お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました 【完結】

日下奈緒

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第8章 選ばれるのは誰か ③

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「そして何よりも、お前を“堂々と”俺の妻だと言える。」

「景文……」

ふたりでそっと額を合わせる。遠回りした分だけ、今の幸せが深く、愛おしい。

「じゃあ、お披露目は三日後か。……俺、今日から寝所に忍び込まなくて済むんだな。」

「ふふふ、そうね。」

「でも……忍び込んだあとのドキドキも、結構好きだった。」

「もう……っ!」

私は彼の胸を軽く叩いた。けれどその胸に、しっかりと寄りかかる。

――これは、運命に翻弄されながらも、ようやく辿り着いた“ふたりの婚礼”の始まり。

そして、婚礼が明日に迫った夜。

私は髪を解き、文をしたためながら静かな時間を過ごしていた。すると、控えめな扉を叩く音。

「誰ですか?」

扉を開けると、そこに立っていたのは――

「景文?」

見慣れた顔、けれどその装いはまるで違っていた。

深紅の正装、金の刺繍が浮かび上がる衣。

肩には皇族の証たる玉飾りの飾緒(かざりお)が揺れ、まさに“第四皇子”の姿。

「どうしたの?こんな夜に、そんな恰好をしているなんて? 婚礼は明日よ?」

私は驚きと少しの笑みを混ぜてそう問いかけた。だが、景文は真面目な顔のまま、部屋の中にそっと入り、扉を閉めた。

「そうだな。だが、その前に、どうしても言っておきたいことがある。」

その真剣な声に、胸が少しだけ高鳴る。

……まさか、「俺に付いて来い」的な?

文部大臣だったくせに、実は将軍気質なの?

「まさか、今から城を出て、新天地に二人で――とか言うつもりじゃないでしょうね?」

思わずからかうようにそう言うと、景文はクスッと笑った。

「いや、それは婚礼の後だ。」

「冗談よ、冗談。」

私は小さく肩をすくめる。けれど景文は、すっと私の前に膝をついた。

「翠蘭。」

その声に、ふざける気持ちはすっと引いていった。

「俺は、これまで色んなものを諦めて生きてきた。母のこと、名も、地位も……。けれど、そなたのことだけは――どうしても、手放したくなかった。」

「景文……」

「明日、そなたを俺の妃として迎える。その前に、伝えておきたいんだ。」

彼は真っ直ぐな目で、私を見つめた。

「沈翠蘭、俺と結婚してください。」

私は思わず微笑んでしまった。

「はい。お引き受けします。」

「ありがとう。どうしても“今夜”聞きたかった。」

真剣に言う姿に、愛しさが込み上げた。

景文の顔がほころぶ。皇子の正装のまま、彼は私の手を取った。

「これで、正式にお妃だな。」

景文は私の手を取り、優しく唇を重ねてきた。

「ふぁ……」

かすかな吐息がもれた。

「止まりそうにない。」

囁くような声とともに、私たちはそのまま寝台に身を沈める。

婚礼は明日――けれど、彼の中で私はもう誰にも奪わせない、たった一人の妻だった。

「婚礼前の花嫁に手を出すの?」と問いかけると、「問題ない。もう妃だろ。」と、いたずらっぽく笑いながら、景文は一枚ずつ、自らの衣を解いていった。
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