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第3章 新居とぎこちない新生活
③
夜がやってきた。
「俺、いつも窓側のベッド使ってるんだけど、千尋はクローゼット側のベッドでいい?」
「いいよ。」
お風呂上がりの体をタオルで拭いて、私はそっと布団に入った。
ふかふかのマットレスに身を預けると、なんだか緊張する。
隣を見ると、律さんも同じタイミングで布団に入り、ベッドの上で少しだけ体を起こしていた。
「ねえ、これって……」
私はつぶやいた。
「なに?」律さんが顔を向ける。
「ううん……」
私はごまかすように天井を見上げた。
──今まで、元カレが泊まりに来てくれた時は、セミダブルのベッドにふたりで一緒に寝ていた。
狭くて、少し窮屈だけど、それが当たり前だった。
だけど今は、広い寝室にベッドがふたつ。
しかも、それぞれ別のベッドで眠るというこの距離感。
二人でいるのに、少しだけ寂しい。
夫婦なのに、一緒の布団じゃないって……少し変だな。
だけど、それは律さんの気遣いなんだろう。
入籍したからといって急にすべてを共有するわけじゃない。
ちゃんと私の気持ちを大切にしようとしてくれている。
その誠実さが、かえって胸に染みる。
私はそっと目を閉じた。
──たとえ今夜、隣にいなくても。
私はこの人と、夫婦になったんだ。
ふと布団がめくれた。「ん?」
横を見ると、律さんが私の布団に入って来た。
「新婚らしいこと、する?」
そう言って、私を優しく抱き寄せる。
腕枕をしてくれた律さんの胸に、そっと頭を預けた。
くすぐったいくらいの近さ。でも、心地いい。
「俺、いつもセミダブルのベッドで一人で寝てたから、千尋の部屋に泊まったとき、なんか新鮮だったんだよね。」
律さんの手が、私の髪をふわりと撫でる。
「こうやって体を寄せて寝るって……本当の“番い”みたいだな。」
「番い……?」
「うん。一生を添い遂げる相手のこと。俺は千尋と、そういうふうになりたい。」
胸の奥が、ぎゅうっとなった。
こんな風に、さりげなく、でも真っ直ぐに想いを伝えてくれる人なんだ。
「私も……なりたい。」
そう呟くと、律さんがそっと額にキスを落とした。
「嬉しい。じゃあ今日から、俺たちは本当の番いだ。」
微笑むその顔が近づいて、そっと唇を重ねられた。
深くはない、けれど確かな約束のキス。
──この人となら、きっと大丈夫。
そう思えた夜だった。
朝になると、律さんの姿は寝室になかった。
まだ少しぬくもりの残る布団。横を見ると、律さんが眠っていた跡がはっきりと残っている。
──朝まで一緒に寝てくれたんだ。
なんだかそれだけで、心がふわっと温かくなる。
欠伸をしながら寝室を出て、キッチンに向かうと、そこにはエプロン姿の律さんがいた。
「おはよう、朝食できてるよ。」
「ええっ⁉」驚きに思わず声が出る。
ダイニングテーブルを見ると、ハムエッグとトースト、彩りのサラダにヨーグルトまで並んでいた。
「俺、いつも窓側のベッド使ってるんだけど、千尋はクローゼット側のベッドでいい?」
「いいよ。」
お風呂上がりの体をタオルで拭いて、私はそっと布団に入った。
ふかふかのマットレスに身を預けると、なんだか緊張する。
隣を見ると、律さんも同じタイミングで布団に入り、ベッドの上で少しだけ体を起こしていた。
「ねえ、これって……」
私はつぶやいた。
「なに?」律さんが顔を向ける。
「ううん……」
私はごまかすように天井を見上げた。
──今まで、元カレが泊まりに来てくれた時は、セミダブルのベッドにふたりで一緒に寝ていた。
狭くて、少し窮屈だけど、それが当たり前だった。
だけど今は、広い寝室にベッドがふたつ。
しかも、それぞれ別のベッドで眠るというこの距離感。
二人でいるのに、少しだけ寂しい。
夫婦なのに、一緒の布団じゃないって……少し変だな。
だけど、それは律さんの気遣いなんだろう。
入籍したからといって急にすべてを共有するわけじゃない。
ちゃんと私の気持ちを大切にしようとしてくれている。
その誠実さが、かえって胸に染みる。
私はそっと目を閉じた。
──たとえ今夜、隣にいなくても。
私はこの人と、夫婦になったんだ。
ふと布団がめくれた。「ん?」
横を見ると、律さんが私の布団に入って来た。
「新婚らしいこと、する?」
そう言って、私を優しく抱き寄せる。
腕枕をしてくれた律さんの胸に、そっと頭を預けた。
くすぐったいくらいの近さ。でも、心地いい。
「俺、いつもセミダブルのベッドで一人で寝てたから、千尋の部屋に泊まったとき、なんか新鮮だったんだよね。」
律さんの手が、私の髪をふわりと撫でる。
「こうやって体を寄せて寝るって……本当の“番い”みたいだな。」
「番い……?」
「うん。一生を添い遂げる相手のこと。俺は千尋と、そういうふうになりたい。」
胸の奥が、ぎゅうっとなった。
こんな風に、さりげなく、でも真っ直ぐに想いを伝えてくれる人なんだ。
「私も……なりたい。」
そう呟くと、律さんがそっと額にキスを落とした。
「嬉しい。じゃあ今日から、俺たちは本当の番いだ。」
微笑むその顔が近づいて、そっと唇を重ねられた。
深くはない、けれど確かな約束のキス。
──この人となら、きっと大丈夫。
そう思えた夜だった。
朝になると、律さんの姿は寝室になかった。
まだ少しぬくもりの残る布団。横を見ると、律さんが眠っていた跡がはっきりと残っている。
──朝まで一緒に寝てくれたんだ。
なんだかそれだけで、心がふわっと温かくなる。
欠伸をしながら寝室を出て、キッチンに向かうと、そこにはエプロン姿の律さんがいた。
「おはよう、朝食できてるよ。」
「ええっ⁉」驚きに思わず声が出る。
ダイニングテーブルを見ると、ハムエッグとトースト、彩りのサラダにヨーグルトまで並んでいた。
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