誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –【完結】

日下奈緒

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第1部 嫌いな男との最悪の出会い

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「俺になびかない女性。」

その言葉に、一瞬だけ息が止まる。

からかいなのか、本気なのか。

その目が真剣すぎて、冗談に聞こえなかった。

でも私は、ぐっと視線を外さずに言った。

「仕事ですので。」

それ以上の感情は、絶対に表に出さない。

そう決めたはずなのに——胸の奥が、ほんの少しだけ熱を持っていた。

「分かったよ。」

そう言って、桐生部長はポケットからスマホを取り出し、画面を素早く操作し始めた。

何かを検索しているようで、次の瞬間にはペンを取り、さらさらと申請書に記入していく。

「それは、実際に接待を行った取引先ですか?」

確認のために問いかけると、彼はちらりと私を見て、低く笑った。

「ああ、心配しなくていいよ。」

そう言って差し出された書類。

そこに並ぶ丁寧な、けれどどこか色気を含んだ文字に、私は思わず小さくため息をついてしまった。

それからというもの、桐生部長の態度は明らかに変わった。

からかうような軽口は変わらないけれど、どこか私に対して一線を越えてこない“遠慮”のようなものがあった。

「ねえ、また頼むよ。」

懲りずにそう言ってきたのは、一条さん。

今日もまた、契約外の駐車場の領収書を持ってやってきた。

「困ります、一条さん。」

私は書類を受け取りながら、ため息交じりに答える。

そのときだった。背後から足音がして、声が飛んできた。

「一条、この前で終わりだと言っただろ。」

聞き慣れた、低く落ち着いた声。桐生部長だった。

「えっ?」と驚く一条さんの手から、部長が領収書を取って返す。

「篠原さんを、あまり困らせるなよ。」

さらりと、でも確かに言ったその言葉に、一条さんも思わず口を閉じた。

……まさか、桐生部長が私を“かばった”?

私は一瞬言葉を失って、差し出された領収書を見つめた。

この人、やっぱりよくわからない。

でも、ほんの少しだけ、胸の奥がふわっと温かくなっていた。

いつものコンビニでコーヒーを買おうとした時だった。

店の奥、ドリンクコーナーの前で女子社員たちに囲まれている桐生部長の姿が見えた。

「部長~、ジュース買ってください♪」

「いいよ。」

即答に、女子たちの黄色い悲鳴が響く。

(……ここはホストクラブですか?)

思わず心の中で突っ込みながら、私はいつものカフェオレを取ろうと手を伸ばした——その瞬間。

「篠原さんは、これでいいかな?」

その声に振り向くと、すぐ隣に桐生部長がいて、私がいつも買っているカフェオレを手にしていた。
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