お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました 【完結】

日下奈緒

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第6章 寵を知ってしまった妃 ②

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しばらくまどろんでいると、景文が目を覚ました。

「疲れていたのね。」

私がそう囁くと、景文はふっと微笑んだ。

「君を抱いて疲れるのなら、毎晩お願いしたい。」

その冗談めいた言葉に、私も小さく笑った。

「ねえ……なぜ私を選んだの?」

問いかけた声が、静かに部屋の空気を揺らす。

ずっと、胸の奥で気になっていたこと。

彼の優しさの裏に、憐れみがあったのではないかと、そんな不安を拭いきれずにいた。

「私に……同情して?」

「同情?」

私は景文の胸に顔を埋めた。

「実家に戻されるなんて、可哀想だって思ったから、私を拾ってくれたんじゃ……」

すると景文が、軽く笑った。

「ああ、あれか。」

くしゃりと私の髪を撫でる手が、どこまでも優しい。

「あれは、嘘だ。」

「嘘⁉」

私は驚いて身を起こした。

温もりを残した寝台の上で、視線が景文にすがる。

「本当は……三年寵愛を受けなくても、実家に戻されることはない。だが、後宮に居続けたとしても、酷い時には冷宮行きだ。」

ぞっとした。背筋が冷えたような感覚が走る。

「そんな……」

そう囁いた私の手を、景文はそっと取った。

「最初はな、一度も手を付けられていない妃がいると報告を受けたときだった。」

「うっ……」

私は息を呑んだ。

それって、まさに……私のことじゃないの。

「周囲は冷ややかだった。皇帝に望まれない女など、後宮に不要だと。誰もがそう言った。……でも俺には、どうしても気になって仕方なかった。」

景文は真剣な目で私を見つめた。

「一度、君の姿を見に行った。とても美しいと思った。」

その言葉に、私は息を呑む。

「なぜこんなに美しい人を、陛下は放っておくのかと……腹が立ったぐらいだ。」

驚いた。そんなふうに見られていたなんて、思ってもいなかった。私は何者でもなく、ただ静かに生きてきた女なのに。

景文は、穏やかな目で私を見つめながら続けた。

「……今の俺と重なったんだ。」

「え……?」

「俺は、妾腹の子だ。一度も、陛下から“息子だ”と言われたことがない。」

その言葉は、深い悲しみを帯びていた。

「どれだけ剣の修練に励んでも、戦で功を立てても、兄たちのように名前を呼ばれることはなかった。」

「……」

「でも君も同じだった。どんなに控えめに、慎ましく振る舞っていても、陛下はそなたを見ようともしなかった。」

胸が熱くなる。まるで、凍っていた時間がゆっくりと溶けていくようだった。

「だから、助けないといけないって思った。放っておけなかった。……他人じゃない気がした。」

そう言って、景文は私の頬にそっと触れた。

「今はもう、理由なんて関係ない。俺は、君が欲しい。」

その指先が震えている。

その声が、愛しくてたまらない。

私は、景文の胸に顔を埋めた。

「……ありがとう。見ていてくれて。気づいてくれて。」
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