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第1章 小さな命の対価
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いつの間にか車は、人影の少ない場所に来た。
タカさんは、サイドブレーキを引くと、上目使いで私を見る。
「紗香ちゃんは今日の事、柊子ちゃんから、なんて聞いてんの?」
「なんてって…」
私は柊子の言葉を思い出した。
ー男の人と1時間くらい、楽しくおしゃべりするの。ー
そして柊子は、可愛らしい顔で言った。
ーたまに体を触られるけど、騒いじゃダメだよ?それを我慢すれば、倍のお金が貰えるんだからー
私はゴクンと息を飲んだ。
「紗香ちゃん。」
ビクッと体が大きく震えた。
「最初からそんな事、無理だよな。いいよ、このまま帰って。紗香ちゃんとのドライブ楽しかったし。」
私は心のどこかで、ほっとした。
と、同時にこのバイトへの不安も当たった。
つまり、男の人に体を触らせるバイトだったって事。
「その代り……また会えるおまじない。」
「えっ?」
タカさんの手が首筋に触れると、私の唇にネットリとしたモノが絡みついた。
「かわいい!キスだけで震えちゃって。」
私は何も答えずに、前を向いた。
今のって、キス?
私、初めてだったんだけど。
こんなあっさりと、終わるなんて。
そんなショックにかられている私を余所に、タカさんはポケットから財布を取り出した。
「はい、1枚だったよね。」
タカさんは、私の前に1万円札を出した。
「また会おうね。紗香ちゃん。」
私は“はい”と返事をする代わりに、お札を受け取った。
それからはタカさんは、待ち合わせした場所に、私を送ってくれた。
帰りの車の中、何を話したのか覚えていない。
ただ笑って、別れた事はなんとなく、覚えていた。
そして、タカさんから貰った1万円を、財布の中に入れる事ができたのは、玄関にたどり着いてからだった。
次の日、部活で柊子が話しかけてきた。
「どうだった?」
まるで普通のバイトの初日のようなノリだった。
「優しい人でしょ?タカさん。」
「うん…」
柊子はこんなバイト、何も感じずにやってるんだろうか。
「ねえ、柊子はこのバイト、どのくらいやってるの?」
「そうだな。まだ3ヶ月くらい。」
「その……聞きにくいんだけどさ……」
柊子は急に、立ち止まった。
「なに?」
いつもニコニコしている柊子が、無表情になっていた。
「ごめん……何でもない。」
どこまでやってるのかなんて、さすがにそんな事聞けない。
「それよりもどう?このバイト、やれそう?」
「……うん。」
思えばこの時、なんで。
うんって返事をしてしまったんだろう。
アルバイトを初めて1か月後。
部活で校庭を走っていると、柊子が後ろから追いかけてきた。
「バイト、もう慣れた?」
「うん。」
後ろで一つに束ねられた長い髪は、少し茶色が入っていて、柊子が走る度にとび跳ねている。
「紗香は一回で、いくら貰うの?」
「……一枚。」
柊子はキョトンとしている。
「まだ、それしか貰ってないの?」
「そうだよ。」
「な~んだ。すぐに2~3枚、貰えるようになると思ってたな。」
柊子は残念そうに言った。
「そう?」
「紗香は黙っていれば、お嬢様っぽいから。」
私は何て答えたらいいか、分からなくて黙ったまま、ただ走り続けた。
ちらっと覗いた柊子は、横の髪を垂らしていて、それが大人っぽい顔を、さらに色気のあるものにしている。
柊子の顔は、昼と夜で二つある。
「なに?」
柊子が急にこっちを向いた。
「ううん。」
私は少しだけ、走るスピードを上げた。
週末。
私は例のバイトに来ていた。
「今日は楽しかったよ、紗香ちゃん。」
今日の男の人は、20歳の人。
有名な私立大に通っていると言っていた。
「ねえ、ホントにダメなの?」
若いせいか、話をするだけでは足りなさそうだ。
「ごめんなさい…」
私がそう答えると、途端に不機嫌な態度に出た。
「話するだけで1万って、いい根性してるよな。」
こういう系の人はヤバいって、柊子が言ってた。
「ほら、最初から体の関係になるのは、いかにも!って感じでしょ?」
私は笑顔で答えた。
「……分かったよ。」
その人が財布から1万を出して、私に差し出した。
「ありがと。」
その瞬間、車のシートが倒される。
「ちょっと!」
「少しくらいいいだろ!」
「やめて!」
私は足で相手を蹴ると、なりふり構わずに外に出た。
タカさんは、サイドブレーキを引くと、上目使いで私を見る。
「紗香ちゃんは今日の事、柊子ちゃんから、なんて聞いてんの?」
「なんてって…」
私は柊子の言葉を思い出した。
ー男の人と1時間くらい、楽しくおしゃべりするの。ー
そして柊子は、可愛らしい顔で言った。
ーたまに体を触られるけど、騒いじゃダメだよ?それを我慢すれば、倍のお金が貰えるんだからー
私はゴクンと息を飲んだ。
「紗香ちゃん。」
ビクッと体が大きく震えた。
「最初からそんな事、無理だよな。いいよ、このまま帰って。紗香ちゃんとのドライブ楽しかったし。」
私は心のどこかで、ほっとした。
と、同時にこのバイトへの不安も当たった。
つまり、男の人に体を触らせるバイトだったって事。
「その代り……また会えるおまじない。」
「えっ?」
タカさんの手が首筋に触れると、私の唇にネットリとしたモノが絡みついた。
「かわいい!キスだけで震えちゃって。」
私は何も答えずに、前を向いた。
今のって、キス?
私、初めてだったんだけど。
こんなあっさりと、終わるなんて。
そんなショックにかられている私を余所に、タカさんはポケットから財布を取り出した。
「はい、1枚だったよね。」
タカさんは、私の前に1万円札を出した。
「また会おうね。紗香ちゃん。」
私は“はい”と返事をする代わりに、お札を受け取った。
それからはタカさんは、待ち合わせした場所に、私を送ってくれた。
帰りの車の中、何を話したのか覚えていない。
ただ笑って、別れた事はなんとなく、覚えていた。
そして、タカさんから貰った1万円を、財布の中に入れる事ができたのは、玄関にたどり着いてからだった。
次の日、部活で柊子が話しかけてきた。
「どうだった?」
まるで普通のバイトの初日のようなノリだった。
「優しい人でしょ?タカさん。」
「うん…」
柊子はこんなバイト、何も感じずにやってるんだろうか。
「ねえ、柊子はこのバイト、どのくらいやってるの?」
「そうだな。まだ3ヶ月くらい。」
「その……聞きにくいんだけどさ……」
柊子は急に、立ち止まった。
「なに?」
いつもニコニコしている柊子が、無表情になっていた。
「ごめん……何でもない。」
どこまでやってるのかなんて、さすがにそんな事聞けない。
「それよりもどう?このバイト、やれそう?」
「……うん。」
思えばこの時、なんで。
うんって返事をしてしまったんだろう。
アルバイトを初めて1か月後。
部活で校庭を走っていると、柊子が後ろから追いかけてきた。
「バイト、もう慣れた?」
「うん。」
後ろで一つに束ねられた長い髪は、少し茶色が入っていて、柊子が走る度にとび跳ねている。
「紗香は一回で、いくら貰うの?」
「……一枚。」
柊子はキョトンとしている。
「まだ、それしか貰ってないの?」
「そうだよ。」
「な~んだ。すぐに2~3枚、貰えるようになると思ってたな。」
柊子は残念そうに言った。
「そう?」
「紗香は黙っていれば、お嬢様っぽいから。」
私は何て答えたらいいか、分からなくて黙ったまま、ただ走り続けた。
ちらっと覗いた柊子は、横の髪を垂らしていて、それが大人っぽい顔を、さらに色気のあるものにしている。
柊子の顔は、昼と夜で二つある。
「なに?」
柊子が急にこっちを向いた。
「ううん。」
私は少しだけ、走るスピードを上げた。
週末。
私は例のバイトに来ていた。
「今日は楽しかったよ、紗香ちゃん。」
今日の男の人は、20歳の人。
有名な私立大に通っていると言っていた。
「ねえ、ホントにダメなの?」
若いせいか、話をするだけでは足りなさそうだ。
「ごめんなさい…」
私がそう答えると、途端に不機嫌な態度に出た。
「話するだけで1万って、いい根性してるよな。」
こういう系の人はヤバいって、柊子が言ってた。
「ほら、最初から体の関係になるのは、いかにも!って感じでしょ?」
私は笑顔で答えた。
「……分かったよ。」
その人が財布から1万を出して、私に差し出した。
「ありがと。」
その瞬間、車のシートが倒される。
「ちょっと!」
「少しくらいいいだろ!」
「やめて!」
私は足で相手を蹴ると、なりふり構わずに外に出た。
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