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ヴァルシャ帝国編
娯楽と幼馴染
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娯楽――それは仕事などで疲労しきった身体や精神を癒しへと導き、楽しませ、慰めるものの事。
例えば、温泉に浸かり疲労の溜まった身体を癒したり、音楽を聴いたりと言った趣味に勤しんだりなど、また、人によっては遊ぶ事が娯楽になる人もいる。
しかしここで言う遊びとはスポーツの様な外に出て身体を激しく動かす様なものでは無い。あくまでも娯楽として疲労を癒すのが目的である故、あまり身体を激動させない、動かすとしても手先程度の簡素なモノであり、また、片手間で出来る遊びになる。そう、例えばカードゲームがそうだ。中でもトランプやUNOは、当然のようにカードゲーム業界のトップに君臨し、娯楽としての絶大な人気を誇る。それは俺の居た日本でも然り。特に学生なんかは修学旅行の際、まるでそれが常識かのように持参する持ち物にそれらが含まれている。何せ移動中のバスの中や宿泊先などTPOを気にせず出来るのだから当然と言えばそうなのかもしれない。それくらいに娯楽に特化した優れ物という事だ。
故に俺はこれらを生み出した者を天才だと思う。
もちろん、正解にたどり着くまでに何度か失敗はあったかもしれないが、もし仮に俺が何処かのお偉いさんからこの世界に娯楽をもたらせと言われても、何も思いつかず、最終的には思考を放棄して前世の知識を頼りにするだろう。
それくらいに無から有を生み出すのは簡単ではないと言う事だ。
閑話休題
娯楽と遊びは違うとよく言われているが、俺はそれを絶対だとは思っていない。何故なら、娯楽だと思っている事が他人からすれば遊びだと捉えられる事があり、またその逆も然り。自分が遊びだと思っている事が、他人からすればそれは娯楽だと捉えられる事もあるからだ。つまり娯楽と遊びは同じではないが近しい関係にあると言える。
まぁ、これは俺の持論でしかないから、他人に同意も理解もされるつもりはないが。
ところで何でこんな話をしたかと言うと、それは今目の前で繰り広げられている光景にある。
「はいこれで私の勝ちだね!」
「またヴェルデが大富豪かよ……」
「うむむむ、此奴、結構強いのだ……」
「おほほほほ!当然ですことよ!」
「……」
そう、今現在俺たちは目的地到着までの暇な時間を潰す為、娯楽の一種であるトランプをしているのだ。
会話から察する通りジャンルは、一番人気とも言っていい大富豪である。
どうやらこの世界にもトランプは娯楽として存在しているらしい。
なんでもトランプをこの世界に広めたのは《六勇者》の一人、ジャック・A・ハインツであるらしく、彼はこの世界に様々な娯楽を残していったらしい。そしてその中で老若男女問わず最も人気があるのがトランプらしい。
今では全大陸にこのトランプと言う娯楽が広まっており、知らない人は少ないらしいが、子供の頃から外で遊ぶ事が好きだった俺はどうやらその少数派らしく、今日この日までトランプがこの世界にも存在していると言う事実を知る事はなかった。
かと言って別にトランプを知らないわけでは無い。むしろ詳しい方だ。何せ俺も転生したとは言え、元はその《六勇者》と同じく地球人だったのだから。
そう、その筈なのに何故だ――
「……それにしてもアルス君、弱すぎだよ……」
「うぐっ!?」
何故勝てないんだ!?
別に知識が実力に伴うことはないのは分かってる。だが何故だ!?何故こうも連敗続きなのだ!?俺だけだぞ!?ずっと大貧民なの!たまに強いカードを引いても結局は大富豪になった者と交換しなきゃいけないし、付いてなさすぎだろ……。
「まったくだ!むしろどうやったらそんなに負けるのか教えて欲しいくらいだな……」
「ぐはっ!?」
「あ、主よ。あまり気にすることはないのだ、今回はちと運が悪かっただけだからきっと次は!つ、次こ・そ・は勝てる……な?」
もうやめて!?俺が負ける度に励ましてくれるのやめて!?最初は嬉しかったけど回数重ねるうちにその励ましが俺の心にナイフを突き立てているって事いい加減気づいて!?もう俺のライフはゼロよ!
「はは、きっと最初の勝負で負けた時から結末は決まっていたのかもな、はぁ~……」
開き直る事で悟りを開いた俺は、次こそは!と最早するだけ可哀な決意を固めながら俯かせていた顔を上げる。
すると俺の瞳に映るのは、白い歯を見せながらまるで子供のように無邪気な笑顔を浮かべているヴェルデの姿。
「……」
あぁ、そうか、今やっとわかった。
実は彼女と初めて出会った時から、まるでパズルの最後のピースが埋まらないような、答えが喉まで出掛かっているような、そんな違和感を感じていた。
そしてその違和感の正体が今やっと分かったのだ。
彼女はそう――幼馴染であるエリナに似ているのだ。
それは容姿のことを指しているのではない。
初対面の人に対してもあまり物怖じしない砕けた様な喋り方、そして明るい性格がエリナに似ているのだ。
性格が似ている人なんて世の中にいくらでもいるが、今俺の目の前にいるのは一人しかいない。
結果、目の前にいるヴェルデに対してエリナの面影を感じてしまったのだ。
そう気づいてしまえば最後。
度々ヴェルデとエリナが重なって見えてしまう。それはまるで何故王都に居た時、学園に戻ってエリナに帰還の報告をしなかったのかと、それ位の時間は充分にあった筈だと訴えかけているようであった。
俺は若干の申し訳なさを覚え、思わず逃げるようにヴェルデから目を逸らし、そのまま空を見上げる。
王都を出た頃にはまだ青々とした世界だったのが今ではすっかり朱色に染まり、そこに少しずつ暗闇が差し掛かり始めた事で夕方が終わりを迎え、同時に夕闇が迫り、夜の月かおを迎える準備をし始めていた。
俺はその幻想的な景色に目を奪われながらも頭の中では幼馴染の事を考えていた。
彼女エリナは今頃どうしてるのだろうか……
♢♢♢♢♢♢
「ターニャさん」
「あっ、皆さん。ふふ噂をすれば何とやらですね」
「どういうこと?」
「いえ、実は先程まで今日冒険者登録したばかりの方と皆さまの事を話していたのですよ」
「そうなんだ。その人達は今どこに?」
「既にここを経たれましたよ。何でもヴァルシャ帝国に向かうそうで」
「ふーん、じゃあもしかしたらすれ違ったかもしれないね」
「ふふふ、かも知れませんね。ところで今日はどう言った御用で?」
「うん、素材の買い取りをしてもらおうと思ってね」
「そうですか…それで?今回は何層まで?」
「うーんと確か四十階層までかな?」
「よ、四十階層……あの、要らぬ気遣いかもしらませんが、休める時はしっかり休んでくださいね」
「うん、ありがとう。でも大丈夫、だって自分の事は自分が一番分かっているつもりだから」
「……そうですか」
「それに」
「?」
「暫く冒険者活動する時間が無くなりそうだから」
「え?……あぁ、そう言えばもう直ぐそんな時期でしたね。今年も楽しみにしてますね」
「うん、ありがとう」
例えば、温泉に浸かり疲労の溜まった身体を癒したり、音楽を聴いたりと言った趣味に勤しんだりなど、また、人によっては遊ぶ事が娯楽になる人もいる。
しかしここで言う遊びとはスポーツの様な外に出て身体を激しく動かす様なものでは無い。あくまでも娯楽として疲労を癒すのが目的である故、あまり身体を激動させない、動かすとしても手先程度の簡素なモノであり、また、片手間で出来る遊びになる。そう、例えばカードゲームがそうだ。中でもトランプやUNOは、当然のようにカードゲーム業界のトップに君臨し、娯楽としての絶大な人気を誇る。それは俺の居た日本でも然り。特に学生なんかは修学旅行の際、まるでそれが常識かのように持参する持ち物にそれらが含まれている。何せ移動中のバスの中や宿泊先などTPOを気にせず出来るのだから当然と言えばそうなのかもしれない。それくらいに娯楽に特化した優れ物という事だ。
故に俺はこれらを生み出した者を天才だと思う。
もちろん、正解にたどり着くまでに何度か失敗はあったかもしれないが、もし仮に俺が何処かのお偉いさんからこの世界に娯楽をもたらせと言われても、何も思いつかず、最終的には思考を放棄して前世の知識を頼りにするだろう。
それくらいに無から有を生み出すのは簡単ではないと言う事だ。
閑話休題
娯楽と遊びは違うとよく言われているが、俺はそれを絶対だとは思っていない。何故なら、娯楽だと思っている事が他人からすれば遊びだと捉えられる事があり、またその逆も然り。自分が遊びだと思っている事が、他人からすればそれは娯楽だと捉えられる事もあるからだ。つまり娯楽と遊びは同じではないが近しい関係にあると言える。
まぁ、これは俺の持論でしかないから、他人に同意も理解もされるつもりはないが。
ところで何でこんな話をしたかと言うと、それは今目の前で繰り広げられている光景にある。
「はいこれで私の勝ちだね!」
「またヴェルデが大富豪かよ……」
「うむむむ、此奴、結構強いのだ……」
「おほほほほ!当然ですことよ!」
「……」
そう、今現在俺たちは目的地到着までの暇な時間を潰す為、娯楽の一種であるトランプをしているのだ。
会話から察する通りジャンルは、一番人気とも言っていい大富豪である。
どうやらこの世界にもトランプは娯楽として存在しているらしい。
なんでもトランプをこの世界に広めたのは《六勇者》の一人、ジャック・A・ハインツであるらしく、彼はこの世界に様々な娯楽を残していったらしい。そしてその中で老若男女問わず最も人気があるのがトランプらしい。
今では全大陸にこのトランプと言う娯楽が広まっており、知らない人は少ないらしいが、子供の頃から外で遊ぶ事が好きだった俺はどうやらその少数派らしく、今日この日までトランプがこの世界にも存在していると言う事実を知る事はなかった。
かと言って別にトランプを知らないわけでは無い。むしろ詳しい方だ。何せ俺も転生したとは言え、元はその《六勇者》と同じく地球人だったのだから。
そう、その筈なのに何故だ――
「……それにしてもアルス君、弱すぎだよ……」
「うぐっ!?」
何故勝てないんだ!?
別に知識が実力に伴うことはないのは分かってる。だが何故だ!?何故こうも連敗続きなのだ!?俺だけだぞ!?ずっと大貧民なの!たまに強いカードを引いても結局は大富豪になった者と交換しなきゃいけないし、付いてなさすぎだろ……。
「まったくだ!むしろどうやったらそんなに負けるのか教えて欲しいくらいだな……」
「ぐはっ!?」
「あ、主よ。あまり気にすることはないのだ、今回はちと運が悪かっただけだからきっと次は!つ、次こ・そ・は勝てる……な?」
もうやめて!?俺が負ける度に励ましてくれるのやめて!?最初は嬉しかったけど回数重ねるうちにその励ましが俺の心にナイフを突き立てているって事いい加減気づいて!?もう俺のライフはゼロよ!
「はは、きっと最初の勝負で負けた時から結末は決まっていたのかもな、はぁ~……」
開き直る事で悟りを開いた俺は、次こそは!と最早するだけ可哀な決意を固めながら俯かせていた顔を上げる。
すると俺の瞳に映るのは、白い歯を見せながらまるで子供のように無邪気な笑顔を浮かべているヴェルデの姿。
「……」
あぁ、そうか、今やっとわかった。
実は彼女と初めて出会った時から、まるでパズルの最後のピースが埋まらないような、答えが喉まで出掛かっているような、そんな違和感を感じていた。
そしてその違和感の正体が今やっと分かったのだ。
彼女はそう――幼馴染であるエリナに似ているのだ。
それは容姿のことを指しているのではない。
初対面の人に対してもあまり物怖じしない砕けた様な喋り方、そして明るい性格がエリナに似ているのだ。
性格が似ている人なんて世の中にいくらでもいるが、今俺の目の前にいるのは一人しかいない。
結果、目の前にいるヴェルデに対してエリナの面影を感じてしまったのだ。
そう気づいてしまえば最後。
度々ヴェルデとエリナが重なって見えてしまう。それはまるで何故王都に居た時、学園に戻ってエリナに帰還の報告をしなかったのかと、それ位の時間は充分にあった筈だと訴えかけているようであった。
俺は若干の申し訳なさを覚え、思わず逃げるようにヴェルデから目を逸らし、そのまま空を見上げる。
王都を出た頃にはまだ青々とした世界だったのが今ではすっかり朱色に染まり、そこに少しずつ暗闇が差し掛かり始めた事で夕方が終わりを迎え、同時に夕闇が迫り、夜の月かおを迎える準備をし始めていた。
俺はその幻想的な景色に目を奪われながらも頭の中では幼馴染の事を考えていた。
彼女エリナは今頃どうしてるのだろうか……
♢♢♢♢♢♢
「ターニャさん」
「あっ、皆さん。ふふ噂をすれば何とやらですね」
「どういうこと?」
「いえ、実は先程まで今日冒険者登録したばかりの方と皆さまの事を話していたのですよ」
「そうなんだ。その人達は今どこに?」
「既にここを経たれましたよ。何でもヴァルシャ帝国に向かうそうで」
「ふーん、じゃあもしかしたらすれ違ったかもしれないね」
「ふふふ、かも知れませんね。ところで今日はどう言った御用で?」
「うん、素材の買い取りをしてもらおうと思ってね」
「そうですか…それで?今回は何層まで?」
「うーんと確か四十階層までかな?」
「よ、四十階層……あの、要らぬ気遣いかもしらませんが、休める時はしっかり休んでくださいね」
「うん、ありがとう。でも大丈夫、だって自分の事は自分が一番分かっているつもりだから」
「……そうですか」
「それに」
「?」
「暫く冒険者活動する時間が無くなりそうだから」
「え?……あぁ、そう言えばもう直ぐそんな時期でしたね。今年も楽しみにしてますね」
「うん、ありがとう」
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