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第1章 0日婚の申し込みととまどい
⑥
そうよ。
時間を置いて、冷静に考えて。
やっぱり無理ですって、ちゃんと断るの。
私は普通のOL。
背伸びしても、いつか壊れてしまうだけ。
そう、思おうとした。
なのに──
なぜか、その瞳の温度だけが、ずっと胸に残っていた。
エレベーターが一階に着き、扉が開くと、私たちは無言のまま降り立った。
エントランスまでの数十メートル──
神楽木さんは、一切何も話さなかった。
けれどその沈黙は、不思議と重苦しいものではなく、むしろ心地よい静けさだった。
出口が見えたあたりで、私は足を止めた。
「では、神楽木部長。お仕事の件、よろしくお願いします。」
丁寧に頭を下げると、彼も小さく頷いた。
けれど、その次に返ってきたのは──
「結婚の件も、お返事お待ちしてますよ。」
……やっぱり言うんだ、それ。
笑ってごまかすこともできず、私は小さく「……はい」とだけ答えた。
するとその瞬間──
「キャーッ!」「律部長~!!」
エントランスの受付あたりから、女子社員たちの黄色い歓声が飛んだ。
え? と思って振り返ると、
神楽木さんは、まるで何事もなかったかのように笑顔を浮かべて、アイドルのように軽く手を振っていた。
──いや、なんでそんなに慣れてるの?
なんでそんなに爽やかに、自然に手を振れるの?
「ああいうところ、御曹司って感じ……」
思わず心の中でつぶやいたその瞬間、神楽木さんがふと私のほうを向き、片目だけでそっとウィンクをしてきた。
──やっぱり、この人、只者じゃない。
そう思いながら、私はその場をそそくさと後にした。
そして、エントランスを抜けた外の空気は、ほんの少しだけ、さっきより熱く感じた。
会社に戻ると、パソコンの前に座るなり、深いため息が漏れた。
「……どうしたんですか?朝倉さん、すっごい難しい顔してますよ?」
声をかけてきたのは、営業部の後輩・滝くん。
明るくて気さくで、誰とでもすぐ仲良くなるタイプだ。
何気なく彼の手元に目をやると、左手の薬指にはシンプルな結婚指輪が光っていた。
「ねえ、滝くんってさ。結婚するまでの期間、どれくらいだったの?」
「俺っすか?」
意外だったのか、滝くんは少し目を丸くしてから、あはっと笑った。
「俺、実はスピード婚っすよ。」
「スピード婚?」
「はい。付き合って半年で結婚しました。周りからは“早すぎ”って言われたけど、決めたら早かったですね。」
「半年……」
私は思わず呟いていた。
──半年でも結婚って、する人はするんだ。
いや、それを言ったら……私、さっき交際“0日”でプロポーズされましたけど。
もう、笑えるというより、乾いた頭が追いついていない。
もはや“付き合ってる”っていう関係性自体、かわいく思えてくる。
時間を置いて、冷静に考えて。
やっぱり無理ですって、ちゃんと断るの。
私は普通のOL。
背伸びしても、いつか壊れてしまうだけ。
そう、思おうとした。
なのに──
なぜか、その瞳の温度だけが、ずっと胸に残っていた。
エレベーターが一階に着き、扉が開くと、私たちは無言のまま降り立った。
エントランスまでの数十メートル──
神楽木さんは、一切何も話さなかった。
けれどその沈黙は、不思議と重苦しいものではなく、むしろ心地よい静けさだった。
出口が見えたあたりで、私は足を止めた。
「では、神楽木部長。お仕事の件、よろしくお願いします。」
丁寧に頭を下げると、彼も小さく頷いた。
けれど、その次に返ってきたのは──
「結婚の件も、お返事お待ちしてますよ。」
……やっぱり言うんだ、それ。
笑ってごまかすこともできず、私は小さく「……はい」とだけ答えた。
するとその瞬間──
「キャーッ!」「律部長~!!」
エントランスの受付あたりから、女子社員たちの黄色い歓声が飛んだ。
え? と思って振り返ると、
神楽木さんは、まるで何事もなかったかのように笑顔を浮かべて、アイドルのように軽く手を振っていた。
──いや、なんでそんなに慣れてるの?
なんでそんなに爽やかに、自然に手を振れるの?
「ああいうところ、御曹司って感じ……」
思わず心の中でつぶやいたその瞬間、神楽木さんがふと私のほうを向き、片目だけでそっとウィンクをしてきた。
──やっぱり、この人、只者じゃない。
そう思いながら、私はその場をそそくさと後にした。
そして、エントランスを抜けた外の空気は、ほんの少しだけ、さっきより熱く感じた。
会社に戻ると、パソコンの前に座るなり、深いため息が漏れた。
「……どうしたんですか?朝倉さん、すっごい難しい顔してますよ?」
声をかけてきたのは、営業部の後輩・滝くん。
明るくて気さくで、誰とでもすぐ仲良くなるタイプだ。
何気なく彼の手元に目をやると、左手の薬指にはシンプルな結婚指輪が光っていた。
「ねえ、滝くんってさ。結婚するまでの期間、どれくらいだったの?」
「俺っすか?」
意外だったのか、滝くんは少し目を丸くしてから、あはっと笑った。
「俺、実はスピード婚っすよ。」
「スピード婚?」
「はい。付き合って半年で結婚しました。周りからは“早すぎ”って言われたけど、決めたら早かったですね。」
「半年……」
私は思わず呟いていた。
──半年でも結婚って、する人はするんだ。
いや、それを言ったら……私、さっき交際“0日”でプロポーズされましたけど。
もう、笑えるというより、乾いた頭が追いついていない。
もはや“付き合ってる”っていう関係性自体、かわいく思えてくる。
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