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迷宮攻略編

報酬

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そして迎えた十秒後。

 脚元に青白い魔法陣が浮かび上がり、そこから生まれた優しい光が俺たちを包み込んだ。



 やがて光が収まり、視界が開けるとそこはさっきまでいた場所ではかった。どうやら《転移魔術》がうまく起動したみたいだ。

(と言うことは、ここが報酬のある部屋か……)

 それは、外からの光が差し込む事なく、天上に設置されている照明だけで部屋の明るさを何とか保っているといった感じだ。恐らくここは地下室だろう。その証拠に部屋の端には上へと向かう階段があった。

「これは…マネキン?」

 部屋の全体を見渡せる位置に、まるで俺たちを監視しているかの様にこちらの方に胴体を向けている木製のマネキンがあった。そのマネキンには黒いトレンチコートが着せられていた。
 そして―――

「おぉ!刀じゃんこれ!」

 マネキンの横に立て掛けてあるのは、一本の黒い刀とそれを収める黒い鞘。

 それは、如何なるものも斬り伏せる事が出来ると言う自信を感じさせられるほどの、細く、それでいて鋭利な刃。

 何年もの間、この地下室に放置されていたにも関わらず、まるで加護が与えられているかのように、黒刀には、サビやそれらしき汚れが一切見あたらず、埃すらも被っていなかった。それだけでもこの黒刀がただの刀でなく、相当な業物だという事が伝わってくる。

 これが報酬だと言うなら正直有り難い。何せ、着ている学生服は、この二年でサイズが合わなくなり、それでいて至る所が破れて見るも無残な状態で、学園から支給された剣も、これまでの戦いで刃こぼれし、至る所にヒビが入ってしまっていて、そろそろ替え時だなと思ってた。そんな時にこの報酬だ。武器の方に関しては、並の武器屋で買うよりも良い物だ。だから感謝こそすれど、不満を持つなど絶対な有り得ない。
 ―――という事で有り難く受け取るとしよう。

 マネキンからトレンチコートを脱がして、取り敢えず制服の上から羽織り、袖を通してみる。すると不思議な事にサイズはピッタリでちょうど良かった。

「おぉ、主人よなかなかに似合ってるのだ!」
「え?マジ!?…まぁ、このトレンチコート、カッコいいからなぁ…」

 改めて見てみるとこのコート、ただ黒一色という訳ではなく、黒を基調として紅と白のコントラストが装飾されていた。そして襟元には、月見草の花の刺繍がまるで家紋かの様に施されていて、なかなか良いデザインだと思った。

「……主人が着ているからこそカッコいいのだ……他の者には絶対に似合わないのだ……」
「ん?なんか言ったか?」
「な、何でもないのだ!ほ、ほらそこに鏡があるから自分でも確認してみるといいのだ!」
「あ、あぁ、そうするよ」


 リリムに促されるままに、自分の姿を確認しようと鏡の前に立つと、そこに映ったのは黒いトレンチコートに刀を手に持つ銀色の長髪をした男。当然だがそれは俺なわけで―――。

「……ふふ」

 これもう完全にセ〇〇ロスじゃん!
 ヤベェよ!カッコ良過ぎたろ俺!
 今、俺の脳内にはセ〇〇ロスと名前を連呼するあの曲が再生されちゃってるよ!

「ん?これは……」

 ふと鏡の端に視線を移すとそこには机が映っていて、その上に一通の手紙が置いてあった。振り返って確認しようとしたら―――

「あれ…?」

 なんと、机の上に手紙は無かった。再び鏡の方へ向き、見直すと、間違い無く手紙が机の上に置いてあった。

「……何で?」

 どいうことかと疑問を頭に抱え込みながら、鏡に映る手紙に手を伸ばすようにして、鏡に触れた次の瞬間―――。

「うわっ!?」
「どうしたのだ主人よ、急に大声なんかだし……て……」

 伸ばした手がまるで沼に沈むかのように鏡に飲み込まれた。

「あ、あ、あるじ!う、う、う、腕が鏡に食べられてしまっているぞ!?」
「あはは、大丈夫だよ、少しビックリしたけど何ともないから落ち着けって…」
「ほ、ほんとうに大丈夫なのか?」
「ほんとうだって…」

 そう言って俺は、鏡に飲み込まれた腕を引き戻す。

「ほら…な?」
「う、うむぅ、確かに何ともないのだ……む?主人よ、その手に握られているのは、手紙ではないのか?」
「え?…本当だ。いつまに……」

 どういう仕組みかは、分からないが、どうやら手紙は鏡の中にあったらしい。これなら現実の机の上に手紙が存在しなかったのも頷ける。

改めて手紙を確認してみると、手紙の封には、「救世主へ」と宛名が記されていた。

「取り敢えず開けて読んでみるか…」
「うむ!気になるのだ!」
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