「妃に相応しくない」と言われた私が、第2皇子に溺愛されています 【完結】

日下奈緒

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第一章 婚約破棄と嘲笑 ③

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次の舞踏会。

本当は、行きたくなんてなかった。

婚約を破棄されたばかりの私が、今さらどんな顔で社交界に立てばいいというのだろう。

けれど、両親は私の気持ちも聞かず、こう言った。

「次の相手を見つけてこい」

それは命令だった。

私の将来のため、家のため──分かってはいる。でも、心はついてこなかった。

気合いを入れて選んだ青いドレス。

地味と言われないように、髪にも少し手をかけた。

けれど、会場に足を踏み入れた瞬間、私はまた“壁”だった。

誰にも声を掛けられない。

誰の視線も私を通り過ぎていく。

──壁の花、とはよく言ったものね。

青いドレスが、まるで本当に壁に飾られた飾りのよう。

華やかな音楽と笑い声の中で、私はまた取り残されていた。

その時だった。

「ユリウス様!」

「キャーッ、今日も素敵……!」

扉の向こうから、彼が現れた。

ユリウス・フェルグレン。

元・婚約者。今はもう、私と無関係の人。

それでも──やっぱり彼は、令嬢たちの視線をさらっていく。

きらびやかな人々の中心にいて、堂々と微笑んで。

私はまた、あの夜の感覚を思い出していた。

隣に立てなかった私。

捨てられた私。

ドレスの裾を強く握りしめた手が、小さく震えていた。

そして──

ユリウス様が、ダンスの相手に選んだのは。

「エヴァ・ディナローゼ嬢を、お誘いしても?」

凛とした声が響いた瞬間、空気がざわめいた。

エヴァ・ディナローゼ。

華やかな金髪に、燃えるような真紅のドレス。

伯爵令嬢であり、舞踏会では常に注目の的。

その美しさと気品、そして何より軽やかで優雅なダンスの腕前で、多くの貴族たちの憧れを集めている。

「ぜひ。」

彼女はにっこりと笑いながら、ユリウスの手を取り、堂々とフロアへと歩み出る。

その姿はまるで舞台の上の主人公。

二人がステップを踏み出すと、自然と周囲の令嬢たちの視線が集まり、うっとりとしたため息が漏れた。

「素敵ね……」

「お似合いの二人だわ……」

そんな声が、次々と耳に入ってくる。

本当は、ああ言われたかった。

私がユリウス様と踊っていたなら、そう囁かれたかった。

「お似合い」と、誰かに言ってほしかった。

──どうして、私は、選ばれなかったのだろう。

握りしめた手が冷たくなっていく。

目の奥がじんと熱くなっても、泣くことだけはしたくなかった。

今ここで涙をこぼしたら、ますます“地味で惨めな令嬢”になるだけ。

私は唇をかみしめながら、ただ黙って、遠くのフロアを見つめ続けた。

でも、こんな顔をしていたら──

ますます誰からも声なんて掛けられない。

地味で、華やかさもなくて、笑顔もない。
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