバベルスベルガー通り、その日本人学校跡にほど近いアパートが茉莉花の居住地であった。
いつものことだが、多少なりとも残業があったので、もはや周囲は暗くなっている。一般的に欧州の住宅地は商店が少なく、あっても習慣的にも規制的にも夜間営業をしない店がほとんどである。一杯飲み屋があるでなし、スーパーやコンビニがあるでもなし。夕飯を摂りたければ帰宅して何とかするしかなく、空きっ腹をかかえた茉莉花の足は、自然とピッチが上がる。
だからだろうか。茉莉花は、突然路地裏から飛び出してきた男にまったく気付かず、後ろから押さえ込まれる。口にハンカチを押し当てられ、左腕は後ろにひねり上げられる。右手でハンカチを払おうにも、口を押さえる男の右腕は、そのまま茉莉花の右腕も抑えつけている。かろうじて動く肘から先は、男の腕が邪魔で、ハンカチを振り払う位置まで上がらない。ハンカチには何か薬品が含ませてあるわけではないようだが、この状態で出せる程度のくぐもった声では、助けを呼ぶのはかなり困難だろう。
茉莉花側から見れば、絶体絶命。襲撃者側から見れば、綺麗に決まった、かに見えたその襲撃であったが。
突如、小さく鈍い激突音と共に、襲撃者の腕から、体から力が抜ける。即座に襲撃者の腕を振りほどいて振り向いた茉莉花が見たのは、やや息の上がった、何やらだらんとしたもの――よく見ればそれは、コインを詰めた靴下――を右手に持った狩野大佐の姿だった。
「大丈夫か……」
狩野は、茉莉花に声をかける、かけようとした。
だが、その狩野の声が届くより早く、茉莉花の体が沈む。暗さもあって茉莉花の動きを目で追えなかった狩野は、すぐ後ろで、サンドバッグを叩くような音と、男のうめき声がしたのを聞く。
振り向いた狩野が見たのは、体を二つ折りにして崩れ落ちる暗色のコートを着た男と、そのコートの男の襟首を逆手の右手で掴み、そのまま右の肘で男の鳩尾を突き上げた茉莉花の姿だった。
予想外の光景に思わず固まってしまった狩野は、遠くで、走り去る革靴の足音が聞こえた、ような気がした。
ちっ。誰かの舌打ちを聞いた気がして、狩野は、はたと我に帰る。
「やっぱり、もう一組居たわね……でも、ありがとうございました、狩野大佐。助かりました」
服の埃を払うようにしながら、茉莉花は立ち上がりつつ、そう言って狩野に笑顔を見せる。
「あ、ああ。大丈夫、だったかね?」
「はい。大佐も、ご無事で?」
「私は、うん、大丈夫だ、しかし……」
「では、大佐、どうやら思ったより余裕は無さそうです。申し訳ありませんが、どちらか一人、抱えて来ていただけますか?」
「え?」
「私のアパートはすぐそこです、さあ」
有無を言わさず、疑問を挟む余裕を与えず、茉莉花は倒れている男達の片方を抱えると、小走りに走り出した。
「……力、強いなぁ……」
その後ろ姿に小さくそう呟いた狩野は、あわててもう一人の男を抱えると、茉莉花の後を追った。
「さて、こいつはこれでいいとして……」
アパートの二階。女性の部屋にしては質素な貸しアパートのリビングで、茉莉花は、自分が肘打ちを食らわせた方の男を自室の椅子に座らせ、縛り上げると、手を叩きながら言った。
狩野は、表通りに面したリビングの窓の横に立ち、荒くなった息を整えつつ、その茉莉花の様子を見ている。
「こいつは……あ」
床に転がるもう一人の男の首筋に手を当てた茉莉花は、狩野を振り返る。
「……大佐、割と力一杯殴りました?」
「あ、いや、まあ、如月君の危機だと思ったから……」
「まあ、それはありがとうございます……なんですが。この男、死んじゃってますよ」
「え?」
ドラマなどでは、後頭部に手刀で、あるいは鳩尾に拳骨で打撃を与えて被害者を失神させる演出をよくするが、実際にこれをやろうとすると、衝撃が足りずに被害者が痛みでのたうち回ることになるか、衝撃が強すぎて脳挫傷か脊髄損傷か、あるいは内臓に障害が発生して被害者が重体あるいは死亡する可能性が高い。現に、茉莉花が肘鉄を入れた男も、しばし悶絶し嘔吐した後に静かになった。痛みと衝撃による呼吸困難からの酸欠で落ちたと思われる。
「まあ、事故です事故。大佐が気に病まれる事ではありません。現に、ほら」
軽く言いながら、茉莉花は男の衣服の下を探り、目星をつけていたものを探し当て、引っ張り出す。それは、ドイツ軍の制式拳銃であるワルサーP-38、ただし、銃身が極端に短く切り詰められた、通称ゲシュタポモデルと呼ばれる特注品だった。
「おっと、消音器もありました。なるほど、あたしのメモ目当てだろうけど、あたしが言うこと聞かなかったらズドン、か。ご丁寧に大佐の執務室に盗聴器仕掛けて、あたし相手にそういう事考えてる輩ですから、これはもう敵兵、だから因果応報ってもんです」
そうなのだろうか?狩野は、混乱する。日露戦争直後に陸軍に入り、日華事変では一時的に参戦するも最前線勤務ではなかった狩野――と岩崎――は、自らの手を汚して敵兵を殺した経験がない。ましてや、自分が今殺した相手は、仮にも同盟国の警察組織の人員らしい。これは、敵兵と呼んでいいのだろうか?
「お気持ちは分かりますが、悩むのは後でゆっくりにして下さい。今は、それどころではありません、時間が惜しいので」
だから、初めて「敵兵を殺害」した狩野は、混乱のあまり、鹵獲した拳銃を自分のスカートのベルトの内側に押し込みつつ声をかけてきた如月茉莉花のしゃべり方が、普段より少しぞんざいになっている事など気付くはずもなく、その茉莉花が今から何をしようとしているのか、何をしたのかなど、分かるはずもなかった。
如月茉莉花は、狩野に声をかけ終えると同時に、目をつぶって、椅子に縛りつけた男の額に、自分の額を押し当てていた。
「……ぅああっ!」
男は、突然、悲鳴を上げて目を見開いた。その口を、咄嗟に茉莉花はハンカチで――自分の口を、死んだ方の男が押さえたそれだ――押さえる。
「騒いじゃダメ。ご近所迷惑でここ追い出されたら、あたし、住むとこ無いんだから……さあて、目が覚めたところで、洗いざらい話してもらうわよ?」
茉莉花は、そう言って、男の目を見つめて、嗤う。その笑顔は、妖艶にして怖ろしい、男を地獄に引き込む悪女の顔。狩野には、そう見えた。
「は……話す……なんでも、はな」
男の言葉は、そこで途切れた。
それは偶然なのか、それとも何かを感じたのか。ほんの一瞬早く、茉莉花は男から体を離しつつ斜め後方の窓に振り向き、そのまま窓側の床に倒れ込む。
ぽつん。茉莉花が離れるとほとんど同時に、男のこめかみあたりに赤い小さい穴が空く。窓ガラスが砕け、窓と男を結んだ線の延長線上の壁が、赤く染まる。男の頭が、穴の空いたこめかみと反対側に突き飛ばされたように倒れ、ゆっくりと、重心の崩れた体がそれを追って倒れる。窓の外から、遠く、響くような銃声が一つ。
続けて、耳を裂く銃声。床に倒れた茉莉花が、倒れながらベルトから引き抜いた拳銃を、天井のランプシェードだけを被った裸電球に向けて撃った。極端に短い銃身ゆえスライドにつけられたフロントサイトのせいか、床に倒れた崩れた姿勢で撃ったせいか、それとも単に腕のせいか。撃ち始めて二秒目、三発目で電球は割られ、部屋は真っ暗になる。
その一部始終を、狩野は、何かの悪夢が進行しているような印象を持って見ていた。まるで自分の意思は反映されない、手も足も出ず、どんどん事態が悪化していく、悪夢。
まるっきり現実味のないその感覚の中、狩野は、魔女の声を聞いた。
「やってくれるじゃない……いいわよ、お姉さん本気で相手してあげる……」
それは、音としては聞き覚えのある茉莉花の声だったが、その声色は、まるで聞き覚えのない、地獄の底から響くようなドスが効いていた。
ほとんど同時に、狩野の耳に、荒々しくアパートの玄関扉が開く音が聞こえる。
「うわ早っ!手回し良いったら!」
再び、茉莉花の声がする。
「狩野大佐!強行突破します!ついて来て下さい!」
「え?え?」
狩野の返事を待たず、茉莉花が真っ暗闇の中立ち上がり、走り出す気配と足音がする。直後、その足音に、何か重いものを引き摺る音が加わる。
「うりゃあ!」
間髪入れず、茉莉花の気合いの入った声。何かが壊れる音と、ドアが勢いよく開いて廊下側のドアストップに当たる音と、差し込んでくる明るい廊下の照明。その照明の中、何かを引き摺り、ドアを蹴り開けたように見えた茉莉花のシルエットは、すぐに廊下の端の階段に向かって走り去る。
「ちょ、如月君!待って……」
言いながら、狩野も慌てて走り出す。蹴り開けられ、ドアロックが破壊された部屋の入り口から狩野が顔を出した時、ちょうど茉莉花は階段の際に立ち、
「うおりゃあ!」
両手に持っていた、恐らくは秘密警察の下っ端――だった――男達の亡骸を、階段の下に向けて投げ飛ばした所だった。
「うわあああっ!」
階段の下で、複数の男の悲鳴がした。だが、その男達の悲鳴に躊躇することもなく、
「どりゃあ!」
今度は茉莉花が、階段を数段駆け下りると、そのまま階下にドロップキックをかましつつ、狩野の視界から消えた。
「……」
何か言いたいが、何を言って良いか、言葉すら浮かんでこない。呆然としてしまった狩野は、
「うぎゃあああっ!」
階下から聞こえた、複数の魂凍る悲鳴に我を取り戻し、あわてて階段に駆け寄った。
「大佐!早く!」
階段の上から男の死体、しかも一つは椅子付きで投げつけられ、体勢を崩したところにとどめのドロップキックを食らい、三人の男が階段下のエントランスに倒れていた。茉莉花は、その三人の上にのしかかっていた二人分の死体――流石に椅子は砕け、二人分の遺体だけ――の首根っこをふん捕まえて、階段の上の狩野に一声かけると、再び脱兎の如くに飛び出して行く。
「……なんだ、ありゃあ……」
階段を数段転げ落ちたらしい、手足を変な方に曲げて呻く三人を踏まないように気を付けつつ、狩野は呟いて、茉莉花の後を追った。
そう呟いて、後を追う以外、狩野には出来なかった。
表通りに面する玄関ではなく、駐車場に繋がる裏口に向かった茉莉花を追って、狩野は走った。
狩野が駐車場に出ると同時に、エンジンの始動音がする。音の方を見れば、茉莉花が停めてあった初期型オペル・オリンピアに乗り込み、エンジンをかけていた。
「如月君!君、車持ってたのか!」
運転席の茉莉花に、やや驚いて狩野はそう声をかける。
「まさか!」
しかし、茉莉花は笑って振り向き、そう答える。その手元は、剥き出しにした配線を直結している。
ぎょっとして少し身を引いた狩野は、オープンボディの後席に、さっきの死体二人が放り込んであるのを発見し、さらにぎょっとする。
「乗って下さい!時間が、って、ほら来たぁ!」
茉莉花は、狩野の背中越しにアパートの裏口を見て、狩野を急かす。その茉莉花の見つめる先には、夜間双眼鏡を持った男と狙撃銃らしきライフルを持った男、さらに、苦悶の表情で片腕を押さえ、入り口に寄りかかって何か叫ぶ男の三人が居た。
振り向いてそれを確認した狩野は、大急ぎでオリンピアの助手席に乗り込む。ドアが閉まるのを確認する間も惜しんで、茉莉花はオリンピアを発進させる。腰がすわらないまま急発進された狩野は、落っこちるようにシートに腰を落とし、目を上げて、そして目を見開く。
双眼鏡と狙撃銃の男が、駐車場の出口で大きく手を広げて立ち塞がっていた。
「ま、前!前!」
「しゃべると舌を噛みます!」
叫ぶ狩野に叫び返し、茉莉花は躊躇なしにアクセルを床まで踏み込む。
間一髪で左右に飛び退けた男達の間をすり抜けたオリンピアは、そのままタイヤを鳴らして裏通りを駆け抜け、いずこかへ走り去った。
翌日の朝刊の片隅に、昨夜半、暴走した市民の乗用車が街灯に衝突、炎上。運転席と助手席の二人は焼死、遺体の損壊激しく身元は確認中との記事が、小さく、載った。
狩野浩伸帝国陸軍大佐が執務室に戻った時、通訳兼秘書役の如月茉莉花はそう声をかけ、コーヒーを入れる用意を始める。
「ああ……なしのつぶて、だ」
コートを脱ぎながら、狩野は答える。コートの下からは、開衿の制服を着た恰幅の良い体が現れる。その狩野のコートを、茶道具一式を載せた盆を執務机に仮置きした茉莉花が受け取り、コート掛けにかける。
「それは、心配でございましょう……それで、大使閣下からは、何か?」
「景気のいい話は何も無いよ。海軍は負け戦続き、我が陸軍もその海軍の尻拭いでジリ貧。盟友ドイツも……」
狩野は、低めのドイツ語が流れるラジオの方に向いて、言う。
「……スターリングラードを攻めあぐねている。チョビ髭が戦術レベルで口出しして、現場の足を引っ張ってるようだ。このまま冬になれば、去年の二の舞だな」
「大佐、滅多なことは……」
「構わんさ。黒服どもも、同盟国の公使には手は出せんよ」
そう言って、立ったまま、狩野は茉莉花が目の前で落としたコーヒーを啜る。
1942年、初冬。開戦当時の破竹の快進撃はどこへやら、枢軸郡側は徐々にその旗色を悪くしていた。欧州東部戦線では初期の電撃戦でモスクワを落とせなかったツケが、太平洋戦線では虎の子の空母を失ったツケが、そしてどちらも、延びきった補給線というアキレス腱が、相手国の恐るべき物量をもってじりじりと首を絞め始めていた。
「まあ、そんな状況だからこそ、岩崎が持ち帰る情報に価値があるわけだが……」
狩野は、マグカップを手に、窓の外を見る。公使館から見る秋深まるベルリンの町並みは、まだまだ戦争の、負け戦の緊張感は薄い。
岩崎賢一陸軍大佐は、狩野の同僚である。同僚であり、士官学校の同期であり、腐れ縁でもあり、そして、戦友にして親友でもあった。
マルクス主義に造詣が深く、ロシア語も堪能であったため、駐ソビエト公使館の駐在武官としての抜擢はある意味当然のことと思われ、同様に駐ドイツ公使館駐在の狩野とは、風雲急を告げる昨今であっても、年に一、二度は顔を合わせる仲ででもあった。
とはいえ、ソビエトは、日本から見れば連合国の一員ではあっても敵国ではないが、ドイツにとっては真正面の敵国である。第三国を通じて互いの政治的連絡ルートは確保するのが戦争の暗黙の了解とは言え、その敵国に駐在する第三国の武官が大手を振って国内を闊歩するのは、例え上層部が黙認していても、武装警察や秘密警察の現場としては面白かろうはずは無く、嫌がらせを受けた回数は十指に余る。
今回も、私的な面会の約束を反故にされたのは、そういった嫌がらせの類いの影響だと、狩野は考えていたが、それにしても音信不通で既に三日、これはちょっと度が過ぎている。
「公務の都合もあろうから、明日まで待って、それでも何も無ければ、正式な抗議と捜査依頼を考えるか。その際には、また苦労をかけるが、如月君、すまないがひとつよろしく頼むよ」
「はい大佐、承知しております……そうですね、明日は、心当たりを回ってみようと思います」
振り向いて茉莉花にそう声をかけた狩野に、茉莉花は微笑んで答える。
「そうしてもらえるか。女郎屋にしけ込むような奴でもないから、探すとなると心当たりは限られるのだが……なんにしろ、同盟国との仲違いはなるべく避けたいところだからな」
「その通り、ですわね……」
「俺の分かる範囲で、奴さんの行きそうな所のリストは後で渡す。よろしく頼む」
「承知いたしました」
当たり前のようにそう言った狩野と、相槌を打った茉莉花の視線は、狩野の執務机の上の電話機に向いていた。
「それでは大佐、本日はこれで失礼します」
「ああ、また明日、よろしく頼む」
いつも通りの挨拶をして、如月茉莉花は狩野大佐の執務室を出る。
如月茉莉花は、狩野大佐が個人的に雇った私設の通訳であり、秘書であった。その業務の内容上、現地採用の民間人であっても軍属と同様の地位権利及び義務を与えられており、しかし、その給料は狩野大佐のポケットマネーから捻出されている。だが、それだけの支出があってなお、狩野大佐は、彼女を雇って正解であったと考えていた。内地では新聞社に勤めていたこともあり、語学その他の研鑽の為に欧州に渡ったという彼女は、それ程には有能であった。言うだけのことはあって語学は、欧州の主要言語は全く問題無く読み書き会話をこなし、加えて新聞社に居たせいか国際情勢にも詳しく、なによりも美人で物腰も優しい。モダンガールに流行のボブカット――狩野などはつい「おかっぱ」と言ってしまうが――に揃えた黒髪に、やや吊り気味のアーモンド型の大きな瞳は、日本人離れした堂々とした体格もあいまって日本国公使館のみならず、近隣の外国公使館員からも言い寄られることが度々らしいが、狩野の知る限り特定の異性と深い付き合いをしている様子はない。狩野自身、独身である事もあって一度粉をかけてみたが、けんもほろろにさらりと躱された記憶がある。
その、背筋の伸びた格好良い後ろ姿を見ながら、
「……さて、どう動く?」
口の中だけでそう呟き、狩野は、ちらりと机の上の電話に目をやった。
「さむ……」
公使館の門を出た茉莉花は、寒風に吹かれ、思わず背を丸める。欧州大陸としては北部に位置するベルリン、初冬の寒風は身に染みる。厚手の手袋を持ってくれば良かった。そんな他愛もない後悔が頭をかすめた茉莉花は、コートの襟元のボタンを閉め、早足で家路を急ぐ。
数年前まで日本人学校――学校と言ってもアパートの一室に毛の生えた程度――のあったバベルスベルガー通り、その日本人学校跡にほど近いアパートが茉莉花の居住地であった。
いつものことだが、多少なりとも残業があったので、もはや周囲は暗くなっている。一般的に欧州の住宅地は商店が少なく、あっても習慣的にも規制的にも夜間営業をしない店がほとんどである。一杯飲み屋があるでなし、スーパーやコンビニがあるでもなし。夕飯を摂りたければ帰宅して何とかするしかなく、空きっ腹をかかえた茉莉花の足は、自然とピッチが上がる。
だからだろうか。茉莉花は、突然路地裏から飛び出してきた男にまったく気付かず、後ろから押さえ込まれる。口にハンカチを押し当てられ、左腕は後ろにひねり上げられる。右手でハンカチを払おうにも、口を押さえる男の右腕は、そのまま茉莉花の右腕も抑えつけている。かろうじて動く肘から先は、男の腕が邪魔で、ハンカチを振り払う位置まで上がらない。ハンカチには何か薬品が含ませてあるわけではないようだが、この状態で出せる程度のくぐもった声では、助けを呼ぶのはかなり困難だろう。
茉莉花側から見れば、絶体絶命。襲撃者側から見れば、綺麗に決まった、かに見えたその襲撃であったが。
突如、小さく鈍い激突音と共に、襲撃者の腕から、体から力が抜ける。即座に襲撃者の腕を振りほどいて振り向いた茉莉花が見たのは、やや息の上がった、何やらだらんとしたもの――よく見ればそれは、コインを詰めた靴下――を右手に持った狩野大佐の姿だった。
「大丈夫か……」
狩野は、茉莉花に声をかける、かけようとした。
だが、その狩野の声が届くより早く、茉莉花の体が沈む。暗さもあって茉莉花の動きを目で追えなかった狩野は、すぐ後ろで、サンドバッグを叩くような音と、男のうめき声がしたのを聞く。
振り向いた狩野が見たのは、体を二つ折りにして崩れ落ちる暗色のコートを着た男と、そのコートの男の襟首を逆手の右手で掴み、そのまま右の肘で男の鳩尾を突き上げた茉莉花の姿だった。
予想外の光景に思わず固まってしまった狩野は、遠くで、走り去る革靴の足音が聞こえた、ような気がした。
ちっ。誰かの舌打ちを聞いた気がして、狩野は、はたと我に帰る。
「やっぱり、もう一組居たわね……でも、ありがとうございました、狩野大佐。助かりました」
服の埃を払うようにしながら、茉莉花は立ち上がりつつ、そう言って狩野に笑顔を見せる。
「あ、ああ。大丈夫、だったかね?」
「はい。大佐も、ご無事で?」
「私は、うん、大丈夫だ、しかし……」
「では、大佐、どうやら思ったより余裕は無さそうです。申し訳ありませんが、どちらか一人、抱えて来ていただけますか?」
「え?」
「私のアパートはすぐそこです、さあ」
有無を言わさず、疑問を挟む余裕を与えず、茉莉花は倒れている男達の片方を抱えると、小走りに走り出した。
「……力、強いなぁ……」
その後ろ姿に小さくそう呟いた狩野は、あわててもう一人の男を抱えると、茉莉花の後を追った。
「さて、こいつはこれでいいとして……」
アパートの二階。女性の部屋にしては質素な貸しアパートのリビングで、茉莉花は、自分が肘打ちを食らわせた方の男を自室の椅子に座らせ、縛り上げると、手を叩きながら言った。
狩野は、表通りに面したリビングの窓の横に立ち、荒くなった息を整えつつ、その茉莉花の様子を見ている。
「こいつは……あ」
床に転がるもう一人の男の首筋に手を当てた茉莉花は、狩野を振り返る。
「……大佐、割と力一杯殴りました?」
「あ、いや、まあ、如月君の危機だと思ったから……」
「まあ、それはありがとうございます……なんですが。この男、死んじゃってますよ」
「え?」
ドラマなどでは、後頭部に手刀で、あるいは鳩尾に拳骨で打撃を与えて被害者を失神させる演出をよくするが、実際にこれをやろうとすると、衝撃が足りずに被害者が痛みでのたうち回ることになるか、衝撃が強すぎて脳挫傷か脊髄損傷か、あるいは内臓に障害が発生して被害者が重体あるいは死亡する可能性が高い。現に、茉莉花が肘鉄を入れた男も、しばし悶絶し嘔吐した後に静かになった。痛みと衝撃による呼吸困難からの酸欠で落ちたと思われる。
「まあ、事故です事故。大佐が気に病まれる事ではありません。現に、ほら」
軽く言いながら、茉莉花は男の衣服の下を探り、目星をつけていたものを探し当て、引っ張り出す。それは、ドイツ軍の制式拳銃であるワルサーP-38、ただし、銃身が極端に短く切り詰められた、通称ゲシュタポモデルと呼ばれる特注品だった。
「おっと、消音器もありました。なるほど、あたしのメモ目当てだろうけど、あたしが言うこと聞かなかったらズドン、か。ご丁寧に大佐の執務室に盗聴器仕掛けて、あたし相手にそういう事考えてる輩ですから、これはもう敵兵、だから因果応報ってもんです」
そうなのだろうか?狩野は、混乱する。日露戦争直後に陸軍に入り、日華事変では一時的に参戦するも最前線勤務ではなかった狩野――と岩崎――は、自らの手を汚して敵兵を殺した経験がない。ましてや、自分が今殺した相手は、仮にも同盟国の警察組織の人員らしい。これは、敵兵と呼んでいいのだろうか?
「お気持ちは分かりますが、悩むのは後でゆっくりにして下さい。今は、それどころではありません、時間が惜しいので」
だから、初めて「敵兵を殺害」した狩野は、混乱のあまり、鹵獲した拳銃を自分のスカートのベルトの内側に押し込みつつ声をかけてきた如月茉莉花のしゃべり方が、普段より少しぞんざいになっている事など気付くはずもなく、その茉莉花が今から何をしようとしているのか、何をしたのかなど、分かるはずもなかった。
如月茉莉花は、狩野に声をかけ終えると同時に、目をつぶって、椅子に縛りつけた男の額に、自分の額を押し当てていた。
「……ぅああっ!」
男は、突然、悲鳴を上げて目を見開いた。その口を、咄嗟に茉莉花はハンカチで――自分の口を、死んだ方の男が押さえたそれだ――押さえる。
「騒いじゃダメ。ご近所迷惑でここ追い出されたら、あたし、住むとこ無いんだから……さあて、目が覚めたところで、洗いざらい話してもらうわよ?」
茉莉花は、そう言って、男の目を見つめて、嗤う。その笑顔は、妖艶にして怖ろしい、男を地獄に引き込む悪女の顔。狩野には、そう見えた。
「は……話す……なんでも、はな」
男の言葉は、そこで途切れた。
それは偶然なのか、それとも何かを感じたのか。ほんの一瞬早く、茉莉花は男から体を離しつつ斜め後方の窓に振り向き、そのまま窓側の床に倒れ込む。
ぽつん。茉莉花が離れるとほとんど同時に、男のこめかみあたりに赤い小さい穴が空く。窓ガラスが砕け、窓と男を結んだ線の延長線上の壁が、赤く染まる。男の頭が、穴の空いたこめかみと反対側に突き飛ばされたように倒れ、ゆっくりと、重心の崩れた体がそれを追って倒れる。窓の外から、遠く、響くような銃声が一つ。
続けて、耳を裂く銃声。床に倒れた茉莉花が、倒れながらベルトから引き抜いた拳銃を、天井のランプシェードだけを被った裸電球に向けて撃った。極端に短い銃身ゆえスライドにつけられたフロントサイトのせいか、床に倒れた崩れた姿勢で撃ったせいか、それとも単に腕のせいか。撃ち始めて二秒目、三発目で電球は割られ、部屋は真っ暗になる。
その一部始終を、狩野は、何かの悪夢が進行しているような印象を持って見ていた。まるで自分の意思は反映されない、手も足も出ず、どんどん事態が悪化していく、悪夢。
まるっきり現実味のないその感覚の中、狩野は、魔女の声を聞いた。
「やってくれるじゃない……いいわよ、お姉さん本気で相手してあげる……」
それは、音としては聞き覚えのある茉莉花の声だったが、その声色は、まるで聞き覚えのない、地獄の底から響くようなドスが効いていた。
ほとんど同時に、狩野の耳に、荒々しくアパートの玄関扉が開く音が聞こえる。
「うわ早っ!手回し良いったら!」
再び、茉莉花の声がする。
「狩野大佐!強行突破します!ついて来て下さい!」
「え?え?」
狩野の返事を待たず、茉莉花が真っ暗闇の中立ち上がり、走り出す気配と足音がする。直後、その足音に、何か重いものを引き摺る音が加わる。
「うりゃあ!」
間髪入れず、茉莉花の気合いの入った声。何かが壊れる音と、ドアが勢いよく開いて廊下側のドアストップに当たる音と、差し込んでくる明るい廊下の照明。その照明の中、何かを引き摺り、ドアを蹴り開けたように見えた茉莉花のシルエットは、すぐに廊下の端の階段に向かって走り去る。
「ちょ、如月君!待って……」
言いながら、狩野も慌てて走り出す。蹴り開けられ、ドアロックが破壊された部屋の入り口から狩野が顔を出した時、ちょうど茉莉花は階段の際に立ち、
「うおりゃあ!」
両手に持っていた、恐らくは秘密警察の下っ端――だった――男達の亡骸を、階段の下に向けて投げ飛ばした所だった。
「うわあああっ!」
階段の下で、複数の男の悲鳴がした。だが、その男達の悲鳴に躊躇することもなく、
「どりゃあ!」
今度は茉莉花が、階段を数段駆け下りると、そのまま階下にドロップキックをかましつつ、狩野の視界から消えた。
「……」
何か言いたいが、何を言って良いか、言葉すら浮かんでこない。呆然としてしまった狩野は、
「うぎゃあああっ!」
階下から聞こえた、複数の魂凍る悲鳴に我を取り戻し、あわてて階段に駆け寄った。
「大佐!早く!」
階段の上から男の死体、しかも一つは椅子付きで投げつけられ、体勢を崩したところにとどめのドロップキックを食らい、三人の男が階段下のエントランスに倒れていた。茉莉花は、その三人の上にのしかかっていた二人分の死体――流石に椅子は砕け、二人分の遺体だけ――の首根っこをふん捕まえて、階段の上の狩野に一声かけると、再び脱兎の如くに飛び出して行く。
「……なんだ、ありゃあ……」
階段を数段転げ落ちたらしい、手足を変な方に曲げて呻く三人を踏まないように気を付けつつ、狩野は呟いて、茉莉花の後を追った。
そう呟いて、後を追う以外、狩野には出来なかった。
表通りに面する玄関ではなく、駐車場に繋がる裏口に向かった茉莉花を追って、狩野は走った。
狩野が駐車場に出ると同時に、エンジンの始動音がする。音の方を見れば、茉莉花が停めてあった初期型オペル・オリンピアに乗り込み、エンジンをかけていた。
「如月君!君、車持ってたのか!」
運転席の茉莉花に、やや驚いて狩野はそう声をかける。
「まさか!」
しかし、茉莉花は笑って振り向き、そう答える。その手元は、剥き出しにした配線を直結している。
ぎょっとして少し身を引いた狩野は、オープンボディの後席に、さっきの死体二人が放り込んであるのを発見し、さらにぎょっとする。
「乗って下さい!時間が、って、ほら来たぁ!」
茉莉花は、狩野の背中越しにアパートの裏口を見て、狩野を急かす。その茉莉花の見つめる先には、夜間双眼鏡を持った男と狙撃銃らしきライフルを持った男、さらに、苦悶の表情で片腕を押さえ、入り口に寄りかかって何か叫ぶ男の三人が居た。
振り向いてそれを確認した狩野は、大急ぎでオリンピアの助手席に乗り込む。ドアが閉まるのを確認する間も惜しんで、茉莉花はオリンピアを発進させる。腰がすわらないまま急発進された狩野は、落っこちるようにシートに腰を落とし、目を上げて、そして目を見開く。
双眼鏡と狙撃銃の男が、駐車場の出口で大きく手を広げて立ち塞がっていた。
「ま、前!前!」
「しゃべると舌を噛みます!」
叫ぶ狩野に叫び返し、茉莉花は躊躇なしにアクセルを床まで踏み込む。
間一髪で左右に飛び退けた男達の間をすり抜けたオリンピアは、そのままタイヤを鳴らして裏通りを駆け抜け、いずこかへ走り去った。
翌日の朝刊の片隅に、昨夜半、暴走した市民の乗用車が街灯に衝突、炎上。運転席と助手席の二人は焼死、遺体の損壊激しく身元は確認中との記事が、小さく、載った。
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