お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました 【完結】

日下奈緒

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第4章 秘密の寝所 ③

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荒く息をつく景文は、私の隣にそっと横たわった。

汗ばんだ額にかかる髪をかき上げながら、彼は呟いた。

「……ごめん。優しく、できなかった。」

「いいの……」

私は、そっとその胸に顔をうずめた。

景文の胸は温かくて、鼓動が耳に心地よかった。

その音に包まれて、私は安心して目を閉じる。

これまでの夜とはまるで違う、

愛に包まれた、ふたりの夜――

やがて朝が来る。

それは、ただの“逃げた妃”と“文官”ではなく、ふたりの新しい未来のはじまりだった。

翌朝、平穏だったはずの屋敷に、激震が走った。

「旦那様、逃げてください! 奥様も――!」

血相を変えて飛び込んできた使用人の声に、景文が立ち上がる。

「何事か。」

「……こ、皇帝陛下がお見えです!」

「――えっ……」

私は思わず景文の顔を見る。彼は舌打ちして立ち上がった。

「チッ、バレたか……」

胸が締めつけられる。まさか、こんなに早く。

そしてその時だった。

庭を踏みしめる足音。次第に重く、威厳に満ちた姿が現れる。

「周景文――」

その声は、冷え切った鋼のように空気を震わせた。

「そなただな。朕の妃を、さらったのは。」

逃げるでもなく、景文は静かに膝をつき、頭を下げた。

「……はい。陛下。」

その声に、震えが走る。

景文は、私のために――この身ひとつで、皇帝に立ち向かおうとしている。

私は思わず一歩前に出た。

「違います……!」

そう言いかけた瞬間、景文が手を差し出して私を制した。

「翠蘭。……下がれ。」

彼の背中が、大きく見えた。

私のために、命をかけようとする背中だった。

「……翠蘭、と呼んだな。」

皇帝陛下の声が、凍りつくような空気を運ぶ。

その金の瞳が、景文の背を鋭く貫いた。

「朕の妃を――名で呼ぶとは。」

皇帝は、ゆっくりと景文の前に歩み寄る。

その気配に、周囲の家臣も誰一人として口を開けなかった。

「抱いたのか? 皇帝の妃を。」

私が思わず身を乗り出すと、景文が片手を差し出して止めた。

そして、静かに答える。

「―――はい。この手で、奪いました。」

その瞬間だった。

「っ……!」

皇帝は腰の剣の鞘を抜くと、そのまま景文の脇腹を横から打ちつけた。

「景文っ!!」

私は叫んだ。だが、景文は倒れ込みながらも、顔を上げた。

唇から血が滲み、だが目は真っすぐ皇帝を見据えている。

「おまえは――朕の国の中で、最も優秀な文部大臣だと聞く。」

皇帝の声は怒気を含みながらも、どこか静かだった。

「それに免じて……百叩きの刑で、許してやろう。」

「そ、そんな……!」

私の叫びもむなしく、家臣たちが景文を押さえ、衣を剥ぎ取り始める。

白く整った背中が、無防備にあらわになった。

「やめてください!」

私は叫ぶ。

「彼を……彼を罰しないで!」

けれど皇帝は目を伏せ、低く言った。

「罰せねばならぬ。これは“規律”だ。……妃であるそなたも、その意味を知るべきだ。」

その背中に、最初の一撃が振り下ろされた。

バシィッ!

「う……っ!」

景文の背に赤い線が走り、彼は歯を食いしばって耐える。

私はその場に膝をつき、ただ、涙を流すことしかできなかった。
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