何の取り柄もない営業系新入社員の俺が、舌先三寸でバケモノ達の相手をするはめになるなんて。(第2.5部)幕間 あるいは新年会の宴の席にて。

二式大型七面鳥

文字の大きさ
6 / 39

06

しおりを挟む
「ま、その話はいいとして。それで、五月さつきちゃんはちゃんと一人暮らし、出来てたの?」
 隼子じゅんこに冷酒を注いでもらいながら、まどかが五月に聞く。
「最初のうちは結構キツかったですけど、まあ、慣れればどうにか。占いの仕事だけじゃ、全然食べて行けなかったですけど。拝み屋の仕事も、そうしょっちゅうあるものでも無いし」
「それで、夜のバイト?」
「ええ、まあ。一番実入りはいいんで」
「で、練習と実益で客相手に占い?」
「いえ、よく分からないんですけど、それやっちゃうとバーじゃなくてキャバレーになっちゃうとか何とかで」
「それ、風営法の分類ですね、はい」
 蒲田巡査長が、横合いから助け船を出す。
「簡単に言うと、お酒出すだけのお店は飲食業なんですが、お酌したりすると接待と見なされて風営法の範疇になるんです、はい」
「そうそう、お上からそんな事言われてるねぇ。うちみたいな料理出す店はそんなに厳しく言われないけど」
 思い出したように、隼子じゅんこも言葉を繋ぐ。
「上の階のロク子もたまにぼやいてるけど、女の子メインのお店は、色々めんどくさいみたいだねぇ」
「なんで、お店ではおおっぴらには占いはしてないんです。「伯林ベルリン」でも、あくまで私が勝手にやってるのを、お客さんが横から見てるって体で」
 もう1軒の、バイトの掛け持ちしているバーの話を五月は持ち出す。
「ああ、だから、俺の時も、練習って体だったのか」
 酒井も、五月と初めて会った時のことを思い出し、呟く。五月は、それに頷きながら、
「初めの頃は、その辺のさじ加減もよく分からなくて。ホステス仲間を占って、それが仕事に繋がったり、トラブルになったりあって。なんで、あんまり長いことは、同じ店に居なかったです。「伯林」に移ってからですね、その辺のバランスが安定したのって」
 過去の失敗などを思い出しつつ、苦笑して答える。
「いつ頃から、あそこに居るんだい?」
 長くこの界隈にいるだけあって、ある意味顔役的な立場に居る隼子が、五月に尋ねる。
「三年前、ですね。その前に居たお店で、やっぱりちょっとトラブルになりかけて」
「あー。なんか、わかる、それ」
 円が、横合いから口を出す。
「五月ちゃん、あんた、女に嫌われるタイプっぽいもん」
 にやにやしながら言う円に、五月は口を尖らせる。
「何ですかそれ。ケンカ売ってます?」
 出会いからして最悪だったためか、五月は円に対して馴染みきれていない。つい、言動が攻撃的になる。
「だって五月ちゃん、すごい男好きするタイプだもん。トラブルの原因、それでしょ?」
 ずけずけと、円は言いきる。
「ちょ、男好きって……」
「……あたしも思ったよ、それ。五月あんた、自覚無いなら少し気を付けた方がいいよ?」
 この時と思ったか、円にのっかって、隼子ママも言葉に詰まっている従業員に箴言する。
「あの……具体的にどこがどう、五月様が同性に嫌われるのですか?わたくしは全くわからないのですが……」
「えっと……」
 隣の玲子れいこに真顔で尋ねられて、北条柾木ほうじょう まさきは答えに窮する。
「……なんて言うんだろう?仕草とか受け答えというか、こう、この娘俺に気があるだろって男が誤解し易いというか」
「え?私、そんな感じ?」
 自分の隣、玲子の反対側に座る五月に気を使いつつ答えた柾木の言葉と、思わず頷いた男達の反応に、五月は驚いて声をあげる。
「あらやだ、五月あんた、本当に自覚ないのかい?」
 隼子が、目を丸くして聞き直す。
「え?やだ、ホントに?ママ、私、どうしたらいいんです?」
 滅多に酒では赤くならない五月が、顔を真っ赤にして隼子に聞く。
「どうもこうもあんた、その歳で今更性格変えようったってどうしょうもないよ。いっそ、さっさと身を固めてガード固めちまいなよ」
 長く接客業をしてきて、いろんな娘を雇って見てきたであろう隼子が、ため息交じりに返す。
「店としちゃ繁盛するのはうれしいけど、店に来る若いのがその気になられても困るからねえ」
「身を固めるって、え?」
 思わず素で酒井を見てしまう五月を見て、高校を卒業する頃には既に伴侶を決めていた孫娘の上から二人に視線を移しつつ、円も呟く。
「……この可愛げが、この娘達にもありゃあねぇ……」

「それで、東京に出てきて、仇が見つかったって事ですか?」
 色々と話の枝葉に興味は尽きないが、話が進まないのも何なので、タイミングを見計らって北条柾木は五月に声をかけた。
「え?あ、うん。えっと」
 テンパりかけた状態の五月は、あらぬ方向からの柾木の問いかけに虚を突かれ、一瞬思考をまとめ直してから答える。
「正直言うと、こっち出てきてからは、そんなに積極的に探してたわけじゃなかったんだけど。初めのうちは、とにかく生活の拠点作るのが優先だったし。で、色々あって「伯林」に移ったのが三年くらい前なんだけど、移って半年したくらいの時、その前のお店で一緒だった娘から連絡があったの」
 話しながら、五月は急速に落ち着きを取り戻す。
「その前のお店、錦糸町だったんだけど……まあ、そうね、確かにちょっとギスギスしてきたんで辞めたんだけど、それでも割と仲の良い娘は居たのよ。で、その娘から、ちょっと相談があるんだけどって連絡が来て。付き合ってる男が居るんだけど、このまま付き合って良いものかどうか、占って欲しいって」
「前の店でも、占い、やってたんです?」
 成り行き上、柾木は合いの手を入れる。
「さっきも言ったけど、なるべく目立たないようにはしてたつもりだったけど、それ目当ての客も居たから、そういうのがトラブルの元だって思ってたんだけど……ホステス仲間で占うこともあったから。自慢じゃないけど、私の占いは当たるもの。だから、その娘の事を占ったことも何度かあったし、それを覚えていて、半年も経ってから連絡してきたんだって言ってた。お店換わったのにごめんって。良い娘だったんだけど、その分男に尽くして結局逃げられるタイプだったわね……」
 思い出すように視線を泳がせ、五月はウィスキーのグラスを回す。
「まあ、私もその娘とは何かあったわけじゃないから、確かどっかのファミレスで、深夜に落ち合って占ってみたんだっけ。で、占うには相手の男の事聞くじゃない?メモ取りながら、なんかちょっと引っかかることがあって。」

 その時は、その瞬間は気付かなかった。ただ、頭の中と言うより、胸の奥のどこかに、どす黒い、不快な塊があるような違和感が、その娘、亮子りょうこの話を聞いている間中つきまとっていた。
 だから、その場では占いはせず――とてもじゃないけど、こんなに不快感を抱えたままじゃ、まともな占いなんて出来る気がしなかった――日を改めてキチンとやるから、私の部屋に来てくれないかって、私は亮子に頼んでみた。
 亮子は、きっとその時誤解したんだと思う。私が、どうにもしっくりこないから先延ばしにしたのを、親身になって本気で占ってくれるんだと思い違いしたように思える。私としてはちょっと申し訳なかったけど、亮子はそういう底抜けに人のいいところがあって、私が亮子と同じ店に居た一年あまりの間に、私が知る範囲で二回、男に捨てられてた。私がお店に入って二ヶ月目くらいに一度、その一月後には新しい男を作っていて、私がお店を辞める二月前にはまた振られて、私が辞める直前にまた新しい男を見つけたって嬉しそうにしていた。してみると、その新しい男ってのが、この、どうにも私がすっきりしない男なんだろう。

 始発で家に帰って、本当は疲れてるはずだから寝た方が良いんだけど、どうにも目は冴えて、気分がイラついて仕方なくて、私はとにかく気分転換しようとお風呂を浴びた。そのお風呂の中で、一体何に私はこんなにイラついている、しこりを感じているんだろうと考え込んでしまって、ふと、風呂場の鏡の中の自分の顔、いくらか母の面影のある、いくらか母に似てきた自分の顔を見て、私は、思い出した。
 その男の名前は、桐崎快人きりさき かいと。母が残した、仕事の内容を記録した手帳の、最後に書いてある除霊対象者と同姓同名だった、と。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...