御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました【完結】

日下奈緒

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第3章 新居とぎこちない新生活 

夜がやってきた。

「俺、いつも窓側のベッド使ってるんだけど、千尋はクローゼット側のベッドでいい?」

「いいよ。」

お風呂上がりの体をタオルで拭いて、私はそっと布団に入った。

ふかふかのマットレスに身を預けると、なんだか緊張する。

隣を見ると、律さんも同じタイミングで布団に入り、ベッドの上で少しだけ体を起こしていた。

「ねえ、これって……」

私はつぶやいた。

「なに?」律さんが顔を向ける。

「ううん……」

私はごまかすように天井を見上げた。

──今まで、元カレが泊まりに来てくれた時は、セミダブルのベッドにふたりで一緒に寝ていた。

狭くて、少し窮屈だけど、それが当たり前だった。

だけど今は、広い寝室にベッドがふたつ。

しかも、それぞれ別のベッドで眠るというこの距離感。

二人でいるのに、少しだけ寂しい。

夫婦なのに、一緒の布団じゃないって……少し変だな。

だけど、それは律さんの気遣いなんだろう。

入籍したからといって急にすべてを共有するわけじゃない。

ちゃんと私の気持ちを大切にしようとしてくれている。

その誠実さが、かえって胸に染みる。

私はそっと目を閉じた。

──たとえ今夜、隣にいなくても。

私はこの人と、夫婦になったんだ。

ふと布団がめくれた。「ん?」

横を見ると、律さんが私の布団に入って来た。

「新婚らしいこと、する?」

そう言って、私を優しく抱き寄せる。

腕枕をしてくれた律さんの胸に、そっと頭を預けた。

くすぐったいくらいの近さ。でも、心地いい。

「俺、いつもセミダブルのベッドで一人で寝てたから、千尋の部屋に泊まったとき、なんか新鮮だったんだよね。」

律さんの手が、私の髪をふわりと撫でる。

「こうやって体を寄せて寝るって……本当の“番い”みたいだな。」

「番い……?」

「うん。一生を添い遂げる相手のこと。俺は千尋と、そういうふうになりたい。」

胸の奥が、ぎゅうっとなった。

こんな風に、さりげなく、でも真っ直ぐに想いを伝えてくれる人なんだ。

「私も……なりたい。」

そう呟くと、律さんがそっと額にキスを落とした。

「嬉しい。じゃあ今日から、俺たちは本当の番いだ。」

微笑むその顔が近づいて、そっと唇を重ねられた。

深くはない、けれど確かな約束のキス。

──この人となら、きっと大丈夫。
そう思えた夜だった。

朝になると、律さんの姿は寝室になかった。

まだ少しぬくもりの残る布団。横を見ると、律さんが眠っていた跡がはっきりと残っている。

──朝まで一緒に寝てくれたんだ。

なんだかそれだけで、心がふわっと温かくなる。

欠伸をしながら寝室を出て、キッチンに向かうと、そこにはエプロン姿の律さんがいた。

「おはよう、朝食できてるよ。」

「ええっ⁉」驚きに思わず声が出る。

ダイニングテーブルを見ると、ハムエッグとトースト、彩りのサラダにヨーグルトまで並んでいた。
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