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王都学園編

実戦訓練 ③

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十階層は、今までの迷路のような通路とは違い、真っ直ぐな通路だった。
 しばらく進んでいくと奥の方に扉が見えた。

 扉を開け中に入るとそこは、人が百人くらいは余裕で入れる、広い広間になっていた。

 そして俺達の目の前には、右手に大剣を持った、全長2メートル位あるミノタウルスが居た。

 恐らく此処はボス部屋で、十階層毎にこう言った部屋があるのかもしれない。

「グルゥガォォォオ!!」

 ミノタウルスは、自身の背後にある扉を護るかのように、立って居て、俺達を視界に捉えるや否や、威嚇なのか大きな咆哮を発した。

「来るぞ!」

「「《飛剣》!」」

 こちらに向かって来るミノタウルスをゴブリンの時のように《飛剣》を放ち、先制攻撃をする。

「グゥオォォオ!」

「《力よ/我が身に宿れ》!…くらえぇ!牛やろぉぉ!」
「はぁっ!」

 《飛剣》が直撃し、動きを止められたミノタウルスに今度は、ケインが、《第一階位魔術》【フィジカルブースト】で身体を強化して瞬時に間合いを詰め、装備したガンドレッドで殴り込み、それに続いてエリナが槍で突く。

「《火よ/我が弓に宿れ》!……くらいなさい!」

 更に後方から、リゼが火を付与エンチャントした矢を放ち援護する。

「オォォガゥアァオォォ!」

 すると、こちらからの一方的な暴力に耐えかねたミノタウルスが怒りに任せて手に持っている大剣を振り回し始めた。

「っ!?…《収束せし炎よ/敵を穿て》!」
「《天縛》!」

 後退すると同時に《第一階位魔術》【ファイアボール】を撃ち込み、アンリエッタ達《天使》が、【技能】《天縛》により放たれた光の鎖がミノタウルスに巻き付き、動きを封じる。だが―――

「クガァァァアオォォォォオ!」

「なっ!?」

 流石十階層のボスと言ったところか、アンリエッタ達の《天縛》を力尽くで解いてみせた。

 しかし、それでも生まれた隙はでかく―――

「「《飛剣》!」」
「《飛槍》!」
「《連撃》!」

 俺達は、ミノタウルスの背後に回り込み再び攻撃を仕掛ける。







「終わったー!」
「つ、疲れました」

 あれから、彼此10分くらい攻防を繰り返したところで、ようやくミノタウルスが力尽きた。

「……」

 疲労回復の為に地面に腰をおろして休憩していると、ふとエリナが倒れたミノタウルスの先にある扉の方へと目を向けた。

「エリナどうしたの?」
「多分あの扉先に次の階層があるんだよね……」

 その一言に、俺達もその扉の方へと目を向ける。

「どんな感じなのかな?」
「気になるのか?」
「うん、ちょっとね」
「……じゃあ行ってみないか?」

 唐突にケインがそう言い出した。

「でもヴァイオレット先生が駄目だって言ってたよ?」
「少しだけなら大丈夫だろう…アルスはどうだ?」

 ケインに問われて俺は、再び扉の方へと目を向ける。
 なんだろう、不思議とこの先へ行ってみたい…いや、行かなければならないと言う、何かに惹きつけられている感じがする。

「……いいんじゃないか?」

 言いつけよりも、興味の方が勝ってしまい、つい賛成の意を示した。

「マルコとリゼは?」
「僕も少しだけなら」
「そうですね。ここまで難なく来れたのですから、少しなら大丈夫でしょう」

 リゼの言う通り、ミノタウルスとの戦いでは、多少時間が掛かったものの、それまでは《天使》達が参戦しなくても、殆ど己の実力だけで進むことが出来た。

「でも…」

 エリナも強くは否定していなかったから少しは行ってみたいというか気持ちがあるのだろう。ならばあとひと押しだ。

「大丈夫だよエリナ。何かあったら直ぐに戻って来れば良いだけの話だ。それに、アンリエッタ達《天使》も居るんだから」
「アル君がそう言うなら…」
「そうよ!何かあったらエリナは私が守ってあげるわ!」
「ありがとう、アンリ」
「べ、別に仕方なくなんだからね!」
「決まりだな。じゃあもう少し休憩したら行こうか」

 こうして充分な休憩を取った俺達は、十階層を後にし、十一階層へと向かうのだった。

 この後すぐに、先に進んでしまった事を後悔することになるなんて、この時の俺たちはまだ知るよしもなかった。
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