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第三章 偽りの関係? ③
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その数日後のことだった。
「……えっ? カイル殿下⁉」
執務中の私の元に、突然の来訪が告げられた。
今日は面会の日ではなかったはず。
私も両親も驚いて、慌てて応接間の準備を整える。
「今日はどうされたのですか……?」
彼が現れたとき、私は少し息を呑んだ。
正装ではなく、落ち着いた外出着。けれどその佇まいは、いつも通り凛としていた。
「いや……今日はただ、セレナの顔が見たくなって。」
そう言って、まっすぐに私を見つめてくださった。
その目は、からかいでも気まぐれでもない。
本当に、私という人間に会いたかった──そう言ってくれているようだった。
「まあまあ、お茶を……」と父が言いかけたが、母がそれを止めるように袖を引き、こそこそと二人で席を外していった。
「言ってくだされば、私から宮殿に伺いましたのに。」
そう言うと、殿下は少し笑って首を振った。
「宮殿では、君はいつも少し緊張してるからね。こうして君の屋敷なら、自然な君の顔が見られるだろう?」
そして、私の肩にそっと手を回し、やわらかく抱き寄せてくれた。
「……ここにいる君のほうが、ずっと愛しいんだ。」
胸が、きゅっと音を立てるように鳴った。
「お庭でも、散歩しますか?」
室内にこもる空気に耐えきれず、私はたまりかねて立ち上がった。
応接間から庭へと続く扉に手をかける。
カチャリ――と控えめな音を立てて、右の扉を開けた、その瞬間。
反対側の扉も、同じ音を立てて開いた。
そこに立っていたのは、やはり彼だった。
「懐かしいな。」
カイル殿下が、ほんの少しだけ目を細めて微笑んだ。
「昔も、こうやって二人で扉を開けたよね。」
「……はい」
自然と、胸が熱くなる。
この扉は、何度も一緒に開けた記憶の場所だった。
兄に遊んでもらうような気持ちで、何の遠慮もなく並んでいた、あの頃。
「せーのっ、で――お互い片方ずつ」
カイル殿下がそう言うと、私の頬に自然と笑みが浮かんだ。
「……覚えていて、くださったんですね」
「忘れるわけないよ。あの頃、君と過ごした時間は……」
言いかけたその声が、そっと消えた。
けれど言葉の先を聞かなくても、私には充分すぎるほど伝わってきた。
私の中に残っていた幼い記憶が、今こうして、温かく現在と繋がっていく。
庭を歩いていると、カイル殿下がふと足を止め、大きな木の幹に手をかけた。
「……まだあるんだね、この木。」
その声は、どこか懐かしさを帯びていた。
「はい。母のお気に入りなんです。ずっと、大切にしています。」
風に揺れる枝葉の音が、二人の間を柔らかく包む。
カイル殿下は木の根元に咲いていた小さな白い花に目を留めると、そっとひとつ摘み取った。
「……あの頃も、こうして君に花を渡したよね。」
「はい……覚えています。」
「……えっ? カイル殿下⁉」
執務中の私の元に、突然の来訪が告げられた。
今日は面会の日ではなかったはず。
私も両親も驚いて、慌てて応接間の準備を整える。
「今日はどうされたのですか……?」
彼が現れたとき、私は少し息を呑んだ。
正装ではなく、落ち着いた外出着。けれどその佇まいは、いつも通り凛としていた。
「いや……今日はただ、セレナの顔が見たくなって。」
そう言って、まっすぐに私を見つめてくださった。
その目は、からかいでも気まぐれでもない。
本当に、私という人間に会いたかった──そう言ってくれているようだった。
「まあまあ、お茶を……」と父が言いかけたが、母がそれを止めるように袖を引き、こそこそと二人で席を外していった。
「言ってくだされば、私から宮殿に伺いましたのに。」
そう言うと、殿下は少し笑って首を振った。
「宮殿では、君はいつも少し緊張してるからね。こうして君の屋敷なら、自然な君の顔が見られるだろう?」
そして、私の肩にそっと手を回し、やわらかく抱き寄せてくれた。
「……ここにいる君のほうが、ずっと愛しいんだ。」
胸が、きゅっと音を立てるように鳴った。
「お庭でも、散歩しますか?」
室内にこもる空気に耐えきれず、私はたまりかねて立ち上がった。
応接間から庭へと続く扉に手をかける。
カチャリ――と控えめな音を立てて、右の扉を開けた、その瞬間。
反対側の扉も、同じ音を立てて開いた。
そこに立っていたのは、やはり彼だった。
「懐かしいな。」
カイル殿下が、ほんの少しだけ目を細めて微笑んだ。
「昔も、こうやって二人で扉を開けたよね。」
「……はい」
自然と、胸が熱くなる。
この扉は、何度も一緒に開けた記憶の場所だった。
兄に遊んでもらうような気持ちで、何の遠慮もなく並んでいた、あの頃。
「せーのっ、で――お互い片方ずつ」
カイル殿下がそう言うと、私の頬に自然と笑みが浮かんだ。
「……覚えていて、くださったんですね」
「忘れるわけないよ。あの頃、君と過ごした時間は……」
言いかけたその声が、そっと消えた。
けれど言葉の先を聞かなくても、私には充分すぎるほど伝わってきた。
私の中に残っていた幼い記憶が、今こうして、温かく現在と繋がっていく。
庭を歩いていると、カイル殿下がふと足を止め、大きな木の幹に手をかけた。
「……まだあるんだね、この木。」
その声は、どこか懐かしさを帯びていた。
「はい。母のお気に入りなんです。ずっと、大切にしています。」
風に揺れる枝葉の音が、二人の間を柔らかく包む。
カイル殿下は木の根元に咲いていた小さな白い花に目を留めると、そっとひとつ摘み取った。
「……あの頃も、こうして君に花を渡したよね。」
「はい……覚えています。」
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