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ヴァルシャ帝国編
帰省⑥
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俺が幼い頃から父さんとやってきた剣の打ち合いの内容はこうだ。
まず使用していいのは、己の剣技とそれに関する技能のみ。
それ以外の技能や魔術の使用は一切禁止。
そしてこれは実際の戦いでは無くあくまで訓練としての打ち合いに過ぎない。
だから例え何度倒れてもどちらかが敗北の意を示すまでは勝負は決まらない。
剣を構えて家の屋根に留まっていた数羽の鳥が翼を大きくはためかせながら飛び立つのを合図に、距離を詰めるべく互いが互いに向かって掛けはじめる。
俺は開口一番に《飛剣》を放つ。
それを父さんは同じく《飛剣》を放ち相殺すると続けざまに攻撃を仕掛けてきた。
「奥義【乱れ打ち】――!」
奥義とは、技能又は、魔術を駆使して繰り出すステータスプレートには記載されない、自身のオリジナル技のことを言い、例えば俺が迷宮でチョウチン魔物との戦闘の時にやった、剣に火を付与エンチャントした状態で《飛剣》を放つ攻撃などを指す。
仮にアレに名前を付けるなら【飛剣・紅くれない】と言ったところだろう。
この闘いでは、魔術や剣技に関するもの以外の技能の使用は禁止になっている。ならば父さんが繰り出してきた奥義は剣技に関する技能を駆使したものになる。
現に複数の斬撃が俺のもとへと向かって来ている。
それらを俺は父さん向かって進める脚を止めることなく全て斬り伏せ、そのまま予備動作なしの下段斬りを繰り出すが―――
「ほぅ、今のを交わすのではなく斬り伏せるか!だが甘い!」
まるで予測していたかのように父さんは身体を反らして回避すると、そのまま流れるように身体を回転させ横薙ぎに一閃を放って来た。
「ぐっ――!!」
俺は回避が間に合わずその攻撃を胴に思いっきり受けてしまい後方へと飛ばされる。
「確かにお前は強くなった。だが、こと剣術においてはまだまだのようだな」
確かにこれが魔術の使用などの何でもアリな闘いであったのなら簡単に勝てていただろう。しかしこの闘いはそれらの使用は禁止である為、己の技量のみがものを言う。
どうやら数年間、冒険者として活躍した者との差はそう簡単には埋まらないようだ。
だが、それでも勝つのは――俺だ。
「始まる前に言ったはずだ。俺は闘う術を身に付けたと」
俺は態勢を立て直すと再び父さんに向かって掛け始める。
「確かに言っていたな。だがそれがどうした」
「ふっ、何も正面からやり合うことだけが俺の全てじゃないってわけだ!《空絶》!」
実は父さんの奥義【乱れ打ち】により放たれた斬撃を斬り伏せるのと同時に《空絶》で己の斬撃を配置していたのだ。
そしてそれを今、解き放ったのだ。
「ぐはっ――!板の間に!?いや、あの時か!」
「気付いたか、だがもう遅い!」
「がぁぁっ――!!」
配置された幾多もの斬撃が父さんの身体の至る所を襲う。
父さんの苦悶だけが辺りを響かせる中、遂に父さんが膝をついた。
しかし流石元冒険者と言うべきが幾多もの斬撃を受けておきながら尚も立ち上がろうとするではないか。
だがそれを許すはずも無く、父さんの手に持つ剣を弾き手放させそのまま父さんの首筋に剣先を向けて宣言する―――。
「俺の勝ちだ――」
それを聞いた父さんは、観念したのか、フッと一息つくと地面に向かって仰向けに倒れた。
「あーあ、俺の負けだ!」
正直言って今回の闘いは俺の作戦勝ちだった。
そしてこの闘いを通して、こと剣術においてはまだまだ未熟で有ると言うことを認識できた。それだけでもこうして剣を交えた事に意味はあった。
だからもし次の機会があればその時は作戦では無く己の技量で勝ちたい。いや、勝ってみせる!
「次も勝つさ」
「一回勝ったくらいで調子に乗るなっつーの。…でもまぁ、期待してるよ」
「なにそれ、ははは」
「ふっ」
時間にしてはわずか五分にも満たない闘いだった。しかし何故か長く感じたのはきっと気のせいでは無いだろう。
それにこうして剣を交えた後に親子揃って地べたに横になって語り合うのは、何処か気恥ずかしくも有るがなかなかどうして悪くない気分だ。
「貴方達ー、お昼ご飯よー!」
家の中から母さんの呼び掛ける声が届いて来た。
「だってさ。行くぞ」
そう言って父さんは起き上がり家の中に向かって歩き始めた。
そしてそのまま家と裏庭を繋ぐ扉に手を掛けて中に入ると思いきやふとその場で脚を止めてく背中越しに話しかけてきた。
「アルス…強くなったな」
その言葉からは今の俺の実力を認めてくれたかのように感じ、あぁ、この二年間の努力は無駄では無かったと改めて認識することができた。
まず使用していいのは、己の剣技とそれに関する技能のみ。
それ以外の技能や魔術の使用は一切禁止。
そしてこれは実際の戦いでは無くあくまで訓練としての打ち合いに過ぎない。
だから例え何度倒れてもどちらかが敗北の意を示すまでは勝負は決まらない。
剣を構えて家の屋根に留まっていた数羽の鳥が翼を大きくはためかせながら飛び立つのを合図に、距離を詰めるべく互いが互いに向かって掛けはじめる。
俺は開口一番に《飛剣》を放つ。
それを父さんは同じく《飛剣》を放ち相殺すると続けざまに攻撃を仕掛けてきた。
「奥義【乱れ打ち】――!」
奥義とは、技能又は、魔術を駆使して繰り出すステータスプレートには記載されない、自身のオリジナル技のことを言い、例えば俺が迷宮でチョウチン魔物との戦闘の時にやった、剣に火を付与エンチャントした状態で《飛剣》を放つ攻撃などを指す。
仮にアレに名前を付けるなら【飛剣・紅くれない】と言ったところだろう。
この闘いでは、魔術や剣技に関するもの以外の技能の使用は禁止になっている。ならば父さんが繰り出してきた奥義は剣技に関する技能を駆使したものになる。
現に複数の斬撃が俺のもとへと向かって来ている。
それらを俺は父さん向かって進める脚を止めることなく全て斬り伏せ、そのまま予備動作なしの下段斬りを繰り出すが―――
「ほぅ、今のを交わすのではなく斬り伏せるか!だが甘い!」
まるで予測していたかのように父さんは身体を反らして回避すると、そのまま流れるように身体を回転させ横薙ぎに一閃を放って来た。
「ぐっ――!!」
俺は回避が間に合わずその攻撃を胴に思いっきり受けてしまい後方へと飛ばされる。
「確かにお前は強くなった。だが、こと剣術においてはまだまだのようだな」
確かにこれが魔術の使用などの何でもアリな闘いであったのなら簡単に勝てていただろう。しかしこの闘いはそれらの使用は禁止である為、己の技量のみがものを言う。
どうやら数年間、冒険者として活躍した者との差はそう簡単には埋まらないようだ。
だが、それでも勝つのは――俺だ。
「始まる前に言ったはずだ。俺は闘う術を身に付けたと」
俺は態勢を立て直すと再び父さんに向かって掛け始める。
「確かに言っていたな。だがそれがどうした」
「ふっ、何も正面からやり合うことだけが俺の全てじゃないってわけだ!《空絶》!」
実は父さんの奥義【乱れ打ち】により放たれた斬撃を斬り伏せるのと同時に《空絶》で己の斬撃を配置していたのだ。
そしてそれを今、解き放ったのだ。
「ぐはっ――!板の間に!?いや、あの時か!」
「気付いたか、だがもう遅い!」
「がぁぁっ――!!」
配置された幾多もの斬撃が父さんの身体の至る所を襲う。
父さんの苦悶だけが辺りを響かせる中、遂に父さんが膝をついた。
しかし流石元冒険者と言うべきが幾多もの斬撃を受けておきながら尚も立ち上がろうとするではないか。
だがそれを許すはずも無く、父さんの手に持つ剣を弾き手放させそのまま父さんの首筋に剣先を向けて宣言する―――。
「俺の勝ちだ――」
それを聞いた父さんは、観念したのか、フッと一息つくと地面に向かって仰向けに倒れた。
「あーあ、俺の負けだ!」
正直言って今回の闘いは俺の作戦勝ちだった。
そしてこの闘いを通して、こと剣術においてはまだまだ未熟で有ると言うことを認識できた。それだけでもこうして剣を交えた事に意味はあった。
だからもし次の機会があればその時は作戦では無く己の技量で勝ちたい。いや、勝ってみせる!
「次も勝つさ」
「一回勝ったくらいで調子に乗るなっつーの。…でもまぁ、期待してるよ」
「なにそれ、ははは」
「ふっ」
時間にしてはわずか五分にも満たない闘いだった。しかし何故か長く感じたのはきっと気のせいでは無いだろう。
それにこうして剣を交えた後に親子揃って地べたに横になって語り合うのは、何処か気恥ずかしくも有るがなかなかどうして悪くない気分だ。
「貴方達ー、お昼ご飯よー!」
家の中から母さんの呼び掛ける声が届いて来た。
「だってさ。行くぞ」
そう言って父さんは起き上がり家の中に向かって歩き始めた。
そしてそのまま家と裏庭を繋ぐ扉に手を掛けて中に入ると思いきやふとその場で脚を止めてく背中越しに話しかけてきた。
「アルス…強くなったな」
その言葉からは今の俺の実力を認めてくれたかのように感じ、あぁ、この二年間の努力は無駄では無かったと改めて認識することができた。
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