「妃に相応しくない」と言われた私が、第2皇子に溺愛されています 【完結】

日下奈緒

文字の大きさ
13 / 46

第三章 偽りの関係? ③

しおりを挟む
その数日後のことだった。

「……えっ? カイル殿下⁉」

執務中の私の元に、突然の来訪が告げられた。

今日は面会の日ではなかったはず。

私も両親も驚いて、慌てて応接間の準備を整える。

「今日はどうされたのですか……?」

彼が現れたとき、私は少し息を呑んだ。

正装ではなく、落ち着いた外出着。けれどその佇まいは、いつも通り凛としていた。

「いや……今日はただ、セレナの顔が見たくなって。」

そう言って、まっすぐに私を見つめてくださった。

その目は、からかいでも気まぐれでもない。

本当に、私という人間に会いたかった──そう言ってくれているようだった。

「まあまあ、お茶を……」と父が言いかけたが、母がそれを止めるように袖を引き、こそこそと二人で席を外していった。

「言ってくだされば、私から宮殿に伺いましたのに。」

そう言うと、殿下は少し笑って首を振った。

「宮殿では、君はいつも少し緊張してるからね。こうして君の屋敷なら、自然な君の顔が見られるだろう?」

そして、私の肩にそっと手を回し、やわらかく抱き寄せてくれた。

「……ここにいる君のほうが、ずっと愛しいんだ。」

胸が、きゅっと音を立てるように鳴った。

「お庭でも、散歩しますか?」

室内にこもる空気に耐えきれず、私はたまりかねて立ち上がった。

応接間から庭へと続く扉に手をかける。

カチャリ――と控えめな音を立てて、右の扉を開けた、その瞬間。

反対側の扉も、同じ音を立てて開いた。

そこに立っていたのは、やはり彼だった。

「懐かしいな。」

カイル殿下が、ほんの少しだけ目を細めて微笑んだ。

「昔も、こうやって二人で扉を開けたよね。」

「……はい」

自然と、胸が熱くなる。

この扉は、何度も一緒に開けた記憶の場所だった。

兄に遊んでもらうような気持ちで、何の遠慮もなく並んでいた、あの頃。

「せーのっ、で――お互い片方ずつ」

カイル殿下がそう言うと、私の頬に自然と笑みが浮かんだ。

「……覚えていて、くださったんですね」

「忘れるわけないよ。あの頃、君と過ごした時間は……」

言いかけたその声が、そっと消えた。

けれど言葉の先を聞かなくても、私には充分すぎるほど伝わってきた。

私の中に残っていた幼い記憶が、今こうして、温かく現在と繋がっていく。

庭を歩いていると、カイル殿下がふと足を止め、大きな木の幹に手をかけた。

「……まだあるんだね、この木。」

その声は、どこか懐かしさを帯びていた。

「はい。母のお気に入りなんです。ずっと、大切にしています。」

風に揺れる枝葉の音が、二人の間を柔らかく包む。

カイル殿下は木の根元に咲いていた小さな白い花に目を留めると、そっとひとつ摘み取った。

「……あの頃も、こうして君に花を渡したよね。」

「はい……覚えています。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...