37 / 46
第八章 やっと気づいた気持ち ③
しおりを挟む
「私はもう、カイル殿下とティアナ様が結婚するって信じてるわ。」
その言葉に、胸がチクリと痛んだ。
(……そう。皆がそう思うのね。)
おとぎ話。憧れのカップル。運命の二人。
でも、その隣に立つと約束されたのは私のはずだった。
カイルの瞳に映る未来に、私がいると──そう信じていたのに。
(……もしかして、私は間違っていたの?)
まるで自分が、邪魔者のような気がしてきた。
本当は、最初から“彼女”がカイルに相応しいと、世界が決めていたのかもしれない。
唇を噛んだ。
笑顔で語る侍女たちの言葉が、刃のように突き刺さる。
「セレナ様?」
気づけば、目に涙が浮かんでいた。
咄嗟に袖で拭うと、ただ首を横に振った。
「……なんでもないわ。」
微笑んだつもりだったのに、その笑みはとても弱々しかった。
カイルは公務と浄化の仕事に追われながらも、合間を縫って、私の屋敷に顔を出してくれる。
その日はほんの少しだけ早く陽が落ち、部屋の中に柔らかな夕陽が差し込んでいた。
「……ああ、セレナ。」
カイルが私をそっと抱きしめる。
その腕の中にいると、不思議と胸のざわめきが静まっていく。
「ありがとう、来てくれて。」
「当たり前だ。どんなに忙しくても、君に会わずにいられるか。」
そう言って微笑む彼に、少しだけ勇気を出して尋ねてみた。
「ねえ、カイル。……ティアナ様のこと、どう思っているの?」
一瞬、彼の動きが止まった。
けれどすぐに、カップに口をつけて、静かに答える。
「……あの者は、聖女になるべくしてなったのだと思う。」
その声はまっすぐで、曇りのない響きを持っていた。
それが何より、ティアナへの信頼の深さを物語っているようで──胸がチクリと痛んだ。
「決して強がりなんかじゃない。誰よりも自分の役目を理解していて、常に高貴な信念を胸に抱いている。あれほどの魂を持った人間に、俺は久しく会ったことがなかった。」
言葉が、優しい刃のように私の胸をなぞる。
──どうして、こんなにも彼はまっすぐに、彼女を称えるのだろう。
「……そう、ですか。」
精一杯、笑ってみたつもりだったけれど。
その笑みは、きっとひどくぎこちなかったはずだ。
「でも、それとこれとは別だよ。」
紅茶のカップを置いたカイルが、私の手を取った。
「どんなに尊敬していても、どれだけ信頼していても──俺が愛しているのは、君だ。」
その言葉に、ようやく少しだけ息ができた。
「……本当?」
「ああ。本当だ。信じてくれ。」
抱き寄せられた肩に、ぬくもりがじんわりと染み渡っていく。
カイルの想いが、まるで灯火のように私の心の闇を照らしてくれていた。
その言葉に、胸がチクリと痛んだ。
(……そう。皆がそう思うのね。)
おとぎ話。憧れのカップル。運命の二人。
でも、その隣に立つと約束されたのは私のはずだった。
カイルの瞳に映る未来に、私がいると──そう信じていたのに。
(……もしかして、私は間違っていたの?)
まるで自分が、邪魔者のような気がしてきた。
本当は、最初から“彼女”がカイルに相応しいと、世界が決めていたのかもしれない。
唇を噛んだ。
笑顔で語る侍女たちの言葉が、刃のように突き刺さる。
「セレナ様?」
気づけば、目に涙が浮かんでいた。
咄嗟に袖で拭うと、ただ首を横に振った。
「……なんでもないわ。」
微笑んだつもりだったのに、その笑みはとても弱々しかった。
カイルは公務と浄化の仕事に追われながらも、合間を縫って、私の屋敷に顔を出してくれる。
その日はほんの少しだけ早く陽が落ち、部屋の中に柔らかな夕陽が差し込んでいた。
「……ああ、セレナ。」
カイルが私をそっと抱きしめる。
その腕の中にいると、不思議と胸のざわめきが静まっていく。
「ありがとう、来てくれて。」
「当たり前だ。どんなに忙しくても、君に会わずにいられるか。」
そう言って微笑む彼に、少しだけ勇気を出して尋ねてみた。
「ねえ、カイル。……ティアナ様のこと、どう思っているの?」
一瞬、彼の動きが止まった。
けれどすぐに、カップに口をつけて、静かに答える。
「……あの者は、聖女になるべくしてなったのだと思う。」
その声はまっすぐで、曇りのない響きを持っていた。
それが何より、ティアナへの信頼の深さを物語っているようで──胸がチクリと痛んだ。
「決して強がりなんかじゃない。誰よりも自分の役目を理解していて、常に高貴な信念を胸に抱いている。あれほどの魂を持った人間に、俺は久しく会ったことがなかった。」
言葉が、優しい刃のように私の胸をなぞる。
──どうして、こんなにも彼はまっすぐに、彼女を称えるのだろう。
「……そう、ですか。」
精一杯、笑ってみたつもりだったけれど。
その笑みは、きっとひどくぎこちなかったはずだ。
「でも、それとこれとは別だよ。」
紅茶のカップを置いたカイルが、私の手を取った。
「どんなに尊敬していても、どれだけ信頼していても──俺が愛しているのは、君だ。」
その言葉に、ようやく少しだけ息ができた。
「……本当?」
「ああ。本当だ。信じてくれ。」
抱き寄せられた肩に、ぬくもりがじんわりと染み渡っていく。
カイルの想いが、まるで灯火のように私の心の闇を照らしてくれていた。
212
あなたにおすすめの小説
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる