「妃に相応しくない」と言われた私が、第2皇子に溺愛されています 【完結】

日下奈緒

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第三章 偽りの関係? ⑤

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「どうぞ、お構いなく。私は他の部屋に行きますので、どうぞごゆっくり。」

その言葉に、空気が和らぐ。

けれど、次の一言は――

屋敷の空気を一変させた。

「私は、セレナの部屋に行きます。」

「……っ!」

父が目を見開き、母が思わず手に持ったティーカップを取り落としそうになる。

けれど、カイル殿下は至極当然のことのように、まっすぐに私を見ていた。

「……構いませんよね?」

その視線に、誰も逆らえなかった。

ただ一つ、胸の奥がじんわりと熱くなっていく。

私の部屋へ、堂々と足を踏み入れようとする人は――この方しかいない。

私の部屋は、居間と寝室の二間続き。

仕切りの扉はなく、視線を遮るものもない。

……これは、正直困った。

まさか、殿下をご案内する日が来るなんて思っていなかったのだから。

「セレナ。」

カイル殿下が、私の居間のソファに自然と腰を下ろす。
その仕草には一切の遠慮がなく、けれど無礼もない。

堂々と、そして当たり前のように私の空間に存在していた。

「……殿下……?」

「ここなら、誰にも邪魔されないね。」

そう言って、彼は自分の隣を指差した。

――ああ、やっぱり。

私は覚悟を決め、静かにその横に座る。

すぐ隣に感じる体温。

ただそれだけで、胸の鼓動が早くなる。

そのとき。

カイル殿下の手が、そっと私の頬に触れた。

指先があたたかくて、優しくて。

まっすぐな視線が、私の瞳を射抜く。

――ああ、キスされる。

そう思った瞬間だった。

部屋の空気が、甘く静かに満ちていた、そのときだった。

ふと――
部屋のドアのほうから、強烈な視線を感じた。

「……お、お父様⁉」

カイル殿下がすばやくドアに歩み寄り、開けると――

そこには、なんとも気まずそうな父の姿。

「こ、これはこれは……!」

勢いあまってドアにもたれかかったのか、父はバランスを崩し、そのまま倒れ込むように室内に入ってきた。

「お、お父様……!」

私は慌てて立ち上がり、殿下も苦笑しながら父に手を貸した。

父はもそもそと身を起こしながら、顔を真っ赤にして咳ばらいを一つ。

「……ええっと……」

そして、照れ隠しのように私を一瞥し、改まった表情に戻った。

「カイル殿下。一つだけ、忠告したいことがあります」

「……何でしょう」

背筋を伸ばした殿下の問いかけに、父は真剣な顔で私をちらっと見た。

「その……カイル殿下が跡継ぎを必要としているのは分かりますが……」

父の言葉に、私は思わず首を傾げた。

「結婚する前に子作りをされたら、困ります。」

「っ……!」

その瞬間、私の顔は一気に真っ赤になった。

「お、お父様の馬鹿っ!」

思わず叫んでしまった。

「カイル殿下がそんなこと、するわけないじゃない!」
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