金色にして漆黒の獣魔女、蝕甚を貫きて時空を渡る -Eine Hexenbiest in Gold und Schwarz-

二式大型七面鳥

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第二章 月齢25.5

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「ときに、お二人は、『時間』はどういうものとお考えでしょうか?」
 唐突に、ニーマントはユモとユキに尋ねる。
「え?え、えーっと……」
「この三次元世界に存在する、四つ目の軸。我々三次元人はその存在を認識する事は出来ても、それに干渉する事は出来ず、ただ不可逆的に進行するのを甘受するしかない。そんなところかしら?」
 咄嗟に、頭が真っ白になってしまったユキを差し置いて、ユモは答えた。
「なるほど。確かにそのようなものでしょう。では、その時間を、あなた方はどうやって認知しますか、時間という軸の変化、進行を知りますか?」
「時間の、変化?」
「えっと、時計を見るとか、お日様が傾くとか、あ、お腹がすくとか?」
 何事か複雑に考えてしまったユモに替わって、今度はユキが、非常に身近な例を示して即答する。
「指針の変化、環境の変化、自身の変化、いずれも正しいと言えましょう。では、それらをまったく認識出来なかったら?時間の推移を知る事が出来ないとしたら、時間というものに意味はあるのでしょうか?」
「え?時間が、え?」
「……客観的な、絶対的な時間の推移はこの三次元宇宙において停止するとは思えないけれど、でも、それをまったく認知する事が出来ないとしたら、自身の加齢も含めて何も経時的な変化が起きない世界があるとしたら、少なくとも主観的な時間に意味は無い、主観時間は存在しないに等しい」
 ユモは、抑揚のない声で、述べる。
「あなたの言いたいのは、つまり、そういう事かしら?」
「その通りです、ジュモーさん」
 ニーマントは、同意する。
「つまるところ、ジュモーさん、あなたが箱の蓋を開けてくれるまで、私は、そういう状態でした」

「私が、いつからこのような意識を持っていたのか、まったく知る手段がありません。何故なら、ジュモーさんが箱を開けるまで、私の主観時間は停止しており、絶対時間との相関が取れないからです。先ほど述べました通り、私はあなた方人間とは違う形で周辺を認識しています。ですが、どうやらあの箱は、電磁波、磁気、加速度、その他考えられるすべての刺激を無効化していたようです。唯一、私の傍にあった水晶玉、発光する方ではなく源始力マナを蓄積している方ですが、その源始力マナはもう一つの水晶玉を発光させ続けるために経時的に減少しているはずですが、私にはその減少量を検知することはできませんでした。恐るべき量の源始力マナが蓄積され、また、恐るべき低燃費で発光を維持していた、そういうことでしょう。いずれにしても、箱が開くまで、私の周りにはただ水晶玉の発するわずかな光りだけが満ち、それ以外は、時間すら存在しない、そういう状態でした」
 ニーマントの語りに、ユモもユキも、つい引き込まれてしまう。
「時間すら意味を持たない世界。そんな無間地獄から私を救い出してくれたのが、ジュモーさん、あなたです。私は、この事について、大変に感謝しています」
 ユモは、自分がしでかしたことを思い出す。確かに強固だったが、今現在の自分の力量で解除できないことはなかった封印。おそらくは内側からは何をやっても破れないように、それがゆえに外からの正しい手順での解錠には素直に従ってしまう、二面性を持ったまじない。そのまじないを行ったのが誰で、出てきたのは役に立つ精霊か、それとも邪悪な魔人か、ユモには何もわからない。ただ、自分が行った結果が、ここにある、それだけだった。
「あなたは、私にとって女神と呼んでもよいほどの存在です。ですが、その時の私は、大変混乱しました。突然、莫大な量の情報があらゆる方向から入ってきたのですから。私の記憶の始まりは、そんな感じです。驚愕と、混乱。私がその場からの逃走を欲したとしても、責められる筋合いではない。そうは思いませんか?」
「えっと……まあ、そう、かも?」
「……つまり、私が時間と空間を移動したのは、あなたの道連れになったから、ということ?」
 突然質問され、何も考えずに本音で答えたユキを制するように、ユモがニーマントに問い返した。
「結果から言うと、そういうことになります。突然莫大な量の情報にさらされた私は、自己保存のため、その情報を遮断したかったのですが、これは不可能でした。私が認識できるすべての手段で情報は流れ込み続け、その奔流に負けて私は何一つ手が打てない。外部環境に干渉することはおろか、自身の入力を遮断する、あなた方で言えば、目を閉じるとか、耳をふさぐとか、そういうことが出来ない。私には、目も耳も、ふさぐための手もないのですから。残された方法は、その場からの逃走、これしかありません。ちょうどその時、情報の奔流の一部が停止しました。光がなくなったのです。今にして思えば、ジュモーさんが手を握り、手の中にあった私に光が届かなくなった、そういうことでした。私は必死でしたから、とにかくどこでもいい、ここではない場所へ逃げよう、そう思って、そうしたら……」
「……ここへ出た?」
 ユモが、ニーマントの話を遮るように言う。
「じゃないわよね、あたしのところが先のはずよ、でしょ?」
 そのユモに、ユキが突っ込む。
「その通りです。その時は混乱していましたから、どうしてそこを選んだのかはよくわかりません。複数の選択肢があったように思いますが、その中で一番マシなように思えた、その程度のことだったようです」
「マシ、ね」
 ユキは、頬杖をついてこぼす。
「どうやら私は、行こうと思った時と場所に移動する事が出来るようです。どうやっているかは聞かないでください、私にもわかりません。ただ、そう出来る、としか言えないのです。あなた方が二本の足で歩くように、出来るから出来る、やり方は説明できない、そんなものです。そして、選んだ先に出てみれば、またしても情報の奔流、その中に、私の中の何かに触れるものがあり、そこに長居をしてはいけないと、危険の予告のようなものを感じたのです。そこで、私はそこからすぐさま別なところへさらに逃げようとしました。その先が、ここというわけです」
「いろいろ突っ込みたいところがあるんだけど」
 ユキが、低めの声で、言う。
「ちょっと整理させて。えっと、ニーマントさん、あなたは最初、何かの箱の中に入っていた?」
「魔法で封じられた小箱よ。ママムティの机の上にあったの」
 ユキの質問に、ニーマントより先にユモが答えた。
「で、その小箱は、ジュモー、あんたが開けた」
 暗闇の中で、ユモがうなづく気配をユキは感じる。
「びっくりしたニーマントさんは、そこから逃げようとした、ジュモーを道連れというか巻き込んで」
「私自身まだよくわかってないのですが、どうやら時間と空間を跳躍するのには、それ相応の源始力マナを必要とするようです。この時は、手が触れていたジュモーさんのそれを、無意識のうちに、無断で拝借したようです」
 ユモは、ニーマントのその一言で、自分の中の源始力マナ不足に説明がつくと納得する。
「それで、あんたたちがあたしの世界に跳んできた、と。で、ジュモーを助けようとして、あたしも二度目のジャンプに巻き込まれた、と?」
「この時は、ジュモーさんの体経由で、密着しているユキさんの源始力マナを拝借した模様です」
 ニーマントの答えには、良心の呵責とか、遠慮とか、責任とかそういうものは全くない。ただ、淡々と事実を述べる、それだけのものだった。
 ユキは、盛大にため息をついてから、言う。
「……つまり。ジュモーが箱を開けて、びっくりしてニーマントさんがあたしの前に飛び出して、止せばいいのにおせっかい焼きのあたしはそれに巻き込まれて、今こうして戦前の北アメリカの地面の下にいる、こういう事?」
「大変おおざっぱですが、おおむねその認識で結構です。戦前、というのがどの戦争を指すのかがよくわかりませんが」
「まあ、戦前というより戦間期か。いやそれはともかく」
 ざっくりまとめたユキの言葉を肯定したニーマントに、ユキは聞き返す。
「じゃあ、ニーマントさん、あなたがその気になれば、あたしたちは元のところに戻れるって事?」
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