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第1章 0日婚の申し込みととまどい
⑦
“この人と付き合うかどうか”なんて、あれだけ悩んでいたのに──いきなり「結婚しましょう」だもんね。
「どうかしたんですか?」
「……私、結婚しようって言われた。」
ぽつりと漏れたその一言に、滝くんは画面を見たまま「ああ」と返す。
「彼氏さんにですか。」
──固まった。
「……付き合ってない人に。」
「へえ、男友達ですか?そういうの、たまに聞きますよね。“ずっと友達だったけど、結婚しよう的な”?」
──いや、まだ通じてない。
「……今日、初対面の人に。」
その瞬間、カチャカチャと鳴っていたマウスの音が止まった。
「……え?」
顔を上げた滝くんと、目が合う。
「冗談、止めてくださいよ。」
「それが……冗談じゃないんだって。」
しん、とした空気の中、滝くんはスッと立ち上がった。
「え、それって……結婚詐欺とか、じゃないですよね?」
──うん、普通はそう思うよね。
私は目を逸らしながら小さくため息をついた。
「多分、違うと思う……たぶん。」
「“たぶん”じゃダメですよ!朝倉さん、それ相手のフルネームと職業、ちゃんと確認しました!?」
「神楽木律。神楽木ホールディングスの部長……」
「……って、あの神楽木ですか⁉」
滝くんの顔が一気に青ざめたかと思えば、次の瞬間には妙に真剣な表情になって、ぽつりと呟いた。
「……朝倉さん、すごいっすね。」
いやいや、すごくない。全然、すごくなんかない。
むしろ今の私は、人生の分かれ道に立たされてるだけ。
どうするの、これ……。
帰り道、私は滝くんにしっかり説教された。
「大体そういう男って、誠実じゃないんですよ。女たらしとか、プレイボーイとか、だいたい裏がありますって!」
私は歩きながら、ふと神楽木さんの言葉を思い出す。
──“僕は浮気しません。交際相手としかベッドを共にしないので。”
「……それが、“俺は浮気しない”って言ってた。」
「おおっと。」
滝くんは、ガクッと膝を曲げて見せた。
「そりゃまた、フラグ立ちまくりじゃないですか。」
「なにそれ。」
「ていうか……相手って、一流企業の御曹司なんでしょ?」
「……まあ、そうだけど。」
「だったらいいじゃないですか。朝倉さん、ワンチャン掴みましょうよ!」
「簡単に言わないでよ……!」
私が呆れた声を上げると、滝くんはエントランスの前でぴたりと立ち止まり、大きなため息をついた。
「朝倉さん。」
「……なに?」
「優良物件って、逃すともう出てこないですよ。」
静かな声で、しみじみと言うもんだから、なんだか笑いそうになった。
けれど、胸の奥は妙にざわざわしていた。
──優良物件。
そんな風に割り切れたら、どんなに楽だったろう。
私は笑えず、ただ、黙って空を見上げた。
「どうかしたんですか?」
「……私、結婚しようって言われた。」
ぽつりと漏れたその一言に、滝くんは画面を見たまま「ああ」と返す。
「彼氏さんにですか。」
──固まった。
「……付き合ってない人に。」
「へえ、男友達ですか?そういうの、たまに聞きますよね。“ずっと友達だったけど、結婚しよう的な”?」
──いや、まだ通じてない。
「……今日、初対面の人に。」
その瞬間、カチャカチャと鳴っていたマウスの音が止まった。
「……え?」
顔を上げた滝くんと、目が合う。
「冗談、止めてくださいよ。」
「それが……冗談じゃないんだって。」
しん、とした空気の中、滝くんはスッと立ち上がった。
「え、それって……結婚詐欺とか、じゃないですよね?」
──うん、普通はそう思うよね。
私は目を逸らしながら小さくため息をついた。
「多分、違うと思う……たぶん。」
「“たぶん”じゃダメですよ!朝倉さん、それ相手のフルネームと職業、ちゃんと確認しました!?」
「神楽木律。神楽木ホールディングスの部長……」
「……って、あの神楽木ですか⁉」
滝くんの顔が一気に青ざめたかと思えば、次の瞬間には妙に真剣な表情になって、ぽつりと呟いた。
「……朝倉さん、すごいっすね。」
いやいや、すごくない。全然、すごくなんかない。
むしろ今の私は、人生の分かれ道に立たされてるだけ。
どうするの、これ……。
帰り道、私は滝くんにしっかり説教された。
「大体そういう男って、誠実じゃないんですよ。女たらしとか、プレイボーイとか、だいたい裏がありますって!」
私は歩きながら、ふと神楽木さんの言葉を思い出す。
──“僕は浮気しません。交際相手としかベッドを共にしないので。”
「……それが、“俺は浮気しない”って言ってた。」
「おおっと。」
滝くんは、ガクッと膝を曲げて見せた。
「そりゃまた、フラグ立ちまくりじゃないですか。」
「なにそれ。」
「ていうか……相手って、一流企業の御曹司なんでしょ?」
「……まあ、そうだけど。」
「だったらいいじゃないですか。朝倉さん、ワンチャン掴みましょうよ!」
「簡単に言わないでよ……!」
私が呆れた声を上げると、滝くんはエントランスの前でぴたりと立ち止まり、大きなため息をついた。
「朝倉さん。」
「……なに?」
「優良物件って、逃すともう出てこないですよ。」
静かな声で、しみじみと言うもんだから、なんだか笑いそうになった。
けれど、胸の奥は妙にざわざわしていた。
──優良物件。
そんな風に割り切れたら、どんなに楽だったろう。
私は笑えず、ただ、黙って空を見上げた。
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