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第1章 0日婚の申し込みととまどい
④
「簡単ですよ。一目見て……僕はこの人と結婚するかもしれないって、そう思ったからです。」
──はぁ?
思わず心の中で素っ頓狂な声が響く。
今どき、そんなファンタジーみたいなことを真顔で言う人がいる?
一目惚れどころじゃないじゃん。結婚まで決めてるって、どういうこと?
ぽかんとしている私に、律は淡々と続けた。
「それに、あなたは言いましたよね。『この仕事、任せてください』と。」
「……はい。」
あのときの企画書。思いを込めて、必死に準備して、そう言った。
「決して、相手に言われたからじゃない。あなた自身が、自分の意志で言ったんです。責任の重さを理解したうえで、選んだ。」
彼の目はまっすぐだった。微塵もブレていない。
私は、ただじっと聞き入るしかなかった。
「僕は、そういう人と時間を共にしたい。そして、これからの人生も、“自分の意志で選ぶ人”と築いていきたい。」
一言一言が胸に刺さる。
冗談なんかじゃない。本気だ、この人。
「──それが、あなたです。朝倉さん。」
心臓が、痛いほど跳ねた。
彼の言葉は、まるで10年の恋に終わりを告げた私に対して、“もう一度、信じてみろ”と促してくるようだった。
でも。
「……そんな簡単に、人生って、決められるものですか?」
声は震えていたけれど、それが精一杯の私の答えだった。
神楽木さんは、優しく、でも確かに微笑んだ。
「僕は、決められます。君がそれを望むなら、明日からだって夫婦になれますよ。」
あまりにまっすぐで。
あまりに真剣で。
私の心は、ゆっくりと揺れ始めていた。
「交際、0日婚……」
私は、ぽつりとその言葉を繰り返した。
それは、今日のこの会話がきっかけで、明日にでも結婚してもいいということ。
──そんなの、現実味がなさすぎる。
「朝倉さん、さっき“恋愛は面倒だ”と言ってましたよね?」
神楽木さんが、静かに問いかけてくる。
目をそらすことなく、まっすぐに。
「……はい。確かに。」
もう誰かに振り回されるのも、期待して傷つくのも、疲れた。
だから、素直にそう答えたはずだった。
「僕もそうなんです。」
神楽木さんはふっと笑みを浮かべた。
だけど、その声はどこか真摯で、少しだけ寂しそうにも聞こえた。
「どうせ恋愛をするなら、遠回りせずに──“結婚した相手”と恋をしたい。」
──遠回りしない恋。
それは確かに理想かもしれない。でも。
「……でも」
ここではい、結婚します──なんて、言えるはずがない。
「少し……お時間をいただけないでしょうか。」
ようやく絞り出すように口にした私の言葉に、神楽木さんはふっと穏やかに笑んだ。
「前向きに検討いただけるということでしょうか。」
──うっ。
また、そうやって真っ直ぐにくる。
まだ、この人と付き合うかどうかも分からない。
ましてや“結婚”なんて──今すぐ返事を出せるわけがない。
「……それも含めて、検討させてください。」
私は営業マンとして、何百という提案をしてきた。
即決してもらえたら、それはもちろん嬉しい。けれど。
客の立場に立てば──即決しない方がいい。
一度家に持ち帰って、冷静に、自分の気持ちと照らし合わせてから決めるべきだ。
そう、自分に言い聞かせるように、私は立ち上がった。
「今日は、ありがとうございました。」
「こちらこそ。」
神楽木さんは席を立ち、軽く会釈してくれた。
その柔らかな仕草に、最後まで“部長”の威圧感はなく、ただ一人の“大人の男性”としての余裕があった。
「外までお送りしましょう。」
そう言って、神楽木さんは部長室を出て私の隣を歩いた。
自分より少し背の高いその人の歩幅に、自然と足を合わせてしまっている自分がいた。
──はぁ?
思わず心の中で素っ頓狂な声が響く。
今どき、そんなファンタジーみたいなことを真顔で言う人がいる?
一目惚れどころじゃないじゃん。結婚まで決めてるって、どういうこと?
ぽかんとしている私に、律は淡々と続けた。
「それに、あなたは言いましたよね。『この仕事、任せてください』と。」
「……はい。」
あのときの企画書。思いを込めて、必死に準備して、そう言った。
「決して、相手に言われたからじゃない。あなた自身が、自分の意志で言ったんです。責任の重さを理解したうえで、選んだ。」
彼の目はまっすぐだった。微塵もブレていない。
私は、ただじっと聞き入るしかなかった。
「僕は、そういう人と時間を共にしたい。そして、これからの人生も、“自分の意志で選ぶ人”と築いていきたい。」
一言一言が胸に刺さる。
冗談なんかじゃない。本気だ、この人。
「──それが、あなたです。朝倉さん。」
心臓が、痛いほど跳ねた。
彼の言葉は、まるで10年の恋に終わりを告げた私に対して、“もう一度、信じてみろ”と促してくるようだった。
でも。
「……そんな簡単に、人生って、決められるものですか?」
声は震えていたけれど、それが精一杯の私の答えだった。
神楽木さんは、優しく、でも確かに微笑んだ。
「僕は、決められます。君がそれを望むなら、明日からだって夫婦になれますよ。」
あまりにまっすぐで。
あまりに真剣で。
私の心は、ゆっくりと揺れ始めていた。
「交際、0日婚……」
私は、ぽつりとその言葉を繰り返した。
それは、今日のこの会話がきっかけで、明日にでも結婚してもいいということ。
──そんなの、現実味がなさすぎる。
「朝倉さん、さっき“恋愛は面倒だ”と言ってましたよね?」
神楽木さんが、静かに問いかけてくる。
目をそらすことなく、まっすぐに。
「……はい。確かに。」
もう誰かに振り回されるのも、期待して傷つくのも、疲れた。
だから、素直にそう答えたはずだった。
「僕もそうなんです。」
神楽木さんはふっと笑みを浮かべた。
だけど、その声はどこか真摯で、少しだけ寂しそうにも聞こえた。
「どうせ恋愛をするなら、遠回りせずに──“結婚した相手”と恋をしたい。」
──遠回りしない恋。
それは確かに理想かもしれない。でも。
「……でも」
ここではい、結婚します──なんて、言えるはずがない。
「少し……お時間をいただけないでしょうか。」
ようやく絞り出すように口にした私の言葉に、神楽木さんはふっと穏やかに笑んだ。
「前向きに検討いただけるということでしょうか。」
──うっ。
また、そうやって真っ直ぐにくる。
まだ、この人と付き合うかどうかも分からない。
ましてや“結婚”なんて──今すぐ返事を出せるわけがない。
「……それも含めて、検討させてください。」
私は営業マンとして、何百という提案をしてきた。
即決してもらえたら、それはもちろん嬉しい。けれど。
客の立場に立てば──即決しない方がいい。
一度家に持ち帰って、冷静に、自分の気持ちと照らし合わせてから決めるべきだ。
そう、自分に言い聞かせるように、私は立ち上がった。
「今日は、ありがとうございました。」
「こちらこそ。」
神楽木さんは席を立ち、軽く会釈してくれた。
その柔らかな仕草に、最後まで“部長”の威圧感はなく、ただ一人の“大人の男性”としての余裕があった。
「外までお送りしましょう。」
そう言って、神楽木さんは部長室を出て私の隣を歩いた。
自分より少し背の高いその人の歩幅に、自然と足を合わせてしまっている自分がいた。
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