3 / 46
第一章 婚約破棄と嘲笑 ③
しおりを挟む
次の舞踏会。
本当は、行きたくなんてなかった。
婚約を破棄されたばかりの私が、今さらどんな顔で社交界に立てばいいというのだろう。
けれど、両親は私の気持ちも聞かず、こう言った。
「次の相手を見つけてこい」
それは命令だった。
私の将来のため、家のため──分かってはいる。でも、心はついてこなかった。
気合いを入れて選んだ青いドレス。
地味と言われないように、髪にも少し手をかけた。
けれど、会場に足を踏み入れた瞬間、私はまた“壁”だった。
誰にも声を掛けられない。
誰の視線も私を通り過ぎていく。
──壁の花、とはよく言ったものね。
青いドレスが、まるで本当に壁に飾られた飾りのよう。
華やかな音楽と笑い声の中で、私はまた取り残されていた。
その時だった。
「ユリウス様!」
「キャーッ、今日も素敵……!」
扉の向こうから、彼が現れた。
ユリウス・フェルグレン。
元・婚約者。今はもう、私と無関係の人。
それでも──やっぱり彼は、令嬢たちの視線をさらっていく。
きらびやかな人々の中心にいて、堂々と微笑んで。
私はまた、あの夜の感覚を思い出していた。
隣に立てなかった私。
捨てられた私。
ドレスの裾を強く握りしめた手が、小さく震えていた。
そして──
ユリウス様が、ダンスの相手に選んだのは。
「エヴァ・ディナローゼ嬢を、お誘いしても?」
凛とした声が響いた瞬間、空気がざわめいた。
エヴァ・ディナローゼ。
華やかな金髪に、燃えるような真紅のドレス。
伯爵令嬢であり、舞踏会では常に注目の的。
その美しさと気品、そして何より軽やかで優雅なダンスの腕前で、多くの貴族たちの憧れを集めている。
「ぜひ。」
彼女はにっこりと笑いながら、ユリウスの手を取り、堂々とフロアへと歩み出る。
その姿はまるで舞台の上の主人公。
二人がステップを踏み出すと、自然と周囲の令嬢たちの視線が集まり、うっとりとしたため息が漏れた。
「素敵ね……」
「お似合いの二人だわ……」
そんな声が、次々と耳に入ってくる。
本当は、ああ言われたかった。
私がユリウス様と踊っていたなら、そう囁かれたかった。
「お似合い」と、誰かに言ってほしかった。
──どうして、私は、選ばれなかったのだろう。
握りしめた手が冷たくなっていく。
目の奥がじんと熱くなっても、泣くことだけはしたくなかった。
今ここで涙をこぼしたら、ますます“地味で惨めな令嬢”になるだけ。
私は唇をかみしめながら、ただ黙って、遠くのフロアを見つめ続けた。
でも、こんな顔をしていたら──
ますます誰からも声なんて掛けられない。
地味で、華やかさもなくて、笑顔もない。
本当は、行きたくなんてなかった。
婚約を破棄されたばかりの私が、今さらどんな顔で社交界に立てばいいというのだろう。
けれど、両親は私の気持ちも聞かず、こう言った。
「次の相手を見つけてこい」
それは命令だった。
私の将来のため、家のため──分かってはいる。でも、心はついてこなかった。
気合いを入れて選んだ青いドレス。
地味と言われないように、髪にも少し手をかけた。
けれど、会場に足を踏み入れた瞬間、私はまた“壁”だった。
誰にも声を掛けられない。
誰の視線も私を通り過ぎていく。
──壁の花、とはよく言ったものね。
青いドレスが、まるで本当に壁に飾られた飾りのよう。
華やかな音楽と笑い声の中で、私はまた取り残されていた。
その時だった。
「ユリウス様!」
「キャーッ、今日も素敵……!」
扉の向こうから、彼が現れた。
ユリウス・フェルグレン。
元・婚約者。今はもう、私と無関係の人。
それでも──やっぱり彼は、令嬢たちの視線をさらっていく。
きらびやかな人々の中心にいて、堂々と微笑んで。
私はまた、あの夜の感覚を思い出していた。
隣に立てなかった私。
捨てられた私。
ドレスの裾を強く握りしめた手が、小さく震えていた。
そして──
ユリウス様が、ダンスの相手に選んだのは。
「エヴァ・ディナローゼ嬢を、お誘いしても?」
凛とした声が響いた瞬間、空気がざわめいた。
エヴァ・ディナローゼ。
華やかな金髪に、燃えるような真紅のドレス。
伯爵令嬢であり、舞踏会では常に注目の的。
その美しさと気品、そして何より軽やかで優雅なダンスの腕前で、多くの貴族たちの憧れを集めている。
「ぜひ。」
彼女はにっこりと笑いながら、ユリウスの手を取り、堂々とフロアへと歩み出る。
その姿はまるで舞台の上の主人公。
二人がステップを踏み出すと、自然と周囲の令嬢たちの視線が集まり、うっとりとしたため息が漏れた。
「素敵ね……」
「お似合いの二人だわ……」
そんな声が、次々と耳に入ってくる。
本当は、ああ言われたかった。
私がユリウス様と踊っていたなら、そう囁かれたかった。
「お似合い」と、誰かに言ってほしかった。
──どうして、私は、選ばれなかったのだろう。
握りしめた手が冷たくなっていく。
目の奥がじんと熱くなっても、泣くことだけはしたくなかった。
今ここで涙をこぼしたら、ますます“地味で惨めな令嬢”になるだけ。
私は唇をかみしめながら、ただ黙って、遠くのフロアを見つめ続けた。
でも、こんな顔をしていたら──
ますます誰からも声なんて掛けられない。
地味で、華やかさもなくて、笑顔もない。
332
あなたにおすすめの小説
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
大人になったオフェーリア。
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。
生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。
けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。
それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。
その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。
その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる