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第3章 新居とぎこちない新生活
⑥
会社のビルを出た瞬間、スマホが震えた。
《脇道で待ってるよ。》
画面を見て顔がほころぶ。あたりを見渡すと、すぐに黒の車が目に入った。
律さんの車だ。私は急いで駆け寄り、助手席のドアを開けた。
「ごめん、遅くなって。」
「いいよ、仕事だったんだし。」
律さんは穏やかに笑いながら、私がシートベルトを締めたのを確認してエンジンをかける。
車が静かに走り出す。
「夕食、買わないといけない物があって……」
「ああ、今日はどこかで食べて行こう。」
その一言が、やさしく胸に沁みた。
いつの間にか、私はぽつりとつぶやいていた。
「今日、新婚なのはわかるけど、仕事もしろって言われた。」
その瞬間、律さんの横顔が少しだけ硬くなった。
ハンドルを握る手に、わずかに力が入るのが分かる。
「……そう言われたのか。」
ゆっくりと右折しながら、彼は目を細めた。
その瞳に怒りというより、悔しさが滲んでいる気がした。
「うん。でも、私の立場だと仕方ないんだよね。」
そう言いつつも、自分の言葉が言い訳のように響いて、思わず視線を落とした。
律さんは深く息を吐くと、そっと私の手を握った。
走る車の中で、その手の温かさが心に染みた。
「でもね、ちゃんと定時に帰って。律さんにご飯作りたい自分がいるんだ。」
そう言った私の言葉に、律さんは赤信号で車を止めると、ハンドル越しに私の方をちらりと見た。
「無理しなくていいよ。」
静かにそう言う律さんに、私は体を少し起こして向き直る。
「俺、千尋の立場も分かってる。仕事って、理想通りにいかない日もある。残業して遅くなったら、こうやって外食するのもいいんだし。」
青信号に変わり、車が静かに走り出す。
でも私は、諦めたくなかった。
「……それでも律さんにご飯作りたい。」
その一言に、律さんは思わず笑った。
「頑固だな。」
「だって……律さんが私の作ったご飯を、美味しそうに食べてくれるの見るの、好きなんだもん。」
車内に、柔らかな空気が流れる。
窓の外を過ぎる街の明かりよりも、律さんの笑顔の方がずっと温かく感じた。
「……そっか。じゃあ、なるべく早く帰るよ。」
「ほんと?」
「うん。千尋のご飯、食べたいから。」
律さんのその言葉に、胸がきゅっとなった。
私はそっと微笑みながら、助手席の窓の外を見た。
その夜の光景は、何でもないようで、何よりも特別だった。
そして次の日。
寺川不動産の案件に没頭していた私は、ふと時計を見て息をのんだ。
「……あちゃー。なんで時間が経つの忘れるかな。」
気づけば、もう19時を回っていた。
その時、スマホが震える。律さんからのメッセージだった。
《あれ?今日って残業?》
――まずい。
律さんの方が先に帰ってる。
《脇道で待ってるよ。》
画面を見て顔がほころぶ。あたりを見渡すと、すぐに黒の車が目に入った。
律さんの車だ。私は急いで駆け寄り、助手席のドアを開けた。
「ごめん、遅くなって。」
「いいよ、仕事だったんだし。」
律さんは穏やかに笑いながら、私がシートベルトを締めたのを確認してエンジンをかける。
車が静かに走り出す。
「夕食、買わないといけない物があって……」
「ああ、今日はどこかで食べて行こう。」
その一言が、やさしく胸に沁みた。
いつの間にか、私はぽつりとつぶやいていた。
「今日、新婚なのはわかるけど、仕事もしろって言われた。」
その瞬間、律さんの横顔が少しだけ硬くなった。
ハンドルを握る手に、わずかに力が入るのが分かる。
「……そう言われたのか。」
ゆっくりと右折しながら、彼は目を細めた。
その瞳に怒りというより、悔しさが滲んでいる気がした。
「うん。でも、私の立場だと仕方ないんだよね。」
そう言いつつも、自分の言葉が言い訳のように響いて、思わず視線を落とした。
律さんは深く息を吐くと、そっと私の手を握った。
走る車の中で、その手の温かさが心に染みた。
「でもね、ちゃんと定時に帰って。律さんにご飯作りたい自分がいるんだ。」
そう言った私の言葉に、律さんは赤信号で車を止めると、ハンドル越しに私の方をちらりと見た。
「無理しなくていいよ。」
静かにそう言う律さんに、私は体を少し起こして向き直る。
「俺、千尋の立場も分かってる。仕事って、理想通りにいかない日もある。残業して遅くなったら、こうやって外食するのもいいんだし。」
青信号に変わり、車が静かに走り出す。
でも私は、諦めたくなかった。
「……それでも律さんにご飯作りたい。」
その一言に、律さんは思わず笑った。
「頑固だな。」
「だって……律さんが私の作ったご飯を、美味しそうに食べてくれるの見るの、好きなんだもん。」
車内に、柔らかな空気が流れる。
窓の外を過ぎる街の明かりよりも、律さんの笑顔の方がずっと温かく感じた。
「……そっか。じゃあ、なるべく早く帰るよ。」
「ほんと?」
「うん。千尋のご飯、食べたいから。」
律さんのその言葉に、胸がきゅっとなった。
私はそっと微笑みながら、助手席の窓の外を見た。
その夜の光景は、何でもないようで、何よりも特別だった。
そして次の日。
寺川不動産の案件に没頭していた私は、ふと時計を見て息をのんだ。
「……あちゃー。なんで時間が経つの忘れるかな。」
気づけば、もう19時を回っていた。
その時、スマホが震える。律さんからのメッセージだった。
《あれ?今日って残業?》
――まずい。
律さんの方が先に帰ってる。
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