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第七章 困惑の聖女選定 ②
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カイルはすぐに立ち上がり、腰の剣を抜き取った。そして胸に当て、跪く。
「聖女に、命をかけて仕えることを、ここに誓います。」
ざわめきが広がる。皇子が聖女の護衛に任じられる――
それは伝統的に、“次代の王たる者”が聖女と共に国を守るという、象徴的な意味を持つ任命だった。
(……なぜカイル殿下が?)
私はそっと視線を落とす。
護衛役に任命された者は、聖女の任務に同行する。
つまり、しばらくの間、彼と私は別々の時間を過ごすことになるということ。
(それに……聖女の傍で……ずっと?)
つい先ほどまでティアナと並び立っていたカイル殿下の姿が、鮮やかに思い出された。
麗しく、神聖な雰囲気をまとった彼女。並ぶ二人は、まるで絵画のように美しかった。
(私の立ち位置は……)
式の余韻が残る中、胸の奥に冷たい影が落ちた。
お妃教育の帰り道。
夕暮れが差し込む馬車の中で、私はカイルと並んで座っていた。
「護衛役は、神託だったと聞かされたのだけど、腑に落ちない。」
カイルは、腕を組みながら視線を遠くに投げていた。
「父上は、近ごろ神殿とよく話をしている。もしかして、本格的に俺が皇太子になるやもしれない。」
一瞬、胸が跳ねる。
皇太子――。
それは、私が王妃になる日が近づいているということだ。
だが、すぐに現実の重みが心を押さえつける。
「でも、本来なら兄上が護衛役を務めるのに。」
カイルは自嘲気味に笑った。
「兄上は、政務に忙しくて身動きが取れない。それに……父上の命に、逆らえなかっただけだ。」
私は静かに彼の横顔を見つめた。
(カイルは、自分の意志で聖女の護衛を引き受けたのではないの……?)
胸の奥が少しずつ冷たくなっていく。
カイルの隣にいられる時間が嬉しいはずなのに、その言葉の裏にある“義務”や“神託”という重みが、私の存在を小さく感じさせた。
「セレナ。」
カイルが私の手を取る。
「君を置いて遠くへ行くつもりはない。だから、不安にならないで。」
(そう……信じていいの?)
私は微笑みを返すことしかできなかった。
でも、私は知っている。
お妃教育の合間。宮殿内を案内されていた時、たまたま通りかかった中庭で、私は見てしまった。
──カイルが、聖女ティアナと楽しそうに話しているところを。
柔らかく微笑むティアナ。カイルはそんな彼女の言葉に、思わず笑ってしまったのか、顔をほころばせていた。
その光景が胸に刺さった。
(聖女は、時に王と結ばれることがある──)
古い言い伝えだと、そう聞いたことがある。
ましてティアナは、貴族の中でも格式ある伯爵家の令嬢。その可能性は決して低くない。
私は、ひとりで立ちすくんでしまった。
その時、ティアナが私に気づいた。
それに気づいたカイルも、私の方へ顔を向けた。
「セレナ。」
ゆっくりと私の元へ歩み寄ってくる。そしてそっと、私の背中に手を添えた。
「紹介しよう。俺の婚約者のセレナだ。」
「まあ!」ティアナが声を上げる。
「あの時の舞踏会の……。お噂はかねがね伺っています。本当にお似合いです。」
「ありがとう。」私は笑顔を作って答えたけれど。
(本当に、そう思われているのかしら)
カイルの“婚約者”という紹介の言葉は、確かに嬉しかった。
でも、二人の楽しそうな雰囲気が、頭の中から離れない。
彼女の笑顔。カイルの目元のやわらかさ。
どちらも、私が見たことのあるものだった。
──小さく、胸が痛んだ。
そして、このまるで神話から抜け出してきたような青い瞳。
──ティアナ・エルフェリア。
その瞳が、私をまっすぐに見つめた気がした。
「聖女に、命をかけて仕えることを、ここに誓います。」
ざわめきが広がる。皇子が聖女の護衛に任じられる――
それは伝統的に、“次代の王たる者”が聖女と共に国を守るという、象徴的な意味を持つ任命だった。
(……なぜカイル殿下が?)
私はそっと視線を落とす。
護衛役に任命された者は、聖女の任務に同行する。
つまり、しばらくの間、彼と私は別々の時間を過ごすことになるということ。
(それに……聖女の傍で……ずっと?)
つい先ほどまでティアナと並び立っていたカイル殿下の姿が、鮮やかに思い出された。
麗しく、神聖な雰囲気をまとった彼女。並ぶ二人は、まるで絵画のように美しかった。
(私の立ち位置は……)
式の余韻が残る中、胸の奥に冷たい影が落ちた。
お妃教育の帰り道。
夕暮れが差し込む馬車の中で、私はカイルと並んで座っていた。
「護衛役は、神託だったと聞かされたのだけど、腑に落ちない。」
カイルは、腕を組みながら視線を遠くに投げていた。
「父上は、近ごろ神殿とよく話をしている。もしかして、本格的に俺が皇太子になるやもしれない。」
一瞬、胸が跳ねる。
皇太子――。
それは、私が王妃になる日が近づいているということだ。
だが、すぐに現実の重みが心を押さえつける。
「でも、本来なら兄上が護衛役を務めるのに。」
カイルは自嘲気味に笑った。
「兄上は、政務に忙しくて身動きが取れない。それに……父上の命に、逆らえなかっただけだ。」
私は静かに彼の横顔を見つめた。
(カイルは、自分の意志で聖女の護衛を引き受けたのではないの……?)
胸の奥が少しずつ冷たくなっていく。
カイルの隣にいられる時間が嬉しいはずなのに、その言葉の裏にある“義務”や“神託”という重みが、私の存在を小さく感じさせた。
「セレナ。」
カイルが私の手を取る。
「君を置いて遠くへ行くつもりはない。だから、不安にならないで。」
(そう……信じていいの?)
私は微笑みを返すことしかできなかった。
でも、私は知っている。
お妃教育の合間。宮殿内を案内されていた時、たまたま通りかかった中庭で、私は見てしまった。
──カイルが、聖女ティアナと楽しそうに話しているところを。
柔らかく微笑むティアナ。カイルはそんな彼女の言葉に、思わず笑ってしまったのか、顔をほころばせていた。
その光景が胸に刺さった。
(聖女は、時に王と結ばれることがある──)
古い言い伝えだと、そう聞いたことがある。
ましてティアナは、貴族の中でも格式ある伯爵家の令嬢。その可能性は決して低くない。
私は、ひとりで立ちすくんでしまった。
その時、ティアナが私に気づいた。
それに気づいたカイルも、私の方へ顔を向けた。
「セレナ。」
ゆっくりと私の元へ歩み寄ってくる。そしてそっと、私の背中に手を添えた。
「紹介しよう。俺の婚約者のセレナだ。」
「まあ!」ティアナが声を上げる。
「あの時の舞踏会の……。お噂はかねがね伺っています。本当にお似合いです。」
「ありがとう。」私は笑顔を作って答えたけれど。
(本当に、そう思われているのかしら)
カイルの“婚約者”という紹介の言葉は、確かに嬉しかった。
でも、二人の楽しそうな雰囲気が、頭の中から離れない。
彼女の笑顔。カイルの目元のやわらかさ。
どちらも、私が見たことのあるものだった。
──小さく、胸が痛んだ。
そして、このまるで神話から抜け出してきたような青い瞳。
──ティアナ・エルフェリア。
その瞳が、私をまっすぐに見つめた気がした。
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